魔法使いと魔法少女が紡ぐ物語   作:文鳥丸

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その存在が暗闇を照らす灯りになるかどうか、それは誰にも分からない事。


第二十四話 新しい仲間達が照らすから

 叫びと共に黒い大剣は勢いよく何度も何度も振り抜かれる。

 まるで漆黒の台風が襲ってくるかのように見え、離れたところからそれを見守っている3人も勢いに飲み込まれてしまうかと思われるぐらいランスロットの攻撃は激しかった。

 風圧に茉莉は飲みこまれそうになっていて、キリカは彼女を手で自分の後方へと持っていき、体でかばう。

 

「無理をするな。茉莉は目がいいんだから、もう少し離れたところから見てもこの戦いは見守れるだろう」

 

 キリカの意見はもっともな物。茉莉の願い事は元々盲目だったので、目が見えるようになりたいと言う物。

 そこから彼女は目が他の魔法少女よりも発達していて、魔女の弱点なども即座に見抜く事が出来、後方支援に徹してチームのために貢献していた。

 このままではほむらやキリカの邪魔までしてしまうと判断した茉莉は、歯がゆそうな顔を浮かべながらも後ろに下がって、離れたところから2人の決闘を見守る事を選んだ。

 

「よーし素直ないい子だ」

「あなたにしては随分と穏やかね。私の知っている呉キリカはもっと高圧的で暴力的な性格だったわ」

 

 茉莉に対する態度を見て、ほむらはキリカに噛みつく。

 同族嫌悪を患っているのか、含みこそあるが妙に友好的な彼女を見て、未だにいつもの面子以外ではコミュニケーションが上手く取れない彼女に取って、今のキリカは嫉妬の対象でしかなかった。

 そんなほむらを見て、キリカは鼻で笑いながら応対を行う。

 

「それは自分に対して噛みつくような相手に対してだ。逆に言えば誠実に接するのであれば、私だって誠実に返すよ。あのメンバーの中では茉莉が一番私に対して誠実だからな。それともあれか、暁美は今まで誠実に接してもらった事もないのか? まぁ同じ所をグルグル回る事しか出来ず、同じ人間としか接していないのでは当然かな。もう少し視野を広く持つんだな」

 

 そう言って盛大に笑うキリカ。

 露骨な嫌味を言われたが、それに対してほむらは噛みつくような真似はせず、目の前の決闘を見て心を別な方向へと移そうとした。

 

「怒らないのかな?」

「事実を言われて怒る程子供じゃないわ。私はジェフリーの手で大人になる事が出来たのよ。成長しない事は彼に対しての冒涜よ」

 

 ジェフリーに対しての異存はあるが、それでも一応前を向いて歩こうとしているほむらに対して、キリカは軽く笑みを浮かべると再び決闘を見守る。

 両者の戦いは実力伯仲の状態であり、いつ決着が付いてもおかしくない状態。

 ランスロットが大剣を振るう度に旋風が巻き起こり、ジェフリーはそれをひたすらかわし続けるだけ。

 一見すればランスロットが押しているように見える戦いだったが、キリカはここで1つの事実に気付き、ほむらに意見を求めようとする。

 

「なぁ暁美……」

「何よ? まだ嫌味を言い足りない訳?」

「そう言う所だよ! そうじゃなくてだな」

 

 口論になろうとなったがキリカはグッと堪えて、2人の決闘を指さす。

 ランスロットが振り回す大剣をジェフリーはただひたすらかわすだけだけ、だがここでほむらもキリカが言いたかった事に気付く。

 いつの間にかジェフリーの手には改魔のフォークが持たれていなかった。

 ここからジェフリーが完全に攻撃を捨てている事が分かったが、それは決して彼が勝負を投げ出した訳ではない。

 ジェフリーは両の拳を自分の顔面へと持っていき、顔面のみを守った状態で激しく頭を振ってランスロットに狙いを定めさせず、ジェフリーは少しずつ敵との距離を縮めていく。

 この様子を見てほむらは1つの仮説を立てる。

 

「彼は防御行為しかやってないわ」

「やはりそうか」

 

