「はぅぅぅぅ・・・今日はダメダメでしたぁ・・・」
仕事帰りにとぼとぼと1人元気なく歩いて帰るメイショウドトウ。今日は仕事でミスばかりしてしまい、調子がよくなかったようだ。動画の撮影で疲労がたまっていたのか、それともほかに原因があるのか。最近調子よく仕事ができていただけに今日の仕事のミスが堪えたようだ。 私なんて・・と小さな独り言をぶつぶつと呟きながら歩いて帰っていると、ふと1件の店が目に留まった。
スナック ワイド
(たまにはこういう店にはいってみてもいいですよね・・?)
仕事帰りの一杯ではないが、なんとなく飲みたい気分になったメイショウドトウ。普段こういう店に入らないので戸惑ったが、勇気をだして入店する。チリンチリンとどことなく懐かしいドアベルの音がメイショウドトウを迎えてくれた。
「あのぉ~すみませぇ~ん。今あいてますでしょうか~?」
入店するも、がらんとした店内に、メイショウドトウの声が響く。今日はいないのかもしれない。そう思い、引き返そうとドアノブに手をかけようとした瞬間、奥の方から返事が返ってくる。少し急いでこちらを出迎えてくれようとしているようで、パタパタと小気味よい足音が聞こえてきた。
「はぁ~い・・ってドトウじゃん!久々に見たけど変わらないねぇ~」
「ねねねネイチャさん!?どうしてここにいるんですかぁ?」
「どうしてって・・ここうちの実家がやってるスナックだから。んでアタシが後を継いだってワケ」
奥から出てきたナイスネイチャ。少し前までトレセン学園の広報として働いていたが、現在は退職して家業を継いでいたのだ。まさかまさかの遭遇に困惑していたメイショウドトウだったが、知り合いの登場により、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「まだ店開けるにはちょっと早いけど可愛い後輩のために特別に営業してあげましょうか。仕事帰りで小腹もすいているだろうしちゃちゃっとなにかつくってあげようか?」
「あ、ありがとうございますぅ。そういえばちょっとだけお腹がすいちゃいましたぁ・・」
「ふふっ・・正直でよろしい。ネイチャさんが元気のでるご飯を作ってしんぜよう」
お腹を両手でかるくさすりながら、恥ずかしそうにするメイショウドトウ。その様子を微笑みながらエプロンをつけて、カウンターの近くにあるキッチンで包丁とまな板を取り出したナイスネイチャ。野菜を切るトントンというリズムの良い音と、フライパンからジュージューと食欲をそそる音が聞こえてくる。メイショウドトウはその様子を眺めていると、ナイスネイチャはその視線に気づいたのか、恥ずかしそうに笑いながら完成した料理を皿に盛ってからメイショウドトウの目の前に差し出した。
「はいよ、お待ちどうさま。ネイチャさん特製ナポリタン。こんなもんしかだせないけどお酒を飲むなら飲む前になにか腹に入れておかないとね。おつまみもあるからまずはそれ食べてからってことで」
「うわぁ。美味しそうですぅ。いただきますぅ!」
「どーぞ。召し上がれ」
ケチャップで味付けされたナポリタン。具は玉ねぎとピーマンとウィンナー。どこか懐かしい香りがする。よく磨かれたフォークにはうっすらメイショウドトウの顔が映っている。映し出されたその顔はいつのまにかほころんでいた。
(はわわわわわ。ちょっとはしたなかったかもしれないですぅ)
あっという間に食べ終わったメイショウドトウ。少々がっつき始めたかもしれない。そう思いながら食べ終わった皿をナイスネイチャに差し出す。そんなことを思うメイショウドトウとは逆に、ナイスネイチャは嬉しそうにしていた。
「いやー。ここまで美味しそうに食べて完食してくれるとこっちもつくったかいがあるってもんですよー。ドトウあれじゃない?グルメリポーターの才能あるんじゃない?」
「そんなことないですぅ。ネイチャさんの料理が美味しくてつい・・」
「くぅ~。褒め上手だね~。ついついサービスしたくなるってやつ?ドトウは可愛い子だねぇ。んで何飲む?グイッといくでしょ?」
そういいながら片手でクイッとポーズをとりながらドリンクのメニュー表を差し出してくるナイスネイチャ。メイショウドトウはそれを受け取り、目を通していく。
「じゃ、じゃあギネスで」
「ほーい。ギネスね。じゃあアタシも同じもの飲んじゃおっかなっと」
そう言いながらビンをあけてグラスに注ぎ始めるナイスネイチャ。手慣れたもので、綺麗に泡を調整してコースターとともに、メイショウドトウに差し出した。両手でそれを受け取りながら ありがとうございますぅ と感謝するメイショウドトウ。よく冷えたグラスは温かいナポリタンを食べた後も相まって、とても冷たく感じた。
「じゃあ乾杯しましょうか!カンパーイ!」
「か、かんぱーい!」
意気揚々とグラスを掲げてメイショウドトウのグラスと軽くこっつんこさせたナイスネイチャ。やや遅れてそれに合わせるメイショウドトウ。互いに一口無言で飲みあうと、ぷはぁっと美味しいため息をつく。
「ドトウもじゃんじゃん飲んでいいからね。今日はアタシの奢りってことで」
「えぇ~・・悪いですよそんなの・・」
「いいからいいから。初回サービス初回サービス。でもたまーにでいいからさ。お店に来てