ポケットモンスター・ライフ   作:ヤトラ

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もしこの話を読んで不愉快だという方がいらっしゃったら遠慮なく言ってください。
多数いた場合は早期削除し、大幅に修正します。

なら何故書いたのかといえば……。

障害持ちでも元気に暮らせる。そんな世界だと示したかったです。

あと、日頃からコツコツ書かないからこうなる。



その32「きのみ屋さん、衣服屋の用事を思い出す」

 ヨスガシティの工房みたいな衣服店『Dress Of Handmade』で働くナタネちゃんの友達、ヒカリちゃん。

 紺色の髪にピンク色の髪留めをしているが、ほんわかした雰囲気が目を引く子だ。こういうのを「かわい子ちゃん」と言うのだろうか。

 そんな彼女とナタネちゃんを介して接している内に、意外な事実を知った。

 

 

―――

 

「ヒカリちゃんって喋れないんだ」

 

 僕がポロリと言うと、ヒカリちゃんは手に持った使い捨てのスケッチブックに鉛筆を走らせる。

 書き終えると裏返し『そうなんです』と自分の言葉を見せた。目より下を隠す彼女は照れくさそうだった。

 

「昔トラウマになる出来事があったらしくて、心は立ち直れても声が出なくなったんだって」

 

 クリクリとヒカリちゃんの頭を撫でながらナタネちゃんが代わりに教えてくれた。

 そういう事を勝手に話すのもどうかと思ったが、ヒカリちゃん自身は気にしていない様子。むしろ撫でられる事が恥ずかしいみたい。

 

 ポケモンは良い意味でも悪い意味でも人に影響を与えるものだ。

 ヒカリちゃんは幼少期に凶暴なポケモンと遭遇してしまい、通りすがりのトレーナーに助けられたものの、ショックの余り声が出なくなったんだとか。

 心は親の献身的な介護によって立ち直ったが、体はそうでもなく、図鑑を授かり各地を旅し終えた今になっても声は出ないらしい。

 

 まぁヒカリちゃんはまだ良い方だろう。中にはポケモンを見るだけで反射的に逃げ出す子もいるらしいし。

 それにナタネちゃんとミイさんの3人で楽しそうに話して(?)いる様子を見る限り、不幸というわけでもなさそうだ。

 それになんというか……ここまで愛されるのはヒカリちゃん自身の本質だろう。昔っから色々な人に愛されていたんだろうなぁ。

 

 なにやらオシャレに関するアレコレを話しているようなので、傍から眺めているだけにしよう。

 「ジーパンとチノパンって似たようなもんじゃないの?名前とか」とか言ってしもーた男ですので。

 

「ヒカリ。何をしているの」

 

 ヌッと作業所から姿を現したのは、目つきがやたらとキツいメガネウーマンと、その相方らしいハハコモリ。

 背丈はナタネちゃんほどだけど、顔つきは鋭くてピシっとした印象を与えられる。ポニーテールの黒毛がスラっとしており、仕事人っていう雰囲気バリバリだ。

 そのピリっとした空気と眼鏡越しの鋭い目つきに、僕を除く3人がビクっと震えるほど。ミイさんとヒカリちゃんは解るけど、なんでナタネちゃんも?

 

「貴方は貴方の仕事があるでしょう。持ち場に戻りなさい」

 

 僕らの間に割り込みヒカリちゃんの行く手を阻み、ピっと作業所を指差す彼女は相当厳しい人のようだ。

 有無を言わさぬ迫力を前にヒカリちゃんはペコリと頭を下げ、さっさと作業所へと戻っていく。けど怖がっているというよりは「あ、忘れてた!」と言わんばかりの慌てっぷり。

 そのまま彼女はジロリとナタネちゃんとミイさんを睨み、二人が怯んだ直後にグチグチと言い出す。傍ではハハコモリがミイさんのサーナイトを叱っているし。

 

「公私混同は仕事の邪魔です。ナタネさんも自重してくださいませ。

 ミイ、貴方もお客様から指定されたからといって作業中の彼女を呼びつけるんじゃないの。時と場合というものを考えて……。

 失礼。其方は初めてですよね?私は店長のスラスと申し上げま……あら?」

 

「な、なんでしょ?」

 

 唐突に彼女―スラスさんがこっちに振り向いたかと思えば、じっと見上げてくる。め、目つきが怖いです店長さん。

 考え事をしているかのように顎に手を添えていたが、思い出したのかスラスさんが「ああ」と声を上げる。僕、何かしましたか?さっきの着せ替え騒動再びとか?

