ポケットモンスター・ライフ   作:ヤトラ

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ポケットモンスター・ライフが無事連載できたら書きたいと思っていたものです。
初となる今回のポケライフテーマは「スキューバダイビング」です。浅瀬の海を妄想してみました。

夏といえば海水浴。皆さん熱中症対策や日焼け、海の危険生物への対処はできていますか?(後者は難しいでしょうが)

3/2:後書きにてトレーナー情報追加


ポケライフ「ダイバー・ユウキの場合」

 眩い夏の太陽。絵の具で描いたような青空。水平線に浮かぶ入道雲。

 海に近いカイナシティの浜辺と市場では人で賑わっており、特に夏に入ってから活気が5割以上も増していた。

 こんな日は浜辺で海水浴をするのに持って来いだが、海の中が一段と綺麗になる日でもある。

 そもそもカイナシティが海水浴として有名なのは綺麗な海水と程よい浅瀬が広がっているからであり、泳ぐには最適の場所だからだ。

 そして綺麗な海水は野生のポケモン達にとって綺麗な空気も当然で多くの水ポケモンが暮らすようになる。サメハダーやドククラゲに注意。

 

 そんなカイナシティの浅瀬を自ら泳いで巡るスキューバダイビングは、カイナシティで大人気の観光ツアーだ。

 

 

 

―――

 

 揺らめく海面を夏の日差しが照らし、海中でありながら陸地のような明るさと水中に美しく揺らめく光を映えさせる。

 そんな海面越しの光を受けるのは岩礁と珊瑚礁、そして浅瀬だと思えない程に多く漂っている水ポケモン達だ。

 

 タッツーの群れが珊瑚礁に群がったかと思えばそれは寝ていたサニーゴ達で、目覚め動き出した彼らにビックリしてタッツー達が慌てて逃げる。

 パウワウが岩礁を小突いて遊んでいると、『ほごしょく』で姿を消していたヒドデマンが嫌そうに離れていき、それをパウワウが楽しそうに追う。

 クラブとクラブが岩礁の穴の前で縄張り争いをしていると突如として片方がキングラーに進化し、キングラーが勝つかと思ったが……キングラーは狭くなった穴を見て渋々帰っていく。

 

 そんな多種多様なポケモンの光景を楽しそうに眺めている新婚夫婦のリョウジとサヤミ。スキューバダイビングツアーの参加者の内の一組だ。

 クリアな水中メガネ越しに見える光景を楽しそうに笑っている中、ポンポンと2人の肩に誰かの手が触れ、後ろを振り向く。そこには1人の少年ダイバーがいた。

 

 彼は2人の注目を指先に向けさせ、近隣でメノクラゲの群れが漂っているのを確認させる。

 漂っているだけとはいえメノクラゲの群れは危険だと事前に説明を受けていた2人は頷き、足につけたフィンを蹴って海面へと泳ぎ出す。

 海面近くを漂っているホエルコが3人の姿を見ると真っ先に少年に擦り寄ってくる。どうやら少年の手持ちポケモンのようだ。

 3人はホエルコに掴まり、少年がポンポンと叩くとホエルコはゆっくりとメノクラゲの群れから離れていく。

 

 そのままゆっくりとした水泳速度を保ちつつ、少年はキョロキョロと何かを探すかのように周囲を見渡している。

 ふと少年は夫婦の注意を寄せ、あるものを見せようと後ろを指差す。

 

 夫婦が後ろを向いて見たのは、自分達を追うようにして泳ぐラブカスの群れだった。

 少年がホエルコを誘導し角度を変えて泳げば、ラブカスの群れがハートマークを描いて泳いでいるのが解る。

 永遠の愛が約束されるというラブカスの群れは、新婚ホヤホヤな2人にとって心が躍るような気持ちにさせてくれた。嬉しさのあまり夫婦同士で抱き合った程だ。

 少年はそんな2人を見て微笑みを浮かべるが、突如として鳴き出したホエルコに意識が戻り、注意深く辺りを見渡し―――それを見つけた。

 

