虚ろな雨   作:ひよっこ召喚士

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『チラッとしか書いてませんが、千佳ちゃんのサイドエフェクトを始めてみた時は本当に暗殺者みたいだなと思いましたね。冷酷な千佳ちゃんみたいな二次創作あれば面白そう。友達が攫われて、お兄さんも居なくなって壊れちゃった感じ……うわぁ、自分で言ってて書きたくなってきた。』

↑の文は私が他に投稿してる作品で後書きに書いた文章です。暗殺者とは違いますが千佳ちゃんが壊れたという設定で書き始めた物です。


一滴

 通達が出されて次の仕事や普段の生活などを含めたスケジュールを調整しているとチームメイトの様子がおかしい事に気付いた。不安そうに揺らす身体と今にも泣きだしそうな表情でじっとこちらを見つめている。

 

「修くん、この前に試合で私が落ちて順位が下がっちゃったから遠征に選ばれなかったのかな?とにかく向こうに行かないといけないのに、修くんがせっかく助けてくれてるのに私ばっかりが足を引っ張って……」

 

 今回の遠征では僕たちの隊は選ばれなかったのは事実だが、実力不足という訳ではなく、必要な状況で無かったと言うだけだ。さらに言えば僕たちの目的にもあって居ない近場を少し見るだけの遠征なので問題には思っていない。A級のランク戦も今度こそと1位を意気込んでいたが3位でも上々な結果だと僕は思っている。だがチームメイトはそう思っていなかったようだ。

 

「千佳は悪くないよ。1位を目指すと言っていたのはあくまで仮の目標だし順位はどうでもいい。それにまだA級にあがってすぐの頃でも遠征にも選ばれていたんだ選定とは関係ないよ。今回の遠征は僕たちの目的ともあってないしね。だから焦らなくても大丈夫だし、僕の事もやりたくてやってる事だから。それに僕は一方的に千佳を助けてるわけじゃない、僕も千佳には助けられてる。僕にとって千佳が一番大事なんだ。だからそんな風に自分の事を言わないで」

 

 そう伝えながら大事な仲間であり、恋人の千佳の身体を抱きしめる。泣きそうな顔がさらに崩れてポロポロと涙がこぼれるが、身体の震えは収まり、その表情には安心が見られた。そのまま子供をあやすかのように手を動かし、落ち着かせていると不意に千佳の方から抱きしめ返され口が塞がった。

 

「はぁ…はぁ……修くんだけが私の事をわかってくれる…私の事を助けてくれる…修くんは私の味方だよね…修くんが居るから頑張れる…私も修くんの為なら何でもするよ…修くん…大好き…………」

 

 はっきり言って彼女は僕に依存している。自分の味方であった友達と兄を失い、壊れかけていた彼女を支えようとした僕に寄りかかって段々と歪んでいった。僕以外は信じず、必要以上に他人に近寄る事は無く、近寄らせることも無い。そのせいでこの部隊には人間のオペレーターが居ないと言う事態になっている。

 

 千佳を任されたと言うのにこの体たらくで恥ずかしい限りだが、それでも僕には千佳を支え続ける事しか出来ない。その結果が依存だと言われようが異端だと言われようが関係はない。彼女が嫌がるから口に出さないがこの身に変えてでも僕は千佳を守る。

 

「ぷはっ、千佳そう言った事はまた今度だ。まずは仕事の日程を確認しよう。そして空いてる休みの日にはまた一緒に出掛けよう。また面白そうな映画を見つけたんだ。きっと千佳も気に入ってくれると思ってる。その後はいつもの料亭を予約してご飯を食べよう」

「うん、嬉しい。修くんの言うとおりにするね」

「じゃあ、まずは防衛任務と解説のシフトをスケジュールに埋めて行こう。学校にもシフトを提出しないとね」

「分かった」

 

 そう言うとお互いの仕事のスケジュールを確認し、書き込んでいく。僕だけの仕事と言うのはあるが基本的には二人そろっての仕事が多い。今回はスカウトや遠征で出てる部隊が居るから解説が結構入っているな。そんな風に考えていると千佳のスケジュールに普段はみない項目があった。

 

