魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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その手を取り合う物にするか、殺し合うものになるか、それは俺次第。


第三話 接触

 目が覚めるとそこには見慣れない服があった。

 時計の見方は分からないが、太陽の位置から察するに昼は過ぎているとジェフリーは仮説を立てた。

 眠りすぎたことを反省しながらも、服の近くに置いてあった書置きを読む。

 

『学校に行ってくるわ。帰ってきたら魔女の討伐をあなたにもお願いするわ ほむら』

 

 この世界の言葉が読めるかどうか不安だったが字が読めるのを分かると、用意してもらった服を手に取って袖を通す。

 灰色のジャケットに同色のYシャツを着て黒のパンツを履くと、続いてここからどうやって法衣を着ればいいかと考える。

 この世界では魔法使いは忍ぶ存在だということを教えてもらったので、大っぴらに魔法を使うわけにはいかない。法衣姿にもなれないことに窮屈さを感じていたが、愚痴を言っても始まらない。

 右手を突き出すと手のひらから、ホログラムのような状態になった本を浮かび上がらせる。

 それは自分が生贄にした魂の一つであり、本のページの一枚を選ぶと、そこから鋼で作られた腕輪を取り出す。

 通常は鎧が中に入っている腕輪なのだが、空のそれを選ぶと法衣が入るかどうか試してみる。

 

「やはりお前が俺を生贄に捧げた魔法使いか……」

 

 聞きなれた声が響くと、声の方向を見る。

 ちゃぶ台の上に無造作に置かれたリブロムは、ジェフリーの視線に気づくと起き上がって話し出す。

 

「と言っても、お前とは別人だがな」

「ああ、だが俺には分かる。お前はやってくれたんだな……あの馬鹿野郎を止めてくれたんだな……」

 

 その声はいつもの皮肉に満ちた物ではなく、感謝の声が声色から感じられた。

 リブロムの目には涙が浮かんでいた。ジェフリーはその目に溜まった涙を掬い取ると、本から瓶を取り出して涙を入れる。

 

「ありがとうよ。『リブロムの涙』大切に使わせてもらうぜ」

「お前! 人の涙を何だと思って……」

「ただいま……」

 

 リブロムが怒って言い争いが始まろうとした瞬間に、ほむらが帰宅をする。

 見慣れない制服姿にジェフリーは困惑したが、ほむらは何も言わずに魔法少女の姿に変身すると、盾から自衛隊や暴力団から盗み出した武器を取り出して整理を始める。

 

「なぁ……」

「話は後よ。これから魔女の討伐に行くわ、あなたも手伝って……」

 

 必要な武器を選別して盾の中に収めると、ほむらは再び制服姿に戻って歩を進めた。

 ぶっつけ本番なのにジェフリーは不安を覚えながらも、リブロムに向かって軽く会釈をすると、ほむらと共にこの世界での初めての討伐へと向かった。

 自分がこの世界に呼ばれた意味をなすために。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 ほむらの先導でジェフリーは目的地へと向かっていたが、どこにもそれらしい反応はなかった。

 経験上、魔物が近くにいれば即座に臨戦態勢に入れるのだが、ジェフリーの体に危機感は感じられず、ただただほむらの後を付いていただけだが、ほむらが歩みを止めて苦い顔を浮かべると、同じようにジェフリーも止まる。

 

「遅かったわね」

 

 前方から聞こえたのはほむらと同年代ぐらいの少女の声。

 ジェフリーが見上げた先にいたのは、法衣に身を包んだ金色の髪を左右でロール状にまとめた少女。

 様々な魔法使いとコンビを組んで戦っていたが、ここまで派手で優雅な格好の魔法使いを知らず、ジェフリーはまた呆然となっていたが、ほむらに腹を肘で小突かれると注意は彼女の方に行く。

 

「覚えておきなさい。教えるから……」

 

