魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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第十話 再び出会った金欲男と異界の力

 手狭なほむらのアパートに今10人の人間が集まっていた。

 ジェフリーはその中央で息も絶え絶えの状態になっていて、仰向けで横たわりながら、さやかが施す癒しの魔法を受けていたが、一向に良くなる気配は無かった。

 魔法使いの一同は心眼で彼の様子を確認する。

 外部の火傷は全て治っているのだが、内部の損傷が酷く血管が真っ赤に染まっていることから、今ジェフリーの体内は沸騰した血液や水分が暴れ回っている状態なのだと言う事が分かった。

 キリカはこのどうにもならない状況に歯ぎしりをしながら、右の拳を強く握って、左の手のひらにぶつける事で解消しようとしたが、怒りは治まらず、それを声に出す。

 

「クソ! ユウリの奴! 絶対に許さないぞ!」

「キリカ煩いですよ」

 

 この状況を作り出したユウリをキリカは心底憎んでいたが、織莉子はそんな彼女を窘めながら、ジェフリーがユウリから奪い取った戦利品の『奇兵の獣毛』を繁々と眺めていた。

 

「この状況では私に出来る事は何もありません。私は一足先に帰って、この奇兵の獣毛について調べます」

「そんな! ジェフリーを見捨てるって言うのかい⁉ 織莉子は⁉」

 

 淡々と語る織莉子をキリカは強い口調で攻めるが、それに対しても彼女は何も言わずに首を横に振ると冷静な顔を浮かべて諭すように話し出す。

 

「ここで私達が居座っても、美樹さんの邪魔になるだけです。キリカこそ彼がこの状況から蘇る事を信じられないのですか?」

 

 冷淡に織莉子に言われると、キリカは何も言い返せなくなる。

 項垂れるキリカの両隣りになぎさとゆまがすり寄ると、二人はキリカの手を取って出て行こうとする。

 

「ジェフリーのこと、よろしく頼むなのです」

「ゆまたちは織莉子のサポートしているから」

 

 二人に手を引かれると、渋々ながらもキリカも出て行き、最後に残った織莉子はさやかに向かって深々とお辞儀をすると三人の後を追って出て行く。

 この行動に残った面々も自分達が出来る事をやるだけだと思い、杏子とマミも立ちあがってその場を去ろうとする。

 

「まどかはアタシが送るから」

「帰ったら。ユウリと言う魔法少女に対してミーティングを行いましょう。遠距離砲撃型のタイプだから、私でもスパーリングは可能なはずよ」

 

 杏子はまどかの手を取って、彼女の家へと向かい、マミは頭の中でジェフリーの記憶から得たユウリの情報を何度も復唱して、次の対策を練ろうとしていた。

 こうして残ったのは家主のほむらとメンバーの中で回復魔法をもっとも得意とするさやかだけとなった。

 だが、さやかが根気強く何度も何度も癒しの魔法を施しても、外部からでは大した効き目はなく、さやかは額に脂汗をにじませながらも引き続き、癒しの魔法を施そうとしていた。

 

「待って」

 

 気合いを入れ直して再度、癒しの魔法を施そうとするさやかを止めたのはほむらの左手。

 その手にはハンカチが持たれていて、彼女の額に浮かんだ脂汗を丁寧に拭うと話を持ちかけようとする。

 

「今の状況は分かる?」

 

 ほむらは心眼でジェフリーの様子を見る。

 体の内部が真っ赤に燃え上がっている事から、今彼の体内を占めているのは沸騰した血液や水分である事が分かり、ほむらは改めて今の危機的状況をさやかに分かりやすく説明しようとする。

 

「さやか。人間の体は何割水分で構成されているか分かる?」

「バカにしてるの⁉ 7割それで構成されている事ぐらい、アタシにだって分かるよ!」

 

 思うようにいかない苛立ちから、さやかは乱暴に答える。

 向こうが興奮しているなら、こちらは徹底して冷静に返すのが筋だと思ったさやかは引き続き冷静に話を進める。

 

「今、彼の肉体はその全てが熱湯に変わっている状態よ。事態は急を要するって事よ。もっと効率よくやらないと」

「でもこれ以外に方法なんて……」

 

 想像しただけでも背筋が凍りつくような状況にさやかはたじろぐが、今の方法以外思いつかず弱弱しいながらも反論をする。

 そんな彼女に更なる危機感を持ってもらおうと、ほむらは今の状況のもう一つの危険性を提示する。

 

