ノータイム土下座します。
(…何故、こんな人目のつかない所で1人で居るんだ?罠か?だとしたら奇襲にだけ注意しなければ…)
標的の姿が見え、高鳴る鼓動を抑えるためにゆっくりと音を立てないように深呼吸をする。落ち着け、私は強くなった。大抵の相手なら何人相手でも勝てるんだ。
自分にそう言い聞かせながら顔を上げる。
「っ…!?」
「お前がそこに隠れていることくらい、私には分かっている。要件は何だ?手短に伝えろ。」
「クッ…私は…私はッッ…!!」
顔を上げた時、飛び込んできたのはとてつもない殺意。
奴は目をかっぴらいて私を睨んでいた。
「かつて私はお前に踏みにじられ、辛酸を飲まされた…!」
「ほう、それがどうした?私はそんなこと覚えてなんか居ない。」
「そんな減らず口を叩けるのも今のうちですよ…私は強くなったんだ。」
「そうか、だが残念だったな。戦う相手は私じゃない。」
「…は?何を言っているんですか?お前の相手は私で…」
「出番だ、ランナー。お前の力を見せてみろ。」
ガンッ!
激しい着地音の後に見えたのは、特徴的な脚。先日私に挑んできたあの青年だった。
「あん時の借りをよぉ!返しに来たぜおっさん!!」
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やあみんな、ランナーだ。目の前には恐ろしいほどの殺気を纏っているおっさん。ジェッセルトン・ウィリアムズ。
前に俺の足を切り落としたヤベー奴だ。
「おやおや…貴方は。つい先日足を切ったと言うのに、もう完治してしまったのですか。恐ろしい自然治癒能力です。貴方から貰った情報は今役に立っていますよ。」
「あぁそうかい!俺もあん時は世話になったよホント、ホテルの金払ってくれてよぉ!」
「紳士たるもの、例はしっかりとすべきだと思いましてね。お互い例を言い合った事ですし、もう引いて帰ったらどうですか?」
「やだね!まだ俺の足の借りは返せてねえんだよ!」
おっさんの前で足をブラブラさせてそのまま足を前に出す。奴の目は笑っていない。
「悪いが貴方に構っている暇は無いんですよ。私にはやる事がある。」
「それを邪魔することが俺のやることなんだぜ?」
「…なら死ね!」
ガキィン!!
奴の右腕から出現した鉄の剣と俺の右足が火花を上げてぶつかり合う。前と違って俺の足は切れていない。やつの口角がほんの少し上がる。
その後隙を見逃す訳には行かない。受けたエネルギーを右足に収束させて左足を軸に回転する。その勢いのまま奴の頭目掛けて蹴りを繰り出す。いい音が鳴った。
これで終われば話は早いのだがそんなはずはなく、左手を盾のように変形させて俺の蹴りを受け止めていた。
「盾がひしゃげてしまいましたか…、貴方も努力したようだ。」
「ったりめえよ!お前を倒せるくらいには…なァ!!」
「面白い!」
俺の啖呵を口火に激しいぶつかり合いが始まる。
奴は自分の腕を剣、盾、槍、鎌などに器用に変形させ、自由自在に攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃を両足を使って弾き返しながら、一つ一つ丁寧に反撃を繰り出していく。
振り下ろしてくる剣は横から蹴りで軌道をずらし、受け止めんとする盾には全力で蹴りを繰り出す。突き刺してくる槍には足を下から上に蹴り上げて弾く。
一つ判断を間違えるとそれが致命傷になりかねない。
こんな死のジャンケンを続けること、およそ3分。
押しているのは、俺の方だった。
「ぐうッ!?足が盾を貫通して…防ぎきれないだとッ…!?」
「しゃぁぁっ!!タイマンのインファイトなら、基本俺は負けねえんだよぉぉぉッ!!!」
奴の顔に少しの焦りが見えてくる。俺は読み合いジャンケンに買った訳では無い。ジャンケンごと
奴の攻撃のエネルギーを受けたあと、そのエネルギーを使って攻撃し、弾かれ、また受ける。この一連の流れでエネルギーを全て消費せずに少しづつ溜めていく。
するとエネルギーはちりつもで増えていく、後はその力で無理やり盾を破壊すればいいだけの事。
「今しかねえよなぁ!」
盾を破壊し、奴が体制を崩した。隙だらけの奴の頭に、今まで溜めたエネルギーを全て収束した蹴りを繰り出す。
「ぐうぅっ!このクソがあぁぁぁッ!!!」
奴の顔に蹴りが近づき、もう蹴りを止めることもままならなくなったその時。
(笑った…!?)