 小声でほむらに言われると、彼女の口から魔法少女たちの説明が入る。

 現在法衣姿でマスケット銃を持っているのが『巴マミ』

 青いショートヘアーでバットを持っているのが『美樹さやか』

 

「そしてピンク色の髪をツインテールでまとめているのが『鹿目まどか』よ。よく覚えておきなさい」

 

 一番重要とされるまどかの情報を念入りに伝えると、ジェフリーは改めて三人の方を見る。

 マミは余裕を持った態度を崩さず、手の中にあった宝石を弄ぶようにしていて、さやかはバットを抱えたまま警戒心を最大限に高めて二人を睨み付けていて、まどかは二人の存在に怯えていた。

 

「ちょっと転校生! 何なのよ、そのオジさんは?」

 

 さやかは特にほむらに対して警戒心が強く、明らかに威圧する調子でほむらに追及した。

 

「あなたには関係のないことよ」

 

 いつも通り素っ気ない態度を取るほむらに、さやかは嫌悪感を抱いて歯ぎしりをする。

 ここでジェフリーはあまりにほむらが孤立しているのを見かねて、助け船を出そうと話しかける。

 

「俺は彼女の協力者の魔法使いだ」

「協力者? 転校生と一緒に何しようってのよオジさん⁉」

 

 その怒りはジェフリーにも向かう。

 この調子を見て現段階でコンタクトを取るのは不可能だと判断したジェフリーは、目的も果たせないと分かるとほむらの方を見るが、彼女は厳しい表情を崩さないまま、マミを見つめていた。

 

「とにかく、あなたの仕事はないわ。これをあげるから今日は引きなさい」

 

 そう言ってマミは手の中にあった宝石をほむらに向かって投げ飛ばす。

 ほむらが受け取るよりも先にジェフリーは物の正体が気になり、宝石を受け取るとしげしげと眺める。

 魔力は感じられるが、攻撃性が全く感じられないことから、供物の類でないことは分かるが、どうやって使う物なのか分からず、ジェフリーは物を見つめながら、困った顔を浮かべていた。

 

「それに関しての説明も後でするわ」

 

 それだけ言うとほむらはジェフリーの手から宝石を奪うと、投げ飛ばしてマミに返すと、彼女たちに背を向けて去っていく。

 

「マミさんの好意を無下にして嫌な奴!」

 

 最後の去り際にさやかが悪態を付くと同じようにマミたちも去っていく。

 ジェフリーは予想外の事態に驚くばかりであったが、ほむらの後を追うと聞きたかったことを順を追って聞こうとする。

 

「辛い物だな。自分だけが何回目の自分かってことを知ると言う事実は」

「もう考えないようにしたわ。でもその言い方だと、あなたの世界では時間逆行の事実が周知に知れ渡っているみたいな口ぶりね」

「その通りだ」

 

 堂々と言い放つジェフリーに対して、ほむらの足が止まる。

 その辺りの詳しいことを教えていなかったのを思い出すと、ジェフリーは話し出す。

 グリム教団という教団が掲げる『永劫回帰』という概念。

 世界は滅び、再びそれが繰り返されるというもの。

 永劫回帰から抜け出す。それを高々と掲げている教団であり、若者を中心にセルト人だけでなくロムルス人も賛同していて、一つの勢力として成り立っていることを伝えた。

 

「まぁ俺が所属していたアヴァロンは相手にしていなかったがな」

「そう……でもそういうのが分かっていて、組織として成り立っているというのは羨ましい話ね……」

「そうだな……」

 

 話している途中でジェフリーは違和感を覚えた。

 全身が覚醒する感覚が襲い、体が戦闘へと特化していく感覚が包んでいく。

 自分の直感を信じたジェフリーは、この世界で初めてほむらの後を抜き、自分の足で目的地へと急いだ。

 ほむらを追い越すと同時に手の中で隼の羽を発動させ、目的地まで一気に向かう。

 

「ちょっと! ジェフリー!」

 

