魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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欲望と絶望は交錯する。悪意を抱きながら。


第六話 新たなる魔の胎動

 一つの巨大な塊は咆哮を上げながら、四人の少女に向かってのそのそと歩み寄る。

 迎え撃つのは四人の魔法少女と呼ばれる存在。

 リーダー格と思われる白を基調とした法衣に身を包んだ銀髪の少女と、黒を基調にした法衣に身を包んだ黒髪の少女は初めて見る魔女から一つの推測を立てる。

 

「あれは魔女と呼ばれる存在ではないようね……」

 

 四人の中の司令塔と呼べる存在、美国織莉子はその存在をいち早く見抜く。

 今目の前に居る異形はこれまで彼女たちが戦ってきた魔女ではないと言う事を。

 織莉子の言葉を聞くと、彼女よりも幼い小学生ぐらいの二人の少女は不安そうな顔を浮かべた。

 

「どういうことなのです織莉子?」

「魔女じゃないの? 救済できなの?」

 

 不安そうに二人の少女を落ち着かせようと、黒髪の少女は一歩前に出て目を閉じて意識を集中させる。

 すると少女の脳裏に異形の詳しい情報が浮かび上がる。

 その魔物の名は『ジャック・オ・ランタン』元々は戦場で無念に散った兵士の魂が、その場にあった甲冑や剣を集め、一つの塊が出来上がった。

 それはまるでカボチャのような姿であり、また中心から魂の炎がぼんやり輝きを見せていることからランタンのようにも見えた。

 そこから、この魔物を『ジャック・オ・ランタン』と名付けられた。ジャック・オ・ランタンの中で未だに戦争は終わっていない。人としての自我も失い、人を襲い続ける存在となっていた。

 ジャック・オ・ランタンの情報を知ると、黒髪の少女は屈んで少女達と目線を合わせながら話を進める。

 

「よく聞くんだ。なぎさ、ゆま。あれは私達とは違う存在だ。恐らくは聖杯との契約によって魔物となった存在だろうよ。お前たちの力の源にもなった魔法使いたちが戦っていた魔物だ」

 

 今目の前に居る存在が魔物だと知ると、二人の少女は震えあがり、改めて自分たち勝てるかどうかを見極めようとする。

 一人はウェーブがかかった銀髪を持った少女であり、手にはシャボン玉を放出するラッパのような武器を持っていて、もう一人は大きな猫耳の付いたカチューシャとメイド服のような法衣が特徴的な、手には猫のしっぽが付いたようなメイスを持っていた。

 だが魔物の咆哮が悲痛そうな叫びに聞こえて仕方ない。意を決して二人の少女はキリカに想いをぶつける。

 

「キリカ……なぎさやるです!」

「ゆまの力で魔物を人間に戻せるなら、ゆまは救済したいです!」

 

 百江なぎさ、千歳ゆまの叫びを聞き届けると、キリカは二人の頭を撫でて、各々が態勢を整えて陣形を組む。

 

「二人ともよく言った。始めるぞ!」

 

 真っ先に飛びかかったのは、メンバーの中の特攻隊長であるキリカであり、まずはジャック・オ・ランタンの実力を測ろうと真っ向勝負を挑もうとする。

 両側から爪を振り下ろすが、鎧や剣で構成された体はそれを弾き返し、キリカは無防備な状態となって、ジャック・オ・ランタンと向き合ってしまう。

 そこを魔物は見逃さず、手を振り払って炎を放つ。

 キリカの体は炎に巻き込まれて吹き飛ばされるが、ジャック・オ・ランタンの追撃は続く。

 地面を殴り飛ばすと、そこから火柱を放出させてキリカの体を火柱の中に閉じ込めて、彼女の体を業火に包んだ。

 

「キリカ!」

 

 ゆまとなぎさはキリカの心配をして叫ぶ。

 火柱の人影は消えてなくなったが、織莉子に焦りの表情はなかった。

 未来予知がなくてもキリカなら、これぐらいの問題は解決してくれると言う自信があったからだ。

 一方のジャック・オ・ランタンはキリカを完全に消し去ったと判断して、次の攻撃目標を三人に定めて歩みよろうとする。

 

「何を織莉子に近づこうとしている!」

 

 すると地中から声が響き、同時に6本の巨大な爪が地面から飛び出す。

 突然の攻撃にジャック・オ・ランタンは対処が間に合わず、6本の巨大な爪は両側から魔物の足を挟みこみ、ベアトラップのようにして動きを封じた。

 ジャック・オ・ランタンが足に挟まった爪を外そうとしているのを見ると、キリカは地中から姿を現す。

 その姿は体に多少の火傷こそ覆ってはいるが、上着だけを脱ぎ捨てて急いで地中に潜りこんだ策が上手く行ったところから、その表情は満足げであった。

 

「さすが私の相棒です」

「全ては織莉子の未来予知があったからだよ。策を立てるのはたやすいことだ」

 

 この攻撃は織莉子の未来予知で理解していて、キリカは自分の対策がうまく行ったことに喜びを感じていた。

 動きが鈍くなっている魔物を見ると、キリカは手を上げて進軍の許可を出す。

 前線での戦闘に向かない織莉子、経験の浅いゆまとなぎさ。

 この三人のカバーのため、まずはキリカが前線に立って相手の動きを止めるというのがこのチームのやり方だった。

 キリカから合図を貰った一同は向かおうとするが、織莉子の中で未来が広がっていく。

 それは自分たちが火だるまになって、全滅する未来。

 悲劇的な未来を回避しようと、織莉子は叫ぶ。

 

「散れ!」

 

 怒鳴り声にゆまとなぎさは驚くが、反射的に左右に散ってその場から離れる。

 織莉子の剣幕を見て、一大事だと思ったキリカはジャック・オ・ランタンと向き合う。

 すると魔物は右腕を突き出して、肘関節の部分から炎を発しながら、右腕を織莉子達に向かって放とうとしていた。

 この攻撃を食らえば間違いなく全滅すると判断したキリカは、再び法衣に身を包み袖から爪を新たに生やすと飛び上る。

 そしてロケットパンチが放たれる前に、6本の爪全てを振り下ろして放たれようとしていた拳を切り落とした。

 肘からは黒い鮮血が吹き出し、暴走した右腕は攻撃目標を見失って地面を這いずり回るばかり。

 キリカは様子を見るため、上空からジャック・オ・ランタンを見守っていたが、そこで魔物は咆哮を上げながら次の攻撃に移ろうとしていた。

 それは肩を突き出しての単純なタックル。

 だがスピードが付いて炎を身にまとったタックルは、ジャック・オ・ランタンの必殺技と呼ぶにふさわしい物であり、スピードに付いていけずに織莉子はその場に立ち往生していた。

 

「なぎさ、ゆま! 今だ!」

 

 キリカが叫ぶと同時にサイドに避難していたなぎさとゆまが、ジャック・オ・ランタンの視界の外である両サイドから飛び出す。

 なぎさはラッパを吹いて中からシャボン玉を放出し、ゆまはシャボン玉がジャック・オ・ランタンの体に付着したのを見届けるとメイスを投げ飛ばす。

 シャボン玉は体の中に浸透して硬度が落ちているため、勢いが付いたメイスはジャック・オ・ランタンの体を粉砕して貫く。

 風穴が出来上がったジャック・オ・ランタンは、その体を保つのにも限界らしく、開けられた穴に残骸を詰めて埋め込もうとするが、空しい努力。

 ここでゆまとなぎさはジャック・オ・ランタンの異変に気づく。

 元々愚鈍な動きの魔物であったが、ここで更に手の動きは覚束ない物になっているのを見ると、二人は地面に着地したキリカを見る。

 

「キリカ。もう……」

「ああ速度低下は十分にジャック・オ・ランタンに浸透している。後は私に任せろ」

 

 不安そうにしているゆまに対して、キリカは一言言うとジャック・オ・ランタンに向かって突っ込む。

 硬度が下がったとは言え、キリカの爪が鉄の塊に通用するのかと少女達は思ったが、祖の不安んは一瞬で解消される。

 

「オラクルレイ!」

 

 織莉子の放ったレーザーはキリカの6本の爪全てに降り注いで力を与えた。

 真っ赤に燃え上がった爪を振り上げながら、キリカは体を丸くして前方に回転させて爪を前に出した状態で回転しながら突っ込んでいく。

 

「受け取れ! 未来予知で見たお前の一番の得意技だ!」

 