 キリカも頭の中で立てていた仮説が事実だと知ると、改めてジェフリーの狙いが何なのかを知ろうとする。

 確かに防御にだけ徹していれば、ランスロットの激しい攻撃の中で距離を縮める事も可能。

 だがそれではいつまで経っても決着は付かないまま。

 決して気の長い方ではないジェフリーが消極的な戦法を取る事が信じられず、彼の狙いが何なのか分からずに困惑するばかりだった。

 ジェフリーの狙いが分からず困惑するのはほむらだけではなく、キリカも同じ事。

 だが少女達が困惑しているにも関わらず、近付いてくるジェフリーに対して、ランスロットの顔には焦りの色が浮かんでいた。

 

「ぐあああああああああああああああ!」

 

 焦りは剣に現れ、乱れを生んだ。

 みっともない叫びと共に剣を振り下ろそうとしているランスロットを見て、ジェフリーは邪悪な笑みを浮かべて、一気に距離を詰める。

 

「無茶よ! 武器も持っていないのに!」

 

 ほむらは彼の特攻を咎めようとするが、ジェフリーは止まらず、大剣を振り下ろそうとするランスロットに向かって突っ込む。

 剣はその背中に振り下ろされようとしていて、2人はアジの開きのようになるジェフリーを想像して、青ざめた顔を浮かべるが、その考えは間違いだったと分かる。

 

「頼む! 成功してくれ!」

 

 懇願の叫びと共にジェフリーは拳を振り上げると、振り下ろされた大剣を突き飛ばす。

 下からの攻撃の衝撃に耐え切れず、大剣は宙を舞ってランスロットの手から離れた。

 獲物が離れて無防備になったランスロットを見逃さず、ジェフリーは拳を振り上げて一気に勝負を付けようとする。

 

「これがお前にしてやれる事だ!」

 

 そう叫ぶとジェフリーは振りかぶった拳をランスロットの顔面に向かって放つ。

 前屈姿勢によって全ての体重が乗ったパンチは兜の上からでも効果はテキメンであり、ランスロットの両腕は宙ぶらりんの状態となって、ダメージがある事を証明していた。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 

 そこからジェフリーは勢いが付いたままの拳をランスロットの顔面に放つ。

 左右に動いて振り子のように勢いが付いたままの拳は的確にランスロットの顔を打ち抜き、拳が当たるたびに攻撃力は増しているようであり、ジェフリーの拳は真っ赤に染まり、スピードも上がっていく。

 左右のフックの連打の数々にランスロットは意識を保つ事が出来ず、最後に力任せのフックをその顔面に放つと彼の体は糸が切れた操り人形のように倒れていき、地面へと横たわった。

 

「ああああああああああああああ!」

 

 未だに興奮状態にあるジェフリーは勢いが回転の力で勢いが付いたままの拳を、地面に横たわっているランスロットに向かって振り下ろそうとするが、その拳は体にまとわりつく2つの影によって制される。

 息も荒い状態でジェフリーが後方を見ると、腕にはほむらが体全体にからまり、体にはキリカがからまって、興奮状態にある彼を必死で制そうとしていた。

 改めてジェフリーは2人の様子を観察する。

 2人共見た事もない彼の姿に怯えきってはいたが、それでも彼を止めようと必死だった。

 ジェフリーは深呼吸を繰り返して、心に落ち着きを取り戻すと、2人を体から引きはがして並べると、少女達に頭を下げた。

 

「済まない」

「そ! そんな事いいのよ! 私はジェフリーが道を誤らなければそれで……」

 

 いつも通りのジェフリーに戻ったのを見ると、ほむらは慌てて平静を装うとするが、キリカは先程の攻撃を客観的に見て、1つの仮説を出そうとする。

 

「暁美の言う通りだ。私達はこの決闘の見届け人だからな、決着が付いた戦いを適切な形で止めるのは役目だ。それよりもだ……」

 

 キリカはほむらが言いたかった事を全て言う。

 自分が伝えたかった事を全て言われ、ほむらは恨めしそうな顔を浮かべながらキリカを睨むが、彼女は構わずに自分の言いたい事を言う。

 

「まさかデンプシーロールまで使えるとは思わなかったぞ」

 

 キリカはこの戦いに勝利した必殺技の名前を告げると、呆れたような顔を浮かべた。

 前々からジェフリーの実力は高い方だと認めていたキリカだったが、まさか自分の世界におけるボクシングの高騰テクニックまで使えるとは思っていなかったからだ。

 そんなキリカに対して、ジェフリーは困惑した顔を浮かべる。

 

