魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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愛しているからこそ狂う。愛は何よりも偉大な感情だから。


第十五話 狂人の革命

 一通りの情報交換が終わると、全員が聖杯の協力者に対して嫌悪感を持っていた。

 そんなモヤモヤした気分のまま、一夜が明け、一同は美国邸へと集まっていた。

 何を話せばいいか分からず、その場を嫌な空気が包み込んでいて、全員がどうしていいか分からない状態だったが、ここで意外な人物が口を開く。

 

「あ、あのですね……」

 

 この沈黙に耐えきれなくなったなぎさは、今まで話していなかった聖杯の協力者とは別の存在。ユウリの使い魔と思われる青年に付いて話し出そうとする。

 その青年は身長は180台、ざんばらの髪の毛を無造作に伸ばしていて、ピエロの衣装を身にまとっていたと、なぎさは自分が見た情報を丁寧に一同に語る。

 話だけ聞けば別に大した事でもないと思い、一同は話半分に聞いていたが、最後になぎさは特大の爆弾を投下する。

 

「一番驚くべきところは、その人は自分の意思で魔物に変身できるんです。救済をしたわけじゃないのに、そのおにいさんは『ハーメルンの笛吹き男』から元のおにいさんに戻ったです。ハイ」

「何ですって!」

 

 なぎさは一同がパニックになることを防ぐために、敢えて一番の衝撃だった情報を最後に持って行った。

 彼女の予想通り、自分の意思で魔物に変身出来る存在に一同は食いつき、詳細をなぎさに聞こうとする。

 だが突然大勢の人間に詰めよられ、なぎさのキャパは一気に要領を超えて、質問に対してもしどろもどろになってしまうだけだった。

 

「みんな落ちついて! なぎさちゃんこまってるよ!」

 

 この状況を止めたのは、ゆまの怒鳴り声。

 少女の声で一同は冷静さを取り戻し、それぞれ自分の定位置へと戻って行く。

 そして一同の視線はほむらへと向けられた。

 数多くのループを経験している彼女ならば、こんな事例もあったのではないかと思っていたからだ。

 無言のプレッシャーに耐えられなくなったのか、ほむらは額に汗を浮かべながらも正直に話し出す。

 

「こんな事例は初めてよ。自分の意思で人間から魔物になれる輩なんて見た事無いわ……」

「それに近いのなら、知っているよ」

 

 ここで口を開いたのはキリカだった。

 彼女は前にユウリとも親交がある事を一同は知っている。

 この不可解な状況を打開できるのは彼女しかいないと思い、一同の視線はキリカへと向けられた。

 

「前に私と織莉子が、ほむら達がワルプルギスの夜の討伐に当たっている間、あすなろ市とホオズキ市の事件に当たっていた事は話しただろう?」

 

 前にほむら達に話した情報を再確認するようにキリカは言う。

 詳しくその事に付いては知らないが、一応そう言う事を行っていた事は知っているほむら達は黙って首を縦に振る。

 

「特にあすなろ市での事件は大変でした。魔法少女システムと真っ向から戦おうとしている存在との関わり、そしてワルプルギスの夜ほどではないにしろ、超大型の魔女との戦闘もあったのですから……」

 

 その時の事を思い出し、織莉子の目には軽く涙が浮かんでいた。

 普段から気丈な彼女が弱い部分を人目をはばからずに見せるあたり、あすなろ市での事件がワルプルギスの夜との戦いに匹敵する物だと悟り、ほむら達はそれ以上の追及を止め、目的だけを聞き出そうとする。

 

「それで魔物から人間に自由に戻れるからくりは何なんだ? ハッキリ言いやがれ!」

 

 織莉子の精神衛生上のため、杏子は早くハーメルンについての心当たりを聞き出そうとする。

 思い出に浸っていた二人だが、本来の目的を思い出すとキリカはしげしげと語り始める。

 

「分かった。要点だけ言うと、私達が戦っていた敵は自由に魔女を生みだす事が出来たんだ。それも素養のない一般人からな」

「何ですって⁉」

 

 一概には信じられない話にほむらは驚愕の声を上げる。

 今にも駆け寄って詳細を聞こうとするほむらを他の面々は必死になって抑え込み、キリカの話の続きを待った。

 

