「…すまねえ、マウンテン。世話かけたな。」
「いえ、落ち着いたようで何よりです。何かお手伝い出来ることがあれば、なんでも。」
やあみんな、ランナーだ。
マウンテンが用意してくれたコップ一杯の水を飲み干し、ベットに突っ伏す。
俺は逃げた。作戦中、防衛地点に3人目の敵が侵入して撤退する時よりも早く逃げた。
あの場で聞いた言葉とその後の光景が俺の中で何度もフラッシュバックする。
それがどうしても苦しいが、何も出来やしないのでベットの上で足をバタバタさせてもがいている。
「あぁ…マウンテン、俺オリジムシになりたい…。オリジムシになって世界中を這いずり回るんだ…」
「何言ってるんですか…何かして欲しかったら言ってください、買い物だとか…」
「なら俺をオリジムシにしてくれぇ〜。」
「なんて事だ。」
自分でも驚くほどひょうきんな声だった。マウンテンはどうにもならない、とコップに水を継ぎ足して携帯端末に目を通した。
「もうすぐドクターがこちらにいらっしゃいます。ドクターから、『何か持っていこうか?』との事ですが。」
「何もいらねぇ…マウンテン、『今日の仕事すっぽかしてごめん』って送っておいてくれぇ…。」
「わかりました。」
マウンテンは一通りのメッセージの応答を終えたのか、立ち上がってドアノブに手をかけた。
「それでは失礼します、ランナーさん。…また何かあったらいつでもお話聞きますよ。酒の席でも、
「酒で。こんな湿っぽい話、俺は好きじゃねえ。」
俺が答えるとマウンテンは静かに微笑んだ。なんだこいつ、聖人すぎだろ。
「では、お大事に。」
「おう…ありがとなマウンテン。マジで助かった。また酒を奢るよ。」
「ええ、楽しみにしておきます。」
マウンテンはゆっくりと戸を閉めた。俺の部屋にひとまずの静寂が訪れる。
1人になった途端にのしかかる今後への不安とあのリーベリの言葉。心の奥から流れ込む何かが俺の胸を叩く。苦しい、切ない。
…何かが込み上げてくる。
あっまずいトイレに
「う"っ…おえッ…」
喉を酸っぱいものが通り過ぎる、あーキッツ。
「はぁ…間に合った…」
トイレの水を流し、便器の蓋を閉めてそのままぐったりと蓋にもたれ掛かる。
「辛ぇよ…」
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午前の仕事を終わらせて、彼の部屋の前に立つ。
『ランナー』
前衛オペレーターであり、彼の特徴でもある脚部を用いた戦いが得意。
いつも賑やかで、というか賑やか過ぎて若干うるさく感じる程の彼があんな事になるだなんて夢にも思わなかった。
呼吸を整え、部屋のドアをコンコンと叩く。
ドアの向こうから少しゴソゴソと聞こえた後に彼がゆっくりとドアを開けた。
「…よう、ドクター。話があることはわかってるよ、入ってくれ。」
私は促されるまま彼の部屋に足を踏み入れた。
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「…ドクター、まずは謝らせてくれ。仕事をすっぽかした上に…なんかその、騒がせちまって。」
「大丈夫だよ、ランナー。ロドスの案内はアーミヤを筆頭に大勢のオペレーターが協力してくれたよ。」
「大勢…うわぁぁぇぁぁ…申し訳ねぇぇ。」
ランナーは言葉にならないような声を上げながらベッドに倒れ込んだ。この様子じゃ相当メンタルに来ていると見て直ぐにわかる。
「ドクター、俺オリジムシになりてぇ…」
「もしなったら塩漬けにして君を食べるよ。」
「ヒュッ…そうだったこのフード、虫食うじゃん…」
現実逃避がバカバカしくなったのか彼はベッドから起き上がって、背もたれのある回転イスに座り込んだ。
「…本題、いいかなランナー?」
私から話を切り出すと彼は手で頭を抑えてそのまま大きく息を吸った。
「…すまん、ドクター。ほんの…ほんのちょっとだけ時間をくれ。」
「いいよ。」
彼はかなり思い詰めた表情のまま立ち上がり戸棚を開けた。その中には
「えっ…?これ全部、飴玉?」
彼が開けた横に伸びている戸棚の中には、色とりどりの飴がぎっしりと詰まった小瓶が綺麗に並べられていた。
「おう、1個いるか?ドクター。ってかやるよ。」
「ありが…わっ、落ちる。」
「ナイスキャッチ。」
投げられた青色の飴玉を口の中に放り込む。すると瞬時にこめかみにまで響く程の酸味が駆け抜けた。思わず「酸っぱい!」と口に出す。
「はっはは!さすがのドクターも酸味に耐性はなかったか。ちなみに今のはシージのやつがよく食ってる飴玉だぜ。探すのにとんでもない時間がかかったから、感謝して食えよ?」
「集めてるんだ…」
戸棚に歩み寄り、飴玉達を眺める。瓶の側面に何か模様があるのに気づいて瓶に手を伸ばそうとした時、同時にランナーが私の手を拒むように伸びかけた。
「ランナー?」
「あっ、いや。なんでもねぇ。見るなら見てくれていいぜ。」
「…わかった。」
促されるまま、瓶を手に取る。下から覗いて見たり、瓶を降ってみたり。ぎっしり詰まっているのでカラカラという音はならなかったが。
瓶を回してみると、その模様をはっきりと見て取れた。
「これは…ヴィクトリア?こっちは龍門?瓶ひとつひとつに国章が…」
「あぁ、国ごとに分けてる。いいもんだろ?」
彼が満足気にこう言った時、あるひとつの違和感に気づいた。
もう一度瓶の棚を見渡してみる。
…やはりそうだ。
「ランナー、瓶の数。1つ足りなく無い?」
ぼんやりと口に出しただけだが、彼の眉が反応したのを見逃さない、図星だ。
「…ッ、もうマジ、あんた怖ぇよ。なんで分かるんだか。空間把握能力ってやつ?」
「普段からみんなの指揮を任されているからね、少しは自信を持っているつもりさ。」
彼は空を仰いだあとベットに勢いよく座った。
「いいよ、勝手に見てくれ。ドクターに隠し事なんか出来ねえってわかったよ。」
「そうか…それじゃ遠慮なくベットの下から…」
「おぉいやめろ!?そこには俺の秘蔵のコレクションがッ!?」
「いいこと聞いちゃった。勝手に見ていいんだよね〜?」
「おいバカッ!この覆面フード野郎!!」
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彼の弱みをひとつ握った、代償は彼の蹴り。
胸が大きめなリーべリの女性…これは使える。
これ以上漁るとこの信頼が崩れそうなのでそろそろ本題に入る。
「…やっぱり、1つ足りない。ないのは…カジミエーシュ?」
「おう。」
「カジミエーシュ出身だったよね?…なんでカジミエーシュだけ無いの?」
彼は少し俯き、細々と答えた。
「まぁ…色々、あんま詳しくは話せねえけど。色々あったんだ。」
「なるほど…それは今日君が案内するはずだった人…オペレーター『ファートゥース』とも関係するのかな?」
「ティナ…、ユスティナは正直関係ない。」
「あれ?…ないの?見ていた感じ知り合いみたいだけど。」
「知り合いなのは本当だよ。ただ…あいつが言った言葉が問題ってだけだ。」
あの場面を思い返してみる。彼女があの言葉を放った瞬間に周りの空気が凍りついたことを鮮明に覚えている。
「…指名手配犯?」
「…泣けるぜ。」
そう言うと彼は顔を抑えて上を向いた。
「罪状は?…殺人…とか?」
「言いたくない。けどそんなんじゃないことは断言出来る。」
「何年前?」
「知らね、だいたい8年前とか。」
「今までよくロドスの中でバレなかったね。」
「…そりゃ、コードネームだし。顔とか成長して変わってるはずだし、足もこんなんじゃなかったし。…勘のいいやつは気づいてそうだけども。*1」
「…ちなみに、なんで隠してたの?」
「それは……、それは、ここ…ロドスでの居場所を無くしたくなかった、から。ってか、とにかく嫌なんだ。」
あまりに人間らしい理由だった。それもそうか、普通はさらけ出すものじゃないか、前科なんて。
「ドクターにひとつ頼みたいことがあるんだ。」
「何かな?」
「指名手配関連の話、噂が立つ前に処理して欲しいんだ。何言ってくれても構わねえ、とにかく消して欲しいんだ。」
「わかった。君には色々と借りがある。クロージャ辺りに頼むとす…」
話をしていると、コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
「…居る?」
ランナーに目を向けると彼はベッドの隅で縮こまっていた。
「噂をすれば何とやら…ってやつ?」
「ファートゥースか…ランナー、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。あいつに悪気がないことは知っているし…久々の再開だからな。何か言ってやんないと。」
「わかった、君のことだから大丈夫だよね。私は噂の処理に勤しむよ。」
「助かる。」
そう言って彼の部屋を出ようとした時、ダメ元で彼に聞いてみた。
「ランナー、君の本当の名前って何?」
「……リャノ。これで我慢してくれ。」
「わかった。それじゃ、結果を楽しみにしていてね。」
「…おう!」
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やあみんな、ランナーだ。今さっきドクターに恥ずかしいとこ見せたアホだ。
…なんか、ドクターの前だと気が緩むっていうか、昔からの旧友だったのかもしれないーっていう雰囲気になる。
自分でも何かおかしいっていうか…隠し続けた本名をサラッと言えるような信頼感が湧いてくる。
怖すぎだろ、あの覆面フードマン。
そんな覆面フードマンことドクターを見送ろうと玄関を開けた時、じっと立ち尽くす銀髪のリーベリと目が合った。
ドクターは「それじゃあお楽しみに」と一言言った後ものすごい速度でいなくなってしまった。
どういう意味だコラ。
「…リャノ。」
「あぁ…、悪いなティナ。あんなに取り乱した姿見しちまってよ。」
「…違う、私こそ謝りたかった。私は自分のことしか考えていなかったから。」
「…玄関で話すのはやめようぜ、目立つ。とりま入れよ。」
「わかった。」
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ユスティナを椅子に座らせ、俺はベットに座り込む。
先に口を開いたのは、ユスティナだった。
「嬉しい。久々に会えて、よかった。」
「あぁ、俺も。ニュースとかでお前が騎士やってるのは知ってた。元気…かは知らねえけど。本当に、また会えてよかった。」
そう言うと彼女はすこし悲しげな表情をすると、淡々と話し始めた。
「…感染した。成人したくらいに、大騎士領に向かう途中で。かくかくしかじか、私は感染者騎士になった。」
そう言って彼女は体表の鉱石を見せてきた。
「感染した時は、本当に辛かった。でも、悪いことだけじゃなかった。感染したから、今ソーナに出会って、イヴォナに出会って灰毫にも出会った。…そして、リャノ。貴方にも。」
「まぁ…俺も感染者だからなぁ。」
俺もカバーを外し、鉱石がへばりついた俺の足を見せる。
一瞬彼女は息を呑んだが、すぐに悲しそうな目を向けた。
「酷い…前はこんなのじゃなかったのに…。」
そう言いながらしれっと俺の隣を位置取っている。全く気が付かなかった。
どこかフィリオ味を感じる。
…にしても、やはりというか、色々と変わっている。記憶の中の姿とは大違いだ。
「妹みたいだったティナもこんなに変わっちまったんだなぁ。」
「弟みたいだったリャノもこんなに変わったんだね。」
「「……は?」」
静寂が流れる。互いに信じられないと言う顔をしながら見つめ合うが、聞き捨てならないセリフを拾ってしまったからには反論しざるを得ない。
「なんだテメェ!俺の方が上だろ!?」
「違う、私の方が上に決まってる。」
「なんだとぉ…!」
「事実、これは揺るがない。」