「新入隊員の指導をするのか?」

「あっ、ダメ…だった?」

「いや、そう言う訳ではないけど今までやったこと無い仕事だったから気になっただけだよ。千佳が何をしても駄目って頭ごなしに言う事は無いから安心してくれ」

 

 見慣れない項目を見て問いかけるととても不安そうにこちらを見つめていたので再度フォローを行うと安心したように頼まれた経緯を話してくれた。

 

「えっと、狙撃手ってやっぱり少ないの…新入隊員に入ってもやめる人も多いし…女性の狙撃手ってなるともっと少なくて…でも最近のC級では女性の狙撃手も増えてて…訓練や指導を東さんに手伝ってくれないかって誘われて…補助として入って撃ち方を見せたり、狙撃手としての戦いを模擬戦で見せたり、荒船さんと()()()()()()同士の試合を見せたりする予定」

「そうか…お世話になってる相手だしな。千佳が嫌じゃ無ければいい経験になりそうだしやってみて良いんじゃないか?」

「ちょっと怖いけど行って来るね」

 

 ボーダーに入ってから人付き合いはどうしても増えた。依存状態に変わりはないが、それでも少しは変わってきているのかと思うと嬉しく思えた。そのままスケジュールの確認を終わらせると一息ついてお茶休憩にする事にした。

 

【お湯は既に湧かしています。それと戸棚の方にお茶菓子もクッキーにおせんべいなどがあります】

「ああ、ありがとう。それとこの後も開設の仕事があるから、予定の試合の部隊が戦ってるデータを映してくれ()()()()()()()

【了解しました】

 

 

『レインクラウド』、オペレーターの代わりを担うシステムAIだ。他者との関りを嫌い、オサム以外を信じない雨取への対応策として鬼怒田さんに協力してもらい開発した。基本的なオペレーション技術は搭載されており、千を優に超えるパターンから状況を判断する。常に戦闘を記録し、戦略に合わせて新たなパターンを導き、権限を持つ隊員の音声入力でその場でのやり取りも可能になっている。普段はこうして隊室でのサポートもしてくれる仲間の一人だ。

 

「チームは香取隊、荒船隊、柿崎隊か……しかも今回は荒船隊が一番下の順位か」

「他の部隊に狙撃手が居ないならステージ選びで迷う必要ないね」

「確実に狙撃のしやすいステージを選んでくるだろうな。他の二部隊はどうにか狙撃手を倒そうと動くだろう。荒船隊以外は中距離戦も可能だ。出会えば打ち合いにそのまま移行するだろうし、香取なら面倒な狙撃手を相手にするより点を取る動きに変えるかもしれないな。近距離はアタッカーのトリガーを若村さんは持ってないがさほど問題ではないだろ。香取隊は奇襲狙いになるか、点確保で柿崎隊狙い。柿崎隊は巴が持つダミービーコンを上手く使えばってとこだが不利なエリアで3人の狙撃手から身を隠し続けるのは」

「現実的じゃないよね。それならバッグワームを起動して合流を急ぐと思うな。柿崎隊の動きは堅実な物が多いから」

「そもそも正面から荒船さんをたおせそうなのは香取ぐらいだ。二人がかりで中距離戦を徹底すれば取れるだろうが隙を生んで狙撃されるか漁夫られるだけだ。乱戦になればそれこそ荒船隊の良い的だ」

 

 それぞれの隊の特徴と構成されているトリガーなどを基に互いに意見を出し合って考察していく、解説が何も喋れないなんていうのは意味がないからな。最低限の予習位は解説を任された人間は例外を除いて全員していくはずだ。それにこうして他の部隊の考察をするとこちらの勉強にもなるから悪くない。

 

「よし、それじゃあ行こうか?」

「うん」

 

 ランク戦の観覧室に置かれている実況席に向かうと一緒に解説を行う予定のオペレーターが居るはずだけど、まだ来ていないのかな。そう思っていると慌ててこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。

 

「遅れてすみません!!武富桜子、到着しました!!」

「そこまで急がなくてもと思ったけど、遅れて実況を逃したら一大事か」

「ええ、実況と言えば私ですからね。本日はよろしくお願いします!!」

 

