約束の日曜日、ジェフリー達はホオズキ市に向かう電車の中に居たが、キリカの表情は重く曇ったまま。
ジェフリーは何も言わずに窓の外の景色を見るだけであり、ほむらはホオズキ市の魔法少女の物語を詳しく知りたいと思っていたが、キリカの顔を見て質問が出来る雰囲気ではないと思い、歯がゆさに苦しめられていた。
「何故ホオズキ市の物語に付いて聞こうとしない?」
沈黙に耐えられなくなり、キリカは自分から話を振る。
彼女の問いかけに対してほむらは何も言う事が出来ず、ジェフリーは窓の景色を見ながらポツリとつぶやく。
「聞いたところでどうなることでもない。話すのはキリカの勝手だ」
話したいと思っているのは彼女の方だと、遠回しにジェフリーは伝えると、そこからは無言を貫くだけ。
本質を見抜かれ、キリカは何も言い返す事が出来ず、ほむらの方を見ながら一言言う。
「現場に到着したら適当に落ち着ける場を見つけて話す。それでいいか?」
提案に対してほむらは黙って首を縦に振る。
そこから三人の間に流れるのは沈黙だけであり。車内は重い空気に包まれていた。見えない敵に対しての不安感に。
***
ホオズキ市に到着すると、キリカの先導で二人は適当な喫茶店へと入る。
人数分のコーヒーを注文すると、キリカは携帯電話を取り出して一旦店の外へ出ると電話をする。
「そうだ。今駅前の喫茶店に居るから4人で来い……」
苛立っているのかキリカは軽く威圧するような口調で話し、一方的に電話を切るとテーブルの上に置かれたコーヒーに口をつける。
「あまり美味しくないな……」
「相当苛立っているわね」
先程から口を開けば、文句ばかりのキリカに対して、ほむらは率直な感想をぶつける。
彼女の意見に対して、キリカはブスっとした顔を浮かべながら対応を行う。
「前にも話したと思うが、ホオズキ市での魔法少女問題に対していい思い出はない。嫌な事を色々思い出せばそうもなるよ」
「だったら吐き出せばいいでしょ。私だってジェフリーが居たから、道を踏み外さずに済んだのだから」
話しながらほむらはジェフリーと共に戦った日々を思い出す。
彼が共に歩いてくれたからこそ、彼女は道を踏み外さず今のほむらで居られる事が出来た。
その時の彼に感謝しながら、ほむらは隣のジェフリーに微笑みかけると、向かい側に座っていたキリカは歯ぎしりをしながら彼女を睨む。
「人が嫌な事を思い出して苦しんでいる時に、イチャイチャとストロベリってんな!」
「だったら話せばいいだろ。そうすれば俺達は同じ傷を共有出来るかもしれない」
先程から中々物語を話そうとしないキリカをジェフリーは焚きつける。
彼に促されると、キリカはゆっくりとホオズキ市の魔法少女の物語を語り出す。
「分かった。まず暁美に聞きたい、この都市で起こっていた、女子中学生連続殺人事件、通称『キリサキさん』の事は知っているか?」
キリカの話しぶりから結構有名な事件であると予想出来たが、当時のほむらはまどか以外の事は眼中にない状態。
故に他の街で起こっている殺人事件に興味はなく、慌てて携帯電話を取り出してその事についての情報を調べるとすぐにヒットして、ほむらは記事を読み出すが、キリカは手を突き出してそれを制する。
「その正体は魔法少女に対しての死による救済だ。そしてそのキリサキさんこそが、二人が戦った天乃鈴音だよ」
鈴音が魔法少女狩りを行っていた事にほむらは驚愕の表情を浮かべるが、キリカの話は終わらない。
「だが魔法少女もただ狩られるだけではない。この街には偶然にも徒党を組んで戦っている魔法少女が4人居てな……」
「私のように共闘を断られて不審人物扱いされたの?」
ほむらの問いかけに対して、キリカは小さく首を横に振ると当時の事を思い出し、ため息をつく。
