テイエムオペラオーとの共演した動画の投稿後、とてつもない反響があったようだ。公演チケットは飛ぶように売れ、あっという間に完売した。小規模な劇場なので席の総数は少ないが、それでも初公演で満席になるというのはなかなか異例のことだ。
テイエムオペラオーの初公演が上手くいくことを祈りながらメイショウドトウは日々の仕事に励む。動画の再生数も益々右肩上がりでいいことづくめの毎日だ。公演はビワハヤヒデと見に行くことを約束し、その日を楽しみに待っていた。
「思ッた以上に好評だッたな。ロケ回を今後取り入れていくのも悪くねェ」
「今までとは異なる視聴者層も取り込めそうなのもいいですねぇ~!ドトウさんの新たな魅力を世間の皆様に知ってもらえる機会をどんどんつくりましょ~!」
一方そのころ、エアシャカールの自宅ではいつものように動画編集やリサーチをする2人。よだれをたらしそうにながら興奮するアグネスデジタルと冷静なエアシャカールは最近ほぼ毎日と言っていいほど一緒に過ごしていた。もはや職場になりつつある状況になりつつも、なにかに打ち込めるこの環境をエアシャカールはどこか心地よく感じていた。
(ドトウ単体の動画をだしつつ、定期的にコラボ回を作ッていくか。頻繁にコラボすると視聴者も飽きが早く来るだろうし何よりこッちの負担もバカにならねェからな)
メイショウドトウ以外の人物とコラボすると、普段とことなる層の視聴者を獲得できる可能性が高いが、その分こちらの負担も増える。特にロケ回となると、メイショウドトウの休みに合わせて撮影しないといけないため、回数的にも厳しいのだ。エアシャカールやアグネスデジタルはまだいいものの、メイショウドトウはトレセン学園に勤めているため、休日まで負担をかけ続けると、体調を崩す可能性がある。そのためバランスを考えながら動画の内容を考える必要があるのだ。
(需要のありそうな案件もぼちぼち来てるしそこんとこ考えねぇと)
エアシャカールはアグネスデジタルとともに、動画作成に励んだ。
(何だか誰かの視線を感じますぅ・・)
ご飯を食べた後の昼休み。メイショウドトウは1人でベンチに座ってのんびり過ごしていた。が、誰かから見られているような気がするのだ。妙な違和感を感じてあたりをきょろきょろと見回すも誰もいない。気のせいかと思い、用意しておいたお菓子を食べようとした瞬間、近くの茂みがガサガサと音を立てて揺れだした。メイショウドトウは音にびっくりして身構える。すると、草むらから1匹の小さな動物がゆっくりとメイショウドトウの足元に近づいてきた。
「タヌキ・・?さんでしょうかぁ・・?」
ヴッフと小さい鳴き声をあげながら小さな歩みで近寄ってくるタヌキ。メイショウドトウの足元に到着すると、そのままそこに寝そべり何をするわけでもなくくつろぎ始めた。
「え~っとえ~っと・・」
突然の出来事に困惑するメイショウドトウ。たまに視線が合うも、人馴れしているのかタヌキはメイショウドトウに臆することなくいまだくつろいでいる。特にこちらに危害を加えてくる様子もないので、そのうちメイショウドトウは意識することをやめ、いつも通りのんびり過ごし始めた。次の日もまたその次の日も同じ時間にメイショウドトウの前に現れ、のんびりくつろぐタヌキ。メイショウドトウはいつしかそのタヌキに愛着がわき始めていた。
「ご飯・・あげても大丈夫ですよね?」
お昼休み。メイショウドトウはこの日、タヌキのために餌を用意していた。調べてみるとドックフードなどでも問題ないみたいなので少しだけ買ってきたのだ。餌を袋から取り出し、目の前に差し出すとタヌキはヴッフと心なしか嬉しそうな鳴き声をあげながらちょびちょびと食べ始めた。その様子を嬉しそうに眺めるメイショウドトウ。
(はわわわぁ~。とっても可愛いですぅ~)
メイショウドトウは一生懸命ご飯を食べるタヌキを見て癒されていた。今度はもうちょっといいご飯を買ってこようか。そう思った瞬間、咎めるような声がメイショウドトウにかかった。
「ドトウさん!?野生動物にご飯あげちゃダメですよ!」
「えっ!?すすすすすすみません!」
同じトレセン学園で働く職員の人に咎められたメイショウドトウ。話を聞いてみると、最近理事長が農園で育てている人参に動物が食べたあとのような被害が及んでいるとのこと。人参畑はトレセン学園の生徒たちが夜な夜な盗みにくることもあるみたいだが、齧られた後となると、野生動物の可能性が高い。その原因を探るよう命じられた職員達は怪しい動物はいないかと普段から探し回っていたのだ。そしてその原因であろう動物を見つけたのである。
「と言う訳なのです。なのでそのタヌキをこちらに引き渡してほしいのですが・・」
「も・・もし引き渡したらこのタヌキさんはどうなっちゃうのですかぁ?」
「それは・・しかるべき所でしかるべき処置をとることになるだろうと」
「そんなぁ・・そそそれはダメですぅ!!」
中身は言いはしなかったが、恐らくそういうことなのだろう。メイショウドトウはタヌキの結末を想像した後、首をぶんぶんふり、タヌキをかばうように立った。タヌキもメイショウドトウの後ろに隠れるように位置を移動し、不安そうな顔でメイショウドトウを見上げていた。
「ほら!こんなに大人しくていい子なのにこの子がそんな悪いことするわけありませぇん!」
「確かにタヌキにしては珍しく人馴れしている様子ですがその子の可能性がゼロという訳でもないんですよ!」
「ダメって言ったらダメなんですぅ!それなら私がこの子を責任もって飼います!それでダメでしょうかぁ・・」
「ダメですよ!タヌキが病気をもっているかもしれませんし自治体の許可も必要だったりするんです。犬とかと同じわけにはいきません!それにドトウさんの住んでらっしゃるおうちはペット飼える所なんですか?」
「あっ・・」
メイショウドトウの返事が全てを物語っていた。メイショウドトウの住んでいる家はペット禁止の物件だ。それにこっそり飼おうとしてもいずればれるだろう。
(そんなぁ・・)
メイショウドトウは足元にいるタヌキを見つめながら悲しみに暮れる。こんなにいい子なのに処分されてしまうのか。何かいい手はないかと考えるも何も思いつかない。
(タヌキさん・・タヌキ。たぬき・・タヌキ?)
「ほほほ保護してくれる人に渡すというのはどうでしょうかぁ!」
「それならまぁ・・私自身も判断できませんし、自治体なり専門の人の指示を仰いでそれでいいなら・・」
「急いで連絡してみますぅ!」
メイショウドトウはポケットから携帯を取り出すと急いで電話をかける。通じてほしい。祈るようにコール音を聞きながら相手が電話に出るのを待つ。
「もしもし?お久しぶりですね!どうされたんですか?」
「あっあの、お久しぶりですぅ!実は――」
「ふむふむ。そういうご事情が・・わかりました!タヌキという縁起のいい生き物ですしこれは保護しなさいというシラオキ様のお導きに違いありません!私にお任せください!」
「ありがとうございますぅ~!」
電話を終えた後、職員ウマ娘に何度も確認し、タヌキを連れ去られないことを確認すると、メイショウドトウはタヌキを抱きかかえ、くるくると回り、タヌキと喜びを分かち合った。もちろんメイショウドトウはその後こけた。