魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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彼が動く時、物語は変革していく


第五話 変革する物語

 魔法使いとしての戦いを行えるようになってから二日の時が流れた。

 この日の夜もほむらとジェフリーは魔女を相手に討伐に勤しんでいて、今まで見たこともない魔女だったが、ジェフリーのサポートもあり、ほむらは探り探りの状態ながらも炎の弓と卵を使いこなしていく。

 対象のみを焼き尽くす炎は魔女の体を焦がしていき、ほむらが頃合いとばかりに最後の炎竜の卵をバズーカ砲から放つと魔女は断末魔をあげて崩壊していく。

 核となっている部分にジェフリーは右腕を突き出し、その魂を右腕に宿らせる。

 結界が崩壊していくのを見ると、ジェフリーはほむらの問題点を見出し、それを正そうと右手から本を出してそこから供物を取り出す。

 それはジェフリー自身も使っている改魔のフォークだが、彼が使っているそれに比べると炎の勢いが弱い。

 ほむらがフォークの存在に気付くと、ジェフリーは彼女に手を差し出すように促す。

 言われるがままほむらは手を差し出すと、ジェフリーは腕を触って筋肉の量と腕の長さを確かめるとフォークの長さを確かめながら、ほむらに話しかける。

 

「今までの戦い方を見て思ったんだが、ほむらお前接近戦に弱い傾向があるな……」

 

 まだ共闘をしたことは4、5回しかないが、あっさりと自分の弱点を見抜いたことにほむらのポーカーフェイスが崩れそうになる。

 だがそれはどうにもならない物だと諦め、長所である銃火器の扱いを伸ばすことで弱点をカバーしようと考えていたほむらは無表情のまま応対に当たる。

 

「そうよ。私の時間停止はそこまで長い時間は止められないし、近づかれすぎたら銃火器での攻撃も逆に自分を苦しめる結果になるわ。だから私は自分の長所を伸ばす方法でここまで来たのよ」

「だがそればかりで成功は出来なかった」

 

 もっともな意見を言われ、その表情に曇りの色が見られる。

 ほむらが黙ってもなお、ジェフリーはフォークの刀身の確認に勤しんでいて、彼女が使いやすい大きさの刀身にするため、刃を半分に手でへし折るとほむらに手渡した。

 

「これは?」

「『魔王のフォーク』だ。小太刀程度の大きさにしておいたから、これなら女でも使いやすいだろうよ」

 

 燃える小太刀を見てエネルギーに満ちた武器が手に入ったのを感じる。

 近接用の武器をあまり使ってこなかったほむらに取って、この収益は大きいと感じ、自分の魔力に応じて炎が消えたり再び点火するのを見届けると、ほむらは物を盾の中へとしまう。

 

「もらっておくわ」

「それとこれはお前の分だ」

 

 そう言ってジェフリーが投げてよこしたのは小瓶に入った清浄な液体。

 以前頭にかけた物と同じであり、ほむらの予想では自分たちが使うグリーフシードのような物だと思い、前に教えてもらった情報と重ねてジェフリーに質問をする。

 

「これが前に話していた『リブロムの涙』なの?」

 

 ほむらの問いかけに対してジェフリーは黙って頷くと、リブロムの涙と供物の関係性に付いて説明しだす。

 

「そうだ。供物は時間と共に回復するが、過度に使えば壊れるからな。だがリブロムの涙さえあれば壊れた供物でも修復は可能だ」

 

 説明を受けるとほむらは小瓶も盾の中に入れる。

 そうしている間に頃合いだと踏んで、街頭に設置されている時計と自分の腕時計を見て時間を確認する。

 

「さっきから時間を気にしているが、何か起こるのか?」

「ええ、あなたに最初の仕事をしてもらうかもしれないわ」

 

 そう言うとほむらは長い髪をかきあげて、病院がある方向へとまっすぐ向かっていく。

 魔力で脚力を強化したほむらに対抗して、ジェフリーも隼の羽を使って脚力を強化させると彼女の隣に並んで引き続き話をする。

 

「そんなに強敵なのか? 次に現れる魔女ってのは?」

「と言うよりは巴さんとは相性が極端に悪い魔女よ。最悪の場合、彼女はここでリタイアの可能性もある」

「その言い方だとマミには生きてもらわないと困る感じだな。ワルプルギスの夜の戦力確保のためか?」

 

