続! キングコング対ゴジラ   作:マイケル社長

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ー怪しい者ではございません、というヤツは、100%怪しい。間違いないー

 

 

 

 

 

「アモさん」

 

未だ雷鳴と雷光が夜空を震わせ、闇夜を紫色に染め上げる中、祭壇わきの小屋にいるアモに声をかける存在が複数現れた。

 

アモは床についていなかった。まるで睡眠という行動を知らないかのように、彼女は眠ることを知らなかった。

 

「どなたですか?」

 

日本語で話しかけられたため、アモは日本語で応じた。宏樹たちと話すようなたどたどしさは微塵もない、冷たく透き通った声色だった。そしてアモ自身、そこまで日本語を違和感なく話せることに内心驚いていたが、表情にも声色にも出さなかった。

 

「私たちは宏樹さんたちと共に島へ来た者です。怪しい者ではない」

 

なるべく警戒されないように、アモに声をかけた男はぎこちない笑顔で歩み寄った。アモは男に向き直り、男の心を見透かすようにじっと見つめてきた。

 

男は歩みを止めた。アモの視線は射抜くように鋭く強かった。この女、目が見えないと聞いていたのだが・・・。

 

「その方が何の用ですか?」

 

アモの口調は静かで、冷たい。

 

「宏樹さんから、あなたを呼んできてほしいと言われました。暗いからお手伝いします。さあ」

 

兎にも角にも、男はアモを連れ出すべく手を差し出した。アモは男を一瞥すると、身を下がらせた。

 

咄嗟に男の背後から、もう1人が身を乗り出した。男はそれを制すると、作り笑顔をいっぱいに浮かべた。

 

「大丈夫ですから、ほら」

 

少し強引にでも手を引こうと、男はアモの右手を握った。アモはそれを振り払うと、敵意溢れる目で男、その背後にいる男を睨みつけた。

 

「あなたたち、イヤな感じがします。悪いこと、考えている。宏樹サンの友達なんかじゃ、ナイ」

 

アモは小屋の際まで後ずさっている。雷鳴が遠ざかりつつあり、まごついている時間はない。

 

男は一気にアモへ詰め寄ると、その身を確保しようと覆いかかった。だがアモは男を蹴り飛ばし、踏み台にして天井を舞った。

 

「ちくしょう!」

 

母国語で毒づくと、もう1人の男が着地したアモの背後から抱きついた。だがガッチリ掴んだはずの身体はいとも簡単にすり抜けられ、アモは出口へ突進した。だがそこにはもう3人が待ち構えていた。

 

その気配に気づいた刹那、1人がアモの顔目掛けてスプレーを吹き付けた。本能的にアモは身を引いたが、ハッとしたときにはスプレーの成分を吸い込んでしまっていた。そのまま意識をまどろませ、アモは床に崩れた。

 

「たった1人に手間取りやがって」

 

スプレーをしまった男が、母国語で毒づいた。

 

「勘が鋭い上にすばしっこくて」

 

アモに蹴られた男がうめきながら、立ち上がった。

 

「急ぐぞ。雷雲が去りつつある」

 

スプレーの男がアモを抱え上げた。

 

「しかしわからないな。雷が鳴ればキングコングが勢いづくんだろ。危険じゃないのか」

 

蹴られた腹を押さえながら、男は訊いた。

 

「だがキングコングがいきり立つと、海に棲むエビの化け物が大人しくなるそうだ。ひとまずは雷が鳴ってるうちに、この島を離れることを最優先だ。それにこの島にはバカでかい恐竜もいるらしい。そいつに目をつけられる前に、急ぐぞ」

 

男はアモを抱えたまま、しゃべりながら動き始めた。他の連中も慌ててそれに続く。時間的に明け方だ。島の住人が起き出さないとも限らない。この様子を見られたら、厄介なことになる。

 

それにしても、本部からの命令とはいえ、男は今回派遣された男たちの扱いに難儀していた。国の事情として男性には兵役が義務付けられており、集められた連中もみな一連の兵役過程をこなしているはずなのだが、島への上陸時といい、この少女を確保するときといい、素人も良いところだった。

 

無理もないかもしれない。リーダーを務める自分だけが、陸軍特殊部隊出身だ。とはいえ軍を離れても皆が切った張ったの世界に身を置いているのに、こいつらの緊張感の無さといったら話にならない。島へ上陸を試みた先遣隊が全滅しているというのに、上陸前までスマホゲームに興じるとは。

 

気を取り直し、周囲を伺いながら一気に海岸線へ走り抜ける。島民も、キングコングも、はたまた恐竜も動き出している気配はない。唯一、集落の周囲を交代で警戒しているらしい傭兵が気になった。だがこちらは暗視装置で暗がりでもかまわず行動できる。島を離れるまで余計な騒ぎを起こすつもりはないが、万が一のときには、射殺するつもりで男は準備していた。

 

幸い島民にも傭兵にも恐竜にも気づかれることなく、海岸線まで走り抜けることができた。海岸には朝進グループ本社の人間と偽ってグループに同行している2名が待機していて、灯が少ない中気を揉むようにタバコを蒸していた。

 

「おお、来たか」

 