「敵に付いての詳細はまた今度気が向いたら話すよ。かいつまんで話すとだね、それを一般人に埋め込めば魔女と同等のレベルを持った存在『魔女モドキ』になるって訳だ」

「そいつからグリーフシードは落ちるのか?」

 

 杏子は魔法少女に取っての死活問題を聞く。

 質問に対して、キリカは黙って首を横に振る。

 

「無い。そして元凶となったそれは、通称『疑似グリーフシード』と呼ばれているが、そいつにもソウルジェムの浄化効果はない」

「何だってんで、そんな百害あって一利なしなもんを……」

 

 さやかはその存在に対して怒りを覚える反面、あまりのスケールの大きさに圧倒されていたが、キリカは最後にそれの名前を語る。

 

「イーブルナッツ……」

「え?」

 

 間抜けな声を上げるマミに構わず、キリカはハーメルンの笛吹き男についての可能性を話し出す。

 

「イーブルナッツ、それが一般人を魔女モドキに変える道具さ。可能性があるなら、ユウリの奴はそれを使用したんだろうよ」

 

 それだけ言うとキリカは遠くを見て、これ以上語らない雰囲気を出していた。

 再び静寂に包まれるそうになるが、織莉子がそれを打破する。

 

「ところでジェフリーさんは?」

 

 この場に一番居てほしく、意見を聞きたい男の名を織莉子は言う。

 彼がこの場に居ないのは理由があり、まどかが代弁をする。

 

「外の空気を吸いたいと言って、パトロールを兼ねて散歩しています」

 

 簡潔な理由に再びその場は静寂に包まれる。

 嫌な空気の中で織莉子は一人、イーブルナッツの仮説に対して疑問を抱いていた。

 

(倒したら分離するはずだし、もう元凶は絶ったのに何で……)

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 ジェフリーは一人モヤモヤした感情を払拭しようと、辺りを鋭い眼光で見回してパトロールに勤しむ。

 カムランがあるとは言え、それだけにかまけるのは堕落だと判断したからだ。

 だが歩いている途中でも思うのは、昨日の奇妙な現象。

 過去いくら振り返っても自分の意思で魔物になれる存在など居ないからだ。

 ガウェイン本人が追っている獲物の魔物ワーウルフだった事はあるが、あれは本人の自覚がない状態。

 しかも自由に自分の意思で変身出来る訳ではない。

 だが先日のハーメルンの笛吹き男は魔物の変身を自分の意思で行い、魔物の力を完全に自分の物にしていた。

 苛立ちは表立って現れ、行き交う人々はジェフリーを避けて通っていた。

 そんな中、一つ近付く雰囲気に気付くと、ジェフリーは何も言わずに人の気配がする方向に振り返る。

 

「いやぁ奇遇ですね」

 

 ジェフリーの後ろに居たのは、先日激闘を繰り広げたばかりのハーメルンの笛吹き男の人間形態がそこには居た。

 先日のようなピエロの衣装ではなく、ブラウンのカーゴパンツに同色のジャケットにTシャツ姿の年相応の青年らしいファッション。

 銀色の髪を無造作にまとめ上げ、人が良さそうな穏やかな笑みを浮かべて、彼はジェフリーに接した。

 その姿を見ると、ジェフリーはバックステップで一定の距離を取ると、交戦体勢を取ろうとする。

 

「ハハ、そんなに身構えないでよ」

「ふざけるなよ。魔物が街に繰り出す理由なんて一つだけだ。人を襲う以外何が出来る?」

 

 長年の癖から、魔物を見ると身構えるジェフリーは警戒心を解かないまま、ハーメルンの笛吹き男と接する。

 だがそんなジェフリーに対して、ハーメルンの笛吹き男は穏やかな笑みを浮かべながら、子供に諭すようにゆっくりと語る。

 

「今はただの散歩さ。それに僕は普通の魔物とは違うからね、いわば例外、いや粗悪品と言った方が近いかな?」

「そんな話を信用出来ると思っているのか⁉」

 

 突然怒鳴り声が響き、行き交う人々は二人を見やる。

 だがジェフリーの威圧的なオーラを感じ取ると、面倒事に巻き込まれたくないのか、すぐ何事もなかったかのように足早に去っていく。

 警戒心を解かないジェフリーに対して、ハーメルンの笛吹き男は困ったように笑いながらも、すぐ近くにある喫茶店を親指で指す。

 

