2/17:語弊修正。「はえとりポケモン」→「むしとりポケモン」
―えっと……どうしてこうなったんだろうか。
「頑張れよー!」
「負けるつもりで突っ込んできなー!」
「当って砕ける覚悟で挑め!」
観客席から応援の声が伝わってくるが、応援というより励ましに聞こえるのは気のせい?
「ウワッハッハ!張り切って挑んで来い!このマキシマム仮面のサインが欲しければな!」
前方で豪快に笑うのは、ノモゼジムリーダー・マキシさんことマキシマム仮面。楽しそうだなぁ。
観客席のエールもどちらかといえばマキシさんを応援する声が多い。といっても贔屓しているわけでなく、バトルを楽しみにしているのが大半だろう。
ココはノモセジム。中央のバトルフィールドをプールで囲んでいるので水中戦もできる仕様だ。
そのプールの外周に立って対峙しているのが僕ことハヤシとマキシさん、その間に立つ審判、審判の反対側には結構な人数の観客。
中央のバトルフィールドには、初の本格バトルよりも外野にビクビクしているロトやんと、ハサミをガチガチ打ち鳴らして威嚇するキングラー。
そんな僕らに審判さんは改めて確認する。
「準備はよろしいですか?」
「僕は大丈夫です」
「言わずもがな、だ!」
マキシさんは当然として、僕も落ち着いて了承する。
まぁロトやんだけは緊張してビクビクしまくっていますがね。なんとかなるでしょ。
「これより、挑戦者ハヤシとジムリーダー・マキシによる、4VS2のハンデ戦を開始します!……試合開始!」
直後に吹き鳴らしたホイッスルを合図に、2匹が動き出す!
―――
ここで1日ほど時間を遡ってみよう。
ミサトに頼まれていた衣服類を確認して郵送し終えた僕は、シロナさんとゲンさんと別れた。2人ともヒカリちゃん目当てかと思えば、一応衣服の買い物もしたらしい。
その後はクケちゃんをボールに戻してナタネちゃんと少し歩いた後、ポケモンセンター(カプセルホテル風)で一泊過ごす事にした。
ちなみに一緒に夕飯を食べようとしたが、ナタネちゃんはライブキャスター越しにハクタイジムに戻るよう言われたらしい。
なので、残念ながらここでお別れ。短かったけど旅できて楽しかったよと言ったら、ちょっと悲しそうな顔をして笑ってくれた。
ホウエンに帰るまでにまた会いに行くと約束したらいつも通り笑ってくれて、その後にお別れ。それまでにナエトルが孵っているといいな。
翌朝に早足でトバリシティを抜け(新婚夫婦風のコスをしたトレーナーとフライゴンを見た気がする)、ノモセシティへと旅立った。
道中は新入りのミノちゃんや経験の浅いイーくんロトやんにバトルを教える為、野生ポケモンやトレーナーとバトルをしながらのんびり歩く。
ちなみにクケちゃんはバトルをお休み。新参者の訓練が優先だからね。代わりに連れ歩きしてご機嫌を直してもらったが。
割と沢山バトルしたからか、3匹の戦闘スタイルを把握できただけでなく、なんとミノちゃんがミノマダムに進化。ちなみに草のミノ。
新しく『めざめるパワー』と『はっぱカッター』を覚えてくれたのも嬉しい。まぁ成長した分、勇敢度が増しましたが。
そんなこんなで番道路を歩いていたらノモセシティに到着。ちなみにトレーナー戦は5戦中2勝3敗。草は弱点が多いから仕方ない。
で、さっそくノモセ湿原のサファリパークに行った、と。草ポケモンを愛する僕としてはどうしても欲しいポケモンが居たもんで。
一日の半分をサファリパーク練り歩きに用いたが、捕まえたポケモンは1体だけ。目当てのポケモンは捕まえられたが、運が悪かったんだろう。
泥んこになったレンタル着を洗って返却し、あちこち歩き回った疲れを食べ歩きと自然を満喫することで解消。
次にマキシさんことマキシマム仮面のサインを貰おうとノモセジムを訪ねたところ……。
「お、挑戦者か!?……何?友人の為に俺のサインを?ウワッハッハ!友達想いじゃないか!
お安い御用と言いたいが、せっかくジムを改修したのに予約も飛び入りも無くて暇してたんでな!俺とバトルしたらサインをやろう!
……なんだ、バトルに自信がないってか?なら俺が2体でお前が4体のハンデ戦だ!大事なのはバトルを楽しむ事だからな!