 それは回転攻撃であり織莉子の力も手伝って、熱を持った爪は何度も何度もジャック・オ・ランタンの体を切り裂き、キリカが着地する頃には鎧と剣で構成された魔物は鉄塊と化して、バラバラに崩れて崩壊していく。

 勝負が決したのを見届けると、織莉子は小さく頷く。

 合図を受けてゆまとなぎさも駆け寄ると、ジャック・オ・ランタンの体はドロドロに溶解していき、中からヘドロで覆われたコアが姿を現せる。

 その正体を知っている一同は練習通りに右手を突き出して、聖なるイメージを思い浮かべて青白い気を発した。

 すると見る見る内にコアは元の人へと戻って行き、四人の中に聖なる気が入ると同時にジャック・オ・ランタンは元の人間に戻った。

 

「きゃああああああああああああ!」

 

 その瞬間、ゆまとなぎさは悲鳴を上げて目を覆おう。

 救われた人間は織莉子達と同年代の少年であり、生まれたままの姿であったため、むき出しになっている体の一部を見て、ゆまとなぎさは平常心を失い叫び続けた。

 

「はだかなのいや!」

「はずかしいです! 早くパンツはくです!」

 

 叫び続ける二人を見て、織莉子は苦笑しながらも用意していた麻布を懐から取り出してキリカに手渡す。

 キリカは麻布を少年に向かって投げ飛ばすと、屈んで目線を合わせた状態で話し出す。

 

「これから君には情報を提供してもらう。それさえしてくれれば、もう私達は君と関わることはしない。お互いに大人の対応で行こう」

 

 淡々と語るキリカに対して、少年は黙って首を縦に振る。

 そして青年は語り出した。自分に何が起こりどうしてジャック・オ・ランタンと言う異形になったのかを。

 

 

 

 

 ***

 

 

 桜が咲き乱れ入学および卒業のシーズンである春。

 四月を迎え、マミは見滝原中学付属の高校に進学し、まどか達は三年生へと進級していた。

 高校の入学式が終わり、マミは慣れない高校のクラスに戸惑いを隠せなかったが、そんな彼女の前に二人の少女が姿を現す。

 

「あなたは巴マミさんでしたね?」

 

 穏やかな口調でマミに話かけたのは、銀髪の少女。

 彼女が美国織莉子だと理解するのに時間はかからず、マミは笑みを浮かべて対応に当たろうとする。

 

「ハイ、美国さんに、呉さん……」

「そう警戒をしなくてもいいよ。縁があって同じ境遇同士が同じクラスになれたんだ。仲良くしようじゃないか、そっちの方がお互いに都合がいいだろう?」

 

 警戒心を強めるマミに対して、キリカはどこか小馬鹿にしたような余裕を持った笑みを浮かべながら話す。

 未だに警戒心は解けないマミではあったが、初めにほむらから聞いていたような人物像ではない二人を見て、この二人を信じようと言う葛藤もあった。

 

(それに暁美さんが言ってたのと違って、美国さんは人当たりのいい人だし、呉さんも含みを持った部分はあるけど友好的な性格だしね。ジェフリーさんと接触する前の暁美さんは酷かったからな……)

 

 当時を思い出して苦笑いを浮かべるマミだったが、そんな彼女の心情に構わず、キリカは携帯を取り出すとマミの前に突き出す。

 

「早速だが連絡先の交換と行こうじゃないか」

 

 言われるがままにマミは織莉子とキリカに携帯の番号とメアドを教える。

 全員で交換が終わると、早速織莉子が話題を振る。

 

「それで巴さん。早速ですが今後の予定は?」

「特に何もありません」

 

 マミの答えを聞くと、織莉子は穏やかな笑みを浮かべながら話し出す。

 

「では私の家に皆さんを呼んで、親睦会を兼ねたお茶会にしませんか? 報告したいこともあるので」

「報告したい事……と言う事は⁉」

 

 最後の言葉にマミが食いつく。

 ほむらから聞かされた話では当分はキュゥべえ側に動きがあるまで、様子見と言う事を決めていたが、織莉子の話から察するにとうとうキュゥべえが動き出したと予想出来る。

 険しい顔で織莉子を見つめるマミに対して、キリカは彼女の頭に軽くチョップを食らわして注意を自分に向かせる。

 

「ここは教室だぞ。一般人が居る中でそんな顔をする奴が居るか。美人が台無しだぞ」

 

