Dies irae -elysium-   作:湯瀬 煉

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 続くかは分かりませぬ!!


プロローグ
PROLOGUE


 1945年5月1日──ドイツ、ベルリン。

 AM0:27……。

 

 

  第二次世界大戦の最終局面は、空前絶後の総力戦と化していた。

 いや、殲滅戦というべきか。

 圧倒的物量に押し潰され、孤立したベルリンは陥落寸前である。

 帝都を包囲する赤軍50万は徐々にその輪を狭めていき、生きてそこから脱出するなど不可能と言って構わない。

 

 悲鳴と銃声と爆音の狂想曲は絶え間なく、かつ容赦なく鳴り響き、街を人を根こそぎ壊し、鏖殺していく。

 

 鏖殺───老若男女鏖殺。世界の敵を根絶やしに。

 

 正義、復讐、愛、平和、制圧、解放、自由、平等──お題目は何でもいい。

 依る大義さえ手に入れれば、人はどこまでも残虐になれるという見本のような状況だ。それがいたる所で起きている。

 

 既知感、とはいわない。おそらく軍属なら多少なりとも予想は付いていただろう結末だ。破竹の勢いで快進撃を続けていた我らが第三帝国は、千年王国の夢と共に今宵粉砕される。総統閣下と長官殿の夢想は悪くなかったが、相手と時勢というやつに恵まれなかったのだろう。

 

 だが。ベルリンだけは、違う。

 

 第三帝国そのものは、赤軍及び連合国の皆々様方が正義を振りかざして徹底的に踏み潰し、悪魔だの蛇蝎だのの類いのように勝者の歴史に刻まれるのだろう。他の戦場にしても、然り。ドイツは敗戦する。連合国の手によって。

 

 しかし()()()()()()()()()()()

 我らが同胞に滅ぼされ、獣に喰らい尽くされる。戦勝国や、赤軍50万人など足下にも及ばぬほどに、恐ろしい黄金の獣に。

 

 世界の終わりといえば、そうだろう。正しく今日のベルリンはダビデとシビラの予言のごとく、一つ余さず燃え去り消えるのだ。

 

 赤軍は矮小なる勝利を与えられ、

 帝国は擬似的な屈辱を与えられ、

 我々は未来の勝利に歓喜を謳う。

 

 同胞らの作戦が開始される。これに参加せねば殺されてしまうのだろうが、目的の男は既に消えてしまった以上やる気はまったくない。

 というより、皆が歓声を上げて殺戮を開始したのに対して、気紛れに()()()()()()()()()()()()()()()()()と本気で思案するほどに苛立っていた。

 聖櫃(スワスチカ)を起こすための大虐殺(ホロコースト)。 “魔城” 起動の儀式は、確かに長い目で見れば必要なことではあるのだろうが……、同胞を殺し回って気持ちよく何かなれるはずもない。

 

 

 聖槍十三騎士団 黒円卓第 “零” 位。

 聖遺物の使徒でありながら団員には数えられず、資金源となったり隠れ家を探し回ったりと、雑用を担当するのが私の役目だ。生まれつき人から認識されづらいという特性もあり、実に私向きの職務ともいえるだろう。

 

 とはいえ、つまり、別に私は戦争とかする必要ないのでは、とか思うのだが。先程指示を飛ばしていたヴィッテンブルグ少佐の目は如実に語っている。

 

『非戦闘員だろうが戦闘員だろうが関係はない。もし零位などという曖昧な立場に甘んずるようであれば──分かるな?』

 

 つまり、おまえも誉れ高き黄金の獣の(たてがみ)として成果を出せ、と。それが出来ないような腰抜けならば殺す、と。同胞を殺し、適度に赤軍に恐怖を与え、帝都を地獄に変えろと。

 であれば働くしかあるまい。流石に此処で死にたいと思うほど酔狂でもない。

 

 暫く歩いていると、私を残党兵だと思ったのか、左側から銃弾の雨が降り注いだ。ざっと百発近くあるだろう。チラリと見ると、数十人程度の小隊が自動連射式小銃を向けていた。

 

 なんて事はない。我が身は聖遺物による霊的加護に護られている。銃弾を左手でおおよそ弾き、残りは体で受け止めてやると、相手はバケモノでも見たような顔をした。

 

「……そう怖がらないで欲しいな」

 

 今頃、シュライバーが暴れ回っている地域は消し飛んでいるだろうし、エレオノーレとマキナが居る場所なんてのは、なまじ軍人な二人がいるあたり地獄絵図だろう。殺人鬼の狂乱なら理不尽に泣き叫ぶことも出来ようが、軍人による蹂躙は絶妙な現実感が絶望を呼ぶ。つまり──純粋な実力差をより味わうのは後者なのである。

 

 そう考えると運が良い方だろう。私はまだ、きちんとおまえたちを生かして帰そうという意志がある。もっとも──

 

「気に入ったら、生かしてあげよう」

 

 全員生きて帰すという、保証はしないが。

 

 半狂乱で銃を乱射する一人へと、音速で突っ込む。銃弾など効きはしない。総て体に当たると時に潰れるか、そもそも当たらないか。そして、一瞬にして私の左手は相手の心臓を掴み背中を突き破って体外に捻り出した。未だ拍動を続けるそれを握り潰せば、出来上がった死体を生存者の内一人へと投げつけ視界を封じよう。その者も次の瞬間には爪先で繰り出した蹴りによって体に風穴を開けられて絶命する。

 

 徹底した徒手空拳。

 しかし、銃火器を装備した三十人近い兵士は、なんの装備もしていない女に壊滅されつつあった。前言である、何人か逃すという発言をすら忘却したように。

 

 いや、その言葉には忠実に従っている。つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というだけのこと。

 

 1分後、そこにいるのは一人の女と、肉塊と鉄屑だけだった。

 女は無傷。何事もなかったかのように、息も弾ませずに、突っ立っている。

 

 

 

 そろそろ、世界が終わる。

 黄金の獣による宣戦布告が為され、皆はそれに賛同し、死者の魔軍が行軍を開始する。ベルリンのスワスチカは開かれた。

 止まらない、終わらない。障害物は蹴散らし、敵は蹂躙し、世界の総てを破壊し尽くす──。

 

 世界はいずれ思い知ることになるだろう。

 

 この日の勝利など、所詮ぬか喜びも甚だしいということを。

 怒りの日(ディエスイレ)に、この日の勝敗など容易くひっくり返るということを。

 

 それを予感する私は、己の築き上げた屍の山の頂で、憂いの視線を空へ投げ、次の瞬間には破顔した。

 そうだな。であるならば。

 私は私として、宣戦布告を此処に為そう。

 

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!! 随分とドデカい戦争だな、ツァラトゥストラ、メルクリウス!

 待っているぞ、期待しているぞ、おまえの歌劇を!

 次おまえに会うときこそ──おまえの()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」




PC版たのちい(^o^)
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