続! キングコング対ゴジラ   作:マイケル社長

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ー人は過酷な体験をすると、精神安定のため記憶に鍵をかけるー

 

 

 

 

 

 

 

「あれは・・・あれは、良太郎さんが奥さんと娘サンをお連れして、ワタシと一緒にこの島へきたんです。そのトキ・・・」

 

 

ゴジラが去ったファロ島にて、どうにかコンノ二世を落ち着かせた。島の人々は怪獣たちの激闘で崩れた山の様子を見に行ったり、集落は安全か確認したりとバタついている。そんな中、ショック状態だったコンノ二世がポツリ、ポツリと話を始めたのだ。

 

「島の雰囲気、おかしかった。普段なら山の上で見張ってる人、イナイ。集落から迎えも、コナイ。これ、おかしい。そう思って、良太郎さんと島の奥地へ様子を見にいったんデス」

 

良太郎おじさん・・・懐かしい名前がコンノ二世の口から飛び出し、宏樹は内心感情が大きく揺さぶられた。

 

「集落にも、誰もいない。オカシイ。そう思って山の奥、行こうとしまシタ。そうしたら、ボーが、島の王者が・・・ボロボロになって現れたんデス」

 

よほど恐ろしい思いをしたのだろう、話しながらも時折、身体が震えてしまう。そんなコンノ二世に、息子の三世は背中をさすり、ココナッツのジュースを飲ませる。

 

「ボーは、これまでも、島に上がってきたタコの悪魔や、島の奥地に潜み、島の人を食べてしまう大蛇をやっつけてしまう、とても強い存在でした。そのボーが、傷だらけで山から転げ回ってきたんデス。そんなボーを・・・あざ笑うように、山の陰から現れたあの怪獣・・・あれが、ゴジラだと、良太郎サンが顔面蒼白・・・言葉に詰まって話してくれまシタ」

 

「コンノ二世、それじゃあ、22年前にこの島にゴジラが現れて、キングコングと戦ったっていうのか?」

 

飯島はコンノ二世が動揺しないよう、努めて落ち着いた声で訊いた。

 

「ハイ・・・。ゴジラ、恐ろしい存在だということは、オトーサンから聞いてました。そのゴジラが、どうしてこのファロ島に現れたのか、なんでなのか、わからないデス。でも、ボーをやっつけてやろう、そんな雰囲気がたっぷりでした。ボーは、ゴジラが口から吐き出す、青くまぶしい光に身を焼かれ、尻尾で何度も叩かれて・・・ゴジラに、やられてしまいそうでシタ。そんなときデス、突然、島に地震?起きたのは」

 

宏樹は首を傾げ、マックスを仰ぎ見た。マックスも同じことを考えていたようで、宏樹の視線に頷き返した。マックスの話では、当時ファロ島近辺では地震計に記録がなかったということだったはずだ。

 

「島の大地、底から崩れました。山が横に倒れて、地面の土が盛り上がりました。そこへ・・・そこへ・・・ああ!」

 

激しく動揺するコンノ二世。三世は「オトーサン」と呼び掛けて励まし、神鍋は頭を抱える二世の肩を支えた。

 

「良太郎サンの娘サン、よちよち歩きで、やってきたんです。良太郎サン、娘サンに駆け寄りました。その二人を、崩れた山が呑み込んでしまって・・・姿が見えなくなったんデス・・・!娘サンを追いかけてきた、奥サン・・・良太郎サンの奥サン・・・睦実サンが、私の目の前で、大きな岩に・・・岩に・・・」

 

コンノ二世の慟哭が収まった。代わるように、涙を流し始めた。二世の迫力に、神鍋はたまらず目を拭った。飯島は顔を俯かせ、宏樹は必死に歯を噛み殺し、溢れようとする涙を堪えた。

 

「地面が、地面が沈んでいく渦に、ゴジラが呑み込まれていくのを、見ましタ。ボーも、続いて土砂に沈んでいき・・・戦いを見守っていた、島の男の人たちも、何人も地面に・・・」

 

そこまで言うと、二世は号泣し始めた。三世と神鍋が必死に抱きしめ、共に泣いた。宏樹はとうとう、涙を溢れさせた。

 

「おそらく・・・おそらくだけど」

 

宏樹の肩をポンポン叩き、飯島が口を開いた。

 

