美に長ける馬(ウイニングポスト2育成記録)   作:asamano

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物を書くのは「初めまして」です。



馬、生まれる

―1998年 萩原牧場―

 

 いよいよ日が暮れるころ、一頭の馬を囲う一団がいた。

 

「頼むぞ…サン…そのまま産み落としてくれ…」

 

 馬は横たわり、近くの職員たちは慌ただしく動く。この男たちは生命の神秘に立ち合おうとしていた。この『サン』と呼ばれる牝馬もそろそろ高齢に差し掛かり、出産による馬体への影響が一等心配されている中での難産である。加えて、今回は良血も良血。血統に限ればG1という特大ホームランが期待できる仔馬である。一向に進まない進捗に悪い予感が過るのも無理のない話というもの。

 

 サンが時折「ぶるる…」と声を出すだけの空間にやけに秒針の音がしばらく響くだけだった。

 

「山田さん…」

 

「皆まで言うな」

 

 そうして日がどっぷりと暗闇に浸かったころ、それまでの難産が嘘のようにスルッと一頭の葦毛馬が生まれた。

 

「山田さん!生まれましたよ元気な牡馬です!」

 

「あぁ分かっている。お前は牧場長を呼んで来てくれ」

 

 無事に仔馬が生まれたことに一同の顔色に安堵が浮ぶがここからが正念場。この仔馬にはまだ立つという使命がある。そう思い気を引き締めたが…

 

 

 

 

 

 

 

「最初の難産はなんだったんでしょうねぇ…びっくりするくらい早く立ちましたよ。アイツ。」

 

「何でもいいさ。親子共々元気なんだから」

 

「そうは言っても見てくださいよ、あれ。あの図太さはG1級ですよアイツ」

 

 そう言う二人の目線の先には、『他の事は知ったこった』と言わんばかりのケロリとした顔でサンから乳を貰う仔馬がいた。そう呟かれる夜が、まだ名もない仔馬の始まりであった。

 

 

 

 

 

―4月―

 

 あれから数週間後、仔馬はすくすくと元気な牡馬に成長をしていた。よく食べよく寝る、そしてよく動く。まさに健康児と言わんばかりの仔馬である。今日も元気が有り余る様子である。そんな彼は『ヨル』と名付けられた。名前の理由はただ生まれた時が夜だった、というだけの名である。

 

「どうだい山田君、ヨルの状態は」

 

「萩原さんでしたか。どうも何もまさに健康児の一言ですよ」

 

 遠くからヨルを見つめる二人は、牧場長の萩原とヨルの厩務員の山田という。山田は専らヨルに振り回されてばかりであるが、それでもこの牧場の主要メンバーの一員として働いている。

 

「ヨルのパワーには振り回されてばかりですよ。言い方は悪いですが、やんちゃ坊主という評価が妥当でしょうね。ただ、父の産駒たちの気性を考えると、だいぶ大人しい方の馬ですね」

 

 そう言うとおもむろに山田はポケットからデジカメを取り出した。

 

「ほら見てください。例えば昨日、通りが掛かった石井のシャツを咥えてずっと引っ張ってたんです。あれを見ると気性難とはいえ、サラブレッドというよりいたずらっ子の方がずっと近いと思います。ただサンがヨルの奇行に驚いて少し距離を置いているのが気掛かりです」

 

 元気とはいえまだ一歳馬。ヨルはまだまだサンの面倒が必要な年ごろである。サンが育児放棄をしてしまうと中々難しくなるものだ。山田がそれを簡単に推測できるほどの表情を浮かべていた萩原だが、どうやら一通り考え終わったようだ。

 

「サンに関しては後で考えるとして、ヨルについては比較的良かったといえるな。ヨルの気性がどうなるか悩みの種だったからな」

 

 その後萩原が去るその遠くでは、相変わらず呑気に石井から剝ぎ取ったシャツを振り回す仔馬がいたとさ。

 

 

 

 

 昼も西日に傾くころ、山田と石井はヨルを見ていた。

 

「なぁヨル~、いい加減俺のシャツ返してくれよ~」

 

「ははっ、そういうなって石井。シャツの一枚で大人しくしてくれるならありがたいもんさ」

 

<「ぶるる!」

 

「ほらあっち見ろよ。取られると思ったのか、ヨルがシャツを振り回してるぞ。ただあんなに首を振ることもないだろうが。……何だかヨルって俺たちの言葉を理解している節がないか?」

 

「あのシンボリルドルフですら人語を解せないんだ。一歳馬が出来るわけないだろう?」

 

「それはそうだが…」

 

「…にしても馬体は一歳と思えないくらい綺麗なんだが…いたずらがなぁ」

 

「なんたってあの【ダンシングブレーヴ】の子供なんだ、まだましさ」

 

 

 

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―1999年某日―

 

「お~い、有馬さん。この前の仔馬の名前がようやく決まったからJRAに馬名登録をしといてくれ」

 

「分かりました。しかし随分お考えになられたのですね。競走馬にとって幾ら馬名が大切とはいえ、丸々1年は悩み過ぎではないですか?」

 

 有馬が言う通り、この男は仔馬を「一目ぼれした!」と言って牧場から買ったその日から、「ああでもない、こうでもない…」と悩み続け、気が付けば1年の間ずっと頭を捻っていた。そんな彼が急に決まったというものだから有馬がこう言ってしまうのも無理のない話だろう。

 

「それだけあの仔馬は他と違うということだよ。馬主歴の短い私でも確信できるほどの馬なんだ」

 

「それでいったいどんな名前に決められたのですか?」

 

「あぁ、アイツの名前は”タケアサマノ”だ。実家の近くの浅間神社の神様にあやかることにしたんだ。アイツはきっと走るぞ」

 

 

 

 遠くない未来、とある馬主の元ではこんな会話が交わされたという

 

 

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生産情報

 

アカサカサンキューの98(ヨル)

 

父:ダンシングブレーヴ

                  

母:アカサカサンキュー

 

母父:ダイナサンキュー

 

生産牧場:萩原牧場

 

馬主:未登録

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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