「それだけじゃないわ。水分だけでなく、血液も今は沸騰している状態よ。これが心臓に流れれば、その時点でアウトよ。今は彼が必死に生存本能による魔法で心臓を守っているけど、これもいつまで持つのやら」

 

 ジェフリーがいつ死んでもおかしくない。改めてその状況を理解すると、さやかの顔は青ざめて、同時に冷静さも取り戻される。

 この状況をどうすればいいかと必死に頭を抱え込みながら考えるさやか。

 すると一つの案が思い浮かび、ほむらに提案を持ちかける。

 

「時間停止で何とか出来ないの?」

 

 時が止まっている間に治療を進めればいいと、さやかは提案するがほむらは首を小さく横に振って却下する。

 

「もう今日の分は使いきったし、10秒じゃ焼け石に水だわ」

「じゃあどうすれば……」

 

 さやかは頭を抱え込んで悩んでいると、彼女の中に一つの思い出が蘇る。

 それはワルプルギスの夜との戦いの際、ジェフリーが放った技の一つ。

 魔法使いの血は多くの魔力を秘めているため、血液その物も攻撃の手段として用いる事が出来る。

 それならばとさやかはサーベルを召喚して、自らの右手の手首を切り裂く。

 

「ちょっと!」

 

 突然の行動をほむらは咎めるが、さやかは噴出する血液を自分の口に含むと、ジェフリーの唇に自分の唇を重ね合わせ、口内にある血液を全て彼に飲ませる。

 喉がなり、血液がジェフリーの体内に行き渡るのを見ると、さやかは再び心眼を発動させる。

 先程は体全体が真っ赤に染まっていて危篤状態だったが、今は若干の落ち着きを取り戻し、ジェフリーの呼吸も落ち着いて、上がりすぎた体温を一定の温度に戻そうと、彼の体からは大量の汗が噴き出た。

 

「これは?」

 

 不思議そうに今の状況を見つめるほむらだったが、さやかは自然治癒で治まるまで、手首から噴出する血液を口内に含んで、口移しでジェフリーに飲ませる。

 自然治癒で完全に傷一つない状態になったのを見ると、さやかは説明に入る。

 

「魔法使いの血液は魔力が含まれているんでしょ? だったら私の血にも癒しの力の源がたっぷり詰まっているはずだよ。それに外部より中に直接流し込んだ方が治りも早いでしょう?」

 

 ぶっつけ本番の作戦ではあったが、成功した事をさやかは喜ぶ。

 だが命の源である血液を大量に失った代償は大きく、よろめいて目の焦点が合っていない、さやかの体をほむらは抱き止めた。

 

「何て無茶を!」

「でも効果はあったでしょう?」

 

 さやかが指さしたジェフリーの体をほむらは心眼で確かめる。

 体からは汗が止まらない状態ではあったが、それは体が平常な状態に戻ろうとしている証拠。

 体の中にも沸騰した血液や水分は全くなく、それを全て体外へと放出しようとしている様子が目に映った。

 ひとまずの危険は去ったが、ほむらは心配そうにジェフリーの体に触れる。

 

「熱っ!」

 

 触れた瞬間、ほむらは急いで自分の手を引っ込め、氷の魔法を発動させて手を慌てて冷やす。

 何が起こったのかと思い、さやかも氷の魔法で手を覆うと、恐る恐るジェフリーの体に触れる。

 すると手を覆っていた氷は瞬く間に溶けていき、辺りには沸騰した蒸気が立ち上る。

 人間の体温とは思えない、まるでヒーターのようになっているジェフリーの体に、二人は驚愕していた。

 

「何よこれ⁉」

「これも魔法使いならではね。一時期の危機は去ったけど、このままじゃ体の中の水分は全部蒸発してしまうわ。その前に体温の上昇に体がついていけずにショック死の方が先かしら?」

 

 ほむらは最悪を想定する事で、最善の策を見出そうとしていた。

 だが、その前にさやかは行動に移そうと、再びサーベルを召喚して自分の右手首を切り裂こうとする。

 

「ダメよ!」

 

 それをほむらが止めるが、彼女が何故行為を止めるのかが分からず、さやかはほむらの顔を睨みつけるが、ほむらもまた睨み返す。

 

「何で邪魔するのよ⁉」

「少しは冷静になって! あれは免疫力の暴走みたいな物よ。癒しの魔法の対象外だわ!」

 

 少女の言葉でさやかの心に冷静さが取り戻される。

 サーベルをしまったさやかを見て、ほむらはこの状況を打破するための手段を考えるが、どんなに考えても一つの結論しか思いつかなかった。

 

