続! キングコング対ゴジラ   作:マイケル社長

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ー壮烈、キングコング!ー

 

 

 

 

日がやや落ちる頃になり、宏樹たち一行はようやく集落へ戻ることができた。キングコングの洞窟を出て、来た道をただ戻るのみであったことで、肉体的にも精神的にも疲労は限界を迎えつつあったのだが、戻るなりチキロ酋長らが用意してくれていた握り拳大の赤いフルーツを食べると、だいぶ身体が軽くなった。

 

「しかしうめぇな、これ。何の果物なんだろな?」

 

「農業やってる鍋ちゃんでもわからないの?」

 

宏樹がいたずらっぽく訊いた。

 

「だってオレ米農家だもん。果樹作物は詳しくねぇろ」

 

「ドラゴンフルーツにも似てるが・・・甘みが強いしコクもある。島独自のフルーツなのかもな」

 

世界中を旅しているだけあって飯島は引き出しが多いが、それでも既知のものではないらしい。

 

「まあなんだっていいや、うまければ」

 

そういうと、もうひとつがぶりつく神鍋。

 

「よくいうよ。さっきまで今夜の食事もトカゲなのか、とか気にしてたのに」

 

今度は飯島にイジられ、神鍋は食の手を止めた。

 

「んー、でも、よくよく考えるとトカゲ肉も美味いよな。うん、世界には満足に食べられない人もいるんだから、食べられるだけ感謝しなきゃな」

 

そういって神鍋が3つめのフルーツに手を伸ばしたとき、また今夜催されることになった食事会の支度へ出ていたコンノ二世と三世の親子が慌て気味にやってきた。続くように村人が血相を変えて槍や弓を持ち、海岸の方へ走っていく。

 

「どうかしたの?」

 

そう宏樹が訊くと、粗い呼吸を整えて三世が口を開く。

 

「海の悪魔、やってきた!島に誰か近づいた!」

 

「いまからみんなで力を合わせて立ち向かう!宏樹さんたち、アブナイからここにいて」

 

周りを見ると、男性は血気盛んに怒鳴り合いながら集落を走り抜け、女性や老人は子どもを抱えて屋敷の中へ逃げ込んでいる。崖下に横たわっていたゴロもそんな雰囲気を察したのか、居眠り状態から目覚めて雄叫びを上げると、イキリ立って走り出した。

 

「いやこれ・・・YouTuber的にはすごくオイシイシチュエーションだよな?」

 

果物の汁が唇から垂れるのもかまわず、神鍋がつぶやいた。

 

「でも・・・海の悪魔って言ってたよ?なんか怖くない?」

 

こういう臆病なところが、本当は自分がYouTuberに向いてないのではないかと自分で思えてしまう。宏樹は言いながら歯噛みしたい気分だった。

 

「かといってただ隠れていられるものか。オレたちが何のためにこの島へきたのか、行動原理はそこにあるだろ」

 

飯島の意見が出たことで、宏樹たちの行動は決まった。各々iPhoneの動画を起動させると、海岸線へ突貫する村人に続いた。それをテントで見かけたマックスは立ち上がった。G36アサルトライフルを抱えながらも戸惑うブンチャヤとボロロと目を合わせると、首筋の後ろを掻いた。

 

「相変わらず困った連中だが、あんなんでも身柄を保護するのがオレらの仕事だからな・・・行くぞ」

 

少なくとも自分達の武器は、村人たちが手にしているものより数段威力が強い。何が現れたかはわからないが、槍や弓矢よりかは役に立つだろう。

 

「ブンチャヤ、予備の弾薬すべて持て。これだけの騒ぎだ、相手はタダモノではあるまい」

 

マックスに言われ、不安げに5.56ミリ弾を装填した予備のマガジンを3つ、ケースから確認する。それから急ぎ走り出し、先行する宏樹たちの前に達する。

 

「いいかボウヤたち。仕事熱心なのはお互い様だ。だがお前らの警備を請け負っている以上、オレたちの後ろに下がって行動しろ」

 

