続! キングコング対ゴジラ   作:マイケル社長

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―それにしてもキングコングって、ヘリコプターとよく戦うなあ―

・三重県桑名市 霧雨がしとしと降りしきる、ナガシマスパーランド

 

 

 

 

 

東海地方随一の娯楽施設、ナガシマスパーランド。

 

平日と折からの台風一過で、通常より入場客は少なく、アトラクションによっては降雨と強風を理由に運転を休止している施設もあった。

 

それでも、早朝のうちに台風が通過したその日に来園していた人は決して少なくなかった。伊勢湾岸道をはさんで、あわせて1万台駐車可能としている広大な駐車場の半数は自家用車で埋め尽くされており、JR名古屋駅と桑名駅から運行されているシャトルバスも、営業開始時間からなかなかの人手になっていた。

 

キングコングはそんな中、長島観光本社屋わきの空き地となっている土地に鎮座していた。尻を地面につけてあぐらをかき、手のひらに横たわっているアモを、指で優しく撫でている。アモは目を醒ます気配がなく、途方に暮れたようにキングコングは低く唸り声を上げるばかりだった。

 

訪れていた観光客にとっては幸いだった。キングコングが園内に鎮座して1時間になるが、それ以上動き回ることがなく、園内からの避難は比較的早いうちに済ませることができた。駐車場の車両はほぼ避難を終えており、シャトルバスで来園していた人々も、園が出したシャトルバスで園外へ脱出することができていた。とはいえキングコング出現から伊勢湾岸道は通行止めとなっており、JRも名鉄も運行を停止しているため、そこから先の避難には及んでいなかった。

 

最寄りの桑名警察署から数台のパトカーが出動し、ナガシマスパーランド近辺の主要道路封鎖とキングコング警戒に当たっているのだが、警備に当たっている雨合羽姿の警察官たちも、自分たちではどうすることもできないことは百も承知している。早いところ自衛隊に来てもらい、キングコングの掃討を実施するまで、しばらくは恐怖を押し殺してしかめっ面を保つ他なかった。

 

キングコングはアモが濡れないように、手で覆った。アモを案じ、不安そうに俯く。だがキングコングは、ふいに顔を上げて南西の空を見遣った。厚い灰色の雲に覆われた空の向こうから、かすかに音がするのだ。それは60年前、自分がやはりこの大地にやってきたとき、自分の頭上をけたたましく飛び回っていたものと同じだった。

 

アモを気遣う表情は、一瞬にして歯ぎしりを剥き出しにする険しい表情となった。うっとうしいものの歯向かってこなかった60年前とは異なり、間違いなく、自分に害を為すべく迫ってきている・・・動物的本能で、それを察知した。

 

アモを右手で優しく、しかししっかりと握った。キングコングは立ち上げると、迫りくる殺気に対抗するように大きく吼えた。霧雨を吹き飛ばすほどの勢いだった。

 

 

 

 

 

「長島上空現着、ヒトヨン:サンロク。目標を現認。攻撃準備態勢を維持しつつ待機する。オクレ!」

 

陸上自衛隊明野駐屯地を拠点とする第五対戦車ヘリコプター隊で、今回の攻撃小隊長を任じられた渡邉三尉は駐屯地司令部にそう報告すると、操縦桿を上向きにして高度を上げた。後続の二機も渡邉に倣い、およそキングコングの拳が届かないであろう海面200メートル上空まで上昇、その高度を維持したまま待機することとした。

 

『攻撃小隊、攻撃の編隊を組んで待機せよ。オクレ』

 

「攻撃小隊、了解。オワリ!」

 

短く返答すると、渡邉は僚機に対し呼びかけた。

 

「打ち合わせ通りだ。オレがキングコングの前面に回り込む。二人とも後方からはさみ撃ちの状態を作れ」

 

『了解。高度は維持したままか?』

 

渡邉から見て右手後方に位置している丹生3尉が訊いてきた。

 

「全機、高度は維持せよ。対面からはさみ撃ちにしつつ、総監部より攻撃命令が下され次第、発砲する」

 

『攻撃目標は、標的脚部で間違いないな?』

 

渡邉が答えると、今度は左手後方の金村3尉が訊いてきた。

 

「作戦に変更なし。よろしく頼むぞ」

 

心配性の同僚にそう答えると、渡邉はヘリを前進させ、長島から木曽川河口付近でヘリを転身。キングコングと相対する形になった。

 

