クリストフから招集を命じられたのは、展望タワーで解散したあとすぐだった。
「いやあ、申し訳ありませんね」
彼がかしこまった態度で接してくるのは常である。しかしかといって敬意とかそういった類のものがあるかといわれれば、否。彼の本性を知る身としては大変胡散臭く感じる。いやそもそも、彼の恭しい態度を好意的に受け取れる者など何人いるのか。
ゆえに、マレウスも私も素っ気ない対応になる。
「別に申し訳ないとは思ってないんだろう」
「まどろっこしいから、ちゃっちゃっと要件言いなさいよ」
そしてクリストフの方も、その態度を意に介していないように答える。
これが私たちの会話の常で、彼とにこやかに談笑できる者などいないのでは無いかと思う。私たちのように真っ直ぐに殺意を放つというよりは、狂気じみた執念を穏健という皮で包んだ彼の性格がどうにも、彼と深く関わることを避けている。
それはともかくとして。
「少々、藤井さんと話してみたくてですね。よろしければお迎えにでも行ってくれませんか」
という司令がここに下った。
「先陣は俺が切る。テメェは邪魔すんじゃねぇぞ」
人選はベイと私ということになった。マレウスは今は藤井の相手はしたくないとのことで辞退し、バビロンやクリストフはまだその時ではない、とのことで消去法で私たちになった。レオンも候補にはあがったが、私が立候補したことで確定した形である。その理由はもちろん、同盟相手の実力を知るため。
私が黒円卓を離反して藤井側につくことは既定路線であるゆえに、クリストフは二つ返事で許可してくれた。まあ、そういうところがより一層胡散臭く見えるのが、彼の郷というか、人徳なのだが。
「わかっているよ。まあ、おまえの一撃で死ぬならば私の期待外れというだけだ」
「はッ、どうだかねぇ。女ってのは情が深ぇ。やっぱり殺さないでなんて縋ってきやがったときにゃ、てめぇもツァラトゥストラまるごと吸い殺すからな」
消去法とはいえ。彼は現存の黒円卓の中では一番首領閣下に忠誠を誓っているといっても過言ではないだろう。そんな男と組まされた私はたまったものでは無い。黄金への不忠を公言して回っているような私であるから、相性は最悪といったところ。
最低限の首輪ということか。神父のしたり顔がありありと思い浮かぶ。逃げられないように、きちんと告円卓に利になる動きをするようにとあからさまな爆弾を置いて身動きを封じている。
「ああ、私がその、世間一般の女と同じような気性だと思うのなら、勝手に警戒していろ」
あまりに煩わしいので適当なことをいえば、チッ、とベイも舌打ちしてそのまま平行線。相性とか宿業の問題もあるのだろうが、やはり彼とは仲良くできそうもない。
私たちが藤井の気配を辿って着いたのは、例の公園だった。ここでの戦闘は無意味であり、ゆえにある意味では平和な交渉も望めるだろう。此方は手を出さなければいいし、向こうがつっかかってきても、お話するだけというのならさほど嫌がることもあるまい───と思ったのだが。
藤井とマリィが並んで座っていたところを、ベイは容赦なく急襲した。不可視の杭の発射。間違いなく聖遺物による攻撃であり、人間ならば耐えられない。
果たして藤井は一撃で死ぬことなく、直前に殺気を気取ったのか、
「平和的に、交渉するのは無理か」
此方が敵意を丸出しにしてしまったわけで、ゆえに藤井が温厚に行く道は消えてしまった。突然ぶん殴ったきたやつがお話したいから着いて来いと言ってきたら、発言者が誰であろうとも、話したいという趣旨を信じたりはしないだろう。
「少しはやれるようになったか、ガキ」
ベイもノリノリだし、ああ、仕方ないな。拉致るか。