 ランク戦の実況システムをC級の頃から上層部と技術者に提言し続け、一つのシステムを作り上げた功績者の一人だ。戦っているのを見ても結果しか分からないなんてことはざらにある。戦術の解説がつくだけで理解しやすく、他の部隊への参考になり、全体のレベルが上がる。とは言っても彼女の熱意は少しぶっ飛んでいるが、その分実況の仕事の際にはやりやすい相手だ。実況となればなにもかも先に決めておくことは出来ないがどちらに話を振るとか、開始前に話す内容などは事前に決められるので打ち合わせをしておく、そうこうしてる内に段々と周りに人が集まってきている。

 

「おっ、今日の解説は三雲か」

「A級3位部隊が揃って解説なんて豪華だな」

 

「米屋先輩と出水先輩か、なんなら変わりますか1位と8位のペアも十分豪華ですし」

 

「いやいや、仕事をする気は無いって、面白おかしく絡むことはあるかもしれないけど」

「ただただ仕事の邪魔じゃねーかお前。あ、おれもパスで」

 

 周囲の席がだいぶ埋まってくる。時計を確認すると既に開始の10分前か、5分前には挨拶を開始しないといけないので、そろそろスタンバイしておく。千佳の方も問題は無さそうだし、大丈夫だろう。

 

「B級ランク戦6ROUND目、夜の部まもなく始まります。実況は本日もスケジュールが何故か空いていたわたくし武富桜子!解説席にはA級部隊3位の三雲隊の三雲隊長と雨取隊員にお越しいただきました!!」

「「よろしくお願いします」」

 

 実況システムが構築されてからというもの観覧室には人が溢れそうなくらいに居るのも珍しくは無い。解説の人員によって増減もあり得るので挨拶した時点で立ち上がる者が居ないことを内心で喜んでおく。

 

「さてさて今シーズンのランク戦も中々に深まって来た所ですが、今回の試合は現在8位の香取隊、10位の柿崎隊、12位の荒船隊の3部隊。全員狙撃手で構成された荒船隊にステージ選択権がありますが」

 

「まぁ、荒船隊の有利なのは間違いないですね。他の部隊に狙撃手が居ないのも考えれば有利すぎるくらいです。転送位置にもよりますが、ステージ次第では香取隊と柿崎隊は下手に動く事さえも許されないでしょうね。ですが2部隊から同時に狙われれば流石に荒船隊と言っても簡単には対処できませんから、どのタイミングで誰に仕掛けるのかが気になりますね」

 

「と言いますと?」

 

「ステージ選択が可能なら戦略はたて放題です。狙撃手の射程を考えれば合流より攻撃をとっても良いですからね。荒船隊なら3人で確実に誰か一人を削る事も考えられる。場所次第ならそのまま削れたチームを喰う事も出来るでしょう。それでも初撃で厄介な相手を削るか、それとも点を稼ぐ意味でもやりやすい所に仕掛けるか荒船隊の行動次第で展開は変わってくるでしょうね」

「……3部隊の全員がバッグワームを持っています…狙撃を警戒して起動すれば最初に移ったレーダーの位置を見ても何処が荒船隊かも分かりません……地の利がある荒船隊もそうですが他の敵ともあまり出会いたくないでしょう……香取隊と柿崎隊での戦いになればそれこそ荒船隊の良い的です…」

 

「なるほど柿崎隊と香取隊にとっては厳しい戦いになりそうですね。この逆境の中で他の2部隊はどう動いて行くと思いますか?」

 

「荒船隊の誰かと事を構えるなら後ろを警戒する仲間が必要ですし、まずはどちらも合流を優先するでしょうね。そして自分たちの得意な間合いに持ち込みたいのは間違いないでしょう」

 

「例外を除いて狙撃手は近づかれれば弱いですからね」

 

「ええ、その通りですが、荒船隊には千佳と同じく武闘派狙撃手である荒船隊長が居ますからね。他二人は先に言った間合いに持ち込んで叩くでいけるでしょうが、仮に荒船隊長に出会えば堅実な柿崎隊であれば近づきたくないでしょうから中距離での撃ちあい、香取隊であれば香取隊長が荒船さんを抑えて他2人が援護するどちらかと言えば近距離戦を狙うのでは?と僕は思います」

 

「なるほどなるほど、ちなみに一番不利だと言えるのはどの部隊でしょうか?」

 