キングコングはだいぶ興奮しているようで、渡邉を睨みつけたまま顔を前のめりにさせて鼻息を荒くしている。

 

渡邉は無言で、ヘリ前方下部に設置されている20ミリ機関銃の照準をキングコングの足元に定めた。

 

陸上自衛隊が保有する対戦車ヘリコプターは現在2種類あるが、渡邉たちが所属する第五対戦車ヘリコプター隊には主力ともいえるAHー1S、通称コブラが配備されている。同期である丹生、金村と共に明野駐屯地の対戦車ヘリコプターパイロットに選抜されて以来、このコブラを駆って実戦を意識した訓練を重ねてきた。

 

とりわけ渡邉は、対戦車戦闘や陸上部隊支援以上に、ヘリコプターによる対怪獣戦闘に強く力を入れてきた。世界大戦中ならいざ知らず、現代の日本においては敵国の陸上部隊が日本本土に上陸し、戦車を乗り回して国土を蹂躙するなどあまり現実的ではない。

 

その点、ゴジラやキングコングといったかつて日本を襲った怪獣は、ずっとなりを顰めていたとはいえいつ何時、また日本にやってくるかわかったものではない。少なくともロシアや中国の軍が揚陸艦に戦車をたっぷり詰め込んで日本に上陸するより、よほど現実性がある。

 

陸海空、全自衛隊の装備が乏しかった60年前と異なり、今は多彩な装備を豊富に揃えている。火力も60年前とは比較にならない。

 

とはいえ・・・数時間前に、米領グアムをゴジラが襲撃した件は非常に気にかかっていた。米軍はグアムに精鋭部隊を置いているが、その攻撃もゴジラにはまったく通用しなかったばかりか、事前の探知すら困難だったというではないか。怪獣上陸を想定してきた訓練が、ゴジラ相手にはどこまで通用するか・・・そう不安を抱いていた矢先、キングコング伊勢湾に出現の報せが入った。

 

果たしてゴジラは日本にやってくるかは未知数だが、ゴジラと違ってキングコングなら、自分たちの装備でも太刀打ちできるはずだ・・・確信はないが、自信はあった。

 

入隊以来の同期2人と、たまたま飛行当番だったことも幸いだった。互いに気心が知れているし、水も甘いも知り尽くしている連中だ。3機合わせての対怪獣シミュレーションも、幾度か重ねている。

 

『明野HQより対戦車ヘリコプター小隊へ。中部総監より攻撃の許可が発令。攻撃を許可する。必ず対象を掃討せよ。オクレ』

 

渡邉をはじめとした3人は一気に緊張感を高めた。

 

「対戦車ヘリ小隊、了解。必ず対象を掃討する。オワリ」

 

それだけ答えると、渡邉は機を少し前進させた。

 

「各機、攻撃を開始する。射撃用意!」

 

3人ともゴクリと唾を呑み込み、ヘリの期首下部に付いている20ミリ機関銃のトリガーに指をかけた。シミュレーション、あるいは模擬弾の使用こそ多かったが、当然実弾射撃はこれが初めてだ。対怪獣戦闘とはいえ、不用意な武器使用は自衛隊法に抵触してしまう恐れがある。

 

そのときだった。キングコングは大きく吼えると、まるでこちらの殺気を確信したように走り出した。丹生、金村機の真下を走り抜けると、巨体に似つかわしくない軽々しい跳躍でスパーランドが誇るコースター「白鯨」の中に飛び込んだ。「白鯨」はもっとも高い地点で地上50メートル。それよりほんの少し低いキングコングは、蜘蛛の巣のごとく白く映える支柱の中に身を隠すようにしゃがみ込んだ。

 

急な動きに動揺こそしたが、渡邉は気を取り直してキングコングの後を追った。丹生、金村機は転身するだけで、キングコングに肉薄した。

 

「厄介なところに逃げ込みやがった」

 

渡邉はそうボヤくと、高度を300メートルまで上げて前傾姿勢でのホバリングを行った。この角度ならうまいことキングコングを狙いつつ、幾何学的に組み上げられた白い鉄柱に傷をつけることもなさそうだ。

 

「ヤツめ、みずから檻に入るようなマネを」

 

キングコングに照準を定めつつ、渡邉はぼやいた。

 

「オレはここから射撃する。丹生は西側後方、金村は西側前方から射角調整の後、攻撃を開始」

 