「二世は、凄惨な光景を見てしまって、記憶の奥底に封じていたんだろう。今日まで。そして、理由はわからないが、この島の地中に沈んでいたゴジラが再び現れ、そのときの記憶がフラッシュバックしたんだろうな」

 

「その・・・その後、デス」

 

泣きじゃくっていたコンノ二世が、むせびながらも口を開いた。

 

「ボーが、土の中から帰ってきたんです。全身血まみれ、ゴジラに肌を焼かれ、ひどい有様でした。そんな有様なのに、やはり血まみれの小さな女の子・・・良太郎サンの、娘サンを手に収めていたんデス。チキロ酋長はじめ、生き残った島のみんなで、女の子を治療しました。何日かして、息、吹き返しまシタ。島に残ったワタシたち、ボー、みんな喜びました。その子・・・アモ、です。島のみんなから、島に伝わる伝説の女神の名前をとって、アモ、名前、つけられました。怪我のせいか、目は見えなかったケド・・・ボーと通じ合い、ボーと仲良くなれる・・・不思議なチカラ、持っていたんデス」

 

やはり・・・宏樹は痛感した。アモはやはり、真佑ちゃんだったのだ。

 

「ボー、ひどく怪我してました。でも、アモ、一生懸命、励ましました。ボーの怪我、アモが島の言葉、ワタシが教えた言葉、話せるようになった頃には、すっかり元気になりました。でも、その頃からデス。島の中、あとは、島の海域、いままで見たことないような、悪魔が現れ始めたの。最初、島の奥から現れたの、ゴロでした。あんな大きな怪物、これまで島に出てきたことありません。ボーと違って、集落、襲いました。ボー、力いっぱいゴロを殴りました。ゴロも、飛び上がってボーを蹴りました。やがて、とうとうゴロが力尽きました。ボー、島に危害加える悪魔、容赦しまセン。でも、アモが不思議な音色の笛を吹くと、ゴロ、アモに懐きました。ただの貝殻、アモ、上手に吹いたんデス」

 

宏樹たちはすっかり見通しが良くなった島の向こうへ目を馳せた。集落から海へは岸壁が立ちふさがり、ここから海は見えなかったのだが、いまでは山が崩れ、海岸線を見ることができる。現れたゴジラが山を突き崩したのだ。

 

視線の先では、ゴロが横たわっていた。目は醒ましたようだが、泡混じりの力ない呼吸をするばかりだ。

 

「それからも、ゴロほどではないものの大きなトカゲ、大きなコウモリ、コンドルもそうです。次々と、島に現れました。みんな、ボーがやっつけました。アモの笛で大人しくなる獣もいましたが、海に現れた、赤い悪魔・・・エビラですか。神鍋サン、名前、つけてくれましたネ。アレだけは、獰猛でした。島に近寄る船、みんな沈めてしまいました。ボー、海に入れば、勝ち目ない。エビラも、島に上がったらボーに勝てない、わかってまシタ。だから、時折お互いを追い払う程度に争ってまシタ。エビラ、地形が変わって湧き出てきた黄色い泉・・・アレは、黄色い木の実の成分が溶け出した泉デス。その泉の水、ウンと嫌いデス。海に流すと、島に近寄ってきませんデシタ。アモが、島の長老から大人になる儀式を受けた頃には、エビラ以外、島に悪魔も出なくなりました。ゴロと、コンドル。ボーと仲良しでした」

 

「なあ、コンノ二世」

 

おもむろに、マックスが話し出した。

 

「その、島の地形が崩落したことと、島の住人たちがオレたちを嫌悪することに、もしかして関係があるのか・・・?」

 

そう訊くと、コンノ二世は大きく頷いた。

 

「マックスさん、気、悪くしたら、ごめんくだサイ。島にゴジラが出てきて、地震が起きて、山が崩れたのは、金色の髪に白い肌の奴らが島の奥地へ何かを埋めたからだ・・・生き残ったみんな、口にしてました。ワタシ、現場みてナイ。本当のところ、ワカラナイ。でもそれで、金色の髪をしたヤツラ、みんな大嫌い、なりました」

 

コンノ二世の話を聴き、マックスは深くため息をついた。宏樹も、自身の髪をいまからでも黒くした方がいいか・・・と、思わず頭を撫でた。

 

「ひとつの仮説だが」

 

そう前置きして、マックスは話し始めた。

 