「そうじゃない。全員水準が低すぎて、鈴音の手から4人を守るので精一杯だったんだよ。そのせいで彼女を追い払うのが精一杯だったし、あの連中を何とか強化しなくてはと思ったんだが、ゆまとなぎさの教育に忙しくて、そっちにまで手が回らなくてな。本当にやってられないよ、防衛ミッションって奴は!」
当時の事を思い出して、フラストレーションが爆発したキリカはカップの中のコーヒーを乱雑に飲み干すと、メニューを手に取り適当にページを捲って、目星を付けると手を上げて店員を呼ぶ。
「ミルクレープ一つ」
「追加で四つ下さい」
別の声が後ろから聞こえ、3人は声の方向を向く。
そこには金色の髪をセミロングに伸ばした少女を筆頭に歩く、4人の少女達が居て、彼女達はキリカを見つけると、席を詰めるように要求し、7人の大所帯が出来上がる。
「お久しぶりです。キリカさん」
4人の中でリーダー格と思われる金髪の少女は、穏やかに微笑みかけるとキリカに向かって頭を下げる。
謙虚な態度に気を良くしたキリカは4人の事を知らない、2人に対して彼女の事を紹介しだす。
「紹介する。ホオズキ市を縄張りとしている魔法少女達のまとめ役である奏遥香だ」
「はじめまして奏です」
遥香は2人に対して深々と頭を下げて挨拶を行うと、2人も彼女に自己紹介をする。
「初めまして暁美ほむらよ」
「ジェフリーだ」
「ちょっと!」
ジェフリーの簡素な自己紹介が終わると、ピンク色の髪を上くくりのツインテールにした少女が声を荒げて立ち上がる。
「キリカ! 暁美は同じ魔法少女ってのは分かるけど、誰なのよこのオッサンは⁉」
「敬語で喋らないか⁉ 私はお前の一個上だぞ!」
声を荒げるピンク髪の少女に対して、キリカは礼節に欠けている事を指摘するが、少女はそれに対して鼻をフンと鳴らして悪態を付くだけ。
その態度に対してキリカはため息をつくと、少女に自己紹介を行うように促す。
「彼に関しては後で説明するから、お前も自己紹介をしろ……」
「分かったわよ。アタシは成見亜里紗、この4人の中での特攻隊長を行っている。オッサンは何か? 暁美の付き人が何かか?」
亜里紗は完全にジェフリーを下に見ていて、見下した顔を浮かべて彼を見た。
ジェフリーは特に気にする事はなかったが、彼女の態度に怒りを覚えたキリカは立ち上がって亜里紗を睨み付けながら威圧するように話す。
「いい加減にしろ。彼はお前らを人間に戻してくれる存在だぞ、それ以上無礼を働くなら、2、3日は病院のベッドで横になってもらう事になるぞ!」
「わわわ! 2人共落ちついて!」
この状況に緑色の長い髪を上は左右で団子状にしてまとめ、下を三つ編みでまとめた少女は二人の間に割って入って、落ちつかせようとする。
険悪な空気が漂っている中、人数分のケーキが運ばれ、テーブルの上に置かれると藍色の髪を短いポニーテールでまとめた少女は各々の前に並べるが、ほむらとジェフリーの分がない事に気付くと、二人に話しかける。
「えっと、暁美さんとジェフリーさんはいいんですか?」
「私には敬語は必要ないわ、あなた私と同い年でしょ?」
ほむらに促されると、藍色の髪の少女は自分の紹介がまだだった事を思い出し、2人に自己紹介をする。
「え、あ、うん……私は詩音千里、中学三年生だよ一応は……」
歯切れの悪い言い方が気になり、ほむらはその事を問いただそうとするが、その理由はすぐに分かった。
「年齢を重ねられないから、学年が上がる事に抵抗を覚えてるのね?」
諭すような言い方に対して、千里は小さく首を縦に振る。
魔法少女の真実は全員が知っているようであり、ケーキを食べる手も止まり、4人が全員暗い顔を浮かべていた。
「だからそんな顔をするな。この半人前どもが!」
この状況に対し、キリカは四人を一喝すると会計を済ませて、その場から出ようとし、全員に来るよう促す。
「私がここに顔を見せに来るだけだと思ったのか? 電話でも伝えた通り、私はお前達を新たなステージへと導くためにここへ来たんだとな!」