『『了解』』

 

ジェットコースター「白鯨」は西側が比較的高度が低く、コースターの高架越しにキングコングの背中が丸見えだ。足元を狙うことは困難だが、背中へ機関銃の弾丸を叩き込んでやることはできる。

 

『なんだか・・・何かを守ってるような感じだな・・・』

 

インカム越しに、金村の声が飛び込んできた。

 

「よくわからんが、おかげで背中丸出しだ。いくぞ」

 

金村は悪く言えば臆病、良く言えば気が付く性格だ。そんな僚機のつぶやきが気になりつつも、渡邉は正確に照準を合わせた。

 

だがそれを察知したかのように、キングコングは牙を剥き出しにして吼えてきた。歯ぎしりしながら立ち上がり、怒りに満ちた両目がコクピットからでもわかるほどだった。

 

「丹生、金村。後退しろ」

 

僚機は素直に従った。渡邉自身も感じていた。キングコングの、恐ろしいまでの怒りと殺気を。

 

「ヤツの手が届かないところから、攻撃を試みた方がよい。高度を400メートルまで上昇させる」

 

言いながら、渡邉はヘリを上昇させた。コクピットには細かい水滴が絶え間なく降り注いでいるが、ありがたいことに風は弱まりつつあった。明野から飛来するときは、時折機が大きく揺れるほどの風が吹きつけてきた。

 

突然、短く吼えるとキングコングは「白鯨」の中から飛び出した。勢いあまってその先の大観覧車「オーロラ」に背中から激突するも、意に介せずそこから南側の駐車場へ逃れ、ホテル花水木正面に達したところで身を屈めた。

 

「野郎」

 

幸い大観覧車は倒壊することはなかった。渡邉は機を転身させたが、キングコングの興奮は尋常ではない。

 

『いま撃てば、ホテルへの被害は避けられそうにない。どうする?』

 

丹生が問い合わせてきた。渡邉の答えは決まっていた。

 

「ここで仕留めなければ、爾後の被害は予想がつかない。ヤツはホテルを背にしてる。3機で囲み攻撃だ」

 

渡邉は迷うことなう前へ出た。丹生と金村もそれに続く。しゃがみこんでいるキングコングに銃口を向ける。まるで自身の手が届かない場所にいる自分たちへ激しい怒りを向けるように、キングコングは歯ぎしりしている。

 

「射撃開始」

 

渡邉の宣言で、3機すべての20ミリ機関銃が火を噴いた。4連身の銃身が高速で回転しながら弾丸を吐き出し、一直線にキングコングへ向かう。

 

最初の数発こそキングコングの左脚に命中したが、怒声を上げてキングコングは飛び上がった。残りの弾丸はホテルの外壁を粉砕し、建物を貫通して伊勢湾へ吸い込まれた。

 

着地したキングコングは、二足歩行で走り出した。三井アウトレットパークを踏み荒らし、伊勢湾岸道を飛び越えると、駐車場に残された自動車を拾い上げ、渡邉たちに向けて投げつけてきた。

 

「回避!回避!」

 

慌てて渡邉は怒鳴る。3機はそれぞれに旋回し、危ういところで飛んできた自動車をかわした。なおも数台を投げつけてくるキングコング。ホテルや長島温泉大浴場に落下した自動車は粉々に潰され、ガソリンに引火して激しく発火したものもあった。

 

「くそう、追うぞ!」

 

3機はフォーメーションを組み、一直線に大駐車場で暴れ回るキングコングへ向かう。3機同時に機関銃を発射する。アスファルトが直線状にめくれあがり、その先のキングコング左脚に命中した。絶叫すると、再び背を向けて走り出した。

 

「まずい、川を渡るぞ!」

 

湾岸長島インターチェンジを蹴り壊し、木曽川に差し掛かる前に渡邉はキングコング前面に機を滑り込ませた。後方から丹生と金村が攻撃ポジションへ機を持っていく。当初のフォーメーションだった。

 

間髪入れず、渡邉は機関銃の引き金を引いた。それは丹生と金村も同じだった。キングコングの下腹部と臀部に20ミリ機関弾が絶え間なく突き刺さる。怒りの咆哮を上げ、キングコングは渡邉に突進してきた。慌てて射撃を中止し、機を上昇させる。キングコングは右手を突き出して飛び上がった。ヘリをつかむことはできないが、何度も飛び上がって渡邉機をつかみかからんとしてくる。

