不老少女、海に出る。   作:千樹 星百

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第1章 無人島編
第1話


 何もかもが白く、どこまでも果てしなく白が広がる空間、通称〝神域〟。

 そこは、神が世界を管理するための仕事場。

 

 そのような場所に、人影が二つ。

 

 一人は、黒原(くろはら) (ゆたか)、十九歳、日本人大学生。

 名前からよく間違われるが、歴とした女性である。

 髪は日本人らしく漆黒で、うなじ辺りでバッサリと切ったショートヘアにしている。目つきは鋭いが、何となく、冷たいというよりも、カッコいいという印象を与える。

 百七十センチ半ばと日本人女性としては高い身長を持ち、胸部の豊かはあまり無いが、スラリと引き締まった体をしている。  

 

 そして、もう一人は、足元まで伸びた豊かな金髪に、綺麗な蒼穹の瞳。頭の上には神々しい光輪が浮かび、また、その背中からも神々しい純白の翼が一対生えている、ザ・天使と言える姿をしたナイスバディな美女。

 

 二人は、お互い向かい合うように、椅子に座っている。

 豊は深く考え事をしているかのように、目を瞑って腕と脚を組んでおり、天使のような美女は真剣な眼差しで豊を見ている。

 

 そして、暫くして、豊は目を開いて、言った。

 

「ごめんなさい、申し訳ないけど、さっきなんて言ったかもう一回言ってくれない?」

「はい。貴女は不幸にも亡くなってしまいました」

 

 豊は静かに宙を仰ぐ。

 

「マジなの………」

「残念ながら、マジ、です」

 

 豊は、天使を名乗る女性から聞く、二回目の台詞に、ガクリと項垂れる。

 

「心中お察ししますが、時間が押してるので話を進めても宜しいでしょうか? 本当に申し訳ないのですが」

「あ、はい。どうぞ」

「こほん。ではまず、貴女の亡くなったときのことですが………」

「………晴天なのに何故か雷が落ちてきたのは覚えてるわ」

 

 豊の言葉に天使は流れるように土下座をし始めた。

 

「本当にごめんなさいっ………!! 私の上司のヲタクな神がっ、本当にごめんなさいっ!!」

「いや、何があったの!?」

 

 豊は、なんとか土下座をやめさせ、天使から詳しく話を聞くと、

①天使の上司は、地球を含めた複数の世界を管理する神である。

②最近、その神が隠居し、猫被りや演技が非常に上手い日本のサブカルチャーにどっぷりと嵌まってヲタクと化している天使が新しい神になった。

③そのヲタクの神は、特に『ONE PIECE』という作品を気に入っており、時折、この〝神域〟で『ONE PIECE』に登場するキャラクターの能力や技を再現している。

④神が「〝神の裁(エル・トール)〟ッ!!」と叫んで再現した技が、誤って下界に落ちてしまう。

⑤その落ちた先に丁度いたのが豊。

 

 その話を聞いた豊は、

 

「よし、天使さん。ちょっとその神とやらに会わせてくれないかしら? 一発、いえ、千発殴るから」

「申し訳ありませんが、神は既に反省用の独房におりまして、貴女が直接会うことは出来ません」

「チッ」

「………時間がないので話を進めますね」

「さっきから時間が押してるって言ってるけど、なんの時間?」

「貴女が転生するまでの時間です」

「は?」

「本来であれば死者の魂はこの〝神域〟に来るのではなく、直接輪廻の輪にのります。しかし貴女の場合、こちらの不手際で本来とは違う死に方をしてしまったため、すぐに貴女の魂をこの〝神域〟で保護し、世界の認識を歪めるなどをして蘇生させるというのが本来の流れです」

「私、死んだままなんですけど?」

「ええ、あの神、もとい、あの馬鹿は私たち天使にバレるのを恐れて、貴女の死を隠蔽してまして」

「……………」

 

 ピキッと豊の額に青筋が浮かび上がる。

 

「その後、貴女の死が発覚したわけですが、適切な処理をするのも不可能なほどの時間が経っていたのです」

「……………」

 

 ビキビキッと豊の額に青筋が増す。

 

「貴女の魂を保護したのはいいものの、貴女の魂が輪廻の輪に完全に乗るのも時間の問題でして」

「……………」

 

 ビキビキビキッと更に数を増す青筋とは逆に、口角が徐々に上に上がる。

 