ほれほれ、さっさとバトルの準備だ!バトルをしないとサインはやれんぞ!?ウワッハッハ!」
そういってマキシさんは、身長差があるにも関わらず僕を脇に抱えて連れ去って行った。なんだろう、このサッパリとした強引さ。
すると集まってくるのはノモセの人々。マキシさんのバトルは公式でも私用でも人気らしく、バトルをするといったら集まるんだそうだ。
そうしてマキシさんと観客の皆さんの流れに沿って行ったら、いつの間にかジム戦をすることになった、と。
まぁタダでサインを貰うなんて思っていなかったので、勝ち負けを気にしないバトルなら大歓迎です。「勝ったらやる」って言われたらどうしようかと思った。
―――
そんなわけで、最初はロトやんことカットロトムとキングラーの試合。
フォルムチェンジしたロトムを知っているトレーナーなら、草タイプと電気タイプを複合したロトムの方が有利に見えるだろう。
だがしかし。
「ロトやん『でんじは』!」
「『こうそくいどう』で駆け抜けろぉ!」
ロトやんが微弱な電気を放射線状に放つが、キングラーは横向きに高速移動する。考えちゃ悪いけど、動きがキショい。
直線ではあるがロトやんの周りを迂回するように、しかし電磁波に当らぬようジグザグに走りながら避けている。『かげぶんしん』も織り交ぜているかな?
4VS2だから1匹だけでも麻痺できればと思ったんだが、予想以上に早いやっちゃ!
しかし近づけば電気の餌食になるからか、迂闊には近づけないみたいだ。キングラーもじれったそうに鋏をガチガチ鳴らしている。
高速移動による回避なんてジムリーダーにしては対応が荒っぽい気がするが、何かあると思ってしまう。
しかし、うちにはスピード対策がある!
「ロトやん、今度は『でんげきは』だ!」
覚えたてだから不安だけど、命中率の高いこの技なら!
ロトやんから放たれるのは、電磁波とは比べ物にならない速度で飛んでいく電撃。
地を走るようにして放たれた電気はキングラーの軌道に沿ってカクカク曲がり、もう少しで直撃しそうになる。
「うおぉぉぉ『こらえる』んだキングラァァァ!」
握りこぶしを振りかざして叫ぶマキシさんに応え、キングラーは急ブレーキを掛けて電撃をモロに受ける!
『でんげきは』は命中率が高い代わりに威力は低いが、硬い甲殻とは裏腹に特殊防御が低い為にかなりのダメージ。
だが体を力ませて体力をギリギリ残す『こらえる』のおかげで倒れるには至っていない。
―というか今気づいたけど、キングラーとロトやんの距離が意外と近……っ!
「『じたばた』だぁぁぁ!」
再び轟く叫び声。キングラーはシャカシャカ走り、ロトやんに迫る。
そのスピードと気迫にロトやんも僕も咄嗟に対応できずにキングラーの接近を許し、じたばたと暴れさせてしまった。
倒れ間際の必死さで上がったパワーを、ハサミ・足・体全体を用いてロトやんにぶつけていく。うわぁ痛そう!
元々体力が低いこともあり、ロトやんはKO。目を回して倒れ、地面にコロコロと転がって気絶。
「ロトム、戦闘不能!」
「よぉぉぉっしよくやったぁぁぁ!」
審判の判定をかき消すほどの大声で喜ぶマキシさん。あれか、叫ばないと死んじゃう病でもかかっているんだろうか。
対するキングラーは残り僅かにも関わらず、嬉しそうに鋏を振り上げている。
「随分と足の速いキングラーですね」
ロトやんをボールに戻しながら言う。高速移動したからといってあの速さは無いでしょ。
「カントーのジムリーダーから薦められたんで育ててみたんだが、こいつが中々見所あってな!パワーとスピードを武器にするよう育てたのよ!」
自慢げに胸を張るマキシさん&キングラー。このキングラー、育てる内に似たのか、それとも元から似ていたのか……多分後者だ。
さて、それはいいとしてバトルバトル。けど参ったなぁ……あのキングラーの素早さが厄介極まりない。
経験不足と言えど麻痺ぐらいしてくれると思っていたが、流石はジムリーダーの育てたポケモン。スペックが違いました。
イーくんとローちゃんの『くさぶえ』も『マジカルリーフ』も、あのスピードを前にしたら一瞬で近づかれて『じたばた』でアウトだろう。
ミノちゃんも固定砲台と化しているから厳しいだろうし……クケちゃん?とある理由があって出せません。理由は後ほど。
―しょうがない、不安だけど新入り君の力を借りよう!コイツならなんとかできる!
僕はサファリボールを手に取り、ノモセ湿原のサファリパークで捕まえたこのポケモンを出す。出て来るのは―――
「さっそくだけど出番だよ、キッパさん!」
「キシャァァァ!」
―マスキッパこと、キッパさんだ!