 言われた瞬間マミに関しての苦い思い出が蘇り、ほむらは一瞬苦痛そうな顔を浮かべたがすぐにまた元の無表情に戻ると話を進める。

 

「それもあるし、彼女が目の前でやられるのを見ても、まどかもさやかも魔法少女になる可能性が高確率なのよ。被害は極力出したくないの」

「分かった……」

 

 そう短く言うと二人の間にそれ以上の会話は必要なかった。

 決意を胸に秘め二人は病院へと向かっていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 病院に到着すると既に結界は完成しており、ジェフリーが右手をかざして入り口を作ると二人は中に入って魔女の結界へと突入する。

 グロテスクな領内はいつ見ても気持ち悪いと感じているジェフリーだが、今回はいつにもまして焦りの色が強いほむらを宥めようと厳しい表情の彼女に話しかけた。

 

「とにかく落ち着け。目の前の敵に集中しないと勝てる物も勝てないぞ!」

 

 そう言うとジェフリーは目の前に現れた使い魔『pyotr』と『polina』に向かって、炎竜の卵(改)を放り投げる。

 行動を起こす前に二体の使い魔は爆炎の中に消えた。ジェフリーは目を閉じて心眼で煙の中がどうなっているのかを確認するが、そこに生命体の反応はなかった。

 安心して進むように促そうとした瞬間、心眼が捉えたのは高速でこちらに飛来してくる蛇のような細長い物体。

 

「ほむら! 危ない!」

 

 ジェフリーが取った行動はほむらを守ろうと駆け寄ったものであったが、その選択が間違っていた。

 黄色のリボンで二人は拘束されてしまい、がんじがらめの状態になって二人は宙吊りとなっていた。

 

「抵抗さえしなければ何もしないわ。あなたもね協力者の魔法使いさん」

 

 そう言って煙の中から現れたのは、黄色をモチーフにした魔法少女巴マミだった。

 その後ろには鹿目まどか、美樹さやかもいて、まどかは二人を心配そうに、さやかは警戒心を強く持った視線を送っていた。

 

「ねぇほむらちゃん……どうしてこんなことするの?」

 

 まどかはあくまで諭すように話しかけるが二人はリボンの拘束を解くのに手一杯。

 動かしても動かしても食いこむばかりのリボンに対して四苦八苦していた。

 

「まったく君はいつも予想外のことばかりしてくれる」

 

 そう言って現れたのは白を基調とした長い耳と円らな瞳を持った地球上の生き物ではない存在。

 その姿を見た瞬間、ほむらの表情は憎しみに染まり、歯ぎしりをしながらそれを睨み付けた。

 

「キュゥべえ……」

(こいつがそれか……)

 

 ほむらから話を聞いているが見た目の愛くるしさだけを利用すれば、何も知らない思春期の子供なら騙せるだろうと思ったのがジェフリーの第一印象であった。

 頭に血が上りきっているほむらに変わって、ジェフリーは冷淡にキュゥべえを見つめていたが、その視線に気づいたキュゥべえはいつも通りの無表情のまま、ジェフリーの方を向くと話をしだす。

 

「君はボクの姿が見えるのかい?」

「ああ」

「それはおかしいな。ボクは魔法少女の素質がない一般人にはその姿は見えないはずだし、君はどう見ても男じゃないか」

 

 男で自分とコミュニケーションが取れる存在を珍しく思い、キュゥべえは少し興味を持ったようだが、すぐに使命を思い出すと踵を返しまどかに抱きかかえられると奥地を指さす。

 

「とにかくボクらの邪魔をしないでよ。暁美ほむら、そしてイレギュラーの魔法使いくんもね」

「そうだ、そうだ! こんなやつら放っておいて先に行こうよ、マミさん」

 

 さやかに促されると、マミは多少気になることがあったが、二人を置いて最深部へと向かう。

 まどかはほむらに対して後ろ髪が惹かれる思いがあったが、今は先に進んだ仲間たちのことを優先したいので、申し訳なさそうに頭を下げると皆の後を追う。

 その間も二人は拘束魔法を解こうと抗っていたが、皆の姿が完全に見えなくなるのを見るとジェフリーは自分のせいでこうなってしまった不甲斐なさに怒り、抗うことをやめて手足に力を込めると四肢の関節部分から炎が湧き出る。