そう言って出ていくキリカを見て、4人も慌てて彼女の後を追う。
残された2人は4人の人となりを見て、彼女がげんなりした理由が何となく分かった気がした。
「呉さんも大変ね……」
色々な思い出が蘇り、苦い顔を浮かべるほむらに対して、ジェフリーは何も言わずに一行の後を追いかけた。
これからの物語を見守るために。
***
人の居ない河川敷に到着すると、キリカは4人を地べたに座らせ、その前にジェフリーと共に立つ。
「いいかお前ら良く聞け。一年前の見滝原大災害から、何故かソウルジェムが汚れなくなったのは知っているな?」
その時から起こった不思議な現象は4人とも経験して、質問に対して全員が首を縦に振る。
そこからキリカはジェフリーの肩を叩くと、彼の説明をしだす。
「全ては彼のおかげだ。彼は異界から来た魔法使いであり、あのワルプルギスの夜をも撃破した超絶エリート、その時に落としたワルプルギスの夜のグリーフシードで世界中の魔法少女の穢れは吸収されている。言うならば救世主だ」
「あのワルプルギスの夜をですって⁉」
ジェフリーが伝説の魔女と呼ばれているワルプルギスの夜を撃破したと知ると、千里は羨望の眼差しで彼を見つめる。
だが亜里紗はそれよりも気になる事があり、その事を問いただそうとする。
「ちょっと待てよ! それより異界から来た魔法使いって何だよ⁉ メルヘンやファンタジーじゃないんだぞ!」
「その事に付いては私が説明するわ」
パニックになっている亜里紗に対して、ほむらが割って入り、自分の物語を語り出す。
まどかとの出会いにより、時間逆行能力を見に付けた魔法少女になった事。
多くの時間軸をループしていく中で、ジェフリーを呼び出す手段を見つけ、彼と共に幾多もの困難に立ち向かった事を全て伝えた。
話を聞いて、亜里紗以外の面々は壮絶な事実に圧倒されるだけだったが、亜里紗は事実が信じられず、ほむらに噛みつく。
「そんな話をして、ハイそうですかって信じられるか!」
「だったらここから出ていけ!」
聞き分けのない亜里紗に対して、キリカは彼女の前に立つと瞳孔が開いた目で睨み付けながら叫ぶ。
「信じたくないのなら、サッサと消えろ! 事実は事実なんだよ! 私だって、彼のおかげで魔女になるだけの未来じゃなく、魔法使いと言う大人として生き続けられる選択肢を得られたんだ! ジェフリーの物語の侮辱は私が許さない!」
二人は額をぶつけ合いながら睨み合い、双方一歩も引かない状態。
この険悪なムードを止める勇気は他の面々にはなく、緑色の髪の少女はほむらに助けを求めようと手をゆっくりと上げる。
「あの……魔女になるだけの未来じゃないって、キリカさん言ってましたけど、どう言う事なんですか?」
オドオドと不安そうにしている少女に対して、ほむらはゆっくりと分かりやすく説明を行う。
異界の魔法使いであるジェフリーは、魔女を元の人間に戻す救済の能力を持っている事。
そしてワルプルギスの夜を生贄にした事から、新たな能力『舞台変換の刻印』の能力を得た事を少女に伝えた。
「何ですかその舞台変換の刻印って?」
質問に対して、ほむらは胸をはだけさせて、魔力を込めると少女に心臓刻印の発光を見せる。
光を見ると少女は吸いこまれるように手を伸ばしていくが、ほむらはその前に光を収めると服を着直す。
「これが舞台変換の刻印よ。能力はソウルジェムの中に封印された魂を肉体に戻し、血の通った人間となった魔法使いは同じ能力を得られると言う物よ」
「え⁉」
一概には信じられない夢物語に少女は間抜けな声を上げる。
魔法少女システムの真実を知ってから、4人は常に不安に苛まれている状態だったが、その終焉が訪れた事に驚き、ただただ呆けるばかり。
だがそれだけで止まる事も出来ず、遥香は質問をして前進しようとする。
「本当に事実なんですか? 私達ゾンビなんかじゃなくて、ちゃんとした人間に年を取れる存在になれるんですか⁉」