「デンプシー? 何を言っているのか分からないな。今放ったのは『百鉄拳』と言うモノノフ達と呼ばれる戦士が使う異界の技だ」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 前に異界の話はジェフリーから聞かされたが、その技を彼が使えるのはおかしい。

 その疑問はキリカも同じようであり、彼が何故異界の技を使えるのか説明を求めた。

 

「異界の鬼と呼ばれる魔物『ダイテンマ』『ゴウエンマ』とは何度も戦った。残留思念にも異界の記憶はあるからな。そこから遡って、異界の技は大体習得したよ、ただし基本技を使える程度だがな」

 

 あまりにも凄すぎるジェフリーに2人は何も言えずに、力が抜けてその場でへたり込んだ。

 茉莉は2人の戦いに圧倒されるばかりだったが、その中でも1つ想いが生まれていた。

 

(マツリもあの技使ってみたい……)

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 一同はランスロットが目を覚ますまで待ち、彼が目を覚まして起き上がると早速ジェフリーは話を持ちかける。

 

「おはよう」

 

 目覚めの挨拶に対してもランスロットは何も言わなかった。

 それは決闘に負けた悔しさなのか、ただたんにジェフリーと話をしたくないだけなのかは分からない。

 場を不気味な沈黙が包むが、それを打ち砕いたのはジェフリー。

 右手を突き出すとそこからホログラム状の本が現れる。

 

「ページを開け」

 

 言われるがままランスロットはページを開く。

 そこで見た物語を目にして驚愕の表情を浮かべた。

 レオデ王に呼ばれ、ジャックフロストの討伐を行った事。

 その様子を見ていたランスロットはある魔法使いを部下に誘った事。

 だが真実はレオデ王に対する復讐の仲間が欲しいと言う物。

 大体の物語をランスロットが理解したところで代わりにジェフリーが語り出す。

 

「だがお前は当時計略で近付いた王妃グウィネビアが懐妊したと聞いて、お前は真実の愛に気付き、全てを捨てて逃げようとした。だがレジスタンスの仲間であるカメリアはそれを見て、お前が裏切ったと勘違いしたな。そこでお前はグウィネビアを守り切れず……」

「もう、止めてくれ――!」

 

 辛い過去を一気に思い返され、ランスロットは悲痛な叫びを上げて、頭を抱えて蹲る。

 その様子を見て少女達は何も言えなかったが、ジェフリーは話を続けた。

 

「ここからが重要だ。俺が知っている物語では、お前はその後、罪人扱いとしてレジスタンス軍とレオデ王側の2つから追いかけ回されているとしか聞いてない。その後どうなった? ランスロット、お前は己の運命を受け入れられたのか?」

 

 この話を知っている人間はランスロットの中で1人しか居ない。

 全ての顛末を見届けた魔法使い。その名は。

 

「ジェフリー・リブロム……だが私が知っているジェフリー・リブロムはお前のような姿形ではない」

 

 言葉にするのが怖かったが、勇気を出してランスロットは目の前の青年をジェフリー・リブロムだと認めた。

 彼の疑問を解消するために、ジェフリーは何故自分がランスロットの物語を知っているのかを語り出す。

 あれからの事を全て。

 

「そこで『俺』は魔導書リブロムとなってな。今の俺は彼を生贄にして、その力と物語を継承した存在さ、本名をアーサー・カムランと言う」

 

 全ての謎が解けると、真実を知ってランスロットはホッと胸を撫でおろした。

 兜で覆われているため表情は分からなかったが、彼が安心したと言う事だけは分かり、少しだけ緊張感が和らぐ感覚を少女達も覚える。

 だが話はまだ終わらない。続いてジェフリーはランスロットのその後の物語を聞き出そうとする。

 

「俺は全てを話した。今度はそっちの番だ、あれからどうなった?」

 

 話を振られて、ランスロットは思わず目を背ける。

 だがジェフリーは何も言わずにジッと彼を見下ろすだけ。

 根負けしたランスロットはポツポツと語り出そうとする。

 

「馬鹿げた話だぞ。信じる気はあるのか?」

 