 

「待ってろ。ほむら、今助ける!」

 

 怒りに満ちた叫びと共に四肢から発生した炎は勢いよく燃え上がり、リボンを灰塵と化して消滅させた。

 四肢の拘束が解除されて動きが自由になると、腹部に巻かれたリボンを乱暴に振りほどいて、右手から改魔のフォークを取り出すと、少女の四肢を拘束しているリボンに向かって振り下ろす。

 

「待ってジェフリー! 私のことはいいから、巴さん達を追って!」

 

 関節部分から焼けつくような激しい痛みが冷静さを奪っていたが、少女の叫びがジェフリーに本来の目的を思い出させた。

 今回の魔女はマミとは極端に相性の悪い相手。

 ここでドロップアウトする可能性が限りなく高いことは、これまでの統計から分かっていて、それを阻止するためにここへ来たのだということを。

 自分のせいでいらない事態を招いてしまったのだから、汚名返上をするのもまた自分。

 ジェフリーは軽く深呼吸をして自分を落ち着かせると、目を閉じて心眼を発動させる。

 身動きの取れない弱い獲物だと判断したのか、次々と使い魔たちが集まっていくのを見て、ジェフリーは手の中に炎竜の卵(改)を生み出すと、使い魔たちが集まったのを見計らい投げ飛ばす。

 

「必ずお前との約束は守るからな!」

 

 それは自分のせいでほむらを危険に巻き込んだ詫びの意思か、魔法使いとして一度受けた仕事は完遂させるというプロ意識なのかは分からない。

 だが目の前で自分以外の全てを大破し、煙の中で使い魔たちを改魔のフォークでなぎ倒すジェフリーを見て、ほむらの中で期待感が生まれた。

 彼なら何とかしてくれるという想いが。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 最深部に到着したマミは、一人椅子に座っている小さなぬいぐるみのような魔女を討伐するため、マスケット銃をいくつも召喚し、襲い掛かる使い魔たちを薙ぎ払っていた。

 その無双する様を物陰から見ていた。まどかとさやかは食い入るように見つめ、マミに対して喝采の言葉を送る。

 マミの心は今までで一番軽やかで幸福感に満ちていた。

 両親を事故で亡くし、延命のためになし崩し的に魔法少女になってからという物、一人ぼっちの辛いだけの毎日。

 だが今は違う。まどかが共に戦ってくれると約束してくれた。幸福感に満ちたまま、攻撃を繰り返し、最後に残った魔女に向かってマスケット銃からありったけの弾丸を放つ。

 なすがままに吹っ飛ばされ、横たわる魔女を見つめ勝利を確信したマミは魔力を集中させ、巨大な銃を召喚し照準を魔女に合わせ引き金を引く。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 光のエネルギーは一直線に魔女を包み込み、完全に動かなくなった魔女を見てマミは勝利を確信し、その魔女の元へと近づく。

 だがここで妙な違和感が襲った。

 いつもならそこに現れるはずのグリーフシードがなかったのだ。おかしいと思って辺りを見回すと後ろが影に覆われるのに気付く。

 

「マミさん後ろ――!」

 

 まどかの悲痛な叫びと同時にマミの視界に飛び込んだのは、ぬいぐるみと言う殻から抜け出し、本体を露わにした蛇。

 大口を開けてマミを頭から被りつこうとしている様を認識出来た時には、マミの思考は止まり完全に戦意を失っていた。

 この光景に二人も最悪の事態を想定し、思わず目を伏せてしまう。

 だがその考えは轟音により払拭される。

 明らかに何か大きな物が激突した轟音にその場にいた全員が何事かと思い、辺りを振り返るとそこにはマミではない第三者が少女の前に仁王立ちしていた。

 

「どうやら無事みたいだな……」

 

 そう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべるのは、先程マミが拘束したはずのほむらの協力者の魔法使い。

 右腕を左腕の二倍近くの大きさにさせていて、拳からは殴り飛ばした勢いがまだ残っているのか熱を持って煙を放っていた。

 大口を開けて油断しきった状態のところで、不意打ちを食らった蛇の魔女はよだれを垂らしながら地面に突っ伏していたが、自分に不意打ちを食らわしたのが目の前にある男だと分かると、体を起こし威嚇するように不気味な叫び声を辺りに響き渡らせた。

 その咆哮にジェフリー以外の全員が耳を閉じて身を低く構えていたが、彼だけは自分だけにしか見えない魔女の情報を見ると供物の力で巨大化した右腕『巨神の腕(改)』に力を込めて魔女を睨む。

 

「プライドが傷つけられたか? お菓子の魔女『charlotte』いいぜ来い!」

 

 ジェフリーの叫びと共にシャルロッテは大口を開けてまっすぐ突っ込み、対する魔法使いも同じように右の拳を振り上げてまっすぐ突っ込んだ。

 

「無茶ですよ、そんなパワー型の魔女に対して真っ向勝負だなんて……」

「いいからお前は二人の安全を確保しろ!」

 

 ようやく冷静さを取り戻したマミはジェフリーにアドバイスを送ろうとしたが、それは怒鳴り声でかき消された。

 男の大声に対して体をビクリと震わせもしたが、もっともな正論に何も言い返すことが出来ず、マミは二人の元に駆け寄りリボンでドームを作って簡易の防空壕を作り上げると、リボンの隙間から魔女と魔法使いの対決を見つめた。

 

「マミさん。一体あの人何がしたいんですか? 転校生の協力者だなんて言うから、絶対悪い奴だって思ったのに私たちを助けるような真似をして……」

「分からないわ。でも今は彼に頼るしかないわ……」

 

 さやかの問いかけに対してもマミの口調は先程とは違い弱弱しい物だった。

 マミを見ると小刻みに震え、その顔は蒼白に染まっていて、目は焦点があっておらずに恐怖に震えていた。

 その様子を見たまどかとさやかは何も言わずに、マミが落ち着くまで肩を抱いたり、頭を撫でたりして彼女の心が落ち着くのを待った。

 

「マミさんの言う通り、今は信じようあの魔法使いさんのことを」

 

 まどかの意見に対してさやかは静かに頷く。

 二人の戦いを見ると大口を開けて地面を這ってジェフリーを食らおうとするシャルロッテに対して、ジェフリーも同じようにまっすぐ突っ込んでいくが両者が交差しようとした瞬間に変化が起こる。

 ジェフリーの体がそこに居た全員の視界から消えたのだ。

 一瞬見落としているだけかと思い少女たちは目を凝らしてジェフリーの姿を探したが、彼を見失ったのはシャルロッテも同じようであり、体を大きく立たせると地面を食い入るように見つめた。

 

「顎ががら空きだぞ!」

 

 叫びが聞こえた地中にシャルロッテが顔を近づけると、ジェフリーが地中から右拳を突き上げて言葉通りがら空きになっているシャルロッテの顎に向かって、アッパーカットを放ってその巨体を後方へと突き飛ばした。

 地中に潜って相手の攻撃をかわす供物『モグラの爪』と剛腕の魔法を組み合わせることで発動する『土竜拳』の威力は抜群であり、シャルロッテは泡を吹いた状態で後方に倒れこんでいたが、追撃が来ないので起き上がってジェフリーを見るとシャルロッテの準備が出来るのを待っていた。

 その余裕めいた態度が気に入らなかったのか、シャルロッテは再び咆哮を上げると再び仁王立ちしている敵に向かって噛みつこうとしたが、ジェフリーが力を込めると彼の周囲に岩の粒が集まってくる。

 そしてシャルロッテが噛みついた時にはそこに魔法使いの姿はなかった。巨大な丸い岩の塊がそこにあるだけであり、岩の塊に思い切り噛みついたシャルロッテの牙は折れ、歯が折れたことにシャルロッテの戦意は大幅に失われ、後方にのけ反って痛みに苦しんでいた。

 自信の体に岩石を纏って巨大な岩石に変身する『岩虫の甲殻(改)』に身を包んだジェフリーは中で何か行動をしているのか、もぞもぞと小刻みに動いていた。

 物が動いていないのを見ると、シャルロッテは怒りに身を任せて牙を再生させると先程よりも勢いをつけ、岩ごとジェフリーを食べようと襲い掛かったが、その瞬間にジェフリーは岩の後ろから飛び出して巨大化した右腕に力を込めると思い切り殴り飛ばす。

 

「これで終わりだ!」

 

 岩の塊を思い切り飲み込んでしまったシャルロッテは腹の中に岩が溜まる感覚に不愉快な表情を浮かべた。

 だがその不快感は次の瞬間に消えてなくなる。

 自分の腹の中で何かが膨れ上がる感覚を覚えると、反射的にシャルロッテは口を閉じて衝撃に耐えようとしたが、頬が限界にまで膨れ上がり許容量が超えると、体内で大爆発が起こりシャルロッテの体は飛散した。

 

「どうだ? 炎竜の卵と樹竜の卵を組み合わせての追撃効果の威力は、毒は熱を帯びるからな。結果として大爆発ってわけだ」

 

 予め中で仕込んでおいた炎竜の卵と樹竜の卵の追撃効果で倒したことを説明すると、コアとなっている部分が現れるのをジェフリーは見つけた。

 もうシャルロッテがいないのを確認するとマミはリボンの防空壕を解除し、恐る恐るジェフリーの元へと向かう。

 ジェフリーはコアの部分からグリーフシードを取り出すと、マミに向かって投げてよこす。

 

「それを持ってほむらのところに行け。そして話ぐらい聞いてやれ。一方的に否定するだけじゃなくてな」

 

 その言い方に対してマミは何も言えずに黙ってほむらの元へと向かった。

 それに二人も続き、その場に誰もいなくなったのを見ると自分がすべきことをするため右腕をコアの部分にかざした。

 

「ちょっとやってみるか……」

 

 その魂に今までの魔女と違う物を感じたジェフリーは生贄とは違う青色の優しい気をコアに向かって放った。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 三人がほむらの元にたどり着くとリボンの拘束を解いていたほむらがそこにはいた。

 崩壊しかかっている結界を見て、ほむらは事が無事に済んだのを確認すると相変わらずの無表情のままマミと接する。

 

「終わったようね。それで今の感想は?」

 

 短い言葉ではあったが、ほむらの真意という物がマミには理解できた。

 まるで何もかもを知っているような仕草は決してポーズではなかったことを、未だに震えが止まらない状態ながらもマミはほむらに対して話を進める。

 

「ええ、彼がいなかったら私は今頃……正直平手打ちを食らっても文句は言えない状況ね……」

 

 弱弱しく語るマミに対してほむらは平手を振り上げて殴り掛かろうと振り下ろすが、直前に拳を固め勢いを殺すと軽くしょげているマミの頭を小突いで顔を上げさせた。

 

「顔を上げなさい。話が出来る状態になったようだから、改めて話をさせてもらうわ。もうこれ以上一般人を魔女との戦いに巻き込むのはやめてちょうだい」

 

 二人の間には緊迫した空気が流れ、何かとほむらに噛みつくさやかも、ほむらを必要以上に心配しているまどかも何も言えずにジッと見つめるだけだった。

 ほむらは冷淡な顔つきでジッとマミを見つめているだけであったが、やがて沈黙に耐えられなくなったのかマミが話し出す。

 

「でも、それでもやっぱりあなたを信頼することは今の段階では出来ないわ。やり方が違うとは言え、それでもキュゥべえを殺そうとするあなたは信頼できない。けど……」

「けど、何?」

 

 マミは体を震えを自分で抱きしめて止めさせると、決意を秘めた目を浮かべてまっすぐほむらを見つめて話し出した。

 

「彼なら、あなたの協力者の魔法使いさんなら信頼してもいいわ……」

「それはあなたの命の恩人だから?」

「それもあるわ。それに……彼は信念を持って戦っている。戦闘を見たのは短い間だったけど、それだけは分かったわ」

 

 ほむらとの共闘ではなく、ジェフリーとの共闘のついででほむらとも共闘することを認めたマミ。

 

「それで構わないわ。私のことはジェフリーの道具程度の感覚で捉えた方があなたも楽でしょう。交渉成立でいいわね」

「分かったわ。キュゥべえさえ殺しさえしなければ、これ以上文句を言うことはしないわ」

「今はそれで構わないわ。時期が来れば全て分かるわ」

 

 一応は二人の間に停戦協定が結ばれ、共闘の関係が出来上がり、一旦はまどかを魔法少女から遠ざけることが出来た。

 その喜びを胸に秘めながら結界が崩壊していくのを見届けると、ほむらは長い髪をかき上げて何も言わずにその場を後にしようとしたが、最後にさやかと目が合うと相変わらずのトーンのまま話し出す。

 

「最後に言っておくわ。さやか、あなたは少し盲目的になる傾向が強いわ。仮に魔法少女になるにしろ、その選択が本当に自分にとって正しいそれかどうか立ち止まって考えることを勧めるわ」

「何よそれ⁉ アンタなんかにどうこう言われる筋合いはないわよ!」

 

 未だにほむらに対して敵対心が消えないさやかはほむらに対して噛みつくが、それをマミとまどかは二人の間に割って入って止める。

 自分を厳しい目で睨み付けるさやかに対して、ほむらは手を突き出して真剣な表情で一言つぶやく。

 

「忠告はしたわよ……」

 

 それだけ言うと結界が崩壊していく中で最深部にいると思われるジェフリーの元をほむらは目指した。

 その場に彼女がいなくなったのを見ると、未だに興奮が冷めやらないさやかの怒りの矛先はマミへと向けられる。

 

「マミさん! 本当にあんな奴と共闘なんてするんですか⁉ 私は反対ですよ!」

「確かに彼女の行動には謎が多い部分もあるわ。けど……」

「けど?」

 

 言い淀んでいるマミの言葉を促そうとまどかが話しかけると、マミは自分の中で言葉を整理して話し出す。

 

「あの魔法使いさんなら、私、一緒に戦えると思うの……」

 

 咄嗟の判断力、戦闘力、全てが一級品だと判断したマミは自分の弱さも彼なら受け止めてくれるだろうと思い、あえてあまり信用できないほむらとの共闘を選んだ。

 その言葉を聞いてまどかもさやかも何も言えなくなる。

 仮に自分たちが魔法少女になったとしても、新人で経験の浅い自分たちでは逆にマミの足を引っ張るし、今回のような事態になる可能性もある。

 だがジェフリーならば、その心配はない。

 彼も又ほむらと同じで謎の多い存在ではあるが、決して悪人でないのは分かる。危険を冒して自分たちを助けてくれたのだから。

 結界が完全に崩壊して元の病院へ出ると、さやかは恭介が無事かどうか見舞いのため中に入り、まどかとマミは何も言わずにその場から立ち去った。

 皆の間で不審者でしかなかったほむらの印象が少しだけ変わった瞬間であった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 一応はマミとの共闘が可能になった。

 一つの課題をクリアしたほむらの心の重荷は少しだけ取れ、ジェフリー探すが彼の姿はどこにも見当たらなかった。

 テレパシーで応答しようにも相手がどこにいるのか分からなければ、それもできない。

 慎重派過ぎるぐらいのジェフリーが勝手に行動を起こすことが理解できずに、ほむらは困惑していたが、彼はほむらとは逆の方向から現れた。

 

「すまん、ちょっと出てた」

「そう……次からは何かする時はちゃんと私に話してちょうだい」

「分かった……」

「おかげさまで巴さんとの共闘が可能になったわ。作戦会議をするから家に戻りましょう」

 

 短いやり取りではあったが、ほむらが喜んでいることはジェフリーには分かり、何も言わずに彼女の後を付いていく。

 

(しかし大丈夫なのか? 神聖な魂だったとは言え、魔物とは救済後の処置がどうなるかなんて分からないからな……)

 

 ほむらの後ろを付いている間もジェフリーが気にしているのは、元お菓子の魔女だった少女の事。

 神聖な魂の気は自分にとってもプラスになるため救済をしたが、魔女と魔物では勝手が違う。

 この先どうなるかを気にしていたが、自分には魔女を探知できる千里眼の刻印がある。

 また魔女になったらその時はまた討伐すればいいというシンプルな結論を自分の中で出すと、ジェフリーはほむらの後を追った。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 見滝原の隣にある町風見野。