「それだけじゃない。聞いた話によるとジェフリーさんは魔女をも元の人間に戻す事が出来るんですよね。その刻印を受け継げば、私達にも魔女の救済は可能なんですか⁉」
信じられない想いもあるが、信じたいと想いの方が強く、遥香に続いて千里も身を乗り出して事実かどうかを確かめる。
疑心暗鬼になっている2人を見苦しいと思ったのか、キリカは遥香に向かって手を差し出し、ほむらは千里に手を差し伸べる。
「もし本当に信じる気があるなら、ソウルジェムを私達に差し出せ」
「犠牲を恐れていたら何も変わらないわ。ここでの選択はあなた達の物語よ」
2人の言葉には重みがあり、現状を変えたいと思った2人はソウルジェムを彼女達に預けた。
手の中にソウルジェムを握りしめた状態で2人は力を込める。
魔力を受けるとソウルジェムは手の中で砕かれ、そこから飛び出た青白い球体は帰るべき場所へと帰り、遥香と千里の肉体には再び魂が宿り、二人の心臓部分からは舞台変換の刻印が受け継がれた。
「嘘……」
「本当なのかよ千里⁉」
緑色の髪の少女は現状を受け入れる事が出来ず、亜里紗は千里に本当に人間に戻ったのかを確認する。
だが千里は亜里紗の質問に対しても呆けた顔を浮かべるだけであり、自分の身に何が起こったのか分からない状態だった。
「おめでとう。これで君達の選択肢は増えた訳だ。魔法使いの知識に関しては、彼に聞くといい」
そう言うとキリカはジェフリーを親指で指す。
まだ未だに何が起こったのか理解出来ない2人は現状を理解するため、ジェフリーに助けを求めた。
取り残された感を汲み取った亜里紗はぶっきらぼうにソウルジェムをキリカに手渡す。
「アタシがやんなきゃ茉莉が不安がるでしょ。さっさと人間に戻しなさいよ」
「人間に戻すのではない。魔法使いに変えるだけだ」
亜里紗の態度が気に入らないキリカだったが、不安そうにしている少女を見ると手の中に亜理紗のソウルジェムを握りしめ、飛び出た魂を彼女の肉体に定着させる。
直感的に自分が人間に戻れた事を理解した亜里紗は何も言わずに、その場で蹲って歓喜の涙を流すだけだった。
その様子を見て、緑の髪の少女は亜里紗の背中を擦ろうとするが、その手はキリカによって制される。
「茉莉、自己紹介がまだだろ?」
キリカに促されると、茉莉と呼ばれた少女はほむらの前に立ってお辞儀をすると、自己紹介を始める。
「初めまして、マツリは日向茉莉です! 中学二年生です!」
緊張しながらも元気よく挨拶をする茉莉に対して、ほむらは穏やかな笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でて、選択を持ちかける。
「ハイよろしく。それでどうするの?」
軽いノリで舞台変換の刻印を継承するかどうかを聞かれて困惑する茉莉だったが、彼女の心は決まった。
茉莉は自分のソウルジェムをほむらに差し出すと、魔法使いになる事を選ぶ。
「マツリは変わりたいです!」
「よく言ったわ」
茉莉の勇気をほむらは褒め称えると、ソウルジェムに力を込めて中に封印されている彼女の魂を肉体に定着させた。
彼女もまた自分が人間に戻れた事が信じられず困惑するばかりだったが、それを確信に変えようと遥香、千里と共にジェフリーに話を聞こうとする。
だが仏頂面に無精髭の男を見ると茉莉は萎縮してしまい、輪に加わる事が出来なかった。
完全にジェフリーに怯えている茉莉を見て、2人は手を差し伸べて出迎えようとする。
「大丈夫だよ茉莉、ジェフリーさん凄い優しい人だから」
「怖くないから、茉莉も一緒においで」
千里と遥香に促され、茉莉もその輪の中に入る。
自然と穏やかな顔を浮かべている2人、そして茉莉自身もジェフリーと話して分かった事がある。
彼は人の痛みを理解出来る優しい人物だという事を。
話していく中で自然と笑みが零れる中、茉莉の中で一つの思い出が蘇る。