「もうこれしか方法はないわ。聞いてさやか」

 

 ほむらはさやかを自分の方に向かせ、面と向かって話をさせる。

 

「私はあなたほどじゃないけど、一応氷の魔法が使えるわ。この状況で彼を救う方法は一つ。少しずつでも氷の魔法で彼の体温を冷やす。それだけよ」

「私達の体全体を氷のうにするって訳ね」

 

 さやかの分かりやすい例えにほむらは小さく首を縦に振る。

 そしてジェフリーの服に手をかけるが、脱がすとなってほむらは赤面して手が止まってしまう。

 

「何をやってんのよ⁉ これは治療よ。それに今更恥ずかしがってどうするのよ⁉」

「そ、そうね……今更よね……」

 

 ジェフリーの服を脱がすのもさやかも手伝っていく。

 複雑な仕組みの法衣を脱がすのに四苦八苦していたが、このまま濡れた服を着ていては彼の体調を崩す。

 その大義名分の名の元に二人は行動していた。

 彼を救うために。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 まどろみの中ジェフリーはあてもなく歩いていた。

 そこがどこなのかも分からず、深い霧がかかったような空間をただただ歩き続ける。

 目的は見つからなかったが、確信がジェフリーにはあった。

 歩き続けていた先にきっと自分が求めている物があると。

 

「ようやくお出ましか? この役立たずが」

 

 そこに野太い男の声が聞こえる。

 それと同時にジェフリーの前に人影が一つ見えた。

 丸々と太った体に金色の法衣を身にまとった中年男性。

 彼には泣かされた記憶しかなく、ジェフリーは一瞬嫌そうな顔を浮かべたが、彼の元へと向かう。

 そして眼前でその姿を目視すると、ジェフリーは軽くため息をつきながら、嘗ての仲間の一人に挨拶をする。

 

「久しぶりだな。ボーマン」

 

 ボーマンはジェフリーとの再会に対して「ガハハハハハハ!」と下品な笑い声を上げながら喜ぶ。

 相変わらずの彼に対して、ジェフリーは苦笑するばかりであったが、ボーマンは笑いながら彼の肩を叩き、久しぶりの再会を喜び合う。

 

「随分と嫌われたもんだな。お互い知らない仲じゃないんだ。再会の喜びを分かち合おうとは思わないのか?」

「ふざけるな」

 

 軽口を叩くボーマンに対して、ジェフリーは触れられた手をどけると、彼と向き合って真剣な顔を浮かべて話し出す。

 

「ここが俺の精神世界で、お前が霊体だって事も分かってんだよ。俺は現実世界でお前の三代目とも出会っているんだからな」

「そうかそうか。俺の教育は100点満点だったろうよ」

 

 警戒心を解かないジェフリーに対しても、ボーマンは下衆な笑みを浮かべたまま対応していた。

 いい加減彼の目的が何なのか分からないジェフリーは苛立ちが募り、先程よりも乱暴な口調でボーマンに尋ねる。

 

「じゃあ単刀直入に聞く。何が目的でこんな所にまで来た⁉」

「あら言葉使いが汚くてよ」

「全くだ。それが雇用主に対しての口の聞き方かな?」

 

 そこに若い女と男の声が聞こえる。

 声の方向をジェフリーが見ると、そこには見知った顔が二つあった。

 一人はボーマンと同じ金色の法衣に身を包んだ若く美しい女性であり、もう一人はつばの大きな帽子を被り、丸いサングラスをかけた青年だった。

 この二人も見覚えのある顔であると同時に、ジェフリーに取ってはあまり良い思い出のある相手とは言えない。

 だがそれでもジェフリーは二人との再会を祝し、彼らの名前を呼ぶ。

 

「リオネス、パーソレープ……」

「姉様が抜けているわよ」

「久しぶりの再会だ。不作法は許してやろうじゃないか。駄目な弟ほど可愛い物だよ」

 

 リオネスとパーソレープは相変わらずの軽口を叩きながら、二人の元に合流する。

 二人が集まったのを見ると、ボーマンは口を開く。

 

「よしそれじゃあ改めて話してやるよ!」

「待ってくれよ! ボーマン兄貴!」

 

 そこに情けない声が聞こえる。

 帽子で顔を隠した小柄な青年は息を切らせながら、三人の輪の中に合流する。

 その姿を見たジェフリーは彼の名を呼ぶ。

 

