穏やかな日差しが差し込む午後。湯気と火山灰と砂嵐が多かったからか青空が久しぶりに思えるよ。
アーさんから飛び降り、懐から出したモンスターボールを全部投げて一言。
「ようやく我が家に帰れたー」
背伸びをして凝りを解した後、僕とナタネちゃんは一日ぶりの店の裏庭に帰ってきた。ポケモン達も裏庭を見て嬉しそうだ。
お留守番をしていたサンちゃんを筆頭に庭中のナゾノクサがお出迎えしてくれた。スーちゃんもこっそり紛れている。
ナッゾーナッゾーと歓迎というよりは水を強請っているようなので、ホエルコ如雨露を取りに行こうっと。
「ハヤシさんモテモテですねー」
「そういう君こそ、ハーさんに愛されまくっているね」
ナタネちゃんの足元で「遊んでー遊んでー」と擦り寄ってくるハーさんを見て言う。
僕らが到着した途端、ハーさんは池から一直線にナタネちゃんに向かって走っていたよね。それだけ懐いている証拠ってことだ。
ナタネちゃんはハーさんを抱き上げて頬ずりすると、ハーさんは嬉しそうに鳴く。二つが合わさりサイキョーに可愛く見える。
さて、僕は足元に群がってくるナゾノクサの為に、水遣りの準備をしますかね。あ、その前に木の実畑を守ってくれたザンさんにお礼言っておこ。
なんかそこでドクケイルことクケさんが黒焦げになって倒れているけど気にしない。後で治してあげるけどさ。
―――
「はぁ……疲れた」
午前中にたっぷりフエンタウンの温泉宿で休んだんだけどなー……水遣りと畑の整理はともかく、治して飛びかかって来たクケさんを追い返すのに疲れたよ。
まぁ昨日のマグマ団騒動や
アサ婆ちゃんの誘いもあって泊まる事にしたんだけど……あの格式ある家で粗相は出来ないと2人して緊張しまくったからなぁ……コレが疲れの原因かもしれない。
そんな訳で、やることやったから午後はのんびり過ごそう。今日は水曜日で休業日だし、お昼はフエンタウンで食べてきたし。
「さてと……」
高木の下でラジオを点けようとしてた手を止め、ナタネちゃんを見る。
一頻りハーさんを可愛がったナタネちゃんは、懐から出した三つのモンスターボールを見てニコリと笑っていた。
けどナタネちゃんの手持ちは今、外で遊んでいる。ロズレイドはヤーやんに乗って遊び、ドダイトスはガーさんに背中の木を綺麗にしてもらい、トロピウスはゴーさんに果物を強請られて。
じゃあ、あのモンスターボールは何が入っているんだ?チェリム?
「出ておいで!」
ナタネちゃんがボールを放り投げ、そこからポケモン達が出てくる。
そこから現れたのは、凛々しい顔つきをしたキノガッサ、ビンボー揺すりをするコノハナ、「やぁ」と片手を上げるサボネアだった。……チェリムは犠牲となったのか?
見慣れぬ光景を忙しなく見渡す彼らを見て解った。
「その子達が新しく捕まえたっていう?」
「そ。この短期間にめぐり合った、ホウエン地方の草ポケモンだよ」
見て見てとアピールするかのように両手を広げるナタネちゃん。
なるほど、裏庭でゆっくり過ごすこの時間なら、捕まえたばかりの子達とスキンシップできて丁度良いか。
さっそくとばかりにナタネちゃんは三匹の間に割り込み、一匹ずつスキンスップを謀ろうと触れ合っていく。
それを見たドダイトスとロズレイドも彼らと親しくなろうと、トロピウスを引っ張って近づいてきた。
自然好きなナタネちゃんの事だ。ハーさんの事もあり、あの三匹と仲良くなるのも早いだろう。
僕のポケモン達も程ほどに割り込んでくるのを見た後、僕はラジオを耳に傾ける。こういうのはポケモンに任せておこっと。喧嘩好きなガーさんも自重するだろうし。
―――
ガーさんも自重するだろうし―――そう思っていた時期が、僕にもありました。
「頑張れコノハナぁー!」
「ロー!(やっちゃえガーさーん!)」
ナタネちゃんとポケモン達の声援を受けて、コノハナとガーさんのバトルは白熱さを増す。
僕がホミカさんの歌を聞き入っていた間に何があったんだ……?