そう言って近づいてきた男を、アモを抱える反対側の手でひっぱたいた。咥えたタバコは砂浜に落ち、男は足でもみ消した。

 

「タバコといえどこの暗闇では悪目立ちする。むやみに吸うモンじゃない」

 

ひっぱたかれた男は不服そうに口を窄めている。

 

「とにかく、この女の身柄を確保した上、黄色い泉のサンプル採集と爆薬設置まで完了した。我々は帰投するが、おそらくキングコングがじきに追ってくるだろう。お前たちは日本から来たYouTuberと護衛の傭兵を上手く始末して、ここを脱するんだ」

 

手短に言うと、ひっぱたかれた男は頷いた。

 

「支社長のチェはどうする?」

 

「少しは頭を働かせろ。始末する対象に例外はない」

 

ぶっきらぼうに答えると、アモを黒いホバークラフトに乗せてエンジンを始動させた。このまましばらく海上を走行し、沖合に停泊している高速船に乗り換えるのだ。問題は、その高速船に乗るまでにキングコングを振り切れるか否か・・・。

 

そう思っていると、島から耳をつんざくような雄叫びが聞こえてきた。昔耳にした、ゾウが地響きを鳴らして闊歩する轟音。あの数十倍はあろうかという、大地を揺らす音が響いてくる。

 

案の定、離れていく島の海岸に凄まじく大きな影が現れた。時折空を照らす雷光に照らされたその影の顔面は、大きく口を開けてこちらに向け吼えている。

 

ホバークラフトのスロットルを最大限に振り絞っていると、高速船が見えて来た。大きな影はひときわ大きく吼えると、海面を白立たせてこちらへ猛進してきた。

 

「ちくしょう!」

 

慌てて大宇アサルトライフルを構える者もいたが、距離がありすぎて弾道が届くはずもない。

 

「ヤツは海に入ってこないんじゃなかったのか!」

 

「慌てるな。この女を連れ去った時点で充分想定していたことだ」

 

冷静に答えると、高速船のタラップにホバークラフトを着船させ、荷物とアモを引き揚げる。アモは薬剤の効果が薄れてきたのか、唸り声を上げ始めた。

 

すかさず注射を打つと、アモは夢うつつの世界へと引きずり戻された。

 

高速船が動き始めた頃には、波が高く荒れるようになった。キングコングがこちらへ迫っているのだ。

 

「おい、追いつかれちまうぞ!」

 

そう焦る声を無視し、男は船尾へ進むと、レバーを押し倒した。船から何かが海面に投下され、しばらく浮いた後に黒く時折青い海面に沈み込んでいく。

 

「おい、フルスロットルだ」

 

操船士に短く指示すると、男は外で慌てる連中に声を張り上げた。

 

「おい、伏せろ!」

 

そう言い終わるかどうかの刹那、海面が大きく盛り上がった。水柱が天を衝く勢いでそそり立ち、打ち上げ花火を何倍も大きくしたような音が鼓膜を叩いてくる。

 

男が投下した機雷に、キングコングが触れたのだ。

 

水中での爆発は幾度か続き、海が平静を取り戻す頃には向こうの空が明るくなりつつあった。

 

爆発が鎮静化すると、白波をかき分けて追いかけてくる存在は確認できなくなった。

 

「すげぇ!何をやったんだ!」

 

「米国製の高性能指向性機雷だ。厚さ10メートルのコンクリートも吹き飛ばす威力を持つ。いかに巨体を誇るキングコングといえど、致命傷ものだろうな」

 

男が言った通り、高速船が通過した後の海面は平静そのものだった。

 

「邪魔者はいなくなった。あとは・・・」

 

男は黒いケースを開けると、中央の赤いボタンを押した。もうファロ島は水平線はるか先にうっすら見える程度にまで離れたが、今ごろ島にある黄色い泉は木っ端微塵に吹き飛んでいることだろう。

 

「これでオレたちの仕事は終わったな」

 

緊張感なく顔を綻ばせる連中を嗜めるように、男は睨みつけた。

 

「まだだ。この女を生きたまま連れていくまでだ」

 

「めんどくせぇなあ。いっそのこと死んでもらった方が運びやすいんじゃないのか」

 

「お前はこの仕事の中身をまるで理解してないな。良いか、ファロラクトンεの効果効能は生きた人間のサンプルが必要なんだ。かといってその辺の島民では連れて行くにあたりエビの化け物に襲われるリスクがある。だからこそこの女を連れ去ることで、怒り狂うキングコングにエビが恐れ慄き、結果的に我々の護衛となるアイデアを活かしたのだろうが。まあ、不要となったから機雷で始末させてもらったがな」

 

そう言うと男はスマホを開いた。このまま最寄りの島まで1時間弱。そこから航空便をいくつか乗り継ぎ、目的地へ向かうまでが仕事なのだ。

 

「そうかよ。そうそう、オレたちは日本のどこまでこの女を連れていけば良いんだっけ?」

 

相変わらず呑気な連中だ・・・男はうんざりしたように頭を振ると、スマホでグーグルアースを開いて見せた。

 

「おお、すまんな。何なに、愛知県海部郡飛鳥村・・・へええ、名古屋市の手前か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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