「やあ、藤井。本当はお茶会の誘いなんだが、来る気はあるかね?」
私の軽い介入に不愉快そうにベイは眉をひそめ、藤井は鼻で笑った。
「皆目ないな」
「……だろうな。というわけで拉致らせてもらうよ。
ああ、こいつがいなかったら速やかにお持ち帰りしたかったんだがね。二対一、サクッと狩られたりするなよ」
苦笑して肩を竦めてみせると同時。ベイが突撃した。飛びかかるような掌底突きは素人がやれば隙だらけの、鋭さなど本来はないはずなのだが。
技量を高めて人外の域に出るのではなく、
ベイに食らいついていく藤井も藤井で怪物であろうが、これは彼もまた人外域の身体能力を体得したからに他ならない。つまりは同じ土俵で、互いに剛の中にある柔こそ至高としている。
ゆえに今この時。戦場の利はベイにあった。
だから、気に食わないんだよ。
百戦無敗の戦鬼であるベイは、確かに常識外れだ。あらゆる兵法を覆す一騎当千として構わないだろう。だが、だからといって力任せの大技ばかりが戦場の花とは思わない。
「ふッ────!」
ゆえに、男の戦場に飛び込んだ。
地を蹴って藤井の横にまで駆け右足を払う。それで藤井の体制を崩すと、左の掌底突きを脇腹に叩き込んで吹き飛ばした。
「てめぇ、邪魔してんじゃねぇよ」
「なんだよ、先陣は切らせてやったろう」
追撃を加えてやろうと駆け出すと同時。
「そういえば、おまえシュピーネを
何気ない言葉。
「別に恨んじゃいないぜ。ああ、ほら。眼を開け。肌で感じろ。古い目玉は抉って捨てろや。今ならてめえも見られるだろう」
だが、これ以上ない不吉な言葉。
刹那、ベイはマシンガンのように不可視の杭を放ってきた。射撃の軌道上にいた私は慌てて横に飛んで躱し、藤井も上手いこと躱していた。
相手の実力を見るようなセリフよりも。こちらを巻き込んだこと。その事の方が意味合いがでかい。少なくとも、私にとっては。
要するに、不可視の杭とはいうが、練度を高めれば軌道などを見ること自体は不可能ではないのだ。ゆえに私たちも不可視の『杭』だときちんと認識できている訳だし。そう、そんなことは問題ではない。
「殺す気か」
「言いがかりは辞めとけよ。さっきだってちゃんと躱してただろうが。ああ、それともあれか。命狙われるような、やましいことしてんのかよ」
「おまえにとって私は、そうだろう」
こいつは殺して構わない、と。そういう意思が伝わる。それだけの理由はあるし、そして私が消えたところで黒円卓に不利益はない。
……いや。よそう。今はそれどころではないのだ。
「………まあ。事故だったと信じてやろう。まずは藤井を連れていかなくてはならん」
まずはクリストフの依頼優先だ。ベイとの決着は後でいい。
「へいへい、分かってるよ」
再びベイが突撃を仕掛け──ようとしたその時。
乾いた音が、夜空に響いた。
「おーおー、相変わらず丈夫な歯ぁしてるな、お前。実は小魚とか好きなんだろ」
ふざけた言葉、軽薄なノリ。諧謔と嘲弄を合わせ持つ声が聞こえた。見れば、ベイはいつの間にやら発射されていた銃弾を歯で挟んで受け止めている。
聖遺物の使徒に銃弾は効かない。ゆえに発砲という行為は射手の場所を知らせるだけに終わるのだが、彼はそれすらも楽しんでいるようだった。
どうよ、びっくりしたか。なんて言葉すら言いそうなほど、ノリノリ。
そう、この男は。最もここに相応しくなく、最もここにふさわしい。
───遊佐司狼が、そこにいた。
神咒神威神楽を完走しましたわ〜っ!!
そうしたら更新遅れましたわ〜っ!!
東征軍の皆様、わたくしの別作品たる正田エースでいじり倒してやりますので、許して欲しいですの〜っ!!