どうやらせっかちなコノハナとやんちゃなガーさんとは性格的に相性が悪かったらしく、いつの間にか大喧嘩に発展したんだとか。
喧嘩っていうよりはコノハナがガーさんをおちょくっているという感じ。ひょいひょいと跳びながらガーさんを避け、ケラケラ笑っているんだから……あ、一発殴られた。
「というかナタネちゃん、なんで止めてくれないの?」
「やっぱり自分のポケモンには勝って欲しいから」
ハーさんを抱きしめながら胸を張るナタネちゃん。妙に自信ありげなのがまた可愛い。
「いいから止めて頂戴!」
けど出来れば止めて欲しい。コノハナの為にも。
自慢するようでなんだけど、うちのガーさんのパンチはヘビー級だから!コノハナの体力が0になっても凶戦士魂で追撃しちゃうから!
「やっぱりダメかぁ……よし、キノガッサやっちゃって!」
ビっと指差し、キリっとしたキノガッサに出撃命令を下すナタネちゃん。
任せてくださいとばかりに身を乗り出し、2人の喧騒から少し離れた所でステップを踏む。集中しているのかな?
ブンブン鋏を振り回すガーさん。連続バク転で回避するコノハナ。移動距離はゆっくりだが動きは激しいぞ……?
キラリ、と目が光った(気がする)途端、キノガッサの伸縮自在の腕が伸びる!『マッハパンチ』だ!
―ボグシャっ!
「あ、ザンさんに当っちゃった」
ナタネちゃんの冷静な声が響く。
寝ていた所を頬で殴られたザンさんの怒りと殺気のオーラが裏庭に充満する。
そして震える2匹の間を潜るようにしてザンさんを殴ったしまったキノガッサは
「(@皿@;)(やっちまった~!)」
……という顔をして驚愕していた。
このキノガッサって勇敢だけどおっちょこちょいだぁーーー!!
「フシャアーーー!!」
――
攻撃してきたのはキノガッサだけど、何故かガーさんとコノハナもしょっ引かれた。寝ていたと思ったら喧騒でイライラしていていたのかな?
とにかくキノガッサ・シザリガー・コノハナを1分もせずにノックアウトするザンさんマジ厨キャラ。格闘ゲームで出たら強そう。
あくタイプのガーさんとコノハナは効果抜群だからわかるけど、キノガッサですら『インファイト』で一発KOとかスゲェ。
そんなザンさんはボコボコにした三匹に対してお説教。ガミガミ言っております。
キノガッサとコノハナに至っては正座で静聴していた。ガーさんは地べたに身体をつけて屈服モード。
「ザンさんって本当に強いよねー。怖いよねー」
ギュっと抱きついてくるハーさん、足元にしがみついているロズレイドとサボネア、身体を擦り寄ってくるドダイトスとトロピウスを宥めるナタネちゃん。
ローちゃんとゴーさんも僕にしがみついてザンさんに怯えているが、昼寝しているアーさんやマイペースなヤーやんはともかく、サンちゃんも平気そうだった。
「サンちゃんはザンさんのこと平気なの……って」
サンちゃんの顔を覗き込んだら、顔を紅くしてザンさんを熱い眼差しで見つめていました。
え、なに?サンちゃんってもしかしてザンさんLOVEなの?……爪を頬にあて「キャっ」と恥ずかしがるサンちゃんかわゆす。
意外な事実を前に、別の意味で恐ろしさを覚えた僕なのであった。留守番中にサンちゃんに何があったし。
―続く―
この後、ザンさんに叱られた3匹は滅茶苦茶ヤケ食いした。
サボネア「(´・ω・`)(出番あまりなかったな……)」
ごめんよサボネア、君を活躍してあげられなかったよ……。
○ナタネの草ポケモンズ(ホウエン産)
・ナタネのキノガッサ
勇敢な性格。おっちょこちょい。
・コノハナ
せっかちな性格。イタズラが好き。
・ナタネのサボネア
大人しい性格。粘り強い。
・ナタネのトロピウス
おっとりした性格。とても几帳面