むしとりポケモンのマスキッパ。シンオウ地方で捕まえたいと思っていた草ポケモンの1匹だ。
ただ、このマスキッパは普通のマスキッパとは違い、図鑑で記された平均サイズも一回り大きい。というのも。
「……ハヤシとやら、そのマスキッパはもしやノモセ湿原の『大食い』か?」
「やっぱりマキシさんも知っていましたか」
その異名で呼ぶがその証拠。僕がその名と意味を知ったのは捕まえた後だけどね。
ノモセシティを纏めるジムリーダーだけあってよく知っているようだ。
キングラーを見て舌なめずりするマスキッパを見るマキシさんの視線は、信じられない、と言っているかのよう。
そんな目でキッパさんを見るのはあなたで3人目です。1人目はサファリパークで同行していたトレーナー、2人目は係員さん。
「知っているもなにも、そいつはノモセ湿原じゃ有名だからな!よく捕まえてくれた!」
マキシさんは嬉しそうに笑う。大勢の観客も「これで面倒事が減ったわ!」と喜んでいた。
この大きなマスキッパ、ノモセ湿原のサファリパークでは結構有名な個体らしい。
というのも『大食い』の異名の通り、ポケモンを捕まえる為に投げた餌を片っ端から食らう食いしん坊だからだ。
そのくせ逃げ足は早く、時に木々へ逃げ込み、時に沼地を潜水し、時に空を飛んで逃げると悪知恵が働き、中々捕まえることは無い。
そんな『大食い』をどうやって捕まえたのかと言うと……たまたま後姿を見つけて、気付かれない内に近づいてボールを投げてゲットしただけ。
食いしん坊ってだけで人に懐かない訳でもなく、きのみをあげたら素直に喜んでくれた。意外と素直な子だね。
ちなみに虫ポケモンをモグモグするのが好きらしく、ミノちゃんとクケちゃんをモグモグしちゃいました。
おかげでクケちゃんは不貞腐れてしまいボールから出てきてくれない。本気で食べないだけまだよかったじゃん。
……まぁそんなわけで。
「とりあえずバトルに戻っていいですか?」
「おお、悪かった悪かった!審判、続きだ!」
「やっとですか……では、試合始め!」
切り替えが早く、雰囲気は一瞬でバトルモードに。
「いけぇキングラー!近づけぇ!」
「空を飛んで距離を取って!」
マキシさんと僕が同時に叫び、キングラーは高速で地を這うが、キッパさんは浮かんで回避。
降りて来いと言っているかのように鋏を振り回すキングラーだが、高く浮かんでいるキッパさんには届かず、キッパさんはアッカンベーをして挑発。
マスキッパの特性である『ふゆう』は、飛行ポケモンほどでは無いが飛行能力を得られる。
キングラーは足こそ速いが獣のように跳躍力があるわけではない。なら空中戦にも強いキッパさんならと思ったが、予想が当ってよかった。
「ぐぬぅぅぅ!仕方ない『ねっとう』だ!」
「『つるのムチ』!」
今度は僕の方が早い!キングラーも熱湯を放つつもりで鋏を向けるが、それより早くキッパさんの蔓が伸び、叩きつける!
―ペッシィン!
キングラーの頭に『つるのムチ』がヒット!残り体力僅かだったこともあり、キングラーは力なく倒れる。
「キングラー、戦闘不能!」
よし!2匹目でマキシさんの1匹目を撃破!ジムリーダー相手にこれは美味しい!……だけどねキッパさん。
「キングラーを食べようとしちゃいけません!」
確かに美味しそうだけど、気絶したキングラーを持ち上げて大口を上げないで!カニポケモンだけど!
―――
キッパさんを止め、人のポケモンをモグモグしないようにと説教をして3分後。
「失礼しました」
「お、おう……やっぱ『大食い』だなぁそいつは」
噂に違わぬ食い意地よ、とマキシさんが呟いた。素直なんだけどなぁ、キッパさん。
「にしても、育てて間もないポケモンで俺のキングラーを倒すとは天晴れよ!」
「タイプ相性もありますけど、選んだポケモンが良かったんですよ」
「ウワッハッハ!謙遜するな!」
いや、マジで選出が良かったです。イーくんやローちゃんじゃ負けてました。
キッパさんが居なかったらキングラーに4タテされて……いや、キッパさんが居なかったらクケちゃんを出せていたから、どっちもどっち?
改めて戦闘意欲が沸いたキッパさんを続投し、試合再開。マキシさん、2匹目は何を出すのやら。
「ようし!こいつはキングラーに続く『とっておき』だ!いけぇ!」
そう言って青いモンスターボール―『ダイブボール』を放り投げるマキシさんは、獰猛な笑みを浮かべていた。
文字通りの『とっておき』だから自信があるんだろう。さて、プールサイドにザブンと飛び込んだそのポケモンは……。
―岩のような皮膚を持つ魚ポケモンだった。
「……これって、ジーランス……ですよね?」
「おう!ホウエンのジムリーダーから薦められたのよ!俺にピッタリだってな!」
自慢げにマキシさんが紹介する2匹目のポケモンは、どこか糸目が愛らしい、ちょうじゅポケモンのジーランスだった。
ちょっと主人公っぽく、特別っぽいマスキッパを捕まえさせてみました。
大食いで一回り大きい程度の普通のマスキッパですがね(笑)クケちゃんをモグモグできたのは不意打ちだからです。
それと、マキシさんが今回出した水ポケモンは完全に作者の好みです。マキシさんに似合うなーと(笑)
原作ではフローゼル・ヌオー・ギャラドスを使いますが、ジム戦でもないしジムリーダーに似合うポケモンを選びたかったので(笑)
次回、VSジーランス!一見するとハヤシ側の有利だが、果たして!