「お前も久しぶりだな。パーサント」

「俺なんかの事も覚えていてくれたのか? 嬉しいよジェフリー」

 

 パーサントはジェフリーの手を取って再会を喜ぶ。

 だがボーマンはその手を強引に引きはがすと、改めて自分達がジェフリーの精神世界に来た理由を語り出す。

 

「お望み通り単刀直入に話してやるよ。俺達が全員霊体だってのは知っているな?」

 

 ボーマンの問いかけに対して、ジェフリーは小さく頷く。

 ジェフリー・リブロムの物語は、現実世界から100年近く前の過去の物語。

 そこに出ている登場人物は皆現実世界では亡くなっているのが必然。

 だからこそ、彼らはアーサー・カムランの精神世界にやってこれる。それをジェフリーは理解していた。

 

「私が一番遅かったけど、私達は全員生きる事を諦めず、最後に魂が到達する場所へ辿り着いたわ」

「そこは争いも何もなく、穏やかな世界だったよ。そこで私達は休暇を楽しんでいた」

 

 リオネスとパーソレープは自分達が天国に居た事を説明した。

 完全に話すタイミングを見失ったパーサントは困った顔を浮かべていたが、彼に構わずボーマンは話を続ける。

 

「だが俺達はそこでの穏やかな生活を捨て、新世界を求めた。そこにお前と言う最高の馬車があったんでな。再び異界に来る時、俺達も便乗させてもらったって事よ」

「何が目的だ? 霊体のお前らがこの世界で金儲けなど出来るわけないだろ」

 

 ジェフリーは警戒心を解かないまま、ボーマンに問いかける。

 そんな彼に対して、ボーマンは金歯を豪快に見せつけて大笑いしながら話し出す。

 

「ガハハハハハハハハハ! お前俺の話をもう忘れたのか? 俺は天国でも大金持ちになるんだよ! 俺の世界の天国に金儲けの機会はなかった。だから俺はこっちの世界の天国で大金持ちになるんだよ!」

「金? 天国にも通貨があるって言うのか?」

「そこから先は私が説明しよう」

 

 ボーマンの言っている事が分からないジェフリーの疑問を解消しようと、パーソレープが代わりに説明に入る。

 天国では通貨その物は存在しない。そこで個人に取って価値がある物はたった一つ。

 

「それは感謝の心だよ。こちらでも『徳』と言う言葉でそれは伝わっているはずだろ?」

 

 パーソレープの言葉にジェフリーは納得をする。

 彼が事態を飲み込めたのを見届けると、パーソレープは再び語り出す。

 目的が分かると、早速ボーマンは徳を集めて大金持ちになろうとした。

 だが既に満ち足りている天国の世界の住人達からでは、大した量の徳は手に入らない。

 ある意味ではボーマンが望んだ世界であったが、彼は物足りなさを感じていた。

 本当にこのままでいいのかと。

 

「そこで俺はこっちに再び戻り、金儲けの機会がないかと探った。そしてテメェに出会った訳だ。ジェフリー・リブロムの物語を継いだ数奇な運命の魔法使いアーサー・カムランにな」

「後はアンタの記憶を覗いて、異界の存在を知った。そしてアンタに付いていった。ただそれだけだよ」

 

 パーサントは自分が喋るタイミングはここしかないと判断して、ボーマンが話し終えたところで割って入る。

 そんな彼をリオネスとパーソレープは無言で責める視線をぶつけて非難する。

 視線を前に萎縮しているパーサントを無視して、ボーマンは引き続き話を進める。

 

「この世界の天国にはあれだろ? 『ワルプルギスの夜』の元となった小娘どもがわんさか居るんだろ?」

 

 ボーマンの問いかけに対して、ジェフリーは小さく頷く。

 事実を確認出来るとボーマンは再び下品な笑い声を上げながら語り出す。

 

「やはりこっちに来て大正解だったぜ! 心が傷ついたクソガキどもからは徳をたっぷりとむしり取れるからな! 金儲けには持って来いだ! ガハハハハハハハハ!」

「少しは素直になったならどうなんだ?」

 

 馬鹿笑いをするボーマンに対して、ジェフリーは軽く口元に笑みを浮かべたまま語り出す。

 

「お前は救いたいんだろう? 今でも過去の過ちに傷ついた少女達をよ。そこで死んでも尚、金欲男を兄と慕う妹と弟達の用にな」

 

 話を振られると、リオネス達は一歩下がって、ボーマンとジェフリーを面と向かって対峙させた。

 思っても見なかった言葉を振られ、ボーマンは困惑しながらジェフリーを見た。

 

「な、何を言ってやがるのか意味が全く分からんな?」

「彼女の願いを叶えようとしているんだろ? だから貧しい少女達の心に富を与えようと……」

「それ以上は喋るな!」

 

 ボーマンに取って触れられたくない部分なのか、彼は慌ててジェフリーの口を塞ごうと手を伸ばすが、逆にジェフリーはその手を取って逆さに回すと関節を取って腕の動きを封じた。

 痛みに苦しむ前にボーマンの手を解くと、ジェフリーは再び話し出す。

 

「それで何だ? わざわざその事を報告するためだけに来たってのか?」

「そこまで暇じゃねぇよ。俺はな貸しを作るのが大嫌いなんだよ。テメェは一応俺達をこっちの世界に送ってくれた義理がある。だから俺もお前が一番欲している情報をお前に与えようって訳だ。これで貸し借りはなしだ」

 

 ブツブツと文句を言いながら、ボーマンはリオネスを手で呼び寄せる。

 呼ばれるとリオネスは二人の前に立ち、右手を翳して先程までのジェフリーとユウリの戦いを虚空に映し出した。

 そこでの戦いで気になったのは、なぜあの少女がガウェインの技を使えるかと言う事。

 そして彼女の武器にガウェインの魂が見えた事がジェフリーは不思議でしょうがなかった。

 

「今ジェフリーが知りたい情報はこれなんでしょう。私達をこっちの世界に連れてきてくれた代金として教えてあげるわ」

「あれはな『ミタマ』だ」

「ミタマ?」

 

 聞き慣れない単語にジェフリーは素っ頓狂な声を上げる。

 そのリアクションが面白く、ボーマンはニヤニヤと笑いながら説明に入る。

 

「元々は異界の能力さ。昔の極東のような異界にも聖杯が侵略に向かった事は知っているだろう? 魂だけの俺達はそれを客観的に見る事が出来るって訳だ」

「加えて言うと私にはボーマン兄様に貰った全てを見通せる目が」

「私にはボーマン兄様に貰った全てを聞ける耳があるからね。聖杯が異界の力を真似したぐらいの噂はこの耳がしっかりと聞き取ったよ」

 

 頼もしすぎる情報網にジェフリーは感謝の意をお辞儀で示す。

 そんな彼に構わず、ボーマン達はミタマの詳しい説明に入る。

 ミタマとはその世界でモノノフが使う能力の事。

 こことは別次元の日本と呼ばれる世界での偉人の魂を武器に宿し、武器の性能及び偉人の力を借りて、討伐を優位に進めると言う物。

 異界では鬼に食われた魂を開放させる事で、ミタマは手に入ると言う事をボーマンは教えた。

 

「恐らく侵略に失敗した聖杯は使える物は使っておこうと、ゴウエンマ、ダイテンマの残留思念とは別にミタマのシステムを頂いたんだろうよ。魂を封じこめるだけなら聖杯にも可能だからな」

「まさか……」

 

 そんな事になる状況は一つしかない。

 真実を聞くのが怖く、一瞬ジェフリーは青ざめた顔を浮かべるが、ボーマンは容赦せずに真相を話す。

 

「そう。ガウェインは魔物に食われ、その魂は聖杯によって幽閉されていたんだよ。そしてミタマにされたガウェインはあの小娘の武器に宿らされて奴隷として働かされているって訳だ」

「酷い事をする物ね……」

 

 リオネスは軽く同情の言葉をつぶやくが、ジェフリーはショックが収まらなかった。

 自分がワーウルフと知っても尚、恋人のために気高く生きてきたガウェインが未だに苦しみから解放されず、戦いを強いられている事がジェフリーはショックだった。

 そんなジェフリーを見て、リオネスは彼の顔を平手で包み込むと、軽く叩いて自分の方に注意を向かせる。

 

「しっかりしなさい。さっきも言ったけど、ミタマを解放する手段はちゃんとあるのよ」

「それは討伐対象を殺す事なんだろ? だが……」

「分かっている。お前はあの小娘もガウェインも救いたい、そう思っているんだろ?」

 

 ボーマンの問いかけに対して、ジェフリーは小さく頷く。

 意気消沈したジェフリーの肩をボーマンは思い切り叩いて、背筋を伸ばさせると豪快に笑いながら、それが実行出来る策を告げる。

 

