このところ動画の調子もいいメイショウドトウは機嫌がよかった。仕事もミスが少ない気がするし何より転んだりしない。今日は絶好調とルンルン気分でいると、声がかかった。
「機嫌がよさそうだなドトウ君。動画の方が好評なことが理由かな」
「はいぃ~。沢山の方が見てくれて私嬉しくなっちゃって。今日は1回もこけてないし絶好調で、はわぁ!?」
そう言いながらこけたメイショウドトウどうやらパーフェクトで1日を終えることはできなかったようだ。ビワハヤヒデは微笑みながら手を差し伸べメイショウドトウが立ち上がるのを手伝う。体についたほこりをかるく払ってあげてあげると再び話始めるビワハヤヒデ。
「そういえば・・今日は昼から外部の方を招いて講習があるはずだったがドトウ君は聞いていないのか?」
「何の話ですかぁ?」
「その様子だと知らなさそうだね。なんでも午後にトレーナー達に向けた講習会だそうだ。たまにあるだろう?専門家を招いて基礎知識を教えてもらうというわけだ。今回はたしか理学療法士による――基本的なテーピング処置に関して――だったな。近くの大学病院から派遣されてくるからそこに現在勤めている君の同期だったアドマイヤベガ君が来るんじゃないかと思っていたのだがなにか連絡はなかったのだろうか?」
「ええぇ!?そうだったんですかぁ?今からちょっと連絡をとってみます~!」
「恐らくこの時間帯だともう学園にいるだろう。講習が終わるタイミングで会って話してくるといい」
「私ごときにそんなに気を使ってもらわなくても・・」
「なに、問題ないさ。今日のドトウ君が冴えていたから今日の仕事はもう終わったようなものだからね。気にする必要はない」
「じゃ・・じゃあお言葉に甘えて・・」
そう言いながら携帯を握りしめポチポチと操作し始めたメイショウドトウ。少ししてからそっけない文章で返事が返ってくる。講習後は仕事がないみたいで会うのは問題ないようだ。講習が終わるまではまだ時間がある。ドトウは楽しみにしながら仕事をこなし、時間が過ぎるのを待った。ほとんど仕事がないと言っていたビワハヤヒデの言う通り、講習が終わる時間には全ての仕事が終わったので、メイショウドトウは気兼ねなくアドマイヤベガに会いにいくことができた。
「アヤベさんお久しぶりですぅ~!」
「急に連絡きたからびっくりしたわ。久しぶりねドトウ」
アドマイヤベガはすました顔でそう言いながら近づいてくる。
「職場が近いのになかなか会えなくて寂しかったですぅ。アヤベさんは元気にしてましたかぁ?」
「距離自体は近くても仕事も職場も休みも違うのだから当たり前でしょ・・ドトウも元気そうでよかったわ」
どうやらアドマイヤベガもこれで今日の仕事が終わりのようだ。メイショウドトウも自身の仕事が終わっていたので今晩食事でもどうかと尋ねると了承の返事が返ってきた。一旦事務室に戻り、帰宅の準備を済ませたメイショウドトウは再びアドマイヤベガと合流し、トレセン学園を後にする。外食でもよかったのだが、2人とも明日は休みということなので、ゆっくりくつろげるようにとテイクアウトのご飯を途中で買って帰り、メイショウドトウの家で食べることになった。
「お邪魔します」
アドマイヤベガを家に招いたメイショウドトウは早速ご飯の準備をする。といってもすでにご飯はかってきているのでコップなどを用意するだけだ。アドマイヤベガを先にリビングに案内すると自身は小物を用意する。リビングに戻ってくるとアドマイヤベガがすでに袋からご飯を取り出し、テーブルに広げていた。
――いただきます。
2人の挨拶がリビングに響くとそれぞれ好きなものをつまみながら食事が始まった。普段は2人とも自炊をしているのでこういう食事は新鮮だったようだ。ご飯を食べながらも、話題はメイショウドトウの動画について話が進んでいく。
「そういえば・・。ドトウあなたウマチューブ始めていたのね。患者さんに教えてもらって最近初めて気が付いたの。動画をみたけど変わった内容も多くて最初は困惑したわ」
「えへへへ。でもこんな私でもみんなを元気づけられてるみたいで嬉しいんです。今はほんのちょっとだけ自分に自信がもてましたぁ」
「そう・・それはいいことね。この前なんかトップロードさんも動画にでてたじゃない。テレビではみるけど久々にあんなはしゃぐトップロードさんをみて安心したわ」
「トップロードさんまた今度出てくれるって言ってましたぁ。その時はアヤベさんもご一緒にどうですかぁ?」
「断るわ。私は遠くから見てるだけで十分よ」
「そんなぁ~・・アヤベさんの姿をみて元気を出してくれる人もきっといっぱいいますよぉ・・」
「それでも、よ。第一私はもう引退したの。そういう役目はあなた達に任せるわ」
「じゃ、じゃあ視聴者の方に伝えたいこととかないんですかぁ?」
「そんなものある訳ないでしょう」
頑なに出演を断るアドマイヤベガ。メイショウドトウ勇気を持って誘ってみたはいいものの、あえなく撃沈。ナリタトップロードは嬉しそうに出演してくれただけにメイショウドトウはショックだった。確かにアドマイヤベガはこういったことをあまり好まない性格ではあったが、それでもなにか今後交流するきっかけがあれば。そんな淡い期待はあっけなく打ち砕かれた。泣きそうになるメイショウドトウに1本の電話がかかってくる。エアシャカールだ。アドマイヤベガに断りをいれて電話にでると、作業をしているのか、カタカタとキーボードをたたく音も声と同時に聞こえてきた。
「よォ。今度の企画のことなんだけry」
「シャカールさぁぁん・・今アヤベさんがいるんですけどアヤベさんに出演断られちゃいましたぁ~・・」
「あッ?いきなりそんなこと言われても意味わかんねェよ。もっとロジカルに話せ」
「はっ、はいぃ」
そういうと現在の状況を話し始めたメイショウドトウ。どうやらあっちにはアグネスデジタルもいるようで、声が聞こえる。動画に関連する作業をしているのだろう。
「話はだいたい分かった。アドマイヤベガに電話を変われ」
「えぇ?」
「オレが代わりに交渉するッつてんだよ」
「はっ、はいぃ!」
アドマイヤベガに事情を説明し電話を変わろうとするメイショウドトウ。アドマイヤベガは困惑していたが、渋々といった顔で電話を受け取った。その間にトイレを済ませたメイショウドトウ。交渉は上手くいったのだろうかと思いながら戻ると、すでに通話は終わっているのか、メイショウドトウの携帯はテーブルに置かれていた。
「あ、あのぅ~」
「でるわ」
「えっ?」
「あなたの動画にでるって言ったのよドトウ」
「本当ですかぁ!?」
「企画はもう考えてくれてるみたいだから。手玉に取られたような感じでしゃくだけど・・」
エアシャカールとアグネスデジタルが一体どんな手を使ったのか気になるメイショウドトウだったが、今はとりあえずアドマイヤベガと交流できる時間が増えたことに喜ぶメイショウドトウだった。