―アーさん は 「いくらなんでも……」と言わんばかりの目でこちらを見ている。
「構わん、ぶちまけろ!」
―ハヤシ は 無視して叫んだ!
なんて茶番は置いとくとして、アーさんは空から有りっ丈の『まきびし』と『ステルスロック』をバラ撒く。
緑一色だった地面が瞬く間に『どくびし』の紫と『まきびし』の鉛色に染まっていき、畑の周りは尖った岩で覆われる。
畑には光の粘土という道具を持たせたヤーやんの『リフレクター』と『ひかりのかべ』を張っているから大丈夫。
「これだけ撒けばヤミカラスの群れが来ようとも大丈夫でしょう!」
だからローちゃん、アーさんみたいに「いくらなんでも……」と言わんばかりに頭の上でポンポン叩かないで。
やりすぎかもしれないが、ヤミカラスと聞けばこれぐらいのことはしないと気が済まないのよ。
実は僕、一部を除く鳥ポケモンが苦手だったりする。
昔っから目つきの鋭い鳥ポケモン、特にドンカラスとネイティオには嫌な思い出しかない。
ドンカラスは僕のトラウマベスト5に選ばれるほどだ。ちなみにベスト1はネイティオの目。
あれは、僕がこの店と畑を受け継いで間もない頃……せっかく綺麗にした庭をドンカラスとヤミカラスの群れに荒らされた。
それはもうグッチャグッチャに。数はそうでもなかったが、ドンカラスのリーダーシップの良さで徹底的に。
その時はたまたまシダケタウンに来ていたユウキ君に追い払ってもらったからよかったが、あのままなら再起不能になったかも……。
それからというものの、僕はヤミカラスとドンカラスは特に嫌いになった。
なのでやるなら徹底的に。『ふみん』の特性を持つポケモンが居ない以上、ふんだんに罠を設置してやるのだ。
今夜中に群れが来るかは解らないが、今は大事な木の実を植えているし、これだけしても仕方ないよね。
「ふっふっふ、痛い目に見るがいいわヤミカラスども……!」
決して怨恨にあらず。人の木の実を奪おうとしたら罰が当たるってことを教えてやるまでですよ……!
ローちゃん達が隅っこでガクブルしているけど、気にしない。ふっふっふ……!
―――
その日の夜。海を渡ってホウエン地方へ来たヤミカラス達は夜空を静かに飛んでいる。
ドンカラスというリーダーが存在しないからか、9匹のヤミカラス達は外敵に見つからないようにしているのだ。
それに比較的穏やかなヤミカラスだからか、時々夜空に浮かぶ満月を見上げてほっこりとしている。
ふと地上を見下ろしていたヤミカラスが何かを見つけたらしく、傍を飛んでいる子供のヤミカラスに向けて一鳴き。
なになに?と近づいてくると(どうやら母らしい)ヤミカラスは子ヤミカラスに下を見るよう促す。
人間からすれば町を除けば夜空以上に真っ暗な大地が広がっているが、夜目の効くヤミカラスは細かいところまで見ることができる。
見下ろす先にはシダゲタウンがあり、その一部が紫と鉛色の斑模様に染まっているのがヤミカラス親子の目に止まる。
斑模様が何なのかと首を傾げる子ヤミカラスに対し母ヤミカラスはガァガァと注意する。
―いいこと?あそこは危ないから入っちゃダメよ?
こんな感じに鳴いている母ヤミカラスだが、ヤミカラスは半分が好奇心と悪戯心で出来た鳥ポケモン。
子ヤミカラスは気になって仕方なくなったから降下しようかと思ったが、あるものを見て止める。
―斑模様の大地に人影が入り込み、痛がって暴れ出したかと思えばパタリと倒れたではないか。
ゾゾ~っとする子ヤミカラスを「ほら?」と言わんばかりにニヤリと笑う母ヤミカラス。
子ヤミカラスは首を高速で上下に揺らし、母ヤミカラスの言っていた事が正しかったことを理解する。
母ヤミカラスはあの斑模様が『どくびし』と『まきびし』であると瞬時に理解し、そこに入ろうとする人影に気づいたからこそ、子ヤミカラスにわざわざ見せたのだ。
賢いヤミカラスは、今宵も我が子に賢い知恵を教える事に成功。
ヤミカラスの群れはシダケタウンに寄る事なく、煙突山方面に飛んでいくのだった。
なお、その際にシダケタウンに叫びが響き渡ったが、運悪く熟睡していて誰も気づかなかったという。
―――
昨日、ヤミカラスに恨みはないと言ったよね?ごめんなさいアレは嘘です。
ヤミカラスそのものを勝手に逆恨みしていました。アカン癖だと解っているんだけどなぁ……。
ご近所のダブルス(ドードリオ♂)の声で目覚めて裏庭にやってきた僕が見たものは……。
黒いランニングシャツにスパッツという格好をした褐色の女の子が倒れ、そんな彼女の横で泣いているゴニョニョでした。
「まぁま」と連呼して気絶している女の子を起こそうとするゴニョニョ。
微かに意識があるらしく、ピクピクと痙攣させて無理に動こうとする女の子。
そして「だから言ったのに……」と言わんばかりに僕を見るポケモン達。
「……ごめんなさい」
ヤミカラスに一泡吹かせてやろうとばかり考えていて、知らずにやってきた泥棒の事を全然考えていませんでした。
というかまだ意識があるんだった!早く起こしてやらないと!
近づいたら女の子がこっちを見上げて何か言いたそうだったので、ゆっくりと上半身を起こす。
「―――――そ」
「そ?」
「想像力が……足りなかったよ……」
そう言って彼女は、ガクリ、と意識を手放した。
想像力……こんなに『まきびし』と『どくびし』を撒くとは思わなかったから?
とりあえず、ポケモンセンターに運ぼうっと。
不憫な登場の仕方だなぁって私でも思います(ぇ)
ちなみに時期でいうとポケモンorasが始まる前ぐらいかな?
来週から色々と動き出そうと思います。もう少し文章を長くかけるようにしたいなぁ。