「何もガウェインのミタマはあの小娘に宿っている訳じゃない。武器さえ破壊すれば、恐らくガウェインのミタマは解放されるだろうよ」

「それじゃあ!」

「ああ、かなり難易度が高い任務になるだろうが、お前の目的を両方遂行する事は可能だ」

 

 希望が見えるとジェフリーは安堵の表情を浮かべる。

 だが決して希望だけではない。その事を告げるため、パーソレープが前に出て彼に真実を告げる。

 

「良い事ばかりじゃないよ。君まさか、ミタマを宿しているのが憤怒の少女一人と思ってないのか?」

「そうか! まだ7人協力者は居るんだった!」

「そう言う事だ。残りの7人もミタマを宿しているだろうね。これから先精々覚悟を決めるんだな」

 

 パーソレープは冷淡に言うが、一度灯った希望の光は簡単には消えない。

 ジェフリーは凛とした表情を浮かべながら、語り出す。

 

「皆助けてやるさ! 俺は偉大なサンクチュアリの人の心の美しさを継いだ魔法使い、アーサー・カムランなんだからな!」

 

 そう宣言するジェフリーを見て、一同は小さく頷いてその場を去ろうとする。

 黙って背中を向けて去っていく一同をパーサントは慌てて追う。

 四人並んだ所で、最後にボーマンが振り向いて一言エールを送った。

 

「これで貸し借りはなしだぜ。あとはお前次第だ。精々俺を失望させないでくれよ」

 

 そう言うとボーマンは下品な笑い声を上げながら、モヤの中に消えていった。

 それと同時にジェフリーの意識も覚醒していく。

 目的が分かると、ジェフリーの心は決まった。

 過去の仲間も未来のある少女達も全て救おうと。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 目が覚めると見知った天井がそこにあった。

 体の不調はもうすっかりなく、絶好調なのがよく分かる。

 視線を天井から人の気配がする方向に向けると、見知った顔が二つあった。

 

「おはよう。ほむら、さやか」

「おはようジェフリー」

 

 先に起きていたほむらとさやかはジェフリーの寝顔を眺めていて、彼が目を覚まして朝の挨拶をすると、二人も穏やかな顔を浮かべて返す。

 差し出された二つの手を取って、ジェフリーは起き上がると、夢の中での出来事を話し出す。

 嘗ての仲間が囚われていると知ると、二人もまた真剣な表情になり、ジェフリーの言葉を待った。

 

「俺は嘗ての仲間も助けたい。二人とも協力してくれるか?」

「何を言っているの。そんなの当たり前じゃない」

「さやかちゃん。がんばっちゃうからね!」

 

 頼りになる二人の仲間にジェフリーの顔は綻びる。

 穏やかな時間を共有し合っていた三人だが、二人が揃って目を閉じて唇を突き出すのを見て、ジェフリーは彼女達が何を求めているのかを知り、自分もまた唇を突き出す。

 

「オーイ! ジェフリーは無事なのか⁉」

 

 そこにドアを乱暴にノックする音が聞こえ、一同の注意はドアに向けられた。

 キリカは少し苛立った調子で返答を待っていて、ドアをノックする音は少しずつ大きくなっていく。

 

「分かったわよ。今出るから……」

 

 鬱陶しそうにドアへ出て応対しようとするほむらをさやかは手を伸ばして止める。

 彼女の行動の意味が分からず、ほむらは困惑した顔を浮かべた。

 

「その前にさ。服着よう」

 

 さやかに言われると、ほむらは今の状況を理解して、顔を真っ赤にして床に投げ捨てられたままの自分の服に手を伸ばして、慌てて着る。

 さやかは服を着ながら、汗でぐしょぬれになったので乾かすために干されていたジェフリーの法衣を彼に投げ飛ばして渡す。

 

「ほら早く! 着衣は文明人の義務です!」

 

 さやかに言われ、騒々しい中、ジェフリーは法衣に袖を通す。

 慌ただしく騒いでいるのは分かるが、何が起こっているのか分からず、キリカは何度もノックをして状況を確かめようとしていた。

 

「オーイ! だからジェフリーはどうなっているんだ⁉ あんまりマゴマゴしていると丸太でこのドア突き破ってもいいんだぞ!」




今回登場した『ミタマ』ですが、これはソウルサクリファイスともコラボをしている『討鬼伝』と言うゲームの中での能力です。コラボがあった時からずっとこの案は考えていました。

そして、さやかとほむらが何を行ったのか詳しく知りたい方は『魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語 Rー18版』の方をご覧になって下さい。
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