 からかうようなキリカの口調に戸惑いながらも、マミは一人でいきり立ったことを反省して顔を赤くして俯く。

 その姿をキリカはニヤニヤと笑いながら見つめ、織莉子は穏やかな顔で見守っていた。

 話がまとまったのを見ると、二人は各々自分の席へと戻って行こうとする。

 始業式らしく、この日はクラスメイトの自己紹介で終わり学校は終了した。

 その足で三人は並んで美国邸へと向かい、途中でまどか達とも合流する。

 するとキリカはほむらの柔らかな表情を見て、少しからかいたくなり彼女にコンタクトを取ろうとする。

 

「随分と穏やかな顔が出来るじゃないか。てっきり私に掴みかかるとばかり思っていたのに」

「キリカ!」

 

 キリカの挑発を咎めようと織莉子は怒鳴るが、ほむらは手を前に突き出してそれを止めると、自分とジェフリーの信頼についてゆっくりと語り出す。

 

「もうとっくに和解したわよ。時間の問題ではなく、私達は彼と深く繋がっている事を証明してくれたからね。彼は」

 

 そう言って穏やかに笑うほむらを見て、逆にキリカは心がざわつく感覚を覚えた。

 そんな彼女に促されたのか、他の面々も細々と語り出す。

 

「ねぇ本当に凄かったよね……」

「あ、アタシに振るんじゃねぇよ!」

 

 さやかは頬を朱色に染めながら語り、杏子はどう返していいか分からず、顔を真っ赤に染めながらこれ以上話を広げようとしなかった。

 

「まぁ日の明るい内に語るような話じゃないわよね」

「日が落ちてからも、人に話すような話じゃないですけどね」

 

 マミとまどかも顔を赤く染めながら、その時の事を思い出し、キリカ達と目を合わせられないでいた。

 これ以上の追及をすると精神衛生上良くない。本能的にそう察したキリカはそれ以上の追及を止める。

 織莉子もほむらの話を聞いて、頬を朱に染める一同を見て、何があったのかを聞くのは野暮だと思い、静観を決め込んだ。

 そしてジェフリーもこの場に合流させるため、ほむらはテレパシーで彼と連絡を取る。

 

(ジェフリー。美国さんの家で定例会を行うわ。あなたも来て)

 

 メッセージを送るとジェフリーの返事がすぐにほむらの脳内に届く。

 一言『了解』とだけ告げられると、7人の少女は並んで歩くが織莉子は一つ気になったことがあり、それをほむらに尋ねる。

 

「確かジェフリーは巴さんのマンションに居候中でしたよね」

「そうですけど……」

「でしたらわざわざテレパシーを使わなくても、電話で伝えればいいだけなのでは?」

 

 もっともな意見にキリカも頷くが、それに対して五人は苦い顔を浮かべて押し黙るが、意を決してほむらが話し出す。

 

「ジェフリーは電話に出られないのよ……」

「使い方ぐらい教えてやったらどうなんだ」

「教えたんだけどね。『魔法使いでもないのにそこから声が聞こえるのが気持ち悪い』って拒否反応を示してね。今でも蛇口を捻るだけでも一呼吸置く必要があるのよ彼は。そして話し合いの結果、彼への連絡は全てテレパシーで済ませることにしたの」

 

 そう言ってため息をつくほむらを見て、キリカは一言「悪かった」とだけ言うと、7人は並んで美国邸へと向かう。

 中々カルチャーギャップとジェネレーションギャップは埋められないもんだと言う歯がゆさに包まれながら。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 美国邸の庭に到着すると既に人数分のティーセットは用意されていた。

 だがここで一つに気になることがあり、杏子はそれを織莉子に問いただそうとする。

 

「何で二つにテーブルが分かれて、しかも一つのテーブルに椅子が五脚あるんだ? ジェフリーを入れても8人だろ?」

 

 もっともな質問に他のメンバーも頷くが、織莉子は淡々と語り出す。

 

「実はあの時は紹介していませんでしたが、私達にはもう二人魔法少女がいるんですよ」

「大変! すぐに人間に戻してあげないと」

 

 新たな魔法少女の存在を知ると、さやかは慌てて立ちあがって、舞台変換の刻印の力でソウルジェムの中に封印されている魂を開放させようとするが、キリカは手を突き出してそれを制する。

 