「まぁ、香取隊でしょうね。あそこは香取隊長が攻めてそのフォローを二人がすると言う突撃型、隠れながら進むような試合展開では香取隊の持ち味は活かしにくいでしょう。堅実な柿崎隊であれば慎重に動くのは得意でしょうがね。それと香取隊と柿崎隊はそこまで偏ってはいませんがそれぞれ得意とする間合いに差はありますからね。近距離寄りの香取隊、中距離よりの柿崎隊、遠距離寄りの荒船隊とそれぞれの間合いの立ち回りを見るのにいい試合になりそうです」

 

 そう言って締めると観客たちのそれぞれの部隊を見る目も変わったようだ。自分と同じ間合いのチームを参考にするように注目し始めた。そして、ようやくステージが開示され、試合が始まろうとしている。

 

「ステージが決定されたようです。荒船隊が選択したのは『市街地C』です。坂道と高低差のある住宅地!典型的な狙撃手有利な地形となりました」

 

「まぁ、予想出来るステージですね。他の部隊もこのステージが選ばれる可能性は考えてるでしょうし、対策を用意してるかもしれませんが」

「……荒船さんがそのことを考えずに狙撃手有利で有名な市街地Cを選んだとは思えない」

 

「たぶんどこかしら弄ってるんじゃないですかね。自分たちの足を潰さない程度に設定を」

 

「予想も深まって来た所でいよいよ転送です。マップは『市街地C』!時刻『夜』!天候『曇り』!」

 

「なるほど、荒船隊の狙撃手であれば暗視支援があれば当てるくらい簡単ですからね。自分たちが隠れやすく、相手は目立つ暗闇はもってこいですね。改造でもしない限り、トリオン製の武器は銃手や狙撃手の銃身や弧月の柄以外は光りますからね」

「……電灯の明かりだけでは心もとない…暗がりは心理的な不安も与えやすい…プレッシャーを与えれば相手を崩すのにも便利…場が整うまで待つつもりかな……地味にですがバッグワームを暗くしてるみたいですし」

「あ、本当ですね。元より暗めの色で暗闇では見にくそうです」

「根本的なトリガー自体の改造はA級にあがらないとできませんが、色を変えたり、少し長さをいじったりとかは融通が利きますので、思いついたら試しに開発室に頼みに行くのも良い手ですよ」

 

 


 

 転送されてからの柿崎隊と香取隊の動き方は修の予想した通りで合流を急いでいた。それぞれの隊の散らばり方が噛みあい、両部隊とも正面から出会う事なく無事合流に成功していた。中でも香取隊は点を取るために隠れながらもエリア内を静かに進んでいた。

 

「ちっ、めんどうったらありゃしないわ」

「レーダーに誰も映って無いな」

【他部隊の動きは拾え無さそう。初期地点を見て荒船隊だったらここに居るかもっていう予想はたてれるけど、殆ど博打になるね】

「荒船隊に上手くやられたね」

 

 


 

 堅実な動きが特徴的な柿崎隊は合流すると直ぐに家屋の中に入って完全に射線を切って潜んでいた。バッグワームを起動して多くある民家の一軒に潜まれればまずバレる事はない。そのまま今後の作戦について詳しく話し合う。

 

「どうしますか隊長?」

「荒船隊用にダミービーコンでも使いますか?」

「いや、上を取られてるし下手に動くとまずい。それにどこに隠れてるか分からなくするのには使えるだろうが、現状を打破するには足りない。とりあえず動かなくても良い、ここは待つしかないだろう。運よく荒船隊を見つけられる可能性は低い、香取隊が痺れを切らして動くのを待つ、念のため位置予想だけは頼む、全員がバッグワームを来てるならうちが微妙だが有利を取れる」

「「了解です」」

【ん-、ここって狙撃ポイント多いからなぁ。初期地点からの本当にただの予想になるからね】

 


 

 荒船隊は他の部隊の混乱している間にスムーズに高台の上を取る事に成功した。敵部隊同士がぶつかり合う事が無かったことで狙撃に移る事は出来なかったが作戦通りのポジションに付けたので問題はない。

 