 

丹生と金村が援護射撃をしたが、激しく動くキングコングに照準が定まらず、木曽川に激しく飛沫を上げる程度にとどまった。

 

再び吼えたキングコングは、木曽川を越えて県境をまたぎ、愛知県へ侵入した。対戦車ヘリ小隊も後を追うが、予想以上にキングコングの移動速度が素早い。

 

「丹生、速度を上げて先回りだ!庄内川河口でヤツを食い止める!金村は後ろからそのまま追い立てるんだ」

 

『『了解!』』

 

急ぎ、渡邉は出力を上げてキングコングの頭上を通り越した。それに丹生も続く。飛島村はキングコング出現時から全域に避難指示が出され、また比較的農地が多いこともあって、キングコングの移動に伴い多少の建造物倒壊といった被害はあるものの、この状態でこの先に位置している名古屋市へ侵攻させるわけにはいかない。

 

名古屋市にはキングコング出現時より避難勧告と屋内退避が発令されているが、人口230万人を誇る中部地方の中心都市にこんな巨大な動物が侵入した場合、被害は計り知れない。

 

渡邉機と丹生機は名古屋市側の陸地上空に陣取り、方向を転換させてホバリング状態になった。ちょうど名古屋都市高速第二環状線を叩き壊したキングコングが、日光川と庄内川が合流する河口にまで進んできた。そこで自分を待ち構えている渡邉と丹生の機を見て、進行を止めて歯ぎしりをする。

 

「丹生、金村。ここは確実に仕留めよう」

 

『ロケット弾ポッドを使用するのか?』

 

「ああ。3機同時に、ヤツへ叩き込んでやろう。これ以上の侵攻を許すわけにはいかない」

 

『『了解!』』

 

3人はほぼ同時に、機体両部に備え付けられているロケット弾ポッドのスイッチを入れた。無誘導ながら対戦車用炸薬弾を連発で放たれる火力は、強固な装甲に囲われた戦車をも破壊する威力を持つ。これを一斉に叩き込むことで、キングコングの動きを封じる考えだった。事実、キングコングは機関銃を叩き込まれたところから出血している。ならばより高威力の火器であれば、充分効果を見込めるだろう。

 

はさみ撃ちになっている状況を察し、キングコングは前後を振り返りつつ、左手を右手で覆った。しばしキョロキョロした後、気合い一閃、大きく吼えた。

 

「発射!」

 

キングコングが吼えるのと、渡邉の号令はほぼ同時だった。勢いよく踏み込んだキングコングは、3歩目で大きく川底を蹴り上げた。パルクールのような動きで、頭を視点に身を大きく回転させ、渡邉機と丹生機を飛び越えてしまった。放たれた数発のロケット弾はすべて河口に突き刺さり、水飛沫と川底を大きく跳ね上げて破裂した。

 

「くそっ!なんて身の軽いヤツ!」

 

慌てて機を反転させた頃には、キングコングは対岸の稲永公園野球場へ上陸し、そのまま東へ走っていた。

 

「とにかく追うぞ!」

 

こうなれば、改めて攻撃が可能な地点に達するまで、ひたすら追跡する他ない。だがここから先は住宅やビルが並ぶ人口密集地だ。そのうえ、自主的に避難をしている市民も多いとはいえあくまで名古屋市には避難勧告しか出されていない。JRや近鉄、名鉄といった鉄道各線も全線が運行を緊急停止している。あちこち道路いっぱいに詰まった車両群から、慌てて飛び出す人々がここからでも確認できた。

 

だが疾走していたキングコングは動きを止めた。名古屋臨海高速鉄道あおなみ線の高架橋が、その行く手を阻んだのだ。そのまま突進すれば難なく突破できそうなものだが、稲永駅に緊急停車していた6両編成のあおなみ線車両をわしづかみにした。

 

連結一両目部分が千切れると、追ってくるヘリ小隊に力いっぱい投げつけたのだ。

 

「回避!」

 

言わずとも、3機は慌てて操縦桿を倒した。だが散開してもキングコングは怒りを剥き出しに、残りの車両をつかんでは投げつけてくる。

 

「上昇!上昇だ!!」

 

すんでのところで飛んできた列車を避けた渡邉は、インカムに怒鳴った。紙一重で逃れた丹生機が一気に高度を稼いでいく。金村機は機体を横倒しにして逃れていく。

 