 突然のことに驚きながらも、ほむらもまた魔法で脚力を強化してジェフリーの後を追う。

 いきなり走り出したジェフリーを追いかけていくのに、ほむらは四苦八苦していた。

 その速度は脚力のみに魔法を特化した状態でも、少しでも気を抜けば見失うので視力も特化した状態で追い続けていくと、ようやく止まっていたのを見て、慌ててほむらも魔法を解除して息を切らせながらも話しかけた。

 

「一体何なのよ、突然……」

 

 何も言わずにジェフリーは右手を差し出して力を込める。

 魔のエネルギーが右腕に吸収されていくと、楕円形の異空間への入り口が現れる。

 

「これは魔女の結界⁉」

 

 まだ教えていない魔女の結界をジェフリーが発見して道を開いたことにも驚いたが、今まで見たこともなかった場所に結界が現れたことにほむらは驚いた。

 だがジェフリーはほむらに構わず、これは自分が討伐すべき相手なのかどうかを目でほむらに訴えかける。

 

「そうよ。ここは魔女とその使い魔が支配する危険な世界よ」

「わざわざ住処を分けてくれるとはな。お優しいことだ……」

 

 軽く皮肉を言うとジェフリーは自宅に出も入るかのような軽い感じで結界内へと入って行く。

 この辺りのリラックスした態度は歴戦の猛者だからなのだろうかと、圧倒される部分もあったが、ほむらも中へと入って行った。

 まだこの時間軸でグリーフシードの確保は十分ではない、最悪ここでジェフリーが潰れる可能性だってある。

 ありとあらゆる可能性を考慮し、自分にできることを全力でやろうとほむらはジェフリーに続いて結界の奥へと進んでいく。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 その結果は今までほむらが見たこともない物だった。

 壁一面がほの暗い灰色で覆われていて、その中に巨大な眼球がいくつもある不気味な空間の中でうごめき、壁に埋め込まれた眼球はそのまま使い魔となって二人に襲い掛かった。

 すでに変身を終えたほむらは使いなれたデザートイーグルで撃墜し、まだ法衣に着替えてないジェフリーはちゃんと腕輪の中に入れた法衣が着られるかどうかを気にしながら、襲ってくる眼球を一閃で切り落とす。

 真っ二つに切り裂かれて消滅する眼球に構わず、ほむらはジェフリーの方を見た。

 攻撃をしたのは分かるが、それが何なのかが分からず、もう一回見ようとしたが立て続けに眼球に襲われるので、ほむらはジェフリーのことは彼自身に任せて、自分は己の身を守ることを選んだ。

 

 そうして歩いている内に最深部にいた魔女へと到達する。

 不気味な咆哮を発する魔女は、今までほむらが見たこともない魔女だった。

 蛇の下半身に人間のような上半身を持った紫色の巨大な爬虫類は、体中に目が備わっていて、敵を発見するとその眼が全て二人の魔法使いを捕えた。

 戦いが始まったのを見ると、先手必勝で先にほむらが盾からマシンガンを取り出して応戦する。

 反動は魔法の力でなかったことにして、乱射をする。

 魔女が相手ではこんな攻撃も牽制程度にしかならない、だがほむらは何度もループしてきて、魔女の戦い方というのも自分なりに熟知してきたつもりだ。

 相手が怯んでいる間にお手製の爆弾で一気に大破させるというのがほむらの戦い方。

 時間停止能力はワルプルギスの夜まで取っておきたいと思っていたので、まずはジェフリーの実力の査定も兼ねてマシンガンを乱射していたが、手ごたえがないことをおかしいと思い、一旦引き金を引くのを止めて魔女の方を見る。

 その瞬間無表情だった少女の顔に焦りの色が出た。

 

(弾丸が全て溶けている……)

 