【狙撃ポイントにつきました】

【同じく】

「よし、上を取る所までは良い。後は作戦通り、落とすぞ。転送位置からどこに潜んでるか、奇襲をかける可能性もあるからしっかり確認しとけよ」

【バッグワームを捨てて近づくことはないとは思うけどカメレオンの可能性を考えてレーダーは警戒しとくよ】

 

 


 

「おおっと、試合が開始してから荒船隊は狙撃地点に立ち、他部隊は合流が済んでいると言うのに動きがまったくありません」

 

「荒船隊は最初から待ちの姿勢ですし、柿崎隊も待つでしょう。その方が有利を取れる可能性が高いですからね。この状況ではどちらを狙っているのか分かりませんが積極的に動く香取隊の方が珍しいでしょう」

 

「荒船隊を警戒しているのは分りますがただ隠れている柿崎隊の動きと言うのはそこまで意味があるのでしょうか?先に戦った2部隊を横から叩く以外に狙いがあるんでしょうか?」

 

「まず開始前に中距離戦で攻めると言いましたが、柿崎隊は白兵戦を中心に動くかもしれませんと訂正します。試合が長引いて来ると銃手用のトリガーは使いづらいでしょう。柿崎隊の柿崎隊長と照屋隊員、そして荒船隊の穂刈隊員はトリオン量が7です。他の隊員は5か6です。7が二人いる柿崎隊の方がトリオンが持ちます。戦いが始まるまで全員がバッグワームを着け続けるのであればもともと持っているトリオン量が多い方が僅かにですが有利です。撃ち合いでそこまでトリオンを消費しない狙撃手はまだしも、銃手や射手は違いますからね。銃手でトリオンが5の巴隊員も弧月で十分戦えるレベルですが、近距離武器を持たない純粋な銃手である若村隊員は戦闘になった際には先にトリオン切れになるでしょうね。香取隊長も普段通りに戦う訳にはいかないとなると辛いでしょう。攻撃手と銃手を行き来するような戦い方の香取隊長と状況次第でどちらかの戦い方にシフトする柿崎隊とでは同じオールラウンダーでも差が出そうです」

 

「なるほど、同じ万能手であっても普段の戦い方が出来るかが分け目になる訳ですか。トリオン量の有利を考えれば待った方が柿崎隊が有利ですが試合には制限時間があります。バッグワームの起動でそこまで削れますか?」

 

「バッグワームだけで全部削れることはないけど余裕がなくなるし、トリオン切れでベイルアウトになりやすいから短期決戦を望まなかった時点で浪費する動きは避けるだろうね。まぁ、先に狙われたらまた話は変わりますけど、その心配は必要なさそうです」

「えっ?」

 

 そう更に意見に付け加えた修の視線の先には香取隊が潜んでいる家の窓を覗き込んでいる。荒船隊の半崎隊員の姿があった。次の瞬間、窓からチラッと見えた腕を頼りに壁越しに一発の銃弾が撃ち込まれた。

 

『戦闘体活動限界緊急脱出』

 

 膠着していたその場を作り出した荒船隊の手でその膠着は破られた。場を動かした荒船隊、場を乱された隊、チャンスを与えられた隊、動き出した場でどの様に動くのか、会場の注目が集まった。

 


 

【予定通り落としましたけど、あれで大丈夫すか?】

[ああ、場所が割れて隠れ続ける真似はしないだろ。出てきたところを狙え、柿崎隊が来たら俺達で対処する]

【うへぇ、位置バレしてるからしょうがないっすけど殆ど囮と言うか餌ですねオレ】

【どっちの隊もグラスホッパーは持ってないからいきなり詰められることはないだろうけど警戒しててね】

【状況次第だがフォローもいれる。頑張れ】

「まずは取れる点からとってくぞ」

 

 


 

【……が落ちたね。位置はこの家、狙撃手はここのポイント】

「よし、香取隊の位置が分かった。荒船隊も一人、割れた。状況は良いとは言えないが運は悪くない。向こうが反撃に入ったらそれに乗じて攻めるぞ」

「「了解」」

 

 


 

「おい!!どうする」

「いやぁ、流石にこの展開は予想外だね。とりあえず逃げようか場所も割れてるし」

【落ち着いて、逃げるルートを表示する。狙撃と柿崎隊の横からの攻撃も来る。反撃より防御よりの方が良いかも】

「なんで葉子のやつが一番に落ちるんだよ!!」

 