取っ組み合いになること1分、決着がつかないままベットに身を投げ出し、天井を見つめていると。再びユスティナが話し出した。
「…聞かせて、リャノ。なんで居なくなったのか…急に指名手配犯になったのか。…その、空白の時間を。」
「空白…ねぇ。」
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遠いおぼろげな記憶の中にある、勢いよく当たる風と、体を預けることが出来たその温もり。
突如無くなったかと思えば、急に音を立てて離れていって。
無くなったそれに空白感を覚えて探し回っていたら、そこに彼女、ユスティナが居た。
もちろんそれの正体は彼女では無い。でも彼女は俺のその空白を少しの間だけでも埋めることが出来た。
村の小さな小屋を貸してもらってそこで暮らした日々はもう遠いものだけど、とても快かったのは覚えている。
だがしかし、そんな生活も長くは続かず。あの日突然現れたあの冷たい籠は――
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「…言えね、指名手配犯になったのは事実だし、それ知ってるだけでも十分じゃね?」
「納得できない。はぐらかさないで。」
彼女の丸い目は真実を知ろうと必死になっているがまだ答えることは出来ないのでのらりくらりと躱していく。
彼女からしたら酷なことだろうが、本当に関係ないから知る必要はないってこった。
言う時は…そうだな。
「お前がこんな事広めて、噂になっちまったなら、今まで俺と関わりのなかったカジミエーシュ人達が押しかけてくるだろ。そん時になったら話す。きっと。」
「…知られたくないの?」
「そりゃもちろん。」
その後も色々な手段を使って話を聞き出そうとしていたが、根負けしたのかベッドから体を起こした。
「許す。久々に会えたから。だけど私が上なのは変わらない。」
「聞き捨てなんねえけどよ…ま、ここまできちゃもう運命みたいなもんだよな。なんの縁か知らねえけどまた会えたのがその証拠だし。」
そう言うとユスティナが意地悪な表情をしたような気がした。よくわからんが。
「運命…その言葉、覚えておいて。リャノ…いや、ランナー。」
若干嫌な予感はしたけれど、ユスティナがドアノブに手をかけるのを見て、すぐに見送りに向かった。
「覚えてるのかは知らねえけど、まぁ、またな。ティナ…ファートゥース。」
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「あ、クロージャ、ちょっといい?」
「あれ、ドクター?どうしたの?」
「いやぁ、ランナーの事でかくかくしかじか…」
「…ふんふん。任せといて!飛びっきりの捏造をしてあげるから!」
「すごい熱気だね。それじゃあ、任せたよ。」
彼から言われたことを済ませて、執務室に向かう途中、部屋の前で待っているマウンテンに出会った。
「ドクター、彼のことについてひとつお話が。」
「なんだい?」
「彼を運んでいる最中、彼がポロッと罪状を口に出したんです。」
「ほう。なんて?」
「…国家反逆罪。」
「…えっ?」
──────────────────────
「…見て!エ○本万引きのランナーよ!」
「指名手配って聞いて何かと思っていたけど…そんなことだったなんて…」
「噂によると自分の部屋のベットの下にありえない量のエ○本を溜め込んでいるらしいよ…」
「…」
「…あはは、ランナー。私は分かってるよ、ただ…クロージャに頼んだのは失敗だったかな…あ、」
ドクターの目線の先には、満点の笑顔のクロージャがダブルピースをしていた。
すると隣から凄まじい風が巻き起こり、とんでもない声量で叫んだ。
「あんのクソコウモリぃぃぃぃ!!!」
恐らく次回はネタ回
『読みにくい』や『誤字脱字』などありましたらドンドンご指摘ください。
感想などくれると筆者が喜びます。
では、次回もお楽しみに。