「それを分かりあうためにはお互いを理解しないとね。あそこでコーヒーでも飲みながら話そうよ。必要とあらば僕は君が求める情報だって提供出来る」

 

 情報を提供すると言う言葉にジェフリーの意思が揺らぎ出す。

 今は少しでも情報が欲しい状態、ならばと敵の策になるのも一興だと思い、ジェフリーは構えを解くと、先にハーメルンの笛吹き男に喫茶店に入るようジェスチャーで指示を出す。

 

「分かってくれて嬉しいよ」

 

 それだけ言うとハーメルンの笛吹き男は喫茶店へと入り、ジェフリーも後に続く。

 こうして異質なオーラを発する二人の客が喫茶店へと来店した。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 二人は互いにホットコーヒーを頼むと、ハーメルンの笛吹き男は飲み出すが、ジェフリーは出されたコーヒーに手を付けないまま、腕を組んで黙ってハーメルンの笛吹き男をジッと見つめていた。

 威圧的な視線に耐えられなくなったのか、ハーメルンの笛吹き男は困ったように笑いながらも抗議の声を上げる。

 

「困ったな。そこまで高圧的な態度を取られると、こっちも萎縮しちゃうんだけどな……」

「無駄話をするな。聞かれた事にだけ答えろ」

 

 ジェフリーは変わらず威圧的な態度を崩さないまま、ハーメルンの笛吹き男に接する。

 彼が提供する情報が必ずとも真実とは限らない。

 警戒心を解かないまま、ジェフリーは魔物の討伐に赴く心境で彼に質問を始める。

 

「まずお前の事はこれからどう呼べばいい?」

「それは僕の人間としての名前かな? こうなった時点でそれは捨てましたよ。だから僕の事は『ハーメルン』で構わないよ」

 

 ハーメルンは相変わらずの穏やかな笑みを浮かべたまま話す。

 一見すれば人当たりの良い穏やかな青年に見えるが、ジェフリーに取ってはこの穏やかな笑顔が逆に不気味だった。

 魔物になった人間がここまで穏やかに人間らしい笑みを浮かべられるとは思わなかったからだ。

 ハーメルンの抱える闇は相当深いと感じながら、少しずつジェフリーは聞きたい情報を引き出そうとする。

 

「まず一つ約束をしろ。これから話す事は全て真実だけを答えると言う事をな」

「話せない真実。及び僕も知らない真実以外なら全て話すさ」

「じゃあまず一つだ」

 

 『話せない真実』と言うのは、聖杯及び協力者達の本拠地、そして内部事情の事だろうとジェフリーは判断し、話せられる情報をハーメルンから聞き出そうとする。

 

「お前何者だ?」

 

 一番知りたかった事実をジェフリーはハーメルンから聞き出そうとする。

 質問を受けると、ハーメルンは表情を崩すことなく淡々と語り出す。

 

「質問の意味がちょっと分からないな。僕はユウリ様に作られた使い魔の『ハーメルンの笛吹き男』さ、それ以上何を話せって言うんだい?」

「とぼけるな。人間を捨てて魔物になった者、魔物だった事に気付かなかった者、人と魔の間を行き来し苦しむ者は知っているが、自分の意思で魔物に変身出来る存在など見た事ない。答えろ!」

 

 ジェフリーの怒鳴り声が響くと店内は騒然となり、彼の代わりにハーメルンが頭を下げてその場は収まった。

 ざわつく店内に再び静寂が訪れると、ハーメルンは自分が魔物になった経緯を語り出す。

 

「何度も言うように僕は失敗作の粗悪品さ、正式な聖杯の手順を踏んで魔物になった訳じゃない。だから中途半端に人間の姿を残しているし、魔物としての実力も低い方なんだよ僕は」

「無駄話はいい。どうやって魔物になったのかを言え」

 

 高圧的なジェフリーの物言いに対して、ハーメルンは一枚の紙を取り出してジェフリーに手渡す。

 そこには備え付けの紙にペンで文字が書かれていて、ジェフリーに対して指示が出されていた。

 

『心眼で僕の様子を見て』

 

