Dies irae -elysium-   作:湯瀬 煉

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Schule……学校。

学校のスワスチカでは、しっとりルサルカちゃんが見られますよ。たぶん。


第十四話 SCHULE

 綾瀬が帰ってきたのはすべてが終わってから十分くらい経った頃だ。彼に遊佐たちのことを話すと、若干顔を曇らせつつ、そうか、と答えた。本音では怒りも後悔もあるだろうに、それを押し殺している。

 

 これも男らしさというべきか、それとも欠点というべきか。

 

「……で、香純は?」

「綾瀬、さすがに遅すぎるな。おまえと一緒にいるもんかと思って動かないようにしていたが。ふむ、では探しに出るか?」

「……いや、万が一ってこともあるし、一応片方は残っておくべきなんじゃないか? 俺たちがいないときに香純が帰ってきたら困るだろう」

 

 希望的観測が過ぎる発言ではあったが、それを信じたい気持ちも分かる。であれば、藤井には養生を兼ねて休ませるべきか。

 

 そう思ったとき。

 

「綾瀬さんなら、帰って来ないわよ」

 

 そこへ、櫻井螢が現れた。

 

「どういうことだ、櫻井」

 

 やんのかコラ、と即座に戦闘態勢に移る藤井。なんというか、こいつはなんですぐ喧嘩腰になるんだよ。根がチンピラなんじゃないか。

 

「まあ、落ち着けよ。ここは完成したスワスチカだ。戦闘する必要性がない。どうせ誰かのパシリだろう」

 

 別に、パシリとかじゃないし、伝令だし、と虚しい抵抗をする櫻井を無視して藤井をなだめる。っていうか、それがパシリだって言ってるんだよ、レオン。

 

「……とりあえず、ひとりでも落ち着いてる人が良くて助かったわ。皆がみんな藤井くんみたいだったら、たまらないもの。

 ええ、マレウスからの伝言を伝えに来たのよ。藤井くん、今すぐ学校に行きなさい。綾瀬さんもそこにいるから。そしてベルンは、ここで待機してなさい」

 

 すごい。ハルノートを突き付けられた日本の外交官の気持ちがよくわかったぞ。

 

「おい、その待機命令はふざけてるのかよ。私が素直に従うって?」

「ええ、だから私がいるのよ」

 

 つまり、私のお守りとしてレオンがいる、と。あくまで、マレウスは藤井との一騎打ちを望んでいるらしい。

 

「了解。趣旨は理解した。じゃ、行けよ藤井。必ずあとで追いつく」

「……ああ。任せた」

 

 自分でも呆れるほどの死亡フラグを吐きつつ、己の得物を形成した。

 ベイにもそうだったが、負けるつもりなんて欠片もない。まして、相手は最近団員になったレオンハルトである。ここは、彼女に教育的指導をするしかない。

 

 不敵な笑みを浮かべ剣を構えると、藤井は櫻井の横を通って学校へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 俺が学校へ走っていくと、校門に見知った顔があった。

 

「シスター………ッ、どうしてッ!?」

「そう、来ちゃったのね。藤井くん」

 

 シスター、リザ。氷室先輩の母親代わりというか、姉のような立場の人が、自らの身長を超えた巨躯を率いて立っていた。

 

「仕方が無いのよ。これは貴方や玲愛が産まれる前から決まっていたことだから。

 屋上で綾瀬さんが待っているわ。行ってあげて。私はベルンの足止めが仕事だから。櫻井螢(あの子)だけじゃ、とても止められるような相手じゃないでしょう?」

「でも………ッ」

 

 俺にしてみれば、シスターも大切な人なんだ。だから放っておくわけにはいかない。ここで彼女を置いていきたくはなかった。

 

「行きなさい、藤井くん」

 

 だが、先達特有の圧というか、その言葉で俺は動けなくなる。確かに、香純は今すぐ助けに行きたい。だがシスターを、と俺の中で止まりかけていた思考が、シスターの後押しで動き始めた。

 

「行きなさい」

 

 香純と、恐らくルサルカのいるだろう屋上へと最高速度で駆け出していく。

 

「後でちゃんと話はするから。それまで死なないでくれ、シスター!」

 

 

 

 

 

 

 飛びかかってきたレオンを受け流しつつ、柄頭で顎を打ち抜く。双方のパワーも、スピードも凄まじいゆえに一撃で相手は吹っ飛んでいった。

 

 

 激突は一秒にも満たないだろう。レオンごときに負けていられないし、今は先を急いでいるのだから。

 

 立ち去る直前、レオンは私の足首を掴んできた。なるほど、まだ失神はしていなかったらしい。或いは、最後のあがきというべきか。

 

「貴方は、どうして。どうしてそこまで……」

「決まったことだろう」

 

 だがその問いは無意味なものだ。私にしてみれば、当たり前すぎて馬鹿馬鹿しい。

 

「私たちの運命を歪めたのはメルクリウスだ。そんな彼が、最高のオペラを見たいと言っている。ならば、やることはひとつ。メルクリウスの脚本を超える狂言回し(トリックスター)になってやることだよ。

 ゆえに私は、メルクリウスを殺す。彼にとって唯一無二の存在に成り上がる」

 

 

 

 学校に着いて立ち塞がったのは、やはりというか、バビロン──リザ・ブレンナーである。当然、彼女が使う現存黒円卓で最強の存在、トバルカインである。

 

「やはり、おまえか」

「ええ。私よ。やっぱり貴方は来るのね。予想はついてたけど、呆れちゃうわ」

 

 お互いに苦笑を向けながら、私は剣を、バビロンは巨躯──トバルカインを向けた。

 

「帰ってくれないかしら、ベルン。そうしたら手間が省けるわ。人の事情に首を突っ込むなんて、無粋じゃない?」

「おまえこそ帰ってくれないか、バビロン。遊佐のこともあったし、藤井の知己を殺してしまっては彼に合わせる顔もないよ」

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、来てくれたんだ。レンくん」

 

 屋上で寝転がっている香純と、その傍に立つ女──ルサルカ・シュヴェーゲリン。

 

「ああ。来てやったよ。今すぐおまえぶち殺して、香純を離してやるからな……!」

 

 

 

 そうして、俺とベルン、それぞれの場所で学校のスワスチカでの戦闘が開始した。

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