自分たちを差し置いて前に出る様とマックスの言動にイラつきはするが、身の安全を保証してくれる相手である。神鍋と飯島は渋々といった感じで頷いた。

 

海岸へ続く洞穴に差し掛かる頃には、宏樹と飯島の息が切れかかってきた。さっき食べたフルーツで体力が回復したとはいえ、さすがに強行軍の後だ。身体が水分とビタミンを欲するのがよくわかった。

 

海岸線に出ると、陽が暮れて闇夜が広がりつつある空の下、非対称に明るく映えているエメラルドグリーンの海面が荒れていた。白く波立つ波打ち際のはるか先には、激しく泡立つ海面が猛り狂っている。そして耳を刺すような、高く不快な音。それはまるで、生き物が啼くように聞こえた。

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

神鍋の素っ頓狂な声が上がった。泡立つ海面から、2本の大きく赤いハサミが突き出してきたのだ。続いて、不快な啼き声を発しながら顕になる、大きな頭と胴体。

 

「エ、エビ!?エビのバケモン出たすけよぉ!!」

 

興奮して新潟言葉が収まらない神鍋。宏樹は絶句しながらiPhoneを向ける。画面越しにも感じられる、異様な光景。武器を手に威嚇しまくる村人たちと、そんな人間など意も介そうとしない、巨大なエビ。

 

「こんなヤツ・・・まさか」

 

飯島はiPhoneで撮影しながら、何かをつぶやいている。

 

「ヒロキン、22年前にファロ島で大地震が起きて以降、島に近づく船舶はみんな遭難したって話だったよな」

 

「う、うん」

 

固唾を呑みながら、宏樹は答えた。

 

「その原因が、あのエビの怪獣だったとすれば?」

 

飯島の推理は状況証拠に過ぎないが、そんなことを吹き飛ばすほどの説得力があの巨大なエビからは感じられた。

 

巨大なエビは甲高く啼くと、ハサミを振り上げて海岸線へ進んできた。村人たちは弓を放ち、槍を投げるが、あの見るからに堅そうな甲殻を貫けるとは到底思えない。

 

「おし、エビラ。ヒロキンに聡君、今からアイツの名前エビラな!」

 

喧騒の中、ひとりトンチンカンなことをわめく神鍋。

 

「エビラ・・・」

 

「そんな安直な・・・」

 

「わかりやすくて良いろ!?」

 

そんなことはどうでも良い。いやこの際名前を借りてエビラと呼称しよう。エビラはゆっくりと、しかし獲物を定めるようにこちらを目指して白波を立ててくる。

 

「こりゃあ・・・迫撃砲か対戦車ライフルでも太刀打ちできるかどうか、だな・・・」

 

契約通り宏樹たちの警護をするマックスだが、あの表皮にはどう考えても手持ちのアサルトライフルでは威力不足だろう。せめてもっと接近して、あの黒く粒状の目玉さえ狙い撃ちできればそれなりにダメージを与えられそうな気もするが、その前にあの大木よりも太いハサミの餌食になることは間違いない。

 

すると地響きを立てながら、ゴロが現れた。だがゴロは海岸線から大きく吼えるばかりで、海へ入ろうとしない。エビラは自分とほぼ同じくらいの体躯をしたゴロを見て動きを止めたが、やがて前進を始めた。

 

「おいゴロ!やっちまえー!」

 

神鍋が怒鳴るものの、ゴロは威嚇の咆哮を上げるばかり。

 

「鍋ちゃん、彼らは身体こそ大きいものの野生生物だ。陸上最強と謂われるホッキョクグマだって、海に落ちればアッという間にシャチの餌食になる。それと同じで、きっとゴロは海に入れば勝ち目がないことを知っているんだ。自分とは異なるテリトリーに足を踏み入れることのリスクを本能で察知してるんだよ」

 

「ぐぬぬぅ、それはそうだが・・・」

 

そのときだった。また、あの法螺貝のような音がした。ただし今度は、いままでのような穏やかなものではない。力強く、そして何かを鼓吹するように猛々しいものだった。

 

「おい、あそこの崖」

 