 言われるがままジェフリーは心眼でハーメルンの姿を見る。

 すると一つ奇妙な物がジェフリーの心眼に映った。

 心臓の部分にグリーフシードに似た形体の物質が埋め込まれていたのだ。

 それが原因だと分かると、ジェフリーは目を開いてハーメルンに説明を求める。

 

「これは元々ユウリ様が前の組織に属していた時に使用していた物さ、これはイーブルナッツ、一般人を魔女モドキと呼ばれる魔物に変える道具さ」

「何だって⁉」

 

 彼の発言が信じられず、ジェフリーは思わず目を大きく見開く。

 多くのループを経験したほむらからも、そんな話は一言も聞かされていないからだ。

 何が何だか分からないジェフリーは、何も言わずにハーメルンをジッと見つめるが、ハーメルンはそんな彼を宥めながら話し出す。

 

「イーブルナッツに関しては、君のチームに居る美国織莉子さん、もしくは呉キリカさんに聞いてよ。じゃあ話の続きだ」

 

 強引に話を終わらせると、ハーメルンは自分が魔物と人の間を行き来出来る存在になった理由を語り出す。

 聖杯の協力者となって、欲望に負けた人間を魔物にしようとユウリは野に出て行動を起こしていた。

 しかしなりたててで聖杯の力の使い方がよく分からなかったユウリは、これまでやっていたのと同じようにイーブルナッツに新しい力を込めて、魔物に変えようとした。

 そしてその方法をハーメルンに試したところ、それが失敗だと分かった。

 意識は完全に魔に委ねられた訳ではなく、人間としての心はしっかりと残っていた。

 ここで手放せば反乱分子になりかねないと思ったユウリは、彼を使い魔として自分の一番近くに置く事を選んだ。

 話を聞くとジェフリーは困惑の表情を浮かべながら説得に当たろうとする。

 

「今からでも遅くはない。聖杯とは縁を切れ、イーブルナッツとやらの解除法は俺には分からないが、こっちには未来が見える魔法少女が居るんだ。彼女だったら、必ず何とかしてくれる……」

「勘違いしないでほしいな」

 

 先程の柔らかなトーンとは違い、ハーメルンは冷淡に言い放つ。

 ジェフリーの顔をまっすぐ見つめたまま、彼は自分の心情を語り出す。

 

「僕は捉えられている訳じゃないよ。僕は喜んでユウリ様の使い魔になる事を選んだんだよ。僕も世界を欲望で満たすのには賛成だからね」

「何でそんな愚かな選択を……」

「それは僕が常に怒り狂っていたからさ」

 

 そこからハーメルンは心情を吐露していく。

 常々、彼は絶望していた。

 弱き者に優しくない世界に、犯罪が蔓延する心の無い世界に、力のある者だけが甘い蜜を吸い、弱者が常に虐げられる世界に、そしてそんな世界を誰も変えようとしない事に、全てに絶望し、怒り狂っていた。

 

「異界の貴方からすれば難しい話だけども、日本は今絶望的な状況にあるんだよ。国の借金は膨れ上がる所まで膨れ上がり、財政破綻の可能性だって0じゃない。この状況を打破するには国民全員が一枚岩となって、絶望に立ち向かう。それしかこの状況を変えられる事は出来ないと思っているんだよ」

 

 意気揚々とハーメルンは語るが、ジェフリーは別に興味がないと言った顔で彼の語りを聞いていた。

 国のやり方に不満を持って、クーデターを起こそうと魔物になった輩は少なくない。

 ありきたりな理由で魔物になったハーメルンに対し、ジェフリーは同情もせず、憤怒の感情を持つ事も無かった。

 冷ややかな視線をハーメルンにぶつけたまま、ジェフリーは彼に問いかける。

 

「それでお前の最終的な目的は?」

「聖杯を滅してくれる事さ」

 

 ハーメルンの答えにジェフリーは混乱の極みに立っていた。

 自分の目的を叶えるため、魔物になったような輩が最終目的が聖杯を滅する事だと言うからだ。

 何が何だか分からないと言った顔を浮かべるジェフリーに対して、ハーメルンは詳しい説明に入る。

 

「勘違いしないでほしい。僕は人を憎んでいると同時に、人を誰よりも愛しているんだよ。確かに人は脆く、弱い生き物だ。でも最後は人の心にある美しい物が勝ち、人は絶望に負けない、金色の希望を持って歩んでいける物だとね」