 それは信じてもらえないのではないのかと言う不安感。

 彼の感情を払拭するため、ほむらが一歩前に出て屈んでランスロットとコンタクトを取ろうとする。

 

「私も同じように誰にも真実を分かってもらえず、やさぐれていた時期があったわ。でも彼は私を受け止めてくれたわ。あなただって力だけで彼を仲間と認めた訳じゃないでしょ? じゃなきゃ国境までの護衛なんて頼まないはずよ」

 

 諭すようなほむらの言い方にランスロットは思い出した。

 ジェフリー・リブロムと言う魔法使いの存在を。

 次々と彼の物語が蘇っていき、心の中が暖かな感覚で満たされていく。

 そしてランスロットは語り出した。その後の物語を。

 

「私のその後は罪人には相応しい物だ。投獄されて処刑された。ただそれだけだ」

「じゃあ君は一体何だと言うんだ? ジェフリーみたいに記憶を受け継いだ存在だって言うのか?」

 

 ランスロットが何者なのか分からず、キリカは抗議の声を上げて一歩前へと身を乗り出すが、それは前からジェフリーによって制され、後ろから茉莉が体に絡みついて制そうとする。

 

「それを知るためにも黒騎士さん……ううん、ランスロットさんの話聞きましょう」

 

 涙目で懇願する茉莉の意見に何も言う事が出来ず、キリカは定位置に戻る。

 落ち着いたところでランスロットは再び語り出す。

 罪人として処刑された罪深い魂は幾多もの時間の流れの中で、1つの穏やかな時間軸の世界に辿り着いた。

 そこで1つの魂は新たな名前と肉体をもって転生した。

 

間島蘭人(まじまらんと)。それがこの世界での私の名だ」

「この場合、俺はどう呼べばいい? ランスロットか? 蘭人か? それとも黒騎士と呼べばいいのか?」

 

 まるでランスロットに決断を求めるように、威圧するかのようにジェフリーは言い放つ。

 そのやり方に少女達は苦い顔を浮かべたが、ランスロットは彼の問いかけに答えた。

 

「私の事は好きなように呼べ」

「ならランスロット、新しい肉体と名を持って転生したお前が何で過去の記憶と力を取り戻して、黒騎士なんて存在になっている?」

 

 核心を突いた質問に対して、一同の顔色にも緊張の色が走る。

 ここが正念場だと踏んで、少女達もジェフリーもランスロットをジッと見下ろす。

 威圧する空気に負けて、ランスロットは間島蘭人としての物語を語り出した。

 間島蘭人として生を受け、両親の愛情を一身に受けて蘭人は誠実でまっすぐな大人へと成長していった。

 学校の成績は上位、スポーツも万能な彼は常に注目の的となっていて、蘭人自身も将来は人の役に立つ仕事がしたいと目的を持って行動していた。

 

「だが私は真実を知ってしまった……」

 

 今から話すことこそが黒騎士になったきっかけだと知ると、一同の顔に緊張の色が走る。

 空気を受けて緊張感がランスロットにも伝わり、神妙な面持ちで語っていく。

 大学を卒業に控え、卒論に頭を悩ませている中、ランスロットは1人町を歩いていた。

 その中で彼は出会ってしまった。魔女の結界に巻き込まれ、まだ何の力も持っていなかった蘭人は死を覚悟した。

 だが魔女は魔法少女の手によって討伐され、そこで蘭人は知った。魔法少女の存在を。

 

「まさかそれがきっかけで前世の記憶と力を取り戻したと言うのか⁉」

 

 結果を早急に求めようとするキリカを再びジェフリーが制する。

 場の空気が落ち付いたのを見ると、ランスロットは再び語り出した間島蘭人の物語を。

 普通ならばその物語は自分の範疇を超えていると判断して、そっと胸の中に潜んでおくのだが、蘭人には1つ他の一般人とは違うところがあった。

 

「君のその肩に乗せている存在は何かな?」

 

 何気なく魔法少女に対して言った一言に彼女は驚愕をしていた。

 一般人にキュゥべえは見えないはずなのに、蘭人はハッキリとキュゥべえを認識している。

 これに強い興味を持ったキュゥべえは蘭人を相手にコンタクトを取り、しばらくの間奇妙なコンビが生まれた。

 

