いつも通り学校の屋上に行くと、知らない女の人がいた。
そう、彼女のことなんて知らない。何度か顔を合わせただけの、知らない人。
「
「もちろん無いが。じゃあこれから黒円卓が来そうな未開のスワスチカに行きましょうってか? 辞めてくれ。藤井に殺される」
私が好きな男の子のことを勝手に苗字で呼んでくる図々しさ。親しそうに語りかけてくる鬱陶しさ。……勝手に私たちの
総合して死んじゃえばいいのに、と思う。
第一、ここのスワスチカを開けたのはあなたじゃない。ここを地獄に変えたくせに、さも回避できない悲劇のように語るのは何様なのか。
「死んじゃえ」
「うぉ、急に罵倒された!?」
悪意がない。だから余計に腹が立つ。
「大丈夫だよ。はじめからあなた達のことは嫌いだもの。
それで、何の話? さっさと用事を済ませて帰りたい」
偽りのない本音だった。この人個人に恨みがあるとかじゃない。この人
「……ま、事情は何となく察するがね。綾瀬もよくしゃべる」
「あの子になにかするつもり?」
自分でも驚くほど、鋭い声が出た。
ベルン・カレイヒという女はよくわからない。
黒円卓なんてよく分からない人ばかりだが、彼女は別格だ。他の団員はだいたい、何がやりたいのか分かる。
ヴィルヘルムなんかは
しかし、彼女はどうにも。
カール・クラフトを殺したい、と思う割に彼への愛情を歌い上げるし、かと思えば彼の儀式を壊そうとしたり……理解不能が過ぎる。
大好きだから殺す、という方程式が成り立つならば。たとえば私の大切な人たちも、ためらいなく殺すんじゃないだろうか。
一般常識が通じない、のレベルが他の団員とはかけ離れている。
なにもしないよ、と笑う彼女の顔も、声も、何もかも信用に値しない。
「いや、少しお話をしようと思ってね」
「そう。じゃあ簡潔に頼むね」
「
私の言葉に、かすかに反応を示した。といっても、ぴくりと頬が動いた程度だが。
……まあ、今はこれでいい。
重要なのはかき乱すことだ。藤井を中心に、少しずつ運命を歪めていく。
バタフライエフェクト――蝶の羽ばたき程度の衝撃が原因となって、竜巻すら起こしうるのだ。メルクリウスを表舞台に引きずり出し、私の手を届かせてやるために。
「負けちゃだめだよ、テレジアちゃん。皆はもう、そろそろ怖い怖い首領閣下とも戦う勇気を持ち始めている。諦めることを止めたみたいだ。君一人、置いてけぼりになるわけにはいかないだろう?」
「……うるさいわね。用が済んだなら、もう帰って」
冷たい言葉を背中に受けながら、私は学校を去ったのだった。
「ふむ……、困りましたねぇ。マレウスもレオンもトバルカインも離脱してしまいましたか。如何しますか、ベイ」
教会。
ヴァレリア・トリファは笑顔を保ったまま、長椅子にもたれ掛かる白髪の男──ヴィルヘルム・エーレンブルグに話しかけた。
しかしヴィルヘルムは、ふん、と鼻を鳴らすだけ。特に会話をしようという意思は欠けらも無い。
「残るスワスチカは四つ。俺と、テメェと、バビロンが開けるだろうよ。そもそもマレウスもレオンも、そうさっぱり自分の欲求を抑え込めるような良い子じゃねェ。
儀式は中断しねェんだろ? なら何も問題ねェよ」
ただ、それだけだと言って立ち上がる。
「おや、どちらに?」
「遊園地だよ。劣等どもの匂いが染み付いてて吐き気かするところだが、戦場としちゃ遊べんだろ」
長らくお待たせしました。
こういう幕間を書くのは苦手なんですが、全ては至高のマレウス√完走のため、頑張ります。