「それだったら……」

「その為にこそだよ!」

 

 今度はハーメルンの方が興奮し、焦点の合ってない目で立ち上がって、明後日の方向を見ながら叫ぶ。

 

「人が金色の希望を持つ条件、それは絶対的な絶望が襲ってきてこそだよ! 全てをリセットした時、人は本当の意味で心に強い希望だけを持って生きていける。これこそが僕の理想とする世界さ! ジェフリーさん、あなたの世界の様にね!」

 

 ハーメルンが言うように、ジェフリーの世界ではある時を境に聖杯その物は姿を消した。

 それはゴッドドラゴンが現れ、人々が恐怖に負け聖杯の力を頼って、多くの魔物が生まれた時。

 生き残った人々は魔物を許し、人を救済する組織『サンクチュアリ』に身を寄せ合っていた。

 だが内部でも恐怖に負けて、魔物となった信者は大勢居た。

 その中でも二代目ゴルロイスことエレインは信者を信じ、例え殺されても憎まないと言ってのけた。

 その瞬間、当人にしか見えない聖杯は全て消え、人々は魔物に破壊され尽くした街の復興を行うようになった。聖杯と言う奇跡に頼らず、人の力だけで。

 だがそれは決して喜ばしい状況ではない。出来る事ならジェフリーは繰り返したくないと思っている。

 例え聖杯に頼らなくても、犯罪に手を染め、絶望に負ける人間は居るのだから。

 その事を諭そうと、ジェフリーは興奮しているハーメルンを座らせると、再び向かい合って話し出す。

 

「俺の世界の状況はお前が言うほど、良い物じゃないよ。ただ単に人の人数が極端に少なくなったから、まとまっているだけだ」

「希望を強く持てる人間がそれしかいないのならば、それは仕方のない事だよ」

 

 淡々と言ってのけるハーメルンに対して、ジェフリーはここで眉尻を上げて怒りを持った目で彼を睨んだ。

 そして怒りの理由を語り出す。

 

「じゃあ何か? お前は希望を強く持てる人間が生き残れるなら、他の弱い心の人間は死んでもいいとでも言いたいのか⁉」

「その通りさ」

 

 あまりにも堂々と言ってのけるハーメルンに対し、ジェフリーは言葉を失う。

 ハーメルンは最後に決意表明と言わんがばかりに叫んだ。

 

「これは試練なんだよジェフリーさん! 神が人は本当にこの世界に必要かどうかのね! 君達の世界の人間は見事にこの試練を乗り越え合格した。でも僕達の全力に耐えられないようなら、人なんて元よりその程度の生き物だったって事ですよ! 生き残りたければ神の試練に打ち勝てばいいだけの話さ! 希望だけを抱いて本当に心から美しい存在に人を変える。その為ならば僕は喜んでこの身を捧げよう! もう過ちを犯さないためにもね!」

「その事が既に過ちだと何故気づかない!」

 

 二人分の怒鳴り声が店内に響き渡り、さすがにこれ以上店に置いておく訳にはいかないと思い、店主がカウンターから飛び出して二人の元へと向かう。

 

「ちょっと! 何を騒いでいるんだ! お題なら結構だから出て行ってくれ!」

 

 話している途中に店主の顔に粉が振りかかる。

 眠り教主の花の細粒は店主だけでなく、店全体に広がり、ジェフリーとハーメルン以外の面々は深い眠りに落ちた。

 落ち着いて話が出来る状況になったのを見ると、二人は改めて椅子に腰かけてジェフリーはハーメルンから情報を引き出そうとする。

 だがハーメルンは財布から1000円札を一枚取り出すとテーブルの上に置くと、立ち上がって帰ろうとする。

 

「楽しかったよ。話が出来て……」

 

 それだけ言うとハーメルンは帰ろうとするが、自分の背中に感じる敵意を持った視線を感じると、振り返って最後に一言言う。

 

「最後に一言僕の役目に付いて教えてあげるよ。僕の役目はスカウトさ、素質のある人間の屑を魔物へと変える。と言っても僕みたいな薄汚いネズ公じゃ、一種類が限界だよ。でも……」

 

 再びハーメルンは歪んだ笑みを浮かべてドアを開けて出ていく。

 そして去り際、最後にジェフリーの方を振り返って言う。

 

「自分の事しか考えていない、醜いトカゲよりは数倍マシだと思うよ」

 

 最後に意味深な台詞を残し、ハーメルンは去っていく。

 ジェフリーは二人分のコーヒーの代金をレジに置いて出ようとするが、その際1000円札の下に置かれたメモに気付く。

 メモを見ると数字の羅列があり、それが携帯電話の番号だという事はジェフリーには理解出来なかったが、取りあえず持っておこうとポケットにしまう。

 

(ジェフリー! 来て!)

