ポケモンは出ているんですが中心ではないってどうなんだろうか。
僕ことハヤシがハクタイジムを訪れた二日目。
ようやくジム内の岩石や土砂を粗方どかした所で、僕達「庭師連合(仮称)」の出番。
イナゴロウさんとキリカブ(オーロット♂)の指示の下、草ポケモン好きや庭師、ガーデンデザイナー達の力を合わせ、大規模な改築作業が始まった。
なお、殆どがナタネチャンの知り合いで、中にはナタネちゃんに世話になったからそのお礼として参加している人も居る。流石はジムリーダー、といった所かな?
念入りに掃き掃除して綺麗になった芝生をカットロトムで整え。
草ポケモンと協力し壁際をぐるりと回る花壇に様々な花を植えて。
入り口以外を時計の如く囲むよう、各所に新しい庭木を植え替えて。
中央の時計のような大きい花壇に、時間帯別に咲く12種類の花を植え。
芝生を深く刈ることで出来る線を用いて、ジムトレーナーと戦えるだけのスペースを各所で確保。
ジムリーダーであるナタネちゃんが立つバトルステージを取り囲むように、均等に木を植える。
最初の頃はナゾノクサが群生できる花壇を作ろうと提案が出たが、流石にジムに野生のポケモンはあかんだろということで却下。
……ウツボット?キミは何を言っているのかね、アハハ。
朝から夜まで植え替えやら芝刈りやら剪定やら忙しくなるけど、楽しい。ガーデニングが趣味だもの。
それはイナゴロウさんを含む皆も同じで、草ポケモン達も美しく整えられる植物を見ると嬉しくなるらしく、一生懸命働くのだった。
ちなみにナタネちゃんはジムトレーナーに捕まり、書類整理に追われているそうな。
もしかしてジム入り口の掃き掃除をしていたのは、これから逃げる為だったのかもしれない。
そして、僕がハクタイジムを訪れてから三日目が経ち、お昼前になった頃。
ハクタイジムは新たな姿に生まれ変わったのだ!
―――
「どうでぇ、ナタネさん」
いつもは無愛想なイナゴロウさんだけど、今は勝者のような笑みを口元に浮かべている。
ジムの造園に携わった僕達「庭師連合(仮称)」も自慢げに胸を張っています。自信あるよ!
さて、肝心のナタネちゃんはといえば。
「すっ――――――――ばらしいです!!!」
キラキラと輝く瞳でジムの内装を眺めるナタネちゃんの表情には喜色しか浮かんでいない。
傍らに並んでいる彼女の手持ちポケモン達もとても嬉しそうにしており、今からでも走り回りたい!と言っているようにウズウズしている。
しかし喜ぶのも無理はないだろう。何せ「庭師連合(仮称)」が提案し、造園したジムの内装は素敵なものとなっているのだから。
ジムの天井は、設計者曰く強度が高いのに材料費が安いという強化プラスチックで覆われ、太陽光が遠慮なく差し込み。
ジムの内円を囲むように植木・花壇と交互に並ばれ、あたかも時計の数字のように色取り取りに並ばれている。今の植木は若木だから、今後の成長が楽しみだ。
中央ある時計ような仕掛けは完全に修復され、花時計としても機能するよう12種類の花が12等分になるよう植えられている。時間帯によって花が開くぞ!
その花時計を囲むようにバトルステージが用意されており、ジムの最奥部にあるナタネちゃん専用ステージは低木・花壇の二重で囲まれた豪華な仕様となっている。
全体的に見ると、芝生は綺麗に、花壇は美しく、木々は均一に、それを守る木材のバリゲードは程好い大きさを保つ。見た目のバランスも美しい。
スプリンクラーや芝刈り、ヒーター・加湿器・消火器はもちろんのこと、緊急用具(折りたたみタンカや消火栓)も各所に配置!
植物園としても定評が出ること間違いなし!そんな内装を目指しました。あ、もちろんジムとしても考えましたよ?