「当時の私は知りたいと言う想いが強く、キュゥべえから根掘り葉掘り聞いたもんだよ。だが奴は肝心なことをはぐらかすばかりで、話を聞く内に私は強い不信感を覚えたよ」

「長年、王に仕えてきたお前なら当然だろう。詐欺のシステムぐらい理解出来るだろうな」

 

 ジェフリーの言葉にランスロットは静かに頷く。

 彼が魔法少女システムの全てを理解するのに時間は必要なく、キュゥべえを問い詰めた所、魔法少女達は騙されている事を知る。

 この事実に蘭人は苦悩し続けた。

 下手に事実を知らせれば、魔法少女は魔女化してしまう。

 だが事実を知らせずに放置していても、ソウルジェムに穢れは溜まり魔女化してしまう。

 八方塞がりの状況に蘭人はどうすればいいか分からず、もう一度あの魔法少女に会おうと彼女を探した。

 せめて意見を聞きたいと思ったからだ。街をひたすら探索していると、蘭人はお目当ての少女に出会う。

 

「だがそれは最悪の形だった……」

「まさか……」

 

 ほむらの脳内で最悪のシナリオが再生される。

 次にランスロットから出た言葉はまさしくそのままであった。

 

「もう既に彼女は魔女になっていたんだ。私は援軍も来ない状況で自分の身を守るために必死に逃げ回ったが、それでも追い詰められるのに時間は必要なかった」

 

 死を覚悟したその時だった。

 魔女の腕が蘭人の体を貫こうとした瞬間、彼は悲痛な叫びと共に腕を突き出した。

 それと同時にその手には大剣が持たれいていて、逆に魔女の体を両断した。

 悲痛な呻き声を上げながら絶命していく魔女を見て、蘭人の中で一気に様々な想いが込み上がっていく。

 自分を助けてくれた少女を生きるために惨殺してしまった事。

 そこから罪悪感に押し潰されそうになるが、その瞬間ランスロットは全てを思い出した。

 

「私はそこで過去の記憶と力を全て思い出してしまった。そして……」

 

 罪悪感から逃げ出したい蘭人は三日三晩ひたすら泣き続けた。

 そして目から涙が枯れ果てた時、体がどす黒い泥で覆われていくのを止める事が出来なかった。

 泥は体全体にまとわりつき、1つの鎧となって蘭人の体を覆い、背には贖罪の象徴である大剣が背負われていた。まるでグウィネビアを背負うように。

 漆黒の鎧で身が覆われ、最後の涙を流した時、間島蘭人はもう1つの名を持って生きる宿命を背負う。

 

「そこから私は罪から逃れたい一心で魔女達を元の魔法少女に救済し続けたよ。そうしなければ私の心が持たない」

 

 黒騎士の事実を全て知ると、少女達は何も言えないでいた。

 その場を不気味な静寂が包み込むが、それを打ち破ったのは意外な人物。

 茉莉はその場に跪くと、ランスロットの体をそっと抱きしめた。

 

「大変だったんだね。でももう大丈夫だよ、少なくともここに1人ランスさんに感謝している魔法少女が居るよ。だからもう泣かないで」

 

 茉莉は自分の気持ちを伝えるため、そしてランスロットの心の傷を少しでも癒すため、彼の体を抱きしめてさめざめと泣き出す。

 彼女の気持ちは伝わった。だがそれでもランスロットは自分を許す事が出来なかった。

 

「だがどうすればいいんだ? 私は許されない事をしてしまった。どうこの罪を償えと言うんだ?」

「贖罪の方法ならある」

 

 思い悩むランスロットに対して、ジェフリーは威風堂々と言ってのける。

 彼の案が気になり、茉莉はその場から離れ、ほむらとキリカは彼の元へと向かい詳細を聞こうとした。

 

「ランスロット。お前はホオズキ市で4人の魔法少女の指導者となって、この街と少女達の育成を行え。今度こそ仲間を裏切らず、心から信じられる仲間を作れ、それがお前の贖罪だ」

「なんだって⁉」

 

 ジェフリーの意見にキリカは驚愕の表情を浮かべる。

 確かにランスロットの実力は本物だが、それでも不安定な彼に、いや不安定な少女達を彼に任せる事に疑問を覚えたキリカはその案に噛みつく。

 

「ジェフリー! さすがにそれは……」

「心配しなくてもランスロットはレオデ王の側近として、色々な雑用を任された。その中には後進の育成もある。俺が覚えた異界の技術もランスロットならもっと上手に教えられるだろうよ」

 

 先程使ったジェフリーの戦闘技術を伝授する事が出来る。

 その話を聞くとキリカの中で揺らぎが生まれる。

 第三者の目から見て、両者の実力は伯仲していたと言ってもいい。

 しかし何故結果だけ見ればジェフリーの圧勝のように終わったのか、それは奇襲に成功したからだ。

 見た事も無い技術で応戦させられれば、どうする事も出来ずに敗北するのは必須。

 あの技術を水準が低い4人が使いこなせる事が出来れば、大幅な戦力増強に繋がる。そう判断したキリカはランスロットの方に向かい、彼に問いかける。

 

「本当にあの技術を君は半人前どもに伝えられるのか?」

 

 威圧するような言い方のキリカに対して、ランスロットは1回立ち上がると、彼女の前に跪いて自分の想いを語る。

 

「贖罪のためなら、このランスロット敢えて茨の道を歩もう。これは出来る出来ないの話ではない。私がやらなければいけないことだからな」

 

 自分が誰かの役に立つ事で罪の意識から逃れられるのなら、どんな事でもする。

 そんな強い決意がランスロットから感じられると、キリカの中で思い返されるのは彼と初めて対峙した時。

 強く高い実力を持ったランスロットは下手に敵に回すよりも味方に付けた方が好都合。

 邪な考えではあったが、合理的な方をキリカは選び、目の前で跪いている彼に向けて手を差し伸べる。

 

「ああ、これからよろしく頼むよ。ランスロット」

 

 2人の間で握手が交わされると、事は丸く収まったとほむらは判断した。

 ジェフリーも同じ気持ちであり、その場から立ち去ろうとした時、大きな声が響く。

 

「あの!」

 

 その声の主は茉莉。

 彼女はオドオドとした声を上げて、不安そうな表情を浮かべながらも自分の意見を主張しようとしていて、一同は彼女が落ち着くまで待ち、時間を与えられ話す準備が出来た茉莉は自分の想いを伝える。

 

「マツリはランスさんと一緒に戦うのは賛成ですけど、他の皆の意見も聞かないと、それに亜理紗はまだ共闘するかどうか分からないし……」

「そうか……」

 

 まだ問題は全て解決していない。それが分かると、キリカはバツの悪そうな顔を浮かべた。

 茉莉は賛同したが、他の3人が彼女と同じようにランスロットと共に戦ってくれるかどうかは別問題。

 特に亜理紗は戦う事を一度は拒否している身。まだまだ問題は山積みだと思い、キリカは頭を抱えて悩みだそうとするが、そんな彼女の肩にジェフリーの手が置かれる。

 

「それはまた明日話し合おう。済まないな、俺はどうしてもランスロットを救ってやりたかった。それに彼女達を巻きこんでしまった事は申し訳ないと思う……」

「そ! そんな事はない! 君の案はベストな選択肢だ!」

 

 萎縮するジェフリーに対して、キリカは慌ててフォローを入れると、この日は解散となる。

 キリカは少しでも動いていなければ収まらないと言う感じで、遥香に連絡を入れると明日学校が終われば全員集まれと命令を下す。

 

「後の事は私がやっておく。もしもの時はジェフリーに頼るから、任せてくれないか?」

 

 そう言うキリカの顔は真剣その物であり、異論を挟ませない強い意思が感じられた。

 もしもの時は頼ると本人が言っているのだから、これ以上はホオズキ市に強く関わっている彼女に任せるのが吉だと判断して、2人は黙って首を縦に振った。

 各々が各々の想いを胸に夜は更けていく。新たな夜明けを待ちながら。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 翌日、河川敷に呼び出された3人はランスロットを前にして警戒心を持っていた。

 茉莉は彼の人となりを知っているため、彼を受けいれたのだが、他の3人は違う。

 特に亜里紗はランスロットに対して強い警戒心を持っていて、キリカを睨みながら叫ぶ。

 

「何でこいつがここに居るのよ⁉」

 

 怒りの気持ちをキリカにぶつける亜里沙だが、キリカは彼女に構わず淡々と話しを進める。

 

「それよりもだ。お前何でここに居る? もう戦わないんじゃないのか?」

「それは……遥香が呼び出すからさ!」

「そんなもん無視すればいいだけの事だろう。もう絶縁した相手への呼び出しなんてな」

 

 もっともな意見に対して亜里紗は何も言い返す事が出来ず、悔しさに歯がゆい想いをするばかり。

 やがてこの嫌な空気に耐えられなくなり、亜里紗は堰を切ったように思いの丈を叫ぶ。

 

「分かったわよ! やればいいんでしょ! やれば! このままやられっぱなしで逃げたら、アタシは本物のピエロじゃないのよ! この怒りは聖杯達にぶつけてやるわよ!」

 

 息も荒げにキリカを睨みながら叫ぶ亜里紗に対して、千里は泣きながら彼女に抱きついて想いをぶつける。

 

「亜里紗、ありがとう! 私もう一度亜里紗と戦えて嬉しいよ!」

「あ、うん。それは私もだけど……それよりも!」

 

 亜里紗は千里の想いに対して照れくさくなり、話を元に戻そうとする。

 再びランスロットに対して怒りの視線を向けて叫ぶ。

 

「だからコイツが居る理由を話なさいよ!」

「分かった。単刀直入に言うぞ半人前ども。彼は今日からお前らの指導者となって、共にホオズキ市を守る戦士となった。なのでこれからは彼の指示に従うように、これは命令だ」

「はぁ⁉」

 

 この理不尽な命令に当然亜里紗は反発し、キリカに向かって飛びかかる。

 だがキリカはそれを難なくかわすと、遥香と千里の元へ亜里紗を投げ飛ばし、彼女は2人に羽交い絞めの形となって身動きを封じられた。

 だが2人もランスロットが指導者になると言う理不尽な命令に納得が行かず、目で不満をキリカに訴えた。

 3人の不満を解消するため、キリカは彼女達の脳内に今までのランスロットの戦いを見せる。

 キリカ以上の実力を持っていると分かると、彼に従うしかないのかと力でねじ伏せられる形を取らされていたが、茉莉は慌てて声を上げる。

 

「待ってよ皆! ランスさんはかわいそうな人なの! だからマツリ達でランスさんの悲しみが癒されるなら、マツリは協力したいって思っているし、皆にも手伝ってもらいたいって思っている。だから力を貸して!」

 

 茉莉が声を荒げて皆に訴えかける様子を見て、ただならぬ物を感じた3人は彼女の話を聞こうとする。

 

「あとは私が話す」

 

 そこからランスロットが自分の過去を魔法世界に居た時から、そして転生して間島蘭人となってからの物語まで全て語った。

 あまりに壮絶なランスロットの物語に一同は緊張の面持を浮かべたが、すぐ涙目で懇願する茉莉の叫びが響く。

 

「このままずっとひとりぼっちなんてランスさんがかわいそうすぎるよ! もしランスさんが間違った事したら、マツリ達が止めればいいんだし、ランスさんは強いからマツリ達を助けてくれるし、いつかはマツリ達がランスさんの力になれればいいでしょ⁉ マツリはランスさんと一緒に戦いたい! だから皆も協力して! お願い!」

 

 言っている内に茉莉の目からは大粒の涙が零れ落ちる。

 息も荒げに3人を睨む彼女を見て、遥香と千里は心変わりする感覚を覚え、ランスロットの前に立つと自分達の想いをぶつける。

 

「一応命令には従いますけど、まずは私達の補佐から初めてもらいますから、実力を認めるのはその後です」

「それで構わない」

「と言うよりさ。これから仲間になるんだよ私達、兜ぐらい取って素顔見せるぐらいの誠意見せられない訳⁉」

 

 遥香に念を押されるように言われ、千里に怒鳴られると、ランスロットは兜に手をかけて外していく。

 その様子を見てキリカは驚愕の顔を浮かべた。

 

「それ外れるのか?」

「自分の意思で私の泥は内にも外にも出す事が出来る。外に出している方が多少は楽だからそうしているだけだ」

 