 

 その時慌ただしく叫ぶほむらの声が脳内に響く。

 何事かと思い、ジェフリーは慌てて脳内のテレパシーとコンタクトを取る。

 

(今魔物はどこに居る⁉)

 

 ジェフリーらしい簡潔なやり取りであり、ほむらはそれに答えようとするが、先程から声も絶え絶えで思うように言葉が出せないでいた。

 

(とにかくすぐに来て! 後方支援型の美国さんや年少組ではこの魔物の相手は無理なのよ! 魔物は全部で8体、今各々が各々相手にしているけど、厳しいわ!)

(魔物の名は?)

 

 走りながらジェフリーはテレパシーの方向へと最短ルートで進む。

 ほむらは声も絶え絶えの状態の中で叫ぶ。

 

(リザードマン! あなたこんな強い魔物と戦っていたの⁉)

 

 討伐対象がリザードマンと聞くと、ジェフリーの顔色が変わった。

 実力だけなら、何とかならない相手でもないが、極端に少女達は相性の悪い相手だからだ。

 その想いは言葉になって表立って叫ぶ。

 

「そいつだけは絶対に救済するな! リザードマンは欲に最も深く溺れた最低な魔物だ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 結界の中で8人の魔法少女は魔物を相手に苦戦を強いられていた。

 魔物は少女達が苦手とする人型の魔物であり、対人戦に乏しい彼女達からすれば厳しい相手。

 戦い方も魔物と言うよりは、魔法使いに近い戦い方であり、供物を駆使しながらコンビネーションの取れた戦いをするトカゲの魔物に一同は苦戦させられていた。

 

「く! 攻撃が激しすぎて未来予知する暇も無いわ!」

 

 織莉子はリザードマンが連続で放つ巨神の腕の攻撃の激しさに、自分の持ち味が全く出せないでいた。

 リザードマンの攻撃はただ乱暴に拳を振っているだけではなく、コンビネーションの取れた無駄のない動きでパンチを放ち、織莉子を追いつめていた。

 苦戦を強いられているのは織莉子だけではない。

 まだ経験が乏しい、年少組二人も一方的にリザードマンに殴られる始末であり、ゆまに至っては蹲っているところを何度も何度も蹴り飛ばされる始末である。

 

「ゆま!」

 

 彼女を心配して、杏子はゆまの元に駆け寄ろうとするが、リザードマンはそれを許さず『氷硝子の破片』から作られた氷の槍で杏子を追いつめる。

 相性の悪さと焦りもあり、杏子は中々リザードマンを倒せないでいた。

 全員が苦戦される中、マミだけはリザードマンの僅かな隙を見逃さず、距離を取って砲台を作りあげると一気に勝負を決めようとする。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 砲台から発せられた高出力のエネルギーを受けると、リザードマンは叫び声を上げる暇もなく蒸発していく。

 残されたコアに向かって、マミは右手を突き出すと救済を試みようとする。

 

「救済したらすぐに援護に向かうわ!」

 

 叫びと同時にマミの右腕に聖なる気が宿る。

 これでリザードマンも元の人間に戻ったと思い、マミがコアに目をやるとそこには予想外の光景が広がっていた。

 

「甘イナ……」

 

 不気味な声と同時にコアから再びリザードマンが現れると、魔物は大きく口を開いてマミの肩を掴み、その頭を噛み砕こうとする。

 大きく広がった口を前にマミは呆けるだけであり、襲ってくるいくつもの情報を前に処理出来ずに固まっていた。

 マミの中にあるのは死の恐怖ではない。一つの疑問だけだった。

 

(どうして救済出来ないの?)




救済出来ない魂と出会った時、少女達はいかなる選択をするのであろう。彼女達が本当に人を救うと言う意味を理解するのはこれからの話。
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