奴の目はまだ死んでいなかった。笑みをこぼしたその瞬間。俺の足にまるで爆発したかのようなとてつもない激痛が走った。
「ごっ…はッ!?」
一瞬何が起きたか全く分からない。体全体が痛い。
何も分からないまま、無様に尻もちをつく。壁に打ち付けられたようだ。
「ッ!ランナー!?」
サリアの声に現実に引き戻される。痛みをより強く感じる右足を見てみると、そこには何かに貫かれたかのように、親指ほどの穴が空いていた。
「ハッ…ハハハッ!わざと隙を晒した甲斐があった!ここまで綺麗に引っかかるとは!」
「っつ…!痛ってえな…!何をした!?」
「ハハ…私にそれを言う義務なんてありませんよ。ただ、1つ言うなら。あなたのそれはなかなかに諸刃の剣のようですね。」
「諸刃の…剣?」
(…そうか、ランナーは先程の打ち合いのエネルギーを全て足先に集中させていた。力を放出する瞬間にエネルギーの中心部に攻撃を加えると、エネルギーの向きや力が乱れて使用者の体全体にエネルギーが拡散するのか…。)
(そして恐らくランナーの足を貫通した物体はアーツで生み出した鉄の弾丸。それを用いてエネルギーの中心部を撃ち抜いた訳か。)
「…さあサリア。次は貴方の番です。」
「まだ、ランナーが終わっていないとでも?」
「何だと?」
「くっ…そ野郎。骨が曲がるじゃねえか…!」
痛む体に鞭を打ち、よろけながら前へ歩く。奴はため息をついて俺の方を見ていた。
「貴方にはつくづく驚かされます。まあそういうの、嫌いじゃありませんが…しつこいのでそろそろ死んでください。」
「チィッ!」
無慈悲にも降り注ぐ鉄の弾丸。避けることなど出来ず、足で弾き返す中で徐々に足が抉れて始めているのが分かる。チャンスを待つんだ。
「そのタフネス、尊敬の域に入りますよ。…火力を上げましょうか。」
奴の左手が大砲のように変化し、1秒程で砲弾が打ち出された。だが、奴はここで一つ誤りを犯した。それは―
「1秒さえあれば…十分なんだよぉぉっ!!!」
ダンッ!!
足の筋肉全てを動かして、地面を蹴り上げる。その力は、地面が揺れるほどだった。
飛び上がった刹那、砲弾が爆発し黒い煙が上がる。その煙の中に俺はいない。
「消えたッ…!?一体どこに…!」
「見失ってやんの!!上だァァァッ!!」
「なっ!何ィィッ!!浮いている…!!?」
「食らっとけよ俺の『確定ダメージ』!!ホバーストライクッ!!!」
「盾変化が間に合わないッ…!こうなったら…!!」
ダンッ!!ガガガガガガッッ!!
衝撃が反響する轟音と共に黒煙が辺りに舞う。
「ケホッ…何が起こった…?」
サリアの問いに答えるように黒煙が晴れてゆく。そこに写っていたもの、それは。
「ラッ…!ランナー!?」
「う…ぐぉ…」
「あ"あ"痛っってえ!」
またもや壁に打ち付けられているランナーと、皮膚が破れ、所々から血が吹き出しながらもジェッセルトンが仁王立ちしていた。
「ぐお…脳味噌そのものをハンマーで叩かれたかのようだ…自爆の衝撃がなければ壁に打ち付けられていたのは私の方かもしれない…。」
「打ち付けられてくれよぉ…そこは。俺大技打ったんだぜ?少しは倒れてくれたりさぁ…?」
「私は…倒れる訳には行かないんだ…!そして…奴を…!」
ジェッセルトンもかなり体に怪我を負っているのは誰が見ても明瞭だ。しかし、彼の目はひたすらにサリアを捉えていた。
ここで俺は1つの疑問を投げかける。
「おっさん…なんでおっさんはそこまでサリアを殺すことに執着してるんだ…?まさかまだ面接の事を引きずってる訳か…?」
「私は…」
奴は体を震わせ、握っている拳からは血が吹き出し始めていた。
「私がそんなちっぽけなことで奴を殺しに行くとでも…!?」
「…じゃあ、なんだって言うんだよ。」
「私は…ただ…悔しいんだ…。」
「悔しい…?そんなこ「そんな事ではない。」」
「貴方は…いや、ランナー君。君には分かるか?ずっと1人で生きてきた私の惨めさが。」
「えっ…いや…分からん…」
「私は…努力しているんだ。…頑張っているんだ!!」
何かが爆発したかのように、彼は話し始めた。
「なのに…なのになんだ?会社からは見放され、拾ってくれると信じて刑務所の中でも苦渋を舐めたんだ…。」
「…おう。」
「君と違って、誰からも認められることも無い。裏に出ても、かけられる言葉は罵声ばかり。だから、私はもう認められる事は諦めたんだ。…だが、そうしたら。私はなんのために生きているのか分からなくなってね。」
「…重いな。」
「私には自殺する勇気もなければ、無気力に過ごす決断力もなかった。…そこで思い出したのですよ。私が挫折した。最初で最大の壁を。」
「…それが、サリアか?」
「…奴を打ち負かして私は…!…ようやく前に進むことができるんだ。」
「…」
「分かって…いや、分からなくていい。君には関係の無い話だろうからね。…だから、私の前に立ち塞がるのはやめてくれないか?」
「悲しいな、お前。」
「ぐっ…クソッ…クソッ、クソォッ!!同情なんか…いらないんだよォォォッッ!!!」
ガキィン!!
