拙い文章ですがどうぞ
ーーー河内国 渋川郡 餌香川の河原
一面広がる葦原の中をがさがさと葦をかき分けながら甲冑姿の男共が進む。いや進むのでは無く逃げている。では何から?
「物部の残党が逃げているぞ。弓を放て。一人も生きて返すな!」
「放てぇ!」
不気味な飛翔音に気付く。足は止めぬが首だけ後ろを振り返る。空が大量の矢で覆い尽くされている。今、正しくそれらの矢は我等に向って飛んで来ている。自分の血の気が引いていくのを感じる。
段々と近づいてくる飛翔音に、死への恐怖とこの場から立ち去りたいと言う焦燥感が煽られていく。それらの感情に支配された思考能力は、自分の手足に一層無様に葦をかけ別けさせ、力まかせに震える足を進めさせる。全ては生き残る為、只々生き残る為…
しかし、そんな努力は無駄だと嘲笑うかのように、矢が地面に突き刺さる音が鼓膜を叩いた。
…自分は目を固く瞑っていた。今起こったであろう辛い現実から身を守るようにそれはもう固く固く瞑っていた。それにしてもいつまで経っても鈍い痛みを感じない。何があったんだ。
そこで初めて周りから発するうめき声に気が付く。
「足を射られた!痛い…動けない…」
「ごぽっごぽっ…がひゅーがひゅー…ごぽっ…」
俺は幸運だったようだ。何とか一射目を掻い潜り、今もまだ生きている。
太股を射られた青年が一人。首を貫かれ、今にも出血で溺死してしまいそうな男が一人。彼らは動けない。追手にとどめを刺されてしまうのがオチだろう。
自分は再び進もうとした。その時だった。
「待ってくれ!!俺も連れて行ってくれ!た、頼む!」
太股を射られた青年が声をかけ、俺の右足首を掴んだ。
「太股をやられて動けないんだ…早くしないと追手が来る!」
青年は意地でも離さないつもりなのか、掴んだ足首を力一杯に握った。
「俺はまだやり残した事が沢山あるんだ!家には妻娘が待っている…此処で死ぬわけには行かない!だから頼む…頼む、助けてくれ…」
整った顔を真っ赤に染め、恐怖から来た物なのか、それとも力一杯に足首を握っている為なのかは分からぬがふるふると震えながら、死んだ魚の眼のように濁った瞳から、只々涙を流し自分の顔を覗き込んで訴えかける。
そんな彼を見て、此処に放って置ける程自分は腐っていないと、この時この瞬間自分に言い聞かせた。
そして自分は彼を引き起こすために肩のあたりを引っ張り上げようと手を伸ばす。
段々と自分の伸ばした腕が彼に近づくに連れ世界がゆっくりと進んで見えた。彼の表情明るく、また何かに救われたような、また希望に満ち溢れた表情に変わっていくように伺えた。
その時だった…
「物部の残党が居たぞ!殺せ!」
自分のかき分けた葦の跡を追って来たのか、十数名の敵兵が現れ、自分達の姿を改めて認識すると形相をより一層しかめながら勢いよく太刀を片手に向って来た。
そこからの行動は自分でも驚くほど軽快さだった。
掴まれた右足を思いっ切り蹴飛ばした。彼は自分のした行動に放心状態だった。案の定右足は開放され、葦原をかき分けて進んで逃げた。
後ろから青年の叫び声とも泣き声とも受け止められる、正しく絶望そのものを口から吐いたような声が聞こえてくる…。
暫くすると命乞いする声、続くように断末魔が響き渡った。そして…不自然にピタリと止んだ。後に残るは初夏のそよ風が葦を揺さぶる音。
「許せ…悪く思わないでくれ…」
戦場が静かになるのは、戦の始まる前。それか戦の終わった後が多い。
その静寂は自分に安堵をもたらすと同時に、思考や理性を正常に戻していく。そして理性が戻って行くに連れて、自分の犯した罪の重さに自分が蝕まれて行く。
もしかするとあの青年を助けられたかも知れない…
助けられなかったとしても、あのような引き剥がし方は無いだろうに…
先の行いに対して深い罪悪感を覚えながら、真上の太陽が半分をすぎた昼下り、葦原の中をとぼとぼと歩いていた。
慢心とは恐ろしいものである。
葦原が途切れた。思考にふけっていた自分には正しく唐突に途切たように見えた。視界の大部分を占めていた葦は消え、代わりに映った人に思考を止められた。
相手も此方を認識したのか、自分を見たまま固まっている。
相手との距離は実に一寸。
行動に出たのは自分が先だった。
腰に付けていた太刀を抜き、そして襲いかかった。その行動に理由なぞ無く、只々自然と太刀を抜いていた。人とは不思議なもので、このような場合一歩でも進んでしまった事はどんな理由であれ進み切るしかなくなる。
相手は見るからに出遅れ、動揺しながら太刀を抜く。
だが時既に遅し。此方は完全に胴体に狙いを定め、太刀を振るった。相手の左肩から入り、胸、溝内、腹を通り、脇腹までを一太刀で斬った。
「がはっ…」
物凄い返り血が吹き出した。相手は声にならぬ声を吐きながら、太刀と共に膝を落とす。
倒れた相手が再び立ち上がることは無い事を確認すると、再び
足を進める。
しばらく進み、気がつくと森が始まっていた。
後ろからは自分が斬った骸を発見したのか、怒気を含んだ声が聞こえてくる。それは段々と近づく。
声の主から逃げる為進もうとしたが、道は此処で終わっていた。辺りを見渡しても通れそうな道は無い。
そうしている間にも声は近づき、足音が耳に伝わり始める。それらの音は自分の焦燥感を更に煽るには十分だった。
突発的に身体は動き眼前の森に飛び込む。
そして追手が現れた。
どうだったでしょうか。楽しめて頂ければ良いのですが…
これからも続いて行ければ良いのですが…。設定はガバガバです。御手柔らかにお願いします。アンチコメントはご容赦下さい。ですが批判はお待ちしております。
ちょくちょく文を手直ししたり、追加したりします。