 マンタインに乗って高速で泳ぐ先輩ダイバーとツアー客の3人。それを追うサメハダーの群れ。

 明らかな危機的状況を目の当たりにした少年の心境は、飽くまでも冷静なものだった。

 

 「任せる」と言っているようにホエルコを軽く叩いた後、ここにいて欲しいとハンドサインで夫婦に伝えた後、少年はフィンを蹴って泳ぐ。

 泳ぐ最中に腰のモンスターボール2個に手を伸ばし、この状況を打開してもらおうと、中のパートナー達を呼び出す。

 

 モンスターボールから現れたのは、ラグラージとハブネーク。

 水タイプのラグラージはともかく、なぜハブネークまでいるのか。それは彼の手持ちの中で最も水中戦慣れしているポケモンだからだ。

 

 少年がすぐそこまでやってきたサメハダーの群れを指差すと、ラグラージとハブネークは意図を読み行動を開始。

 ラグラージはバタフライをしながら泳ぎ、ハブネークは砂地を這うようにして泳ぐ。

 サメハダーの群れに向かっていくラグラージとすれ違ったマンタインはそのまま少年と合流。先輩ダイバーはハンドサインで助かったと少年に伝え、少年を乗せてマンタインは迂回する。

 

 標的をツアー客からラグラージに切り替えたサメハダー達はジェット噴射で一斉に飛び掛る。

 しかしこのラグラージは相当強い。片手で突っ込んできたサメハダーを受け止め、そのまま両手で掴んだサメハダーを振り回して群れを吹き飛ばす。

 水中を漂い豪腕を振るうラグラージにタジタジなサメハダー達だが、下から尾の刃を振り回しながら襲いかかってくるハブネークに驚きまた瓦解する。

 こちらのハブネークはサメハダー達の近接攻撃を長い身体をくねらせて交わし、『ポイズンテール』を振り回して一匹ずつ仕留めていく。

 豪腕のラグラージが円を描くように振り回し、その周囲をハブネークが仕留める。サメハダー達も混乱してきた。

 

 そこでサメハダーの何匹かはマンタインとツアー客に目を向け、そちらに襲い掛かる。

 慌てるツアー客だが、先輩ダイバーと客を庇うようにして立ちはだかる少年が手に持つ『それ』をサメハダー達に向ける。

 

 少年が取り出した物―――パールルから発した見えない壁『バリアー』がサメハダーを遮った。

 

 マンタインごとツアー客を覆った『バリアー』によって手出しできなくなったが、それごと食い破ろうとサメハダー達は必死に噛み付いてくる。

 慌てる先輩ダイバーとツアー客だが、少年は手をかざして彼らの視界を遮り、片手のパールルを掲げる。

 

―パールルの『あやしいひかり』!

 

 パールルから発した妖しい光がサメハダー達に降り注ぎ、彼らは混乱して滅茶苦茶に泳ぎまわる。マンタインは前に出た少年により遮っていたので大丈夫だ。

 加えて向こう側ではラグラージとハブネークによってサメハダー達を追い返した為、残った混乱状態のサメハダーを撃退しに掛かる。

 

 そして3分もしない内に残りのサメハダー達もジェット噴射で逃げ出していった。

 可哀想に思えるだろうが、実力を持って追い払わないといつまでも追いかけてくるから困り者なのだ。

 少年はラグラージとハブネークをボールに戻し、ペコペコと頭を下げるツアー客を手で制して泳ぎ出す。

 すぐそこには少年のホエルコと新婚夫婦がおり、2匹はツアー観光用の船を目指して泳ぐ。

 

 

 

―――

 

 のんびりと操舵していたカガラ船長は、甲板を見張っていた己のヌオーの鳴き声を聞いてそちらへと視線を移し、それらを確認する。

 

「おうお前ら、無事だったみたいだな」

 

 ダイバー2人とツアー客全員が五体満足で帰ってきたのを見て、カガラは自慢の顎髭を揺らしながらケラケラと笑う。

 しかし30代のダイバーと一部のツアー客はそうではなく、スーツやマスクを外した直後、サメハダーから逃げ切った安堵感で息切れしてばかり。そんな彼らに近づいてきたヌオーののほほんとした顔に癒され、落ち着きを取り戻す。