「米軍は地下核実験をこの島で実施している可能性が高い、という話はしたよな。まさしく、ゴジラがこの島に現れた際も、実験を行おうとしていた。ところが島に上陸し、争い始めたゴジラとキングコングを見て、早々に撤収した。このとき、連中がどういう目的で核を起爆させたのかはわからない。単に慌てていたのか、はたまた、非公式にせよ核を以てしてゴジラをキングコングを葬り去ろうとしたのか・・・とにかく、通常より浅い深度で核を起爆した結果、島の地形を大きく変えてしまった。キングコングはどうにか抜け出したが、ゴジラは多量の土砂に埋もれ、今日まで眠り続けていた・・・」

 

「たしかに。そう考えると、この島に今日ゴジラが現れた理由を綺麗に説明できてしまう。だがそれはマックス、あんたが意図してなかったとはいえ、この暴虐に手を貸したということにもなるぞ」

 

飯島は冷静だが、やや怒気のこもった口調で言った。一瞬ムッとした顔をしたマックスだが、否定し得る要素もない。神妙な表情で目を閉じた。

 

「でもさ、なんで今日になっていきなりゴジラが目を醒ましたんだろ?アイツ一度眠ると20年以上起きない爆睡体質だとか?」

 

神鍋が誰にともなく訊いた。

 

「なんともいえんが・・・朝進グループの2人、アイツらがカギを握ってそうだな。ブンチャヤとボロロが見張っているが、話をきいてみるとするか」

 

マックスがそう言ったとき、島の住人たちが血相を変えて山から降りてきた。その様子を見て集落のチキロ酋長を含む長老たちが出てきて、しばらくすると長老たちも怒声を上げ始めた。

 

すかさずコンノ三世が駆け寄り、事情をうかがう。

 

「・・・どうかしたのか?」

 

マックスが訊いた。宏樹たちは呆気に取られて声も出せなかった。あの温厚で朗らかなコンノ三世が、般若のように険しい表情をしていたからだ。

 

「・・・黄色い泉、なくなった話した。そこから、何か大きなものが地中から這い出た形跡がある、って・・・」

 

それだけつぶやくと、ハッとしたようにコンノ二世が顔を上げた。

 

「黄色い泉、簡単になくならナイ」

 

宏樹たちは押し黙り、互いに視線を交わした。マックスが指笛を鳴らすと、監禁していた小屋からイとソンがブンチャヤとボロロに連れられて出てきた。義憤から事情を訊こうとしていたチェ支社長も一緒だった。

 

「コイツら、なんにも話しやしない!オレのこと、バカにしてる!」

 

そう憤るチェ支社長を嘲笑うように、イとソンは口元を醜く歪めていた。

 

風船が割れるような音が、集落に木霊した。宏樹はあまりの音量に肩が思わずすくまった。

 

マックスがイの頬を思い切りひっぱたいたのだった。

 

「いいか、次にまたナメた顔をしてみろ。今度はこの拳を固めて貴様を殴る」

 

マックスから放たれた言葉は、英語でも日本語でもなかった。だが何を話したかはおおよそ見当がついた。ひっぱたかれたイは驚愕の表情を浮かべ、傍らのソンも顔を引き攣らせている。チェ支社長は意外そうにマックスを見遣るのだった。

 

「わかるよな。お前たちの言葉を操れるのはチェ1人だけじゃないってことだ。ではオレの言うことにきちんと答えろ。お前たちは何者だ?そして、どういう意図があってこの島へ同行した?」

 

マックスは2人の胸ぐらを乱暴につかみ上げた。だが2人のとも子どもの使いではない。そう問われてすんなり答えることはしなかった。

 

「話さないのなら、話したくなる手を使うぞ。覚悟しろ」

 

今度はソンの頬を軽くひっぱたいた。イの左頬はさきほどの一撃でミミズ腫れを起こしている。たかが平手打ちとはいえ、マックスのソレは相当強力らしい。

 

グッと息を呑むイの左手をおもむろにつかむと、乱暴に親指をつまみ、ズッとひっぱった。瞬時にイの手が鮮血に染まり、一拍の後イの絶叫が集落をゆらした。マックスは親指の爪を引っこ抜いたのだ。

 

「もう一度訊く。貴様らは何者だ?この島にどんな目的でやってきた?」

 

言いながら、マックスは爪が剥げた親指の部分をグリグリ押し回す。喉を枯らさんばかりに悲鳴を上げるイだが、それでもマックスの質問に答える気配がない。

 