「しかも、その処理をあの馬鹿が変に拗ねて、私たち天使だけですることになったせいで余計に時間がかかってしまい、もっと取れるはずだった時間が更に短く」

「ごめんなさい、やっぱりちょっとその馬鹿に会わせてくれない? マジで殴り殺すから」

 

 ブチィッと豊の何かが遂にキレた。

 椅子から立ち上がり、手の甲に青筋が浮かぶほど拳を強く握りしめる。

 表情は笑顔としか言いようのないものであるが、目が笑っていないせいで凄みを感じさせる。

 

「お気持ちはほんとッッッッによく分かりますが、これ以上は本当に私たち天使の頑張りが無駄になりかねないので、話を進めさせてくださいお願いします」

「……………チッ」

 

 豊は怒気を治め、不機嫌そうにドカッと乱暴に椅子に座り直す。

 天使は、豊のその様子に一先ず安堵し、話を進める。

 

「では、黒原 豊様。貴女には、このまま輪廻の輪に乗るとはまた、別の選択肢が存在します」

「と、言うと?」

「元の世界とは別の世界、つまり、異世界に転生するというものです」

「……………何故、異世界転生なの?」

「いえ、その、あの馬鹿曰く、『こういう時は、異世界に転生させてあげればいいんだよ!!』などと自信あり気に言っておりまして……………」

「まあ、つまるところ、『元の世界にはもう蘇生出来ないから、別の世界で人生の続きをして』ってことでしょ?」

「ええ、おそらく」

「私としては、馬鹿をぶん殴れないのは不満だけど、人生に続きが貰えるっていうなら、ありがたくもらうわ」

「ありがとうございます。では、転生する世界はこちらの資料の中からえら―――」

「ちょおおおおとまったあああああああッ!!!!」

「うわっ」

「きゃっ」

 

 天使が豊に、転生先の候補の世界の資料を渡そうとしたとき、銀髪の天使のような少女が二人の間に突っ込んできた。

 それに、豊と天使は短く悲鳴をあげる。

 その隙に、その少女は天使の手から資料を奪い取り、びりびりと破り捨ててしまう。

 

「なっ!? 貴女はお仕置き部屋にいるはずじゃっ!?」

「ふっふーん、あれくらい抜け出せなきゃ神の名が廃るってものさ!!」

 

 豊は今のやり取りで――まあ、自分で「神」といったのだが――乱入してきた少女の正体」を把握する。そして、コッソリと(馬鹿)の後ろに移動する。

 

「ていうか、なんで資料破り捨てたんですか!?」

「この子の転生先はボクの独断と偏見によって決まったからさ!!」

 

 豊は神に勝手に転生先を決められたことに、眉をピクリとさせるが、(馬鹿)の背後に回り込むことに成功する。

 

この馬鹿っ!!

 なに勝手なことしてるんですか!?」

「こ、こいつ、遂にドストレートに罵倒したな!? ていうか、ボクが勝手なことするなんて、もう今更じゃないか!!」

「なに開き直ってんですか!? はっ倒しますよ!! って、あら?」

「え、なに、どうし――」

 

 ゴチンッと、(馬鹿)の後頭部に豊の拳が突き刺さる。

 

「いっっっっ!?」

 

 痛がる神を豊は仰向けに倒して、マウントポジションをとる。

 神の目が豊と合う。

 そして、神はダラダラと汗を流し始める。

 

「えっと、は、初めまして、ボ、ボクは神だよ!」

 

 豊はそんな神ににっこりと微笑んで、

 

「そう、初めまして。そして、死ね♪」

 

 神は現状を理解したのか、サッと、顔を青くする。

 

「た、たすけ…」

 

 そして、一縷の望みをかけて、天使に助けを求めようとすると、

 

「~~~♪」

 

 物凄く上機嫌そうに、豊たちとは逆方向を向いて鼻歌を歌っていた。

 

「……………」

 

 神は一周回って無表情になった。

 そして、視線を豊に戻す。

 

「♪」

 

 拳を振り上げて、凄くいい笑顔をしてらっしゃる。

 目が笑ってないのと、力いっぱい握りしめているであろう拳で、その分、滅茶苦茶怖いが。

 

 神は思った。

 

(あっ、おわた)

 

 その後、豊の拳が神の顔面や頭に何発もぶち込まれたのは、いうまでもないことだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「で、神様(笑)が選んで下さった(・・・・・・・)世界は、どんなせかいなのかしら? ん?」

