ポケットモンスター・ライフ   作:ヤトラ

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当作品で出てくるマグマ団は残党というオリジナル設定です。公式及びオメガルビー・アルファサファイアとは関係がありません。


その19.5「動き出す組織」

 大きな庭のきのみ屋でハヤシとお別れした後。

 

 ルネシティの港町から離れ、徐々に地平線の彼方に消えつつあるホウエンの大陸を甲板から眺め続けていた。

 ハスボーを抱き寄せたままボーっと眺めている中、突如としてライブキャスターが鳴り慌てて画面を開く。

 

「もしもーしって、オーバさんじゃないですか。久しぶりですね!」

 

『おう、元気そうだな』

 

 画面にはシンエウ地方四天王が1人・オーバの姿が映っていた。

 

『明日からジム職に復帰するなら、今ごろ船に居るだろうって踏んでな。ホウエンは楽しかったか?』

 

「すっごく良い場所でした!良い人にも出会えて、良いポケモンも沢山ゲットできましたよ!」

 

 「ねーハスボー」と頭の上で寝ていたハスボーを起こさないように小さく声をかけるナタネ。

 相手側の画面にハスボー付きの顔が映ったからか、オーバはプッと吹き出し笑顔を浮かべた。

 

『そっか。楽しかったようでなにより……つーか、なんかニヤニヤしてっけど、何かあったのか?』

 

「さーて、なんででしょうね?」

 

 思い出すだけでニヤニヤしてしまうが、ナタネは敢えて黙っておく。

 ハヤシにジムリーダーとして名乗れたこと、それに驚いてくれたこと、そして自分のファンであったことなど、予想外な反応に嬉しくなってしまうからだ。

 はぶらかすナタネは置いておくことにしたのか、オーバは話を切り替えようとする。

 

『まぁいいとして……それよりビッグニュースだ。明日からさっそくジム戦に入るだろうから、ジムリーダーとして聞いといた方がいい』

 

「な、なんですか?」

 

 一転して真面目な表情を見せるオーバに戸惑いつつナタネは尋ね……知る事になる―――シンホウ地方のジムリーダーにとって驚愕の事実に。

 

 

 

―――

 

「エ、エレキブル戦闘不能!よって、挑戦者の勝利です!」

 

 審判でありながら信じられないという表情を浮かべ、しかし審判として事実を告げる。

 

―――負けた、か。

 

 それが、シンオウ地方に君臨する8つのジムが1つ、ナギサジムのリーダー・デンジが浮かんだ言葉だ。

 

 しかし今日の敗北はいつものジム戦とは違い―――充実し、そして言い逃れ出来ないぐらい熱くなれたバトルができた。

 高まったテンションが落ち着く独特の心境を久々に味わいながら、デンジはモンスターボールを掲げる。

 

「ご苦労さん」

 

 満身創痍と言った感じに気絶しているエレキブルをボールに戻し、全滅した己のポケモン達に簡素な称賛を告げる。

 余計な言葉は要らない。ポケモン達も久々に燃え尽きて本望だろうから。

 

「刺激的なバトルだったよ、挑戦者。このビーコンバッジはお前さんのもんだ」

 

 デンジは礼を述べ、懐から取り出したバッジを投げる。

 傍から見れば不敬な行為だろうが、この挑戦者は気にするような奴ではないと知ったので、気にしない。

 片手で難なくバッジを受けとり、挑戦者はデンジに向けニコリと微笑む。

 

「ありがとうございます。良きバトルでしたよ」

 

 穏やかな口調でお礼を延べてから、己のポケモンをボールに戻す。

 挑戦者はストレートの赤毛に赤いスーツを纏った、全身を燃えるような赤で統一した変わり者の青年だった。

 今でこそ穏やかな表情を浮かべているが、時節見せる刺すような眼差しを見たデンジは察していた―――こいつはかなりの手練れだと。

 久々の強者故に情報が欲しくなる。デンジはそれらを可能な限り引き出そうと、尋ねる。

 

「他のジムリーダーから聞いていたが、まさかここまで早く制覇できるとはな」

 

 最初に挑戦したクロガネジムを制覇したと聞いてから今日まで1ヵ月。この間に殆どのジムリーダーを倒してきたと聞く。

 デンジと同い年の青年とはいえ、ここまで早い期間でバッジを収得するトレーナーはそうは居ない。だからこそジムリーダーからリレー越しにデンジ伝えてきたのだ。

 しかし赤毛の青年は微笑んだまま首を振り、人差し指を掲げる。

 

「情報がお早いようですが、1つ訂正を。ハクタイジムがまだ残っております」

 

