あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは野菜や果物を育て、おばあさんはそれを村の人たちに売っていました。ふたりの育てた野菜と果物は評判が良く、決してお金持ちではありませんでしたが、食べるものには困らない生活を送っていました。
しかし、ふたりには子どもがいませんでした。なので毎日夜になると、もし子どもがいたら……と考えては寂しい思いをしていました。
そんなある日のことです。早起きしたおじいさんが畑を見に行くと、そこには大きな大きなすいかがありました。おじいさんの背丈よりも大きい、立派なすいかです。おじいさんは驚いて、おばあさんを呼んできました。
「変ですねぇ。おじいさんの畑には、すいかなんて植えていないのに」
「それに、昨日までは何もなかったんだがのう」
ふたりはしばらく悩みましたが、きっと鳥が種を運んできて、たまたま成長が早かったのだろうと納得することにしました。そしてこのすいかをどうするかと考えます。
「こんなに大きいすいかだ、わしらだけじゃ食べきれないな」
「切り分けてから皆さんに配りましょう、きっと喜びますよ」
さっそくおばあさんは包丁を持ってきて切ろうとすると、
「やめろやめろやめろ!! 中に人がいるんだぞ!!!」
「!?」
突然中から声がして、すいかがぱかんと割れたのです。
「だ、誰じゃ!?」
「俺か!? 俺はすいかたろうだ!」
中から出てきたのは10歳くらいの全裸の少年。すいかの汁でその肌は赤く染まり、ところどころに種がついていました。どうやら桃太郎のようにいい感じの空間が無かったみたいです。
「ようじいさん、ばあさん! 今日から世話になるぜ!」
「お、おお……」
「ええ……?」
挨拶もそこそこに、その日からすいかたろうはふたりの子どもとして一緒に暮らすことになりました。強引すぎる流れですが、得体の知れない存在を目の当たりにしたふたりは驚きすぎて拒否する暇もありませんでした。
「じいさん、畑の草むしり終わったぜ! ばあさん! 今日売る野菜はこれでいいんだよな!」
「ああ、ありがとう」
「そうよ、気をつけていってらっしゃい」
「行ってきます!」
めちゃくちゃな始まりとは嘘のように、すいかたろうはよく働きました。老人特有の早朝起床よりさらに早く起き、積極的に畑仕事や行商に出かけていきました。
「すいかたろうはいい子だねぇ。うっかり切らなくて本当によかった」
「初めはどうなるかと思ったけどなぁ、明るくて優しくて働き者で……」
すいかたろうと暮らすうちに、おじいさんとおばあさんはすいかたろうを本当の子どものように思っていました。それからしばらくの間、3人は幸せに暮らすことができていました。
「ただいま……」
「おかえり……どうしたんだすいかたろう、いつもの元気がないぞ」
そんなある日、すいかたろうはひどく落ち込んだ様子で帰ってきました。元々大きかった上に老人と生活するためさらに大きくなった声も、叱られた子どものように小さくなっていました。
「それが……今日は一つも売れなかったんだ」
「何だって!?」
なんと、おじいさんの作った野菜が売れなかったのです。毎日毎日汗水垂らして畑を耕して、台風の日以外毎日様子を見ていた畑から採れたおいしい野菜。毎日飛ぶように売れていた野菜。なぜそれが売れなかったのでしょう。
「ほら、最近スーパーができただろ? みんなそっちにいっちゃったんだ」
「スーパー……」
そうです。実は最近、この限界集落の近くにスーパーができていました。そこには野菜だけではなくお肉やお魚、日用品も揃っており、村の人たちはこぞって買い物に行っていたのです。
今さらですが、この話は『むかしむかし』ではありません。現代です。
「味なら負けないんだけど、値段はどうしても向かうの方が安いんだ」
「みんな、わしの野菜が一番だと言っとったのに……」
「仕方ないわ、私もお肉はそっちで買うようになったもの」
「おばあさん?」
時代は代わり、極限まで住民同士の距離が近い限界集落といえど質や人情だけでは回らなくなっていました。今は最低限の品質と低価格が正義です。おばあさんのつける家計簿には赤字が増えていきました。
「このままでは、わしら生活できなくなってしまう……」
おじいさんは困りました、個人で管理する畑では大量生産はできず、これ以上値段を下げても、逆に上げても結果は同じ。こんなど田舎に住んでいては通信販売やクラウドファンディングなどは思いつけませんし、知識の無い3人では思いついても実行できません。愛着のある畑を二束三文に変え、それと年金で生活する未来が見えたその時、すいかたろうが口を開きます。
「俺、スーパー潰すよ」
「!?」
あまりにも物騒な発言でした。そしておじいさんとおばあさんの理解が追いつかないまますいかたろうは外に出て、そのまま服を脱ぎ始めたのです。
「何をしとるすいかたろう! 虐待を疑われるだろうが!」
「そうですよ! 早く服を着なさい!」
「学校行かずに畑仕事してる時点で疑われてるだろ! 自分の意思だけども!」
そしてすいかたろうは全裸、つまりすいかから出てきた姿に戻ると、今度は体を丸め、前転する前の姿勢になりました。
「じいさん、ばあさん。ふたりとの生活、楽しかったぜ」
「すいかたろう……」
まだ何が起こるのかわかっていないふたりでしたが、とりあえず雰囲気に乗っかることにしました。どうせ止めても無駄な気がしたからです。
「じゃあな、長生きしろよ……はっ!」
「転がった!?」
お別れを言ったすいかたろうは勢いよく転がり始めると、あっという間にふたりの老眼では見えない距離まで転がっていきました。それだけではありません。すいかたろうの体には徐々に赤い果肉がつき、種がつき、白いところ、緑と黒のストライプの皮がつきました。そう、すいかたろうは大きやすいかになったのです。
「うおおおおおっ!」
そしてすいかたろうは転がり続け、憎きスーパーの元へ。そして勢いを緩めることなく──
──そして、おじいさんの野菜は元通り売れるようになり、おばあさんの家計簿も黒字に戻りました。
「すいかたろう……」
あの後スーパーは巨大なすいかが突っ込み、奇跡的に死傷者は出ませんでしたが営業ができなくなってしまいました。そのまま営業再開はせず、閉店が決まっています。どう考えてもすいかたろうの仕業ですが、責任を被りたくないふたりは黙っておくことにしました。
「さて、畑を見に行くかな……」
4時に起床したおじいさんは今日も畑を見にいきます。そろそろきゅうりが収穫できそうだ、なんて考えながら外に出ると……
「ようじいさん! また会ったな!」
そこには大きな大きなメロンがありました。
おしまい。