 

 〝神域〟では、青あざやたんこぶを大量に作った「ボクは馬鹿です」と書いてあるホワイトボードを首から紐で吊るす神(笑)と、それに対してメンチを切っている豊、そして、心底スッキリしたようなとても清々しい表情をした天使の姿があった。

 

「ボ、ボク的には、と、とてもいい世界だよ、うん」

「貴女の感想はどうでもいいから、どんな世界か教えてくれない? 出来るだけ簡潔にね?」

「ア、ハイ」

 

 神(笑)、豊の凄みに一瞬で敗北する。

 

「簡単に言うと、『ONE PIECE』の世界です!!」

「……………ごめんなさい、私『ONE PIECE』全然読んだことないから、それだけじゃ分からないの」

「…………ゑ?」

「正直、麦わら帽子を被った男の子が主人公くらいしか知らないわ」

 

 豊の台詞に、神はとても驚いたように目を見開き、口をガン開きしている。

 

「え、じゃあ、なに? もしかして、漫画とか読まなかったタイプ?」

「別にそう言う訳じゃないけど………」

 

 豊はこれまでの十九年間、漫画を読まなかった訳ではない。

 漫画ならば人並みには読んでいた。ただ、その中にジャンプ作品が少なく、読んだのは『BLEACH』と『僕のヒーローアカデミア』くらいである。

 

「う~ん、『ONE PIECE』の世界を簡単に説明すると、広大な海に多くの島が点在して、その海に無法者の海賊とか、治安維持の海軍がいる、的な?」

「なんで疑問型なのよ」

「じゃあ、もっと詳しく説明すると」

「遠慮しておくわ。時間がないって聞いたし」

「「あ゙」」

 

 豊の一言に、神と天使がとても重要なことに気がついた。

 

「や、やややヤバいですよ!? じ、時間がもうあとちょっとしかないです!?」

「え゙!? 特典とかまだ決めてもらってないんだけど!?」

 

 豊は『ONE PIECE』の説明を長々と聞かされそうだったので、それを断るために言ったのだが、予想以上に時間がないようで、顔をひきつらせる。

 

「時間がないなら、特典は『ONE PIECE』の世界で無難に生きれるものをそっちで選んで頂戴。『ONE PIECE』の知識のない私が選ぶよりかは、マシでしょ?」

「そ、そうか! その手があったか!!」

 

 豊の一言に神が急にイキイキし始める。

 豊は少し早まったかと、後悔する。

 なんせ頼んだ相手は技を再現したときに、うっかりで雷を落とすような奴である。

 今更だが、そんな奴に頼んで大丈夫かと、不安になった。

 

「よし。これで特典は終わり!! あとは転生するだけだね!!」

「はい。あと数十秒後ですね」

「思ってたより時間なかったのね!?」

 

 豊がそう言うと、神と天使はスッと佇まいを正す。

 一体何事かと、豊は困惑する。特に神、それが出来るなら最初からやれ、とも思った。

 豊は、そんなことを考えていると、豊の体が光に包まれ出す。

 

 

「それでは豊ちゃん」「豊様」

 

「「良き人生を!!」」

 

 

 豊は二人のその言葉を聞くと同時に、光に完全に包まれ、浮遊感を感じるとともに、〝神域〟から消えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 神と天使の二人は、豊の転生を見届けた。

 

「ふー、一時はどうなるかと思ったよ」

「そうですね。特典についても、貴女にしては大分まともなようですし」

「ひどっ……でも、まあ、一仕事終わった後だから特別に許してあげよう!」

「それはそれは、ありがとうございます」

 

 神は「遊ぶぞ~!!」と、その場から立ち去ろうとして、ガシッと、とても良い迫力のある笑顔の天使に手首を摑まれる。

 

「……………えっと、何?」

 

 神は何故摑まれているのか分からず、天使にそう聞くと、天使の笑顔の迫力が増す。

 

「フフ、面白いこと言いますね? 貴女はここに来る前に一体何をして、どうしたんでしたっけ?」

「あっ」

 

 神の顔が、先ほどの豊のときとは比べられないほど、青くなる。

 

「さ、行きましょうか。お仕置き部屋♪

「ヒエッ」

 

 「嫌ぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」と叫びながら、天使によってお仕置き部屋()に連行される神の姿があったとか、なかったとか。

 

主人公が海に出た後。

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