 魔力で強化した弾丸は魔女の皮膚に触れた時には、ドロドロに溶解していて、弾丸だった物が床に散乱していた。

 ほむらが時間停止能力を使おうと盾を構えようとした時だった。ここで今まで静観していたジェフリーが動き出したからだ。

 腕輪を調節して私服から法衣に着替えて変身すると、右手で握り拳を作ると同時に魔法が発動する。

 炎の剣は魔法使いの右手を照らし、燃え上がっていた。

 

「ほむら……こいつぐらいなら俺一人で十分だ。お前は使い魔の処理を頼む」

 

 それは慢心ではなく自信だということが感じられた。

 右手の中の炎の剣は獲物を狩る時を今か今かと待っているように燃え続けていて、相性があまりよくないと判断したほむらは魔女をジェフリーに任せて、自分は使い魔たちの撃退に当たった。

 魔女の分析が終わったジェフリーは炎の剣『改魔のフォーク』を片手にゆっくりと近づいていく。

 不用意に近づく魔法使いを相手に、魔女は体を縮こませると前方に飛び出していく。

 バネの要領で一気に距離を詰めるが、ジェフリーはすぐに改魔のフォークをしまうと、前方の攻撃を全て受け止められる巨大な盾を召喚し、両手で魔女の体を受け止める。

 カウンターになった攻撃は魔女の体を焦がし、血肉が焼け焦げる不快な悪臭が鼻を通った。

 

「思った通り、属性は毒か。なら炎の攻撃で一気に仕留められるな……」

 

 『溶岩鍋の蓋(改)』をしまうと、再び改魔のフォークを呼び出して面喰って動きが止まっている魔女に向かって飛び上がり剣を突き刺そうとした。

 上空からの敵に対して、魔女は全身の眼から紫色のビームを発射した。

 狙いは全て上空の魔法使い。ビームは四方から襲い掛かり、魔法使いの逃げ場を完全に遮断した。

 だがジェフリーの顔に焦りの色は無かった。ビームが自分の直前にまで来て、魔女の体が完全に無防備になったのを見ると、改魔のフォークをしまい、右手を上げて新たな魔法を召喚する。

 

「間抜けが……これで呪部ががら空きだぜ!」

 

 右手の周りに現れたのは炎に包まれた矢。

 右手を振り下ろすと同時に炎に包まれた矢は凄まじいスピードで突進していき、ビームを切り裂いて、そのまま自動でジェフリーの狙い通りの各眼球を襲う。

 

「自動追尾弾ですって⁉」

 

 自分の意のままに襲う矢を見て、使い魔をあらかた片づけたほむらは驚きの声を上げる。

 マミがリボンを形成してマスケット銃を作ったり、リボンでの拘束などは見たことがあるが、それでもここまで精密な動きができる魔法を見たことがなく、驚きの声を上げた。

 少女の驚きの声も無視して、『炎悪魔の矢尻(改)』は、ビームを引き裂いて無防備になった弱点を襲い、矢尻は眼球を貫く。

 瞬間、全ての眼球からどす黒い血が噴き出すと、ジェフリーは返り血を浴びながらも満足そうに笑う。

 今までこんな経験がなかったほむらは、ただただ困惑するばかりであったが、悶え苦しむ魔女を前に一気に勝負を付けようと、ジェフリーは左手に息を吹きかけて、燃え上がるタンポポの綿毛を上空に放つとそれを全て改魔のフォークに宿らせる。

 刀身が倍近くの大きさに変わったのを見たジェフリーは一気に魔女へ向かって突っ込む。

 

「これで終わりだ……魔導斬!」

 

 連携の力で単体時よりも威力が増した攻撃で一気に責め立てる。

 一見すれば乱暴に振り回されているようにしか見えない連撃だが、最小限の動きで効率よく切り付けを繰り返し、弱点の攻撃が深部まで届く。

 その結果瞬く間に魔女は体を保つことが出来ずに、ドロドロに溶けてなくなった。

 ヘドロのようなそれしか辺りには残っていなかったが、ここでまた予想外の事態が起こったことにほむらは困惑を隠せなかった。

 倒せば消えてなくなるはずの魔女がその場にとどまっていたことだ。

 ジェフリーほどの攻撃力ならば、微塵にも残らないはずなのだが、場に残ったコアのような物が何なのか分からず、ほむらは恐る恐る近づこうとしたが、それをジェフリーに制される。

 

「これは魔法使いの罪だ」

 

 それだけ言うと右手を差し出して魔のエネルギーを魔女だったものから吸収しようとする。

 真っ赤な禍々しい闘気が全て右手の中に納まると、魂のような物体は魔法使いの右腕へと宿った。

 体に力が宿ったのを感じると、右の拳を何度も閉じたり開いたりして様子を確かめる。

 この世界の魔女も基本的には魔物と変わらない物だと踏んだジェフリーは、右腕に新たな刻印が浮かび上がったのを見ると、にやりと邪悪な笑みを浮かべた。

 ほむらの元に向かう。

 

「使い魔は片付いたか?」

「え、ええ。まぁ……」

「なら行こうぜ。話したいことが山ほどある……」

 

 お互いに聞きたいことが山ほどあるのは同じこと。

 二人は結界が崩壊するまで無言のまま、その場に立ち尽くしていた。

 ほむらはジェフリーの高い戦闘力から今度こそという期待があり、ジェフリーは頭の中にある最悪の仮説が事実なのかどうかを証明するために。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 結界が崩壊すると、二人はミーティングのために近くの公園へと移動していた。

 ベンチに座って何も言わずに景色を見ているジェフリーに、缶コーヒーを二つ持ったほむらが現れ、片方をジェフリーに手渡す。

 

「何だこれは? 缶詰か?」

 

 渡された缶コーヒーを珍しそうに見るジェフリー。

 予想通りだったとは言え、こんなことまで説明しなくてはいけないのかと情けなく思いながらも、ほむらはジェフリーを自分の方を振り向かせると、プルタブを開ける動作をして中のコーヒーを飲む。

 ジェフリーも恐る恐るほむらの真似をしながらプルタブを開けて、中のコーヒーを飲むと驚愕の表情を浮かべて固まる。

 

「何だこれは……」

「ごめんなさい。お口に合わなかったのかしら?」

「うまい……」

 

 久しぶりにまともに味の付いた物を飲めた喜びから、ジェフリーは一気にコーヒーを飲み干すと感謝のしるしとして、飲み干した空き缶を目の前に置き十字を切ってお祈りをささげた。

 

「いや、そこまでされると……失礼だけどあなたの世界にコーヒーはなかったの?」

「あることにはあるが高級品だ。一部の貴族しか飲めない嗜好品だよ、この手の類は」

「それじゃあ普段は水しか飲んでいなの?」

「真水が手に入ればマシな方だ。それ以上は聞かない方がいいぜ」

 

 そこからジェフリーが生きるために想像を絶するような体験をしたことが分かり、お互いの精神衛生上のため、ほむらはこれ以上の詮索を止めた。

 そしてお互いに思っていた疑問をぶつけ合う。

 

「まずはそっちからでいいわ。話って何?」

「魔女についてだがな。お前まだ話していないことがあるだろ?」

 

 ほむらが魔女についての重要な秘密は伏せておいたのには警戒心もある。

 言えば全員がパニック状態を起こし、そのまま全滅の可能性もある。

 前の時間軸で錯乱したマミが全員を殺そうとしたトラウマから、ほむらは無意識にこのことを避けていた。

 こんな早い段階で最も重要な秘密を語るとは思っていなかったが、ジェフリーの視線は沈黙を許さなかった。

 意を決してほむらは話そうとした時、ジェフリーは自分の仮説を話し出す。

 

「当ててやろうか。魔女ってのは元々は人間なんだろ? この右腕が感じた感覚は人間の魂の鼓動だ」

 

 事実をいきなり当てられたことに、ほむらは固まってしまう。

 だがジェフリーは何も言えないでいるほむらが落ち着くのを待ちながらも、詳しい事実を話してくれるのを待っていた。

 観察眼に驚かされながらも、ほむらは語り出す。

 ソウルジェムとグリーフシードの秘密、魔法少女は絶望しきったその瞬間に、魔女と呼ばれる異形へと変わることを話した。

 錯乱するかとも思われていたが、ジェフリーの顔は至って冷静その物であり、苦痛そうに顔を歪めるほむらを見ると軽く頭を撫でて心を落ち着かせようとさせた。

 

「そう背負い込むことはない。俺も似たようなものだ」

「どういうことなの?」

 

 思ってもいなかった発言に、ほむらは質問を返す。

 

「俺が今まで倒してきた魔物も皆、元は人間だ」

 

 その表情を見れば、それが真実だということは分かった。

 ほむらは今まで語られていなかった魔法使いという存在がどういうものなのかと気になり、その旨を詳しく聞こうとする。

 

「まさか、あなたの世界にもインキュベーターが⁉」

「インキュベーター? それは前に話していたキュゥべえとやらのことか?」

「それについては後で話すわ。そっちが先よ!」

 

 ほむらの気迫に押され、ジェフリーはポツポツと自分たちの世界の魔法使いと魔物について語り出す。

 

「最初に言っておく、宇宙の始まりという話にならないといけないから、馬鹿馬鹿しいと思うなら今の内にやめろ。時間の無駄だ」

 

 あまりに多すぎる共通点にほむらは驚くことにすら疲れていた。

 思春期の少女から発生する絶望のエネルギーから、宇宙の寿命を伸ばそうとしているインキュベーター。

 そしてまた目の前にいる魔法使いも向こうの世界での宇宙の問題に巻き込まれていた。

 返事を待つジェフリーに対して、ほむらは平静を装いながら語り出す。

 

「いいから話して」

 

 双方話す準備が出来たのを見ると、ジェフリーは自分たちの世界の成り立ちについて話し出す。

 原初の世界は、ただ混沌が広がっているだけだった。

 その混沌が次第に秩序をなし、双子の巨人が生まれた。

 兄弟は世界を均等に割って、お互いの領分を決めたが弟の巨人はこれに満足がいかなかった。

 兄の領分を侵食しようとした弟を上から覆いかぶさり、小さく丸めてしまった。

 身動きの取れなくなった弟の体がこの世界の地上となり、弟を上から押さえ続けている兄は天となった。

 こうして世界に天地が現れた。

 

「ここまで大丈夫か?」

 

 自分たちの世界の常識はこの世界では非常識だということを理解していたジェフリーは一旦ほむらに確認を取る。

 思っていた通り、ほむらは呆気に取られるばかりで平静を装うのに必死だった。

 だがそれは話に付いていこうとしている証拠。ジェフリーは続けて話し出す。

 欲望よりも理性を好んだ兄は、こちらの世界を理想通りに作っていく。

 日が昇り、夜が訪れ、時が生まれ、雨や雪や雷が降るようになり、四季が始まった。

 地上となった弟は兄に嫉妬しながら、心の中に灼熱の欲望を渦巻き、その欲はコブのように地上へ出現し、それは人間となった。

 

「そこから人間は二種類に分かれた。欲から生まれたことを恥じる人間、これが魔法の使えないロムルス人、そしてそれを宿命と受け入れる人間、俺たちセルト人だ。ここまでは平気か?」

「一々確認は必要ないわ。続けて」

 

 ロムルスとセルトについて分かってもらえたのを見ると、ジェフリーは確信に付いて話し出そうとする。

 今のところはロムルス神の理性がセルト神の欲望を抑え込んでいるが、強欲なセルト神はこの世界を欲望で埋め尽くし、自分の物にしようとしていた。

 

「そのセルト神の意思が具現化した存在が聖杯だ」

「聖杯?」

 

 確信にまで迫ったので、ジェフリーは聖杯について詳しく話し出す。

 犠牲を支払うことで、対象者のどんな願いでも叶えてくれる聖杯。

 しかしその代償はあまりに大きい。結果人の姿を失い、魔物と化して人々を襲う存在になるからだ。

 そこから今度は聖杯を用いて、人間がどのような魔物になったのかを語り出す。

 

「そんな奇跡に頼った時点で人は人じゃなくなったよ。新しい味を求める王宮料理人は自らの舌を供物に捧げて、人間を料理する化け物になったし。より美しい靴を作ろうとした靴職人は人間の皮で靴を作ろうとしたからな」

「あなたも人間の薄汚い欲望に翻弄されていたのね……」

「お前俺を軽蔑しないのか?」

 

 全てを話して元人間である魔物狩りを生業としている魔法使いに対して世間の目は厳しい。

 常に軽蔑のまなざしで見られる存在だけに、全てを話しても自分と普通に話しているほむらを見て、その旨を聞こうとする。

 

「どうして? そうするしか生きる道はなかったのでしょう、あなたたちセルト人は」

「だがそれでも人殺しは人殺しだ。理性を強く置くロムルス人は俺たち魔法使いに最低限の生活の保証を与えることで、魔物狩りの使命を与えて生かしておいた。世界のほとんどはロムルス人が占めているからな。セルト人は常に軽蔑の対象さ」

「それでもあなたは人であることを捨てようとしなかったわ」

 

 そう言うと、ほむらはジェフリーの手の上にそっと自分の手を乗せた。

 先程のお返しなのだろうと思いながら、ジェフリーは久しぶりに触れる女の柔肌にドギマギしながらも平静を装って話を続ける。

 

「あなたが人の姿を保って、人を守ろうとする存在であり続けていた。それだけであなたには信念があって戦っているというのは分かるわ。それで十分よ」

「それはお前もだろ……」

 

 それだけ言うと、ジェフリーは立ち上がって帰ろうとほむらに目で合図を送る。

 ほむらもそれに同意して静かに頷くと立ち上がるが、最後に一言ジェフリーに対して警告をする。

 

「魔女と魔法少女の真実に関しては、巴マミ、佐倉杏子、美樹さやかには言わないでちょうだい。最悪全滅の可能性もあるわ」

「ああ、年端もいかない子供には重すぎる真実だ。俺の方からも一ついいか?」

「何かしら?」

「俺は他の魔法少女をどう呼べばいい。どうも極東の人間の呼び方ってのは複雑で困るんだよ……」

 

 ほむらは常に他の人間をフルネームで呼んでいるので、ジェフリーはどう呼んでいいのか困っていた。

 確かに東洋人の呼び名は西洋人には聞きなれず、難しいところがある。

 一々説明をするのも面倒だと思ったほむらはため息交じりに語り出す。

 

「分かったわよ。あなたは『マミ』『杏子』『さやか』と呼べばいいわ。私はマミだけは年長者だから、巴さんと呼ぶけどね」

「そのためにも協力関係を結ばないとな。俺も頑張る」

 

 それだけを言うと二人は並んで家路へと向かった。

 右腕に刻まれた新たな刻印がジェフリーの体内で疼く。

 自分の目的を主張するかのように。




魔女という異形と初めて戦った青年。
新たな戦いを青年は少女と共に戦うこと選んだ。

ここで追記と裏設定に付いて語ります。
ジェフリーが言っている極東に付いていですが、ゲームをやっている方なら分かると思いますが、作品内に置いて主人公の衣装である法衣は選べるのですが、その際チャイニーズ風の衣装である『極東の法衣』と言う衣装もあります。

ジェフリーはほむらの顔を見て、以前に見た東洋人の魔法使いに似ていると思い、自分が召喚された場所がその魔法使いの故郷である中国(ここでは極東と表記)だと勘違いしています。

なのでジェフリーは自分が召喚された場を『極東』と呼んでいます。
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