続! キングコング対ゴジラ   作:マイケル社長

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―疲れたときには、パシン!―

・平成34年 7月7日 4:46 愛知県岡崎市 某高層マンション

 

 

 

 

 

『はーいみなさんおはようございます、こんばんは、こんにちはー!珠ちゃんです。登録者数、こんなにうなぎ昇ってるってマ???』

 

ひといき入れようとパソコンの画面を最小化し、最近人気急上昇のYouTubeチャンネルを開いてみた。

 

『それじゃあ今日は、珠ちゃん歌ってみたコーナーをやってみるンゴ~!最近ですね、YOASOBIが好きでして~』

 

明るく少しダルそうなしゃべり口がクセになる、そんな評判が立っているこの『脱力系YouTuber 珠ちゃんネル』。なるほどユルそうな雰囲気が疲れた頭にはちょうど良い。桜井宏樹はいただきもののコーヒーメーカーからカップに注ぐと、続きを注視する。

 

ついつい関連動画を開いてしまって気が付けば時間がけっこう経過してしまうのはYouTubeあるあるか。外は夜が明け、早くも熱い空気が舞い込んでくる。エアコンを稼働させ、今度はコーヒーにたっぷりとメープルシロップを入れる。

 

そうしてさらに無為な時間が過ぎていき、とうとう宏樹は編集作業を途中で投げてしまった。今日は先日コラボ依頼をしてきたファミレスチェーンと打ち合わせ、その後はYouTube動画管理会社『MMMUU』との打ち合わせ。それが終わると、自身が先に投稿していた動画から、ナイスリアクションだけを切り抜いたショートムービーの編集と投稿。並行して、ちっとも進んでいない一週間前に撮影した企画系動画の編集作業・・・。

 

宏樹のポリシーとして、毎週火曜日と土曜日に動画を投稿するようにしている。これは自分で作ったルールというか習慣であるため、別に翌日になろうがいつになろうが本来かまわないのだが、気の短いファンだと投稿予定日の夜9時くらいに『今日は動画まだですか?』などとリプを飛ばしてくる。

 

動画くらい、いつでも自由に投稿させてくれ・・・。そうは思うが、投稿を楽しみにしているファンがどれだけいるか・・・チャンネル登録者数で判断した場合、500万人程度になるのだが・・・そう考えると、自由気ままに投稿していれば良い、というワケにもいかない。

 

コーヒーとメープルシロップの効果か頭ははっきりしてきたが、今にして思えば編集を後回しにするのなら中断して仮眠しとけば良かった、そう後悔することはこれまで何度あったことだろうか。

 

あるいは、他のYouTuberのように管理会社へ動画編集を丸投げする方法もある。だが去年末、管理会社は編集、投稿、視聴者対応などのサービスを細かく区分けし、それぞれに料金を発生させる方式を採用した。近年は管理会社の負担ばかり増え、従来通り支払われる登録料・委託料のみでは立ちいかなくなったためだ。

 

宏樹は、思案の結果自身で撮影、編集を続けることにした。元々動画撮影はもちろん、編集することそのものは嫌いではない。それに他者へ依頼した場合、細かいところだが編集のカットやテロップが思ったように仕上がらず、結局作り直すか妥協するかしなくてはいけない。編集は自分自身のセンスを活かしたいのだ。

 

いつからだろうか・・・動画を上げることが苦痛に思うことが増えてきた。最初は違ったのだ。思いつき、子どもの遊びレベルのことを動画に収め、仲間内で楽しんでいたのは高校・大学生のとき。そういった動画をYouTubeにアップしたところ、じわじわと人気が出てきていまに至る。おかげで広告収入だけで暮らすのに充分過ぎる額に達したし、いわゆる『案件』と呼ばれる企業とのタイアップも増えた。

 

詳しい住所こそ明かしていないが(それでも特定はされたが)、宏樹が東海地方在住ということもあり地元企業の雄であるあの自動車メーカーや、一度『好物です』と言ったことで地元名産品であるブロッコリーの出荷組合とのコラボ。そして遠縁にあたる親戚が世話になったやらで、世界有数の製薬会社であるパシフィック製薬からの案件も多い。

 

YouTuberの収益としては平均以上を稼いでいるにも関わらず、ここ最近はモチベーションを保つのに苦心していた。そんな宏樹の内面が現れたのか、最近アップした動画の視聴数は減る一方なのだ。そして評判もよろしくない。

 

『ヒロキン、目死んでる』

 

『13:41 ここのヒロキン、棒読みw』

 

『なんかヒロキン疲れてない?』

 

アンチのコメントではない。チャンネル開設以来のファンからも、このようなリプが飛ばされてくるのだ。

 

理由ははっきりしている。自分が本当に撮りたい動画ではないからだ。

 

では、本当に撮りたい動画とは?・・・たぶん、撮影していて心から楽しい、そう思えるような動画だろう。

 

だが、もうネタは出尽くしている。

 

YouTuberもオワコン化していると囁かれる昨今、もしかしたらオレも潮時なのかもしれない・・・。

 

そう、身を引けば負担が軽くなる反面、そうしてしまうと自分が自分でなくなりそうな怖さもある。

 

撮影しているときの自分、画面に映し出されるときの自分。それが本当の自分なのか、わからない。だが、動画投稿から引退してしまう自分は、本当に自分なんだろうか・・・。

 

「あ~あ、もう辛気くさ」

 

独り言をつぶやくと、別な動画を開いた。YouTuber仲間である高畑敦也が主宰しているYouTubeチャンネル『高畑UNIVERSITY』の最新回がアップされたのだ。

 

『はいどうも、日本時間でおはようございます。ドバイ時間でこんばんは。高畑UNIVERSITY、高畑敦也です』

 

低く太い声の彼は、時事問題や経済知識等、教養系チャンネルとして主に大学生や若い世代の社会人に人気を博している。

 

『今日はですね、先週勃発した北朝鮮による韓国・延壺島砲撃事件に関してです。ニュースなんかでも盛んに騒がれてますよね、まあ詳細は他の媒体に譲るとして、さらなる軍事侵攻を辞さなかった北朝鮮がなぜ一方的な休戦を申し出たか。ここで注目してほしいのが、今年初めに再編された在韓米軍なんです。ソウル近郊に水原という都市があります。先の再編でここに在韓米陸軍の駐屯部隊が置かれることになったのですが、実はココ、ただの陸軍駐屯基地じゃないんです。近年の極東地域情勢に対応すべく、米軍特殊部隊・・・グリーンベレーや、デルタフォースといった、よく映画にも登場する部隊ですね。それらの拠点として築かれた可能性があるんです。で、直近で何が起きたかというと、北朝鮮が連日延壺島に行っていた砲撃。これは北朝鮮の上層部による中止通達があったとされていますが、実は出動した米軍特殊部隊によって砲撃部隊が無力化された可能性が指摘されています。そして、秘密裏に米軍出動を要請したのは、外ならぬ韓国政府というウワサもあるんです。そりゃあね、米軍もタダで動くワケではないですから、韓国政府は見返りとなる密約を交わしたんじゃないかというのが、世界のインテリジェンスの見方なんです。具体的には・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

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