 この街には小高い丘の上に古びた教会があった。

 そこはかつて異常な教団の集まりとして少し前は騒がれた場所。

 教祖である父親が長女を残して一家心中したことで騒動は収まったが、未だに不気味で誰も近寄らない場所であった。

 そんな場所を寝床として扱っている少女が一人いた。

 赤く長い髪の毛をポニーテールでまとめ、ハーフパンツにパーカーを着た少女は不機嫌そうな顔を浮かべながら紙袋一杯に入った林檎をかじると心の中にあるモヤモヤを払しょくしようとしていた。

 この日の寝床をかつての実家で過ごそうと思っていたが、いつもは全く周りに人が集まっていないのにこの日はやたらと騒がしく人だかりができているのを見ると、少女は木陰に身を潜めて様子を見た。

 魔法を使って聴力を強化させると野次馬たちの声が聞こえる。

 どうやら教会の前でぼろ布一枚を身にまとっただけの裸の少女が捨てられているのを発見したため、いつもは全く人が集まらない教会に人が集まったようだ。

 野次馬の中から警察官が現れ、言ったようにぼろ布を一枚まとっただけの銀色の長髪を持った小学生ぐらいのあどけない少女が搬送されてパトカーに乗って行くのを見届けた。

 

(捨て子か? 何にせよ、こんなところで迷惑な話だ……)

 

 肝心の少女がいなくなるのを見ると、野次馬たちも去っていく。

 全員がいなくなったのを見計らうとマミたちと同じ赤毛の魔法少女は教会の前に立つ。

 中に入ろうとしたが、裸の少女が寝かせられていた場所の土だけが妙に色褪せ、まるで炎であぶったかのように焼けているのを見ると、赤毛の魔法少女はそれが気になり指で擦って確かめる。

 

(何だこりゃ?)

「お取込み中のところを少し悪いけどいいかな?」

 

 自分の中で考えをまとめようとしているときに第三者の声が割って入る。

 振り向くとそこにはキュゥべえが居て、相変わらずの無表情で赤毛の魔法少女を見上げていた。

 

「何だ?」

「実は今日は君に頼みがあってやってきたんだよ」

「言うだけ言ってみな。聞くかどうか話は別だがな」

 

 それだけ言うと赤毛の魔法少女は持っていた林檎を乱暴にかじりつく。

 話が出来る状態になったのを見るとキュゥべえは自分の目的を話し出す。

 

「実はかつての君のホームである見滝原でちょっと困った事態が起こってね」

「何が困ったことだ。あそこにはマミがいるだろ、それに風の噂だがあれと同レベルの魔法少女も新たに現れたって話は聞いてるぞ」

「加えてボクとは契約もしてもない、男の魔法使いもね」

 

 自分とは違う魔法使いがいることに赤毛の魔法少女は一瞬驚いた顔を浮かべたが、すぐに意識を林檎に戻すと黙ってキュゥべえの話を聞く。

 

「そのイレギュラー二人はちょっとこれからの活動に支障をきたす存在なんだ。だから君にも見滝原に向かってもらいたい。この風見野でのグリーフシード回収にも限界を感じているだろう?」

 

 キュゥべえが言うようにここを縄張りとしている赤毛の魔法少女のグリーフシードの手持ちは心もとない状況。

 魔法が使えなければ親のバックアップがない自分は野垂れ死にするしかない、自分のためだけに生きると決めた赤毛の魔法少女に取っては現在の状況は決して芳しくない。

 生きるために赤毛の魔法少女は一つの結論を出す。

 

「そうだな。あの時全てを自分のために使うって決めたんだ。分かったよ、再び見滝原に戻るとするよ。例えマミを殺すことになってもな」

「頼もしいよ杏子」

 

 それだけ言うとキュゥべえはニッコリ笑って『佐倉杏子』に別れを告げた。

 一方の杏子は相変わらず不機嫌な顔を浮かべたまま林檎にかじりついてイライラを払拭しようとしていた。

 マミには世話になったが、自分の生き方を変えることは今更出来ない。

 これが自分のプライドなのだと自分に言い聞かせて、杏子は向かう。

 戦いの地見滝原へと。




こうして物語は変化していった。
この先彼が紡ぐ物語はどうなるか……
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