マックスは躊躇せず、人差し指、中指の爪を引っこ抜いた。あまりの光景と悲鳴に宏樹は目を背け、神鍋はマックスを止めようと思わず手を伸ばした。

 

「もう一度訊く。貴様らは何者で、どんな目的がある?」

 

涙と鼻水を流しつつも、イは頑なに口を開こうとしない。マックスは隣で震え始めたソンに目を向けた。身をこわばらせ、逃げ出そうとするも、ブンチャヤにがっしり捕らえられて身動きが取れない。

 

マックスはソンの頬を右手で握った。思わず口を開けたソンだったが、マックスはおもむろにナイフを握り、数本の前歯を歯茎ごと抉り出した。

 

「あぎゃああああ!!!おごごごご・・・・!」

 

猛烈な痛みに悲鳴を上げるソンだったが、溢れ出る血で喉が埋まり、溺れたような声を出した。

 

「どうだ、お前の相棒はしばらく話せない。お前しか話ができる人間はいなくなったぞ。もう一度訊く。貴様何者だ、そしてどういう目的がある?」

 

イは目こそマックスを睨みつけているが、その目からはいまにも涙がこぼれそうで、顔には玉のような脂汗を浮かべている。

 

「どうあってもしゃべらないか。もっと痛い目を見よう」

 

マックスは低くつぶやくと、ナイフの切っ先をイの左手首に突き刺し、見事なまでの速さで切り裂いた。勢い良く血が噴き出し、痛みと正気を失うほどの出血に悲鳴ともうめき声ともつかぬ怒声を上げるイだった。

 

「オレはこういう出血を止める方法を心得ている。だが何も施さなければ、貴様はもう30分と持たず失血死を迎える。何なら、右手も同じようにしてやっても良いんだ。そうすれば、もう半分の時間でお迎えが来る。これからどうするかはお前次第。いいか、もう一度訊くぞ」

 

マックスは顔をグイッと近づけて、ゆっくりとそして大きく訊いた。

 

「貴様らは何者だ?何の目的があってこの島へ同行したのか?」

 

だがマックスの迫力と失血で意識が飛びそうになったのか、イは白眼を剥いて頭をだらけさせてしまっている。

 

「もう同じ質問はしないぞ」

 

そんなイのズル剥けた爪を強く握って意識を覚醒させるマックス。ひどく耳障りな悲鳴をあげた後、なにかを言い始めた。

 

「聞こえるようにもう一度言うんだ」

 

そう言われてブンブン頷くも、多量の汗が顔を伝い唇が青くなったイはなかなか二の句を継ぐことができないらしい。

 

「オレはすこぶる機嫌が悪い。右手も切るか」

 

マックスはイの右手首にナイフを当てた。

 

「ォン・・・パ・・・」

 

「もう一度だ」

 

マックスは敢えて切っ先を手首に食い込ませた。もう数ミリ突き刺せば、動脈を切り裂いてしまえた。

 

「ジン・・・グォン・・・派・・・」

 

「・・・・ジングォン派?」

 

「ちょっと、ジングォン派と言ったか?」

 

チェ支社長が母国語でマックスに訊いた。

 

「ああ。たしかにそう聞こえたが」

 

「ちきしょう!カットゥギか!」

 

「おい、カットゥギだって?」

 

今度は飯島が反応した。

 

「なに?カットゥギって?」

 

宏樹が訊いた。

 

「組暴(カットゥギ)。韓国の反社会的勢力のことだ」

 

飯島が言うと、顔を紅潮させたチェ支社長が振り返った。

 

「ジングォン派!韓国でも最大規模の組暴だよ!表向きも裏でもやりたい放題!うちの会社にも良悪両方影響あるし、韓国政界にも強い影響力持ってる!あんまり言いたくないがな、南太平洋でウチを含めた韓国企業が牛耳ってるエリアは必ずナワバリにしてるダニのような連中だぁ!」

 

怒り心頭のチェ支社長はそれから、血まみれの口を押さえてのたうち回るソンに母国語で怒鳴り始めた。マックスは事情を含んだ上で、イの右手に突き刺しているナイフの力を強めた。

 

「左手の動脈を掻き切ってから4分と52秒が経過してる。残り25分・・・いや止血の時間を考慮して、残りの10分ですべてを洗いざらい話すんだ」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ソロモン諸島サンタ・イザベル島のブアーナ市。

 