 


 

「半崎隊員の狙撃が綺麗に決まりましたね。にしてもあの位置から誰かまでは判断できそうにないよな」

「体の一部が見えるくらい……手の高さから当りをつけるのも無理じゃないけど狙って無さそう」

 

 壁越しに綺麗に隊長を狙って見せたすご技と会場が熱狂したが、それを一部否定するかのように解説の二人の意見が加えられる。

 

「壁越しに香取隊長のトリオン供給器官を撃ち抜いた半崎隊員の狙撃の腕前にはびっくりしましたが、お二人は香取隊長を落としたのはまぐれと考えるんですか?」

 

「見つけてから狙撃に入るまでの時間が比較的短いですし、香取隊の誰か一人を確実に落とすつもりで撃って、それがたまたま隊長だったんだと思いますよ。最初から香取隊を狙っていたのか、それともどちらでも良かったのかは分かりませんが」

 

「と言いますと?」

 

「香取隊をマークしたまま柿崎隊を探してから同時に仕掛けても良い所を香取隊を直ぐに攻撃してますからね。時間は余裕があったのにそれをしなかったのは最初から香取隊狙いかどちらかを崩して動かす予定だったかですからね」

「狙撃をしたのが一人だけなのは釣るため……寄って来た所を他の二人が狙撃するつもり」

 

「なるほど、荒船隊は予定通りに作戦を進めつつあるという事ですね。であればエースを落とされた香取隊は間違いなく辛いですしどう凌ぐのか、柿崎隊も動き出しましたが香取隊と荒船隊のどちらに詰め寄るのか、注目ですね」

 

 


 

「くそ、柿崎隊も来やがった」

「射線をきりながら逃げ続けるのは無理だね」

【火力で負けてるから正面から戦おうとしないで、二人とも今からこのルートを通って進んでみて】

「はぁ!?でもここを通ったら荒船隊から狙われるぞ!」

「なんか考えがあるんでしょ、このままじゃじり貧だし行ってみよ」

 

 横合いから中距離で撃ちに来た柿崎隊も加わり、さらに劣勢に追い込まれた香取隊の二人。射手トリガーを持っていない三浦がシールドを張る役を担って若村が応戦していたが、じりじりと詰め寄られ、シールドも割られて被弾が増えていた。

 

 

【追撃で何発か撃ちましたが二人が掛かりでシールドを張ってるからイーグレットじゃ貫けませんよ、これ】

「そのまま足止めを続けてろ。こっちから柿崎隊の姿も確認した。香取隊狙いだな」

【こっちとしてはなんも問題がないな。だれを狙う】

「柿崎隊も削っておこう。偶然だが香取を落とせたのがでかい。柿崎隊はそろってなければ俺が落とせる」

 

 そのままスコープを覗き込んでいた荒船と穂刈は同時に柿崎隊に狙撃を放った。その攻撃は香取隊を追い詰める様に動いていた柿崎隊のアタッカーである巴に刺さった。

 

『戦闘体活動限界緊急脱出』

 

「やられたが、これで三人の場所が分かった。どこが誰かもな」

「どうしますか撃ち合いに専念できるなら香取隊を堕とす事は出来そうですが」

「それをあいつらが許さないだろうな。既に陣形も崩れてる固まってたら狙い撃ちにされるだけだし、分かれて攻めるぞ。荒船さんの外からの狙撃には一応注意だ」

【柿崎さんにしては珍しいね。でもたしかにちょうどいいね。香取隊の二人が逃げてる先に荒船さんが近いから、運が良ければそのまま2点取れるかも。どっちがどっちに行く?】 

「俺が穂刈のところに行く」

「了解、私が半崎さんの方に向かいます」

 

 逃げるのに精いっぱいだった香取隊とは違い、狙撃手の動きを確認し単独行動をあまりしない堅実な戦法を取る柿崎隊にじては珍しく二手に分かれて狙撃手の対応に向かう事にした。

 