(この人、あの騎士さんにそっくりだ……)
***
人間に戻った喜びの感情が落ち着くと、一同は座ってキリカの話を聞く。
ジェフリーのお陰でインキュベーターにただ搾取されるだけの状態から脱する事は出来た。しかし敵もそれだけでは終わらない。
「インキュベーターの次の一手、それは彼の世界の魔の元凶『聖杯』と手を組んだのさ」
聖杯と言う聞きなれない単語に一同は困惑の顔を浮かべていたが、キリカは構わずに説明に入る。
素養のある人間だけを思春期の少女だけを狙て、魔法少女にしてから魔女にする魔法少女システムと違い、素養のない人間でも欲望の赴くままの存在『魔物』と変える存在。
「インキュベーターと聖杯が手を組んだ。単刀直入に言う手を貸せ。それがお前らを魔法使いに変えた理由だ」
半分命令するような口調でキリカは一同に告げる。
圧倒されていた面々だったが、話を聞くと遥香と千里はゆっくりと立ち上がり自分の決意を語り出す。
「私は自分の願いで許されない事をしてしまいました。これはその償いです。私は命ある限り戦い続けますよ。そうしないと私の心が持たないから……」
「私は父さんの夢を奪ってしまった。私も遥香と気持ちは一緒です。キリカさん迷惑かけるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします」
悲壮な覚悟を持って戦いに挑もうとする二人をキリカは受け入れ、何も言わずに静かに頷く。
一方ほむらは残りの2人に目をやる。
「あなた達はどうするの?」
突然話を振られて、茉莉は困惑し、亜里紗は何も言わずにジッと下を見つめているだけ。
だが見下ろすほむらの圧力に負けて、茉莉はしどろもどろの状態ながらも自分の想いを伝える。
「えっと……マツリはどうしよう? 急すぎて話が見えないっていうか……」
現状を把握するのにも精一杯の茉莉を見て、ほむらは答えを急かすべきではないと判断して、彼女の肩に手を置きながら落ちつかせるようにゆっくりと話す。
「焦る必要はないわ。本当にあなたがやりたいかどうかで決めればいいわ」
「その言葉忘れんなよ」
ほむらの話を聞くと、亜里紗はゆっくりと立ち上がって顔を上げる。
その顔は怒りと悲しみで満ちた悲壮感漂う物であり、目に光のない状態で亜里紗はキリカを見ながら語り出す。
「さっきそこのオッサンから聞いたけど、魔法使いになったら、グリーフシードで穢れを浄化しなくても魔女になる事はないんだろ?」
「敬語を使え! ジェフリーは大人なんだぞ!」
失礼な亜里紗に対して、キリカは激昂するが、構わずに亜里紗は話を続ける。
「だったら! アタシはこんなヒーローごっこはもう降りる!」
「え⁉」
思ってもみなかった亜里紗の発言に、3人は驚愕し固まる。
彼女の言葉を理解するため、亜里紗と一番親しい千里は彼女の前に立ち、肩を掴んでその体を揺さぶった。
「ちょっと! どう言う事なのよ亜里紗⁉」
「どうもこうもないよ! 魔法使いは別に戦う事を義務付けられている訳じゃないんだろ?」
感情に任せて叫ぶ亜里紗に対して、ジェフリーは魔法使いの現状をゆっくりと語り出す。
グリーフシードで定期的にソウルジェムの穢れを排除しなければ、魔女と化してしまう魔法少女と違い、魔法使いは別に戦う事を義務付けられている訳ではない。
世界を支配しているロムルス人達が危険な魔物と戦わせる事で、彼らに人権を認め、最低限の生活を保護しているだけの事。
故に魔法使いの生活に嫌になって、逃亡した者も少なくなく、亜里紗の思考は別におかしくないとジェフリーは告げた。
話を聞くと亜里紗は千里の体を突き飛ばすと、自分の想いを吐露していく。
「アタシはこの一年地獄のような日々だったよ。魔女が元々は魔法少女の末路と知って、アタシは間接的に人殺しに関与している事に心を毎日痛めていたよ。どうして普通の女子中学生のアタシがこんな目にあわなきゃいけないんだってね」