飯島が指さす方を見ると、崖のてっぺんに佇む女性の姿があった。

 

「あれは、アモ」

 

宏樹がつぶやく。また、あの法螺貝の音がする。

 

「おーい、アモ!」

 

「危ないぞ!」

 

驚いたことに、宏樹とマックスは同時に叫んだ。ハッとして互いの顔を見合わせ、やや気まずそうに顔を背ける。

 

「・・・ボー」

 

「ボー!」

 

村人たちが口々に言葉を発した。チキロ酋長が何かを怒鳴ると、みんな矛を収めて砂浜にひざまづいた。大地を揺らす音がして、アモが立つ崖の頂上に何かが姿を現した。

 

「キングコング!」

 

宏樹が叫んだ。アモの笛に呼応するように、キングコングは大きく吼える。それを受けたエビラは歩みを止めた。明らかにゴロと対峙したときとは、空気が違っている。

 

それでも大きくハサミを振り上げ、山頂に仁王立ちするキングコングを威嚇するエビラ。しかし如何にキングコングといえど、海へ入り込んでエビラと組み合うつもりはないらしい。お互いのテリトリーを侵すことに、多少の温度差はあれど両者とも慎重な様子だ。

 

キングコングは短く唸ると、地面をつかみ、自身の上半身くらいある大きな岩を、気合い一閃引き抜いた。それを頭上で大きく掲げると、強く見据えてエビラに投げつけた。

 

自分たちの頭上を巨大な岩石が舞ったことで、宏樹たちも村人たちも慄いた。パラパラと小石が降ってきて、慌てて岩石の弾道下から離れる。

 

放たれた岩石はしかし、エビラのハサミに当たって跳ね返った。いや、エビラが打ち返してきたのだ。

 

またも宙を舞った岩石は、キングコングに向かう。お返しなどいらん、とばかりにキングコングは岩石を殴りつけた。

 

だがなおもエビラはハサミを振るい、難なく岩石を弾き飛ばす。キングコングは一度受け止めると、イラつき気味に投げ返す。

 

世にも不思議なラリーが幾度が続く。宏樹たちは上空を往復する岩石の弾道を追い、左右に首を向け続ける。両者まったくスタミナを切らすことなく、膠着状態が続く。だが先にこの状況にストレスを露わにしたのはキングコングだった。低く唸り声を上げ続ける様は、なかなか決まらない状況にイラついているように見える。大きくともキングコングは哺乳類なのだ。

 

対してエビラには、そうした情緒はない。時間がかかろうと何があろうと、最終的に勝利して獲物を仕留めることにしか思考回路が働かない。こうした状況においては、精神的なタフさが最後に勝るのだ。

 

「ボー!」

 

そうした空気を察したのか、アモが声を張り上げた。何を思ったのか空中で宙返りをしてみせた。

 

それを見たボーは、彼女とまったく同じ挙動をした。空中で宙返りをすると、飛んできた岩石に振り回された右足を強かに打ちつけた。

 

これまでより強く、そして速く岩石が軌道を走った。いつものようにエビラはハサミで打ち返そうとしたのだが、ハサミを当てた途端にハサミにヒビが入ってしまった。

 

痛覚は人間と変わらないのだろう、より高音域の啼き声を発しながら、ハサミをバタつかせる。ようやく手ごたえがあったことに興奮したのか、キングコングは大きく吼えた。

 

だがエビラの怒りに火がついたようだった。無事な左のハサミを振り上げ、八つ当たりするかのように海面を薙ぎ払う。津波のような水飛沫が海岸線に降り注ぎ、宏樹たちは痛いほどの飛沫を浴びる。

 

そのとき、集落から数人の村人が現れた。大きなツボを数人で運んできたのだ。チキロ酋長が何かを指示するも、重量があるのかその足取りは男数人がかりでも重苦しい。

 

「コンノ二世、あれは?」

 

飯島が訊いた。

 

「あ、あれは海の悪魔がキライな黄色い木の実から採れた汁ネ!アレ、海に撒くと海の悪魔、逃げてイク」

 