「柿崎隊が引いたか……」

「場所が割れたから荒船隊を狙いに行ったのか?」

【柿崎隊が荒船さんが居るかもしれない場所に分かれて向かうとは思えない。二人が向かった場所に荒船さんはいない。うちと一番近い狙撃手は】

「荒船さんって事か、くっ!?」

「荒船さんを放置しとくと柿崎隊を落とされる可能性が高まるし、そうなれば俺達もそのまま3人がかりで削られるか」

【柿崎隊に動かされてるけど、ここで荒船隊を処理しないと荒船隊の一人勝ちになる。近距離で戦えば旋空弧月で纏めて落とされる可能性が高い】

「だがさっきので少しとは言え削られてるから長い撃ち合いは無理だぞ」

「位置自体はバレてるし、カメレオンで同時に奇襲でも仕掛けてみる?」

「いや、レーダー頼りの狙撃なら避けれるだろうが、近くまで来たらそれこそ弧月で」

【いや、良い考えかも。荒船さんの位置が良いし、上手くやれば二人で荒船さんを落とせる】

 


 

【こっちも同時に仕掛けられてるから援護は出来無さそうだ】

「捨て身でやっても足でも削れない限り厳しいっすね」

 

 完全に捕捉された荒船隊の二人は他の部隊からの横やりが無いとはいえ、機動力は柿崎隊の方が上でシールドを集中させながら近寄られると狙撃手だけで対処は難しい。

 

【俺の方を、柿崎さんの胸を狙え!】

「はい」

 

 穂刈は目の前まで迫ってきている柿崎にあえて一歩近づきその頭に正確に銃身を向ける。避ける様に動くつもりだが慎重な柿崎は頭の方に少し重点的にシールドを張った。そして、その間に素早く狙いをつけた半崎が柿崎の胸を薄いシールドを割って狙撃した。

 

「二対一だが零よりマシだろ」

「すみません、落ちます」

 

 撃たれながらも穂刈を倒し、狙撃中の半崎を照屋が倒した事で柿崎隊に二点が入った。そして柿崎を倒した事で荒船隊にも一点追加されて合計三点、そして香取隊が零点である。残る隊員は荒船隊が隊長のみ、柿崎隊も照屋隊員だけ、エースが居ないとはいえ香取隊が二人という面白い状況になっている。

 


 

 

「おおっと、ここで柿崎隊が荒船隊の半崎隊員と穂刈隊員を倒した。しかし、穂刈隊員が捨て身で隙を作り、半崎隊員が柿崎隊長を返り討ちに、得点は現在3-2-0となりました!!」

 

「あれは穂刈隊員の咄嗟の行動が上手いですね。目の前で銃を突きつけられれば守りたくなるのが当たり前です。慎重な柿崎隊長であれば尚更でしょう。それで相手のシールドの比重を頭に寄せて、狙撃できる状況を作り出しました。敵が迫っている状況で直ぐに急所である胸に標準を合わせてみせた半崎隊員のすご技があってこそですがね。人間の心理、相手の性格と仲間の出来る事を踏まえて一瞬で判断してみせたのは流石の一言に尽きます」

 

「残った照屋隊員はどうやらレーダーの反応を頼りに遠くへと移動を開始しました」

 

「時間も減ってきましたし、点差をこれ以上離されないようにという判断でしょう。柿崎隊は荒船隊長と香取隊の戦いに入らず、安全策をとったようです。ですが見つからない様にバッグワームを来て移動している為、3人は横やりを警戒しながら戦わなければいけませんね」

 

 


 

 

【こっちに来てるのは二人、レーダーには映ってるからおそらくカメレオンを使ってる】

「寄ってくるなら斬るだけだ」

 

 レーダーの反応を頼りに見てみると二手に分かれずに同じ方向から向かってきているのが分かる。このステージで前後で挟もうと思えば段差を上る必要があるのでそれを避けたのだろうと思い、弧月を構えて待つ。

 

「旋空弧月!!」

 

 ギリギリまで引き付けて来たと思った瞬間に旋空弧月を発動させる。大きく横に薙ぎ払った攻撃は綺麗に三浦を切り裂き、三浦が落ち等前に弧月で反撃を試みるが受け太刀で防がれる。だが、次の瞬間には荒船は自分の真下から放たれた銃撃でトリオン体を破壊された。

 

「弧月で受けるつもりだったのに見極め上手すぎない荒船さん?」

「下側を進んでたのか、やられたな……」

『戦闘体活動限界緊急脱出』

 