ファロ島から高速船で北へ1時間ほどのところにある小島から、韓国企業保有の小さな飛行場をセスナ機で経ち、ソロモン諸島の中でも比較的大きな都市であるブアーナ市の空港に降り立った3人の男と、抱えられた1人の若い女性。

 

ファロ島から目当ての女性、アモを連れ出し、ここまで延べ4時間。一連の工作を手掛けた韓国陸軍特殊部隊出身で、現在は裏社会で殺しと破壊工作を請け負っている男、ファン・イグソンは額の汗を拭うと、アモを抱えたまま韓国企業が保有する貨物機へと足を進めた。

 

時刻は昼下がり、もっとも気温が高い時間帯だ。もうすっかり仕事が終わったとばかりに、同行しているジングォン派のゴロツキ2名はすっかり空にした数本のビールで酩酊してしまっている。あきれながらも手筈通り貨物機へ乗り込むと、自身はもちろんのことアモにも律儀にシートベルトを着用させた。

 

ここへ向かうセスナの中で2度ほど目を覚ましかけたため、少し多めに薬を注射しておいた。目的地までそうそう目を覚ますことはないだろう。

 

「なあ〜!もっと薬打っといた方が良いんじゃないのかぁ?」

 

ゴロツキの1人がビール臭い息で話しかけてくる。

 

「もう十分だ。それに多ければ良いというワケじゃない。多過ぎて呼吸器まで眠らせては死んでしまうからな」

 

「日本まで生かせろだったもんなぁー!めんどくさい話だよ」

 

言うだけ言うと、ゴロツキはアルコールの作用で眠りこけてしまった。貴様にこそ致死量の薬を注射してやろうか、そう毒づきたくなった。

 

「そろそろ離陸するぞ」

 

貨物機は韓国企業の朝進グループが保有するもので、これから日本の中部国際空港を経由して韓国・釜山へ向かう貨物チャーター便だ。

 

日本と韓国へ運搬する貨物に加え、取引先の社員を日本の名古屋まで送り届けなさいという本社からの指示とはいえ、むさ苦しい男3人にエキゾチックな南洋の眠れる美女という一行を怪訝に感じつつも、朝進グループの乗務員は珍妙な乗客にシートベルト着用を促した。

 

「おい、名古屋までどれくらいかかる?」

 

ファンはこちらを疑わしく見てくる乗務員に訊いた。

 

「8時間てところだな。現地時間で夜の10時頃にはなるだろう」

 

「わかった。頼みがある。彼女を起こさないでくれ、死ぬほど疲れている」

 

そう言われた乗務員は、ぐったりとしている南洋の美女に良からぬ想像を働かせつつも頷いた。

 

ひとまずファンも眠りにつくことにした。同行するゴロツキどものようにアルコールの作用は必要ない。眠るべきときに眠れるのもプロなのだ。

 

とにかく、日本の名古屋までこのアモという女性を送り届ければ自分の仕事は終了だ。あとはこの女がどうなろうと知ったことではない。今回のクライアントであるジングォン派しか与り知らぬところだ。

 

使えない同行者たちにはうんざりしたが、とにもかくにも血相を変えたキングコングに恐れをなしたのか、エビの化け物に襲われることもなくアモを島から連れ出せた上、アモを追ってきたキングコングを米軍が開発した最新型の高性能機雷で屠去ることができた。仕事の出来具合としては上出来も上出来だった。

 

報酬は名古屋で渡されることになっている。裏社会の常で、幾度かにわたる為替とやり取りの末、すっかり洗濯された金を現金で受け取ることになっている。今回提示した報酬額は米ドルで60万ドル。相場からすれば極めて高額だが、今回は多大なリスクを伴う分、現実的ですらある。何せ相手は武装した軍隊でも、厳重な護衛に警備された上級国民でもない。怪獣なのだ。

 

満足気に大きく息を吐くと、ファンはそのまま微睡に引き摺り込まれていった。

 

 

 

 

 

 

ちょうどそのころ、サンタ・イザベル島近辺の名もない小島にて、現地の住人たちが白波を煽り立てて北へ猛烈な速度で泳ぐ巨大な猿を目撃していた。

 

だがこれといった通信手段もない島では、その出来事を外部へ発信することができず、はたまた外部へ発信するという意識すら持ち合わせていなかった。

 

インドネシア海軍が米軍の通報によってパプアニューギニア近海を警戒し始めるのは、いま少し後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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