ひとまず追手が逃れたのをたしかめると、咆哮を上げてあおなみ線稲永駅を突き崩して再び侵攻を始めた。堀川まで歩みを進めたキングコングは、川の上流を仰ぎ見た。鉛色の空の元、その先にいくつか見える高層建築群。

 

キングコングは堀川を走って上流を目指し始めた。都市高速4号線と東海通り、その先の東海道新幹線が通る橋を叩き壊し、なおも北上を続ける。

 

どうにか体勢を整えた渡邉は、僚機と編隊を組んで後を追い始めた。この先には熱田神宮が鎮座している。一瞬そちらへキングコングを誘い込むことを考えたが、かなりの数の市民が避難しているであろうことを思い出してその考えを捨てた。だがこのまま進めば、名古屋市の中枢に達してしまう。

 

国道1号線、東海道本線を粉砕すると、堀川は急激に川幅が狭まる。その道中のさまざまな橋をぶち壊しながら進むキングコングを、市民は建物の中から、はたまた路上から仰ぐほかなかった。本能的に走り出す者も多いが、本能にかられながらもスマホでその様子を撮影する人も少なくなかった。

 

都市高速新洲崎橋が轟沈すると、キングコングは目標とする存在を再び見据えた。唸るような咆哮を上げつつ、県道60号線納屋橋を沈めたところで、西側に転身した。そのまま60号線、通称広小路通りに上陸し、乗り捨てられた車両を踏み潰しながら進み始めた。路上、あるいは車中にいた人々は大慌てで最寄りの建物へ逃げ込むか、無我夢中で走り回っている。

 

人口密集地ということもあり、渡邉たちは地上400メートルからキングコングの様子をうかがった。この状態では攻撃することはできない。

 

「いったい、どこへ行くつもりだ?」

 

渡邉がつぶやくと、『まさか、あの先・・・』と丹生がつぶやいた。

 

丹生が話した先へ渡邉が顔を仰ぐと、JR名古屋駅があった。

 

『JRセントラルタワーだぞ』

 

金村が声を上げた。そういえば、60年前に東京を蹂躙した際には、国会議事堂の中央ホールへ登り上がったときいている。

 

名駅通りに差し掛かると、渡邉たちの不安を的中させるように北へ転身を始めた。名鉄名古屋駅前まで来ると、そびえ立つJRセントラルタワーを見上げた。大きく息を吐くと、高島屋を足掛かりにして、なんとセントラルタワービルオフィス棟に手と足を掛け、登り始めた。

 

『ウソだろ・・・』

 

丹生が絶句するようにつぶやいた。時折つまさき、手先をビルに食い込ませながら、器用に円錐形のビルを登っている。しばらくして、ビルの屋上にたどり着いた。どこよりも高い場所に到達したことで満足したのか、キングコングは大きな咆哮を幾度も上げた。屋上のヘリポートに腰かけると、一気に圧壊して破片が周囲に飛び散る。機関銃で撃たれた箇所は出血こそあるものの、さほどダメージとはなっていないようだ。

 

「むしろ好都合だ。地上とタワーの避難が確認され次第、再度攻撃に移ろう」

 

名古屋でもっとも高い建物にわが物顔で鎮座するキングコング上空を旋回しながら、渡邉はそう呼びかけた。

 

『・・・ちょっと待ってくれ』

 

ふいに、金村機が応答する。高度を下げて、キングコングに接近を始めたのだ。

 

「おい金村、急に何をして・・・」

 

『至急至急!人だ!』

 

渡邉が言い終えぬうちに、金村が叫んだ。

 

『人だ、キングコングは人を握ってる!』

 

「本当か!?」

 

『間違いない!左手で人をつかんでいるんだ!』

 

思わず渡邉も、たしかめるために機体を降下させようとしたが、不用意にキングコングを刺激して攻撃を誘発することはできない。ここは市街地も市街地、大都市の中枢なのだ。

 

『こちらも確認した!たしかに、人の頭が見える』

 

丹生からも連絡があった。かねてから「両目とも視力2.0」と吹聴している彼の報告には信ぴょう性があった。

 

「至急至急!こちら第3ヘリ小隊!」

 

渡邉は歯噛みしつつ、インカムに怒鳴った。

 

「JRタワーに登ったキングコング、人を手に握っている。繰り返す、キングコング、人を手に握っている!今後の行動の指示を乞う。オクレ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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