 香取隊のオペレーターである染井の作戦が見事に決まり、三浦が落とされたが若村が荒船を倒して一点を取る事が出来た。周囲の警戒をしながら残った照屋隊員を探すが、早くに隠れていた相手を見つける事が出来ず、時間切れで終わった。

 

 


 

「ここで終了。点差は4-2-1で荒船隊の勝利です!!かなりスローペースなスタートから始まった試合でしたがこの結果の決め手となったポイントは何処にあるでしょうか?」

 

「やはり香取隊長が何も出来ずに落とされたのが大きいですね。あれが香取隊長以外であれば香取隊ももう少し動き方があったでしょうが、あれで香取隊の打てる手の大半がなくなりました。それに香取隊が暴れてそれに便乗するという動きもなくなり、荒船隊、柿崎隊のどちらも香取隊狙いになって防戦一方でしたね。巴隊員が落とされ追撃を断念しなければ香取隊は1点を取れてたかも怪しいですね」

 

 三つ巴であればやりようがあるが明確に2対1の構図が出来てしまうと覆すのは難しくなる。今回は荒船隊が柿崎隊も削った事で追撃が止んだが、そのままであれば香取隊は本当に何も出来ずに終わっていただろう。

 

「続いて柿崎隊の巴隊員が落とされた後からですね。あそこで逃げるのに忙しい香取隊と違い、誰がどこに居るのか確認できた柿崎隊が堅実な動きを捨てて荒船隊を取りに行ったのもポイントです。既に巴隊員が落ちていていつもの陣形が取れない点と相手を狙撃手だけに限定できる状況だからこその判断でしょう。そのまま香取隊を追いかけていれば香取隊から点は取れても、荒船隊との点差はひらいたでしょう」

 

 他にも荒船さんの位置が少し悪かったのもあるかもしれない。狙撃手の位置が分かっても近くに荒船さんが居れば柿崎隊は香取隊を追うか、もう一度隠れるかを選んだだろう。

 

「狙撃手を各個撃破できたのは良かったですが、そこで柿崎隊長が反撃を受けて脱落。人数的に不利で香取隊から荒船さんより狙いやすいと思われると不味いのが一つ、乱戦で決着がついて生存点を取られると不味いなどの理由から戦うという選択肢が取れなくなりました。攻撃と防御を同時に行わずに防いでから倒した方が良かったかもしれませんね。追いつめてた狙撃手がいきなり反撃にでて焦りが出たんでしょう」

 

 柿崎隊長が生きていれば一緒に荒船隊と香取隊が戦っている場所に横やりをさして漁夫の利を得る事も出来たかもしれないが、狙撃手二人がかりとは言えあの盤面で落ちたのはミスと評価するしかない。

 

「最後に香取隊です。このまま零点で終わってしまうのかと思われましたが、高低差や建物を利用して敵を騙して見事に荒船隊長を撃破しました。この作戦はレーダーが同じ高さに関係せずに位置を示すのを利用しています。そおらく前の試合で市街地Dで戦っていましたからその時をカメレオンを利用して再現したんでしょう」

 

「結果としては荒船隊の勝利となりましたが、荒船隊は全員が緊急脱出してますからね。この結果になったのは運が良かったと言わざるを得ません。最後に柿崎隊が戦闘を選んでいれば同点か負けの可能性もありました。色々とイレギュラーな試合でしたね」

 

「珍しい試合運びとなりましたが、この試合結果で荒船隊は9位にアップ、柿崎隊が11位、香取隊は10位にダウンとなりました。次の試合の組み合わせは明日の試合の結果が出次第発表となります。実況は私武富桜子がお送りしました。解説の三雲隊長と雨取隊員もありがとうございました!!」

「「ありがとうございました」」

 


 

 

 

「よう、お疲れさん」

 

「迅さん……何か御用ですか、わざわざ千佳の居ない場所で」

 

「その千佳ちゃんも関わってくる話があるんだけど聞く?」

 

 

 




とりあえず投降したけど、1作目が書き終わるまでは基本的に更新は無いと思ってください。気がのるか、気分転換で書くことはあるかもしれませんがね。

ネタを放置しとくのもやだったので上げた私の我儘です。

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