 そうでないのは、事情を知らない新婚夫婦と、最初から最後まで落ち着いて行動していた少年だ。

 少年は独特的な帽子を被ってパールルの頭を撫でた後、水面に漂うホエルコをボールに戻してカガラ船長の元へ向かう。

 

「ただいま戻りました。途中サメハダーの群れに襲われましたが、とりあえず撃退しておきました」

 

「おう、俺も見えたぞ。見事なバトルだったな」

 

「船長、いつサメハダーがまた追って来るか解りませんし、早く岸に戻りましょう」

 

「はいよ。にしてもお前さんは相変わらずマイペースな奴だなぁ」

 

 カガラは少年をそう評価しつつも、船を岸へと急がせる。サメハダーは時にはしつこく追いかけ船底を噛み砕くこともある事を知っているからだ。

 少年はその風を気持ち良さそうに受け止めながら、癒されたいとヌオーを取り囲むダイバーとツアー客に近づく。

 

「皆さん聞いてください。確かに海は危険でもありますけど、海とはそういうものです。今日はそのことを学ぶことができたと思います」

 

 少年は語り出す。ツアー客はヌオーに抱きついたまま黙って聞き、先輩ダイバーは「また始まったよ」と苦笑いを零す。

 真面目な顔をしていた少年だが、一転させて微笑を浮かべ、手に持っていたパールルを客に向ける。

 

「だからこそ言います。海は凄いです。時に美しく、時に優しく、時に激しい。今日知った海の美しさと海のポケモンの恐ろしさを忘れずにいれば、次はもっと楽しめると思いますよ」

 

 パールルは上向きに水を噴出し、ツアー客達の前に綺麗な虹を作り出す。

 その虹に一瞬でも美しいと思ったツアー客は、これまで見て来た海とポケモンの景色を瞼の裏で思い返すのだった。

 

 そんな客達を、少年とパールルは嬉しそうに見て笑うのだった。

 

 

 

――

 

 ユウキという男がいる。

 

 ホウエン地方ポケモンリーグ制覇という偉業を成し遂げた、ミシロタウン出身のポケモントレーナーだ。ホウエン事変の解決者の1人でもある。

 一度はホウエン地方のチャンピオンとして輝いたものの、突如としてその座を元チャンピオンである鋼タイプ使い・ダイゴに譲ったという。

 

 徐々に彼がチャンピオンであると世間から忘れ去られる中、彼はダイバーとして生活していた。

 伝説のポケモン・カイオーガと出会って海の恐ろしさを知った彼は、海に関する仕事に興味が沸き、ダイバーとして様々な海を巡る。

 父センリに似て求道者としての一面を持つ彼は、知るにつれて好きになっていく海をもっと知りたいと思えるようになったかだ。

 

 

 ポケモンダイバー・ユウキ。元チャンピオンにして海の求道者。

 彼の行く道は彼自身もまだ解っていないが、これからも色んな海を巡って行くのが彼の願い。

 彼がカイナシティを中心に様々な海を巡り、様々な事件を解決していく事を、世間は少しずつ知っていくことになる。

 

 

―完―




●ユウキ
ホウエン地方出身のポケモンダイバー♂。頑張り屋な性格。ちょっぴり見栄っ張り。
誰に対しても丁寧な口調で話す穏やかさと、有事の際は的確な指示を下す冷静さを併せ持つ。
海に関連した仕事やバイトをしながら転々と海を渡る事から「海の求道者」の通り名をも持つ。
『バリアー』や『あやしいひかり』など防御と妨害を中心に立ち回る。防御+妨害の併せ型。

ユウキとは言わずとしれた、ルビー・サファイヤの男の子主人公です。
当作品の男の子主人公はアクア団と接触しカイオーガと戦ったサファイアバージョンでお送りしています。

今回初めて投稿したポケライフはいかがだったでしょうか?
これを見て、あなたなりのポケモンがいる生活を妄想して楽しんでくれると幸いです。

次のポケライフは女の子主人公・ハルカの予定です。

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