 

「もしかして貴方、ホウエン地方からいらっしゃったハヤシさん?」

 

「そ、そうですけど」

 

「失礼。イッシュ地方のミサトさんから話を伺っていました。貴方、ミサトさんに頼まれごとがあってうちにいらっしゃったのですよね?」

 

「ああそういうことか」

 

 思わず手ぽむ。そういえば僕ってミサトから買い物を頼まれていたんだっけ。忘れていました。

 どうやらミサトは事前にリストを書いた所か、店長であるスラスさんにも情報を提供していたようだ。こういう所は用意周到なんだよねミサトって。

 それじゃあ話が早いということで……えっと、どこにやったか……あったあった、鞄のポケットに入っていたリストをスラスさんに差し出す。

 

「これがミサトの買い物リストです」

 

 受け取ったスラスさんはメガネの縁を摘んで度を調整し、リストを睨みつける。

 するとスラスさんは溜息を漏らし、胸ポケットのメモ帳を取り出してサラサラっと書いた後、それを破く。

 

「……承りました。ミイ、こちらの品を店から揃えて包装しなさい。残りの品はこれからオーダーメイドするから」

 

「解りました」

 

 メモを受け取ったミイさんはさっそくとばかりに狭い店内を駆け巡り、メモに書かれた物を幾つか取り出していく。取り出しはミイさん、受け取りはサーナイトと役割分担も忘れずに。

 そんな作業を傍から見ていたスラスさんは、はぁ、と嫌そうに溜息を漏らす。な、何故にそげん怒っとると?

 するとジロリと視線だけでこっちを見て来た。や、やっぱり怖いですこの人。

 

「あなたも大変ですね。聞くからにワガママそうな子に買い物を任されるとは……オーダーメイドの品は簡素な物ですが、少々お時間を頂きます。一時間程お待ちください」

 

「い、いえ……」

 

「はぁ……オーダーメイドを売りにしているこの店に、幾ら忙しいし遠いからと言って他人を寄越すなんて腹立たしいわ。オーダーメイドとは創作者と依頼者が妥協を認めず一から自分好みに作るということ。手作りの醍醐味というものをまるで解っていないわね……外にテラスがございますので、そちらにてお待ちください。ではごゆるりと」

 

 ペコリと頭を下げて作業所に戻る最中でも早口で言う愚痴を止めようとしないスラスさん。

 そんな彼女の気持ちを代弁するかのようにハハコモリはペコペコと頭を下げ、スラスさんの後を追う。

 

 なんというか……。

 

「キッツい人でしょ?あの人、すっごく真面目で、色々な事に怒っているんですよね」

 

「うん。完璧な仕事人間だね」

 

 ナタネちゃんが怖がるのも無理は無いわ。あの人、一切の妥協とか手抜きとか許さないタイプの仕事人だ。

 ハクタイジムの修復に協力してくれたイナゴロウさんも自分の仕事には厳しい人だったが、あのスラスさんはそれ以上って感じ。

 目つきが鋭いし、マンガとかに出てきそうなキツキツ系OLって感じ。美人さんだけど。

 

 けどああいう人ほど、仕事に情熱を注ぐ人から慕われたりするんだよね。

 でなけりゃ外から見た仕事風景が生き生きしていないもん。誰も彼もが真剣に、そして一生懸命頑張っているわけだし。

 ポケモンのためでもあり人のためでもある服飾系の仕事は幅が広い分、どこまでも自分好みに頑張れることだろう。特にオーダーメイドとなれば、こだわりも強くなる。

 

 さて、ミイさんは包装中みたいだし、オーダーメイドの品は時間が掛かるらしいからテラスでお茶でも……。

 

―チリンチリン

 

 あ、新しいお客さんが……って……。

 

 

 

「ヒカリちゃ……あら、ナタネじゃないの」

 

「あ、お久しぶりですシロナさん!」

 

 

 

 まさかのシンオウ地方チャンピオンご来場ぉ―――!?

 

 

 

―続く―




●ヒカリ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♀。おっとりとした性格。辛抱強い。
過去のトラウマが原因で声が出なくなった為、常にスケッチブックを持ち歩いている。
多くの人やポケモンに支えられつつ、コンテスト衣装を作る事を遣り甲斐としている。
『つるぎのまい』等で積んで『インファイト』等で一気に責める戦法を好む。攻撃型。

ヒカリちゃんの詳しい話を、コウキの話と一緒に執筆中。いつか同時投稿したいです。

正月休み気分が未だに(仕事以外で)抜けない自分(汗)日頃からコツコツ書かないと……。

次回、シンオウ地方の大物が次々と来襲する!(犯人はヒカリ)

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