何度目だろうか、奴の右腕と俺の右足がぶつかる。…しかし、違うのは『互いに負けられない理由がある』という事だ。
「おっさんッ!俺は負けねえぞォォォ!!」
「私だって…負けられないんだァァァ!!」
奴の右腕は剣に、左手ら大砲に変化し、体は鉄の鎧で覆われている。完全に本気を出し、彼自身のリミッターを超えているようだ。だから、俺も同じにしなきゃ、対等にはならねえよなぁ…!
ダンッ!!
足の最後の力を振り絞り、45度の角度でやつに飛びかかる。
「スピードが落ちているぞ…!」
「被弾上等だぁぁぁ!!!」
「なにィィッ!」
飛んでくる砲弾の爆発をもろに受けるが、その衝撃で更に加速する。全部で3発、熱さで喉が焼け、呼吸をすることすら辛い。だが、速度を落とさない。
「ぐっ…!あ"ぁ"!」
加速した速度のまま、左足を奴の顔面近くに固定する。
「見えているぞ…また吹き飛ぶがいいッ!!!」
空いている右腕の剣で俺の左足を突き刺す。もう左足の感覚は無い。
「ッツ!!左足くらい…ッ!くれてやるッッッ!!!本命はこっちだァァァ!!!」
「な"っ!」
ガンッ。
戦闘の中、この鈍い擬音が鳴り響いたあと、両者はネジが切れたように崩れ落ちた。
最後にダメージを与えたのは、ランナーの拳だった。
「ランナー…!?」
サリアが血相を変えてランナーへ駆け寄り、揺さぶる。
「…はっ!かっ!かひゅっ!がッ!」
「不味いな…落ち着け、ゆっくり深呼吸をするんだ。」
サリアはランナーを持ち上げ、優しく背中をさすった。
「がッ…はーっ!すーっ、はーっ…。げほっ、げほっ。し…死ぬかと…思った…。」
「ランナー…!落ち着いたようで何よりだ…。」
サリアの介抱により、呼吸が戻ったランナーは、足を引きずりながらジェッセルトンの方へと向かい、目の前に来たところで足を止めた。
「…おい、おっさん。話したいことがあるんだ。死ぬんじゃねえ。」
話しかけると、ピクピクと体を震わせてボソボソと何かを口ずさんでいる。
「私は…負けたのか…?私は…もう…終わったのか…?うっ…ぐぅっ…!」
「おっさん…」
ジェッセルトンは近づいてきたランナーに気づき、光を失った目でランナーを見つめた。
「ランナー君…私を殺してくれ。もう…辛いんだ…。」
ジェッセルトンの最初で最後の懇願だろう。ランナーは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「おっさん…悪いけど、俺はお前を殺せねえよ。…確かに、聞けば聞くほどお前は惨めだし、俺にも負けちまった。」
「…」
「…でもさ、そのお前の執念。俺は嫌いじゃねえし、つーか好きな方だぜ。俺はそう思う。…んで?認められる事を諦めたって?」
「…無理だろう。」
「…ふーん、あーそう。んじゃあさ!俺はお前を認めるよ!本気で!」
「…えっ?」
「お前凄いよ!俺死にかけたしさ!お前の努力は全然無駄じゃねえって、分かるよ!俺意外でもさ!…だからさ、ロドス…来いよ。」
「ぐっ…う"うっ…!」
「おっおい!泣くなっておっさん!脱水で死ぬぞ!まずは治療だ!サリア!医療班呼んできてくれ!」
「既に連絡済みだ。安心しろ。」
「早えなぁ…、あぁ。眠くなっちまった。返事は起きてから聞くよ…考えといてく…れ…。」
ランナーは言い終わる前に後ろへ倒れた。
会話には、サリアとジェッセルトンのみが残された。
「…私は何も言わない。お前の好きなようにしろ。」
「…ご忠告、感謝します。」
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拝啓 親愛なるランナー様。
今回のお誘いは非常に魅力的なものでしたが、私は降りさせていただきます。
決して貴方が嫌になった等ではなく、私の決断の上です。
感謝します。
また、貴方にお会い出来ることを楽しみにしております。
あなた様の卑しい下僕
ジェッセルトン・ウィリアムズ
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これにて、ジェッセルトン編が終わりました。
久々に書いたのもあって色々と文章がおかしいかもしれませんね。
ジェッセルトンには報われて欲しい…報われて欲しかった…!!
『読みにくい』や『誤字脱字』などありましたらドンドンご指摘ください。
感想などくれると筆者が喜びます。
では、次回もお楽しみに。