「それは皆一緒……」
「るせぇ! 何でアンタとアタシの考え一緒にしなきゃいけないんだよ!」
落ち着かせようとする遥香を亜里紗は一喝すると、キリカを睨みながら叫び続ける。
「それによ……救済の能力を持っているなら、何ですぐアタシ達の所に駆けつけなかったなんだよ⁉ お前あれか、そんなにアタシがもがき苦しんでいるのを見て楽しいのかよ⁉」
「そうじゃない。こっちはこっちで新人の教育に忙しかったしな……」
「知るか! そんなもん!」
キリカの言い分を一蹴すると、これが最後と言わんがばかりに力の限り亜里紗は叫ぶ。
「とにかくお助けヒーローごっこがしたいんならお前らだけでやれ! アタシはもううんざりだ! 魔法を使ってケンカしないからもう十分だろうがよ! 人間に戻ったんだ。普通に生きさせろ!」
そう叫ぶと亜里紗はその場から逃げ出すように走り去る。
残された一同は何も行動をしない3人に戸惑うばかりであり、千里は代表して恐る恐る話しかける。
「止めなくていいんですか?」
質問に対して、代表してキリカが答える。
「それはお前らがやるべき事だ」
もっともな正論に何も言い返す事が出来ず、困惑しながらも千里は遥香と向き合ってこれからの事を話し合ってまとめると、キリカにこれからの事を告げた。
「あの……私達で亜里紗を説得してみますんで、もう少しだけ待ってもらえませんか?」
「これまでも4人で力を合わせて頑張ってきたんです。亜里紗はちょっと情報量が多すぎてパンクしちゃっただけです。だから……」
「好きにしろ」
キリカの許しを貰うと、千里と遥香は亜里紗の説得へと向かう。
1人取り残されて、オドオドしている茉莉を見て、ほむらが彼女のフォローに入ろうとする。
「さっきも言ったけど、慌てる必要はないわ。あなたはあなたでじっくり考えて答えを見つければいいわ」
「そうじゃなくって! えっと……」
まるで奥歯に物が挟まったような茉莉の言い方が気になり、ほむらは彼女が何を言いたいのかを聞き出すため、彼女が落ち着くまでジッと待つ事を選んだ。
ほむらの意図を察したのか、茉莉は深呼吸を繰り返して落ち着かせると、自らの想いを吐露していく。
「マツリは……あの時の騎士さんの意見を聞きたいです。正直これからどうしようか迷っているから……」
茉莉が言う『騎士』が何なのか分からず、この事を詳しく知っているであろうキリカにほむらは目線で説明を求めた。
「分かった。実はホオズキ市の物語は、キリサキさん一人じゃない。もう一人魔法少女システムと戦う存在が居たんだよ。直接見たのは一回だけだが、そいつは魔女を元の人間に戻した」
「何だと⁉」
ここで初めてジェフリーに感情が出て、ほむらと共に彼女の話を聞こうと身を乗り出す。
「そんな事が出来るのは魔法使いだけだ。誰なんだそれは⁉」
「落ち着いてくれ。順を追ってゆっくりと話す」
興奮するジェフリーを落ち着かせると、キリカは当時の事を思い出しながら、ゆっくりと語り出した。
「今だったらそれは理解出来るよ。でも当時は何が何だか訳が分からなかったから、私はそいつを敵と認定して戦いを挑んだ」
「結果は?」
「一撃KOされたよ」
あっけらかんと語るとキリカは茉莉と並んで思い出を振り返る。
「奴の真意は分からない。だからこそ私はあえて奴の話を伏せたが、茉莉のためだ。話すよ、あの時の事を」
「でもマツリはあの黒騎士さん。悪い人じゃないって思うよ」
2人の間で黒騎士と呼ばれる存在の印象は全く違い、詳しく話を聞かなければ何も分からないと判断したジェフリーは話の続きを待つと、キリカはゆっくりと語り始める。
「これから話すのはある騎士の話だ。漆黒の甲冑に身を包んで何も語らず、魔女を救済し続けた孤独な騎士のな」
次回は回想の話になります。黒騎士が誰なのかはお楽しみにという事で。