「皆さん本当にありがとう!ありがとうアリガトウありがとう!」
我慢できずジム内を駆け巡るポケモン達を余所に、ナタネちゃんは嬉し涙を零しながら一人ずつ握手を交わす。
その中に僕も含まれ、ブンブンと握られた手を振られつつも、その嬉しそうな顔を見ていると心がホッコリする。
それは周りの皆も同じで、土木工事や力仕事に協力してくれた人々もお礼を言われて嬉しそうに笑みを浮かべていた。
人の役に立てると嬉しいというのは、いつでもどこでも、そして誰でも一緒なんだなと思った瞬間である。
―――
さて、一頻り大喜びしたナタネちゃんは満足したのか、協力してくれた人達に報酬を渡そうとする。業者さんへは後日入金するのだとか。
けど大抵の人はナタネちゃんに助けられたりした事があるのか「別にいい」と断る人が続出した。
ちなみに僕は。
「ガーデニングできたこと自体が報酬みたいなもんだから良いです」
ほら、ローちゃんも首を振ってますでしょ。僕達は庭弄りが趣味ですから。
「「「(`ε´ )(お礼欲しいー)」」」
お黙りなさい、イーくんクケちゃんミノちゃん。ロトやんは「別にどうでもいい」って感じ。
それでもナタネちゃんは。
「そうは言わず!こんなに素敵なジムにしてくれたんだもん。お礼がしたくてしたくて仕方ないの!」
……と、彼女も頑なである。なのでそれぞれに、お金ではなく物で送ることにした。
例えばバスの回数券。例えばコンテスト会場の予約席チケット。例えば……あ、フエンタウンのバトルで貰ったタダ券だ。
トレーナーには役に立つ物や珍しい物が中心。『タイマーボール』や『リリバのみ』は解るけど、『ねっこのカセキ』とか『プロテクター』とかドコで手に入れたし。
イナゴロウさんには草タイプ技の威力を上げる『きせきのタネ』を、バックパッカーのキリコにはイッシュ地方へ行く船のチケットを渡した。
けどナタネちゃんに憧れているというソーマ君は『今度バトルしてください!』と頼み、物は受け取ろうとしなかった。
元々トレーナーとして挑戦されたら断れない性質なのでナタネちゃんはOK。相棒のドダイドス&アリアドスと一緒に大喜び。元気なトレーナーだなぁ。
そして僕には……。
「じゃじゃーん!ナエトルのタマゴでーす!」
―――目玉が飛び出そうな程ビックリしたよ!
「あはは、やっぱり驚いてくれたね!」
両手で持つポケモンのタマゴを見せ付けながら、僕の顔を見たナタネちゃんは嬉しそうに笑う。
けど僕はちょっと余裕がなく、興奮する心を表すかのように震える手で恐る恐るタマゴを受け取るしかできない。
「ほ、ホントにコレ、ナエトルのタマゴ!?嘘つかない!?」
受け取ってタマゴの重みと暖かさを感じて、やっと言葉が出たよ。
「うちのドダイトスが生んだ、正真正銘の本物だよ!ホウエンからわざわざ来てくれたんだし、これぐらいしか渡せないけど……」
「いやこれぐらいなんてとんでもない!ありがとー!いやっはー!」
一度でいいからナエトル育ててみたかったんだー!やっはーい!
タマゴを落とさないよう両腕で抱きしめながら、思わずクルクル回転して喜びを表す。ローちゃんも頭の上でレッツダンシングだよ!
「いやーシンオウに来てよかったー♪」
思う存分ガーデニングできたしー、ナエトルのタマゴ貰っちゃったしー♪
「まだ用事があること忘れないでくださいよー?」
「解っているよー♪」
うわはは、今は浮かれているけど、用件は忘れていないもんねーだ。けど今はこの幸せを存分に噛み締めるんだーい!
「……さて、お昼にしよっか」
「切り替え早っ!」
だってお腹すいたんだもん。皆もお昼にするみたいだし、ナタネちゃんも一緒に食べよ?
―続―
虫取り少年のソーマ
草タイプと虫タイプを好むポケモントレーナー。ナタネとリョウに憧れている。
普段はハクタイシティの果樹園を手伝っており、ハクタイの森での散歩を好んでいる。
本編に関われそうな設定を書いたからと言って確実に載るわけではありません。
そんなわけでナエトルのタマゴ、ゲットだぜ!草ポケモンコンプへ着々と近づくハヤシであった(笑)
次回はヨスガシティ。ミサトに頼まれ衣服屋に行くが、そこには意外な人物が。