 そう言いながら兜を外すとランスロットの素顔が明らかになる。

 その姿は40代前半ぐらいの魔法世界時代の容姿ではなく、そこに居たのは20代前半の若々しい青年が居た。

 藍色の髪を肩まで伸ばしたセミロングの髪に、愁いを持った瞳に整った中性的な顔立ち。

 世間一般で言うところの美男子の姿を見て、ギャップに驚き2人はキョトンと呆けた顔を浮かべた。

 

「ちょっと! 少しイケメンなぐらいで心奪われたって言うの⁉」

 

 そんな2人を亜里紗は後ろから耳を引っ張って叱咤し、2人は耳の痛みに苦しめられながらも「そんな事はない」と必死に弁明していた。

 2人から手を離すと、亜里紗は相変わらず厳しい顔を向けたまま、鎧を完全に解除しジーンズにポロシャツ姿のラフな格好になっているランスロットの前に立ち、宣戦布告のように言う。

 

「アタシはアンタを信用してないからね! 茉莉がどうしてもって言うから承諾してやってるだけよ。精々寝首をかかれないよう気を付けるんだな!」

「それはこれから態度で示すつもりだ」

 

 大人びたランスロットの態度が気に入らず、亜里紗は舌打ちをしてその場から去る。

 一応は話がまとまったのを見ると、キリカはため息をつきながら後の事はランスロットに任せようと思い、最後に彼にエールを送った。

 

「君なら大丈夫だとは思うが注意してくれよ。私はジェフリーが信頼している君を信頼しているのだからな。君の裏切りはジェフリーに対しての裏切りにもなる。その事を忘れないでくれ」

 

 ランスロットは静かに首を縦に振るだけ。

 これ以上は進展しないだろうと思い、キリカは「追って連絡する」とだけ言って、その場を後にした。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 一方給水塔の上から一同の様子を見ていた2つの影があった。

 黒いローブを身にまとっていた少女はローブを投げ捨てると、その姿を露わにする。

 藍色の髪の毛を左右で円状にまとめ、腰には彼女の武器であるチャクラムが備わっていた。だが一番の特徴はその顔にあった。

 

「見れば見るほど、日向茉莉にそっくりですね。日向カガリさん……」

「双子なんだから当たり前だろ」

 

 傲慢の力を受け継いだ者、日向カガリは淡々と述べる。

 遠い目を浮かべる彼女に対して、何故正体を隠して亜里紗の前に立ったのか、ショートボブでくすんだ黄色い髪を持った少女は聞くと、また淡々と答えが返っていく。

 

「あれでも茉莉の友達だからな。一度は情けを与えてやったんだ。だがもうお遊びは終わりだ。次は全力で叩き潰すよ、ミタマのコントロールもそれまでには仕上げる」

「では物は相談ですが……」

 

 ショートボブの少女は三叉に分かれた槍を手の中で弄びながら、カガリに相談事を持ちかける。

 

「私は何とかミタマのコントロールに成功しています。次の襲撃ですが、この私に任せてはもらえないでしょうか?」

 

 モジモジとした様子で聞く少女に対して、カガリは相変わらず遠い目を浮かべながら一言言う。

 

「好きにしろ」

「ハイ、好きにします」

 

 カガリの了解を貰うと、ショートボブの少女はキリカに対して憎しみの目線を送り、目玉だらけの槍の穂先を彼女に付きつけて宣戦布告のように叫ぶ。

 

「一度は不覚を取りましたが、今度はそうはいきませんわよ! 呉キリカ! 今度こそ跪かせますわ!」

 

 そう言って指を鳴らすと、給水塔の下から現れたのは少女と同じ目玉だらけの槍を持った一つ目の化け物。

 化け物は少女の前に跪き、肩に彼女を乗せると立ち上がり、その場から立ち去った。

 カガリは遠い目でそれを見守るばかりであり、何の行動も起こさなかった。

 空を飛びながら意気揚々と少女は叫ぶ。

 

「この嫉妬の力を受け継いだ者、優木沙々があなた達全員這いつくばらせてみせますわ!」




と言う訳でランスロットはホオズキ市の魔法少女たちと共に戦う事になりました。

そして今回で全ての聖杯の協力者が現れました。傲慢は日向カガリ、嫉妬は優木沙々と言う具合になりました。

そして今回討鬼伝の技を出しましたが、異界として関わっている以上、他の作品もこれからも何らかの形で絡めていきたいと思っています。
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