「ハクタイジム?」

 

 そういえば忘れていたが、ハクタイジムリーダーのナタネは1週間前から休暇を取り、ホウエン地方に遊びに行っていたはずだ。故に、残るジムはハクタイジム、という事か。

 しかし青年の答えは、デンジの予想とは違っていた。遠くを見るように―――ハクタイジムがある方角へと顔を向けてから囁く。

 

「ハクタイは良い。緑が映えるあそこは、ソノオタウンの次に好きな場所です。だから最後にしておきたかった、それだけですよ」

 

 デンジの探るような視線を見据え、赤毛の青年はクスリと笑う。こちらの意図を読まれたような態度を見たデンジは少し不満げだった。

 

「では私は用がありますので、これにて」

 

 しかし赤毛の青年は振り向きもせず、そして気にする様子も無く、ナギサジムを出んと歩き出す。

 デンジもコレ以上は無駄だと解った途端に興味が失せ、いつものダルそうな表情に戻る。

 

 そしてデンジは、先ほどまでバトルが行われていたステージを見渡す。

 

「あの野郎……せっかく改造したジムだってのに、ひでぇ事しやがる」

 

 巨大な歯車を幾多も並べ、面倒な仕掛けとカラクリを豊富に揃えたデンジ自慢の改造ジム。

 それらがバトルステージの影響を受け、砂と岩と泥と草で汚れまくっているのだから。

 ポケモンバトルが繰り広げたステージに至ってはもっと酷く、まるで岩山に居るかのように巨大な岩がステージを囲み、床は砂で埋もれ、砂の床からは幾多もの双葉が芽生えている。

 

 機械チックなジムが一転、自然に満ち溢れた場所に変貌しているのだった。

 

 

 

(まぁ、さらに改造できるからいいが)

 

 デンジの頭の中には、既に改造後のジムの構図が浮かび上がっているのだった。

 

 

 

 シンオウジムリーダー最強の男デンジが早々に敗退。本気と本気のぶつかり合いをして、だ。

 ジムリーダー内で密やかに騒がれている事実は、シンオウ地方へ帰宅中のナタネにも伝わっていた。

 

 

 

―――

 

 私です……ええ、そちらこそご苦労様です。当初よりもご連絡が遅れてしまい申し訳ない。

 それと私の事をボスと呼ばないように。私達にとってのボスはあの方だということを、どうかお忘れなく。

 

 ……なるほど、例の件は予想以上の結果になりましたか。そこらの雑魚を使ったにしては実に良き事、カモフラージュには充分でしょう。

 こちらも残すジムは1つになりました。そろそろ実行が近いと考えていいでしょう。

 打ち合わせ通り主力部隊をこちらに寄越し、残りの部隊は各地で低規模かつ低俗な活動を続け、カモフラージュするよう伝えておきなさい。

 ……もちろんあなた方にも来ていただきます。元は只の下っ端でしかない私達3人がここまで来たのです。むしろ最後まで付き合って貰うよう頼むのは私の方でしょう。

 

 期待していますよ、カトリにヒバナ。その手腕を、ここシンオウ地方でも存分に振るってください。

 そして願っていてください……マグマ団復活の為のこの作戦が上手く行くことを。

 

 

 

 ああ、マツブサ様。私が敬愛するボス。……このエンザン、あなた様が帰還する日を願い、ここまで任務を遂行してまいりました。

 マグマ団復活の為、ドンと派手に行います。何処へ消えてしまったマツブサ様、ホムラ様、カガリ様がお戻りになるよう……盛大に。

 手はずは整えております。ホウエン地方であたかも残党であるかのように見せかけ、裏でシンオウ地方に団員を集わせ、私が各地を巡り情報を収集し、例のポケモン(・・・・・・)の居場所を探り出した。

 ……残すジムバッジは1つ。私が愛するシダケタウンを思い返すハクタイの森に近いジムを制覇すれば、作戦は最終段階に進められる。

 

 

 

 例のポケモン(・・・・・・)を捕らえて従え、大地の偉大さを人々に思い出させる!それが私達マグマ団残党が掲げる、マグマ団復活の狼煙!

 

 

 

 

 

 

 

あ、後で「もりのようかん」でもいただきましょうか。

 

 

 

―続く―




本当はアクア団の裏活動も書きたかったけど、余計だし量が増えて更新が遅れるだろうと書かなかった寂しさ(苦笑)

ここでお知らせですが、しばらく本編の更新をお休みさせて頂きます。2~3週間ぐらい。
その間は「ポケモンハン」及び「ポケライフ」を投稿しようと思います。ご了承ください。

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