「心配しなくても、彼女たちの魂は既に肉体に定着しているよ。ただ私達と違って舞台変換の刻印を継承することは出来ないがな」

「どう言う事なんですか?」

 

 キリカの言っている意味が分からないまどかは困惑の表情を浮かべるが、彼女に構わずキリカは自分たちと共に戦っている二人の魔法少女を呼び出す。

 

「出て来い」

 

 呼び出しに応じて現れたのは、中学生のまどか達よりも更に幼い小学生ぐらいの女の子。

 二人は各々一行の前に立つと深々と頭を下げてお辞儀をして自己紹介を始める。

 

「初めまして、百江なぎさと言うのです。好物はチーズなのです。皆さんよろしくなのです」

「千歳ゆまです……皆の足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします」

 

 なぎさは元気一杯に、ゆまは少し照れくさそうにしながら自己紹介を終える。

 新たな幼い魔法少女を前に一行は拍手で出迎えようとするのだが、ゆまの姿を見てさやかは右腕が疼く感覚に戸惑う。

 そして一気に記憶が思い返される。

 

「あ――!」

 

 記憶が蘇ったのは杏子とゆまも同じことであり、各々が各々を指さして驚愕の表情を浮かべていた。

 

「お前! 元犬の魔女の!」

 

 言ってからデリカシーに欠ける発言だったと、杏子はバツの悪そうな顔を浮かべるが、ゆまはさやかを見つけると目は涙で潤み、喜びの感情を抑えることが出来ずにさやかの胸に飛び込む。

 

「ちょ! ええ⁉」

「ずっと会いたかった! あなたのおかげでゆまは人間に戻れたんだから……」

 

 魔女だったころの記憶はなくても、それがどれだけ辛い物だったと言う事はさやかには分かる事。

 初めは突然抱きつかれて困惑していたさやかだったが、ゆまの気持ちがよく分かるさやかは彼女の頭を撫でながら、落ち着くように諭すように話し出す。

 

「私はきっかけを与えただけだよ。ゆまちゃんが人間でい続けられるのは、ゆまちゃんが絶望に負けない強い心を持っているからだよ。あれから悲しい思いはしてない?」

 

 頭を撫でられて気持ちが落ち着いたのか、ゆまは少しずつこれまで自分に何があったのかを語り出す。

 さやかに救済されてから、ゆまはなぎさと同じ児童養護施設に預けられて、そこでしばらくの間は同年代の仲間たちと共に穏やかな日々を過ごしていた。

 しかししばらくした後、二人は美国の家に引き取られる事になり、この家で暮らすことになった。

 

「そこで織莉子に教えられました。近い未来、再びキュゥべえの奴が絶望を撒き散らすために行動を起こすと」

 

 自らが魔法少女とだと分かっているゆまとなぎさは、キュゥべえへの復讐も兼ねて織莉子とキリカの元で訓練を受けながら、戦いの時を待っていたことを告げた。

 それからは二人はゆまたちは顔を綻ばせながら楽しい思い出を語り出そうとするが、なぎさはハッとした顔を浮かべると部屋に戻ろうとする。

 

「アルバムを持ってくるです!」

「その必要はないわ」

 

 アルバムを取りに戻ろうとするなぎさの足を止めたのは織莉子。

 彼女の手にはアルバムが握られていて、椅子に座るとティーカップに紅茶を注ぎながら語り出す。

 

「まずはその辺りの親睦を兼ねて、お茶会にしましょう」

 

 それが自然なお茶会の始まりの合図となり、各々席に座る。

 だがなぎさだけはさやかの姿を見ても、ゆまのような感情が湧かず呆けた顔を浮かべるが、ほむらに肩を叩かれると注意が彼女に向かう。

 

「あなたはあなたを助けてくれた存在は覚えているの?」

 

 ほむらの質問に対して、なぎさは答える。

 ぼんやりとしたイメージではあるが、自分を魔女から救ってくれた存在が居ることは知っている。だがそれはさやかではない事は分かっている。

 それだけ伝えると、ほむらはゆっくりと話し出す。

 

「それはもしかして、無精髭を生やして、法衣に身を包んだオジさんかしら?」

「そうです! なぎさを助けてくれたのは、そのオジさんなのです!」

 

 鼻息を荒く興奮するなぎさを宥めながら、ほむらはこれからの事を話し出す。

 

「その存在ならもうすぐ来るわ」

 