「よっしゃ、加勢するぜ」

 

それを聞いた神鍋は両手で頬を叩き気合いを入れると、重過ぎて悪戦苦闘している男衆に混じり、なんとたったひとりでツボを持ち上げた。

 

「鍛えまくった筋肉ナメんなよぉ!筋肉は裏切らない!」

 

自身のYouTubeチャンネルでよく発するセリフを口にしながら、怒涛の勢いで海にツボを投げ入れた。海面に黄色い液体が混じり出し、それはジワジワとエビラの方に広がっていく。

 

「まるで人間キングコングだな」

 

そんなことを感心したように飯島がつぶやいている最中、エビラに動きがあった。まるで虫が虫除けスプレーをかけられたように、はたまたドラえもんがネズミと遭遇したように、悲鳴のような啼き声を上げながら島から遠ざかり、やがて海中に没していった。

 

村人たちはにわかに騒がしくなり、やがて歓声を上げた。どうやら、危機を脱したようだ。キングコングにも喜びが伝播したらしく、勝利の雄叫びを高らかに上げる。やがてキングコングは山を降り始めた。それを受け、アモも断崖を軽やかに下ってきた。

 

村人たちは急ぎ、集落へ戻り始めた。

 

「ミナサン、いまから戻るヨ。勝利の儀式、始めマス」

 

コンノ二世が言ってきた。

 

「なんだぁ、勝利の儀式って」

 

ひと仕事終えた神鍋が誰にともなく訊いた。

 

「もしかして・・・」

 

なんとなく、宏樹にはわかった。修じいちゃんがよく話してくれた。昔ファロ島を訪れたとき、村を大きなタコが襲った。そこに現れたキングコングは大ダコを撃退すると、村人の祈りの舞を捧げられ、眠りこけた。そしてそのキングコングを、日本へ運ぼうとしたこと・・・。

 

「行こう!」

 

宏樹は神鍋と飯島の手をひっぱり、駆け出した。なんとなくだが、幼少の頃修じいちゃんから聞かされていた情景が現実に見られるかもしれないと思うと、胸が高鳴った。

 

集落に戻ると、村人が勢揃いしていた。チキロ酋長、そしてアモが先頭に立ち、やってきたキングコングに祈りを捧げている。

 

キングコングはそんな村人たちに首を垂れると、足元にあるツボを掴んだ。豪快にツボの中身を飲み干すと、いくつか並んだツボの中身を同じようにして平らげていく。

 

すっかり満足したように口を拭う。赤い液体がキングコングの口元にまとわりついている。大きく息を吐くと、キングコングは座り込んだ。

 

チキロ酋長が掛け声を上げた。

 

突然、太鼓の音が鳴り響き、一定のリズムで打ち鳴らされる。村人たちが唄い始め、女性と子どもが前に出てきて独特の舞を踊り始めた。

 

高らかに唄声と太鼓のリズムが夜の空気を鳴らし、次々に篝火が焚かれる。すっかり夜が訪れたファロ島は、村人の舞と打ち立てられた無数の篝火に彩られた。

 

どんどんテンションを上げて唄い踊る村人たちと対照的に、キングコングは目を瞑り、やがて深い眠りについた。

 

「なんかわっかんねぇけど、綺麗だなあ」

 

神鍋がつぶやいた。

 

「元気、出てくるな」

 

飯島も言葉少なめに言った。いずれも顔が綻んでおり、神鍋などはいまにも踊りに混ざりたそうにしている。

 

宏樹はiPhoneで撮影しながら、村人たちのしんがりで踊るアモに目を奪われていた。美しく幻想的、そしてどこか儚く寂しげな彼女の舞に、すっかり夢中になっていた。ふと気がつくと、マックスも同じように口を開けてその様子に見入っている。

 

宏樹は思わずiPhoneの撮影を止めた。もう充分撮影したし、後に最後まで撮影しなかったことを神鍋と飯島に咎められたのだが、これは・・・この舞だけは、なぜだかわからないが公開したくない気分だった。自分の頭の中に、しっかり焼き付けておきたいと強く感じたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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