 それだけ聞くと、なぎさはパッと花が咲いたような笑顔を浮かべると、慌てて自分の部屋へと戻って行く。

 嵐のように過ぎ去った彼女に困惑しながらも、皆に呼ばれるとほむらも輪に加わる。

 これから先の楽しいお茶会を想像しながら。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 お茶会の話の種として話題になったのは、ゆまとなぎさの美国邸での暮らしぶりに付いていだった。

 またここでも虐待があったのなら、さやかと杏子は二人と戦うつもりだったが、現実は二人の想像とは全く違う物だった。

 夏には海水浴に出かけたり、秋には紅葉狩り、冬はクリスマスにお正月と、写真の中の二人は満面の笑みを浮かべていて、とても楽しそうな様子が映し出されていた。

 それは二人の保護者である織莉子とキリカも同じ事であり、特にほむらはキリカが織莉子以外の相手を前にこんな笑顔を浮かべられるのかと驚愕していた。

 ここでさやかは一つ気になる事があり、夏の海水浴の写真をよく見る。

 気を右腕に得たので、さやかはゆまに関しての情報も手に入れていた。

 度重なる虐待から、体中青あざだらけで、髪の毛で隠した額にはタバコを直接押し付けた根性焼きの痕があると聞いた。

 だがゆまの体を見てもそんな物はどこにもなく、傷一つない綺麗な体をしていた。

 食い入るように写真を見つめるさやかを見て、ゆまは彼女の注意を自分に向かせると髪の毛を上げて額を見せた。

 

「もう大丈夫だよ。さやかに貰ったこの体ゆま大切にするから」

 

 完全に救えたことに喜び、さやかは何も言わずにゆまを抱きしめて涙した。

 突然の抱擁と何故さやかが泣いているのかが理解出来ないゆまは困惑していたが、杏子は泣くさやかの背中を優しく擦っていた。

 

「ジェフリーさんはまだかしら?」

 

 どこか湿っぽくなった状況を打破しようと、マミが話題を変えようとすると同時にジェフリーが姿を現す。

 だがインターホンでの音がせず、事前にロックを解除しなければ開かない門があるのに、何故入ってこれたのか織莉子は疑問に思いジェフリーに問おうとする。

 

「面倒だから飛び上がって入った」

 

 実に彼らしいシンプルな選択肢であったが、それが織莉子には許せないところだった。

 そこから織莉子は彼を目の前に座らせて、この世界の文明の利器の重要性を事細かに説明して、それらに多少は順応することも大切な事だと言うのを丁寧に説明した。

 織莉子の勢いに圧倒されながらも、ジェフリーは返事をする。

 

「分かった。迷惑をかけるかもしれないが、これから少しずつ覚えるから教えてくれ……」

「オ・ジ・さ~ん!」

 

 話がまとまったと同時に別の方向から少女の声が響く。

 叫び声の方角を見ると、めかし込んだつもりなのか顔を真っ白に塗りたぐり、珍妙なメイクを施したなぎさがジェフリーに向かって突っ込んでいき、彼の胸に飛び込むと涙ながらに自分の気持ちをぶつけた。

 

「オジさんなのですよね⁉ なぎさを元の人間に戻してくれた恩人は⁉」

 

 なぎさの迫力に圧倒されながらも、ジェフリーの右腕はなぎさの気を覚えていた。

 元お菓子の魔女のシャルロッテ、そして現在が百江なぎさ。

 その事を理解したジェフリーはなぎさの体を一旦自分から離して一言言う。

 

「そうだ」

 

 まるで第二形体のシャルロッテのようなメイクをしたなぎさに圧倒されながらもジェフリーは言う。

 改めて事実を知ると、なぎさの目は涙でクシャクシャになり、再びジェフリーに飛びかかって押し倒す。

 

「やっぱりそうなのですね! ありがとうなのです。オジさん、おかげでなぎさはまたチーズが食べられるのです! 感謝の口づけなのです!」

 

 体の上でバタバタ暴れ回るなぎさに圧倒されて、ジェフリーは何も出来ずになぎさの口づけをなすがままに受けていた。

 彼が圧倒されている一番の原因は彼女のメイクだった。

 まるでピエロのようなその姿を不気味に思い、何も行動できないでいた。

 黙って空を見上げるジェフリーを助けたのは織莉子とキリカであり、二人は両側からなぎさを掴んで引きはがすと、キリカはなぎさに蒸しタオルを手渡して顔を拭くようにジェスチャーで伝える。

 

「何でですか⁉ せっかく大人の階段を上るなぎさに対して、この仕打ちは⁉」

「なぎさはそれが自分が美しく見えるメイクだと思っているのか? いいから顔を拭いて皮膚呼吸してくれ……」

 

 キリカは呆れながら言い、なぎさは渋々メイクを蒸しタオルで拭いて落としていく。

 圧倒されっぱなしで空を見ているだけのジェフリーだったが、織莉子は彼の手を取って体を起こし、蒸しタオルを手渡すとこれからの事に付いて話し出そうとする。

 

「単刀直入に言います。私達もジェフリーさんの世界で言うところの魔物と遭遇しました」

 

 お茶会が始まる以上、この話題はいつかは振られる物だろうと思っていたが、いざ動き出したキュゥべえを前にすると、一同の表情は真剣な物に変わる。

 話を聞く体制が出来たのを見ると、織莉子は手をかざして自分の記憶を空に投影しようとモヤを作り出す。

 モヤの中から現れたのは、ジャック・オ・ランタンとの激闘。

 織莉子の指示とそれを的確に実行するキリカの力で、無駄なくスムーズに撃破した。

 その見事な働きぶりに、ジェフリーは賛辞の言葉を送る。

 

「大したもんだな。俺が初めてジャック・オ・ランタンと戦った時には、当時組んでいた相棒の足を引っ張ってばかりだったってのによ」

「誰だって初めは皆そうさ。それよりもだ……」

 

 キリカは自慢をするわけでもなく、淡々と救われた人間の情報について語り出す。

 ジャック・オ・ランタンの元となった人物は、受験のストレスから苛立ちが常にマックスの状態の中学三年生の少年だった。

 親の期待に応えるため、必要以上の勉強を課せられて苛立ちが頂点に達した時、彼の目の前に一人の少女が現れた。

 少女の問いかけに少年は二つ返事でOKを出した。そこからのことは彼はよく覚えていないと言う。

 ただ圧倒的な解放感と悦楽だけが頭の中を占めていた。それだけしか元ジャック・オ・ランタンからは引き出せなかった。

 

「そこでジェフリーに聞きたい。これが君の世界の聖杯のやり方なのか?」

 

 キリカの質問に対してジェフリーは小さく首を横に振ると、嘗ての聖杯との契約を語り出す。

 やり方その物は先程の話と同じなのだが、一つだけ違う点があった。

 それは目の前に当人にしか見えない聖杯があると言う事だ。

 だが話では少女が目の前に現れたと聞く。ここで一同の脳裏にキュゥべえの言葉が思い返される。

 

「8人の協力者……」

 

 まどかのつぶやきに対して、全員が息を飲む。

 全容が見えないことの恐ろしさから、どう対処していいか分からずに全員が困り果てていたが、沈黙を打ち破ろうとジェフリーが語り出す。

 

「後手に回るのは仕方ないが、今は一人でも多くの魔物を救済して情報を引き出すしか……」

 

 その時ジェフリーの脳内にテレパシーが届く。

 相手はカムランであり、元々はジェフリーの肉体である魔導書は彼と繋がっていて、彼を相手になら離れていもテレパシーで詳細を伝えることが出来る。

 脳内に広がったのは、見滝原の地図。

 赤く丸を付けられた場所に魔物が出現したとの情報を受けると、ジェフリーは立ち上がって一同に魔物が現れた事を伝える。

 

「皆行くわよ!」

 

 ほむらの掛け声と共に一行はジェフリーと共に向かおうとするが、ゆまとなぎさはキリカによって止められて、まどかの元に二人は預けられた。

 

「鹿目は二人を預かってくれ。他の場所で魔物が出ないとも限らないからな」

 

 キリカの采配に納得をした二人は黙って頷き、まどかは二人を抱きかかえながら一行を見守る。

 

「私待っているから!」

「ええ。終わったらお茶会の続きにしましょう」

 

 まどかを安心させるように織莉子が言うと、一行は魔物退治へと赴く。

 全員が信じていた。この小さな一歩が叛逆への第一歩になると。




なぎさのメイクに関してですが、ベベのような物だと思って下さい。本編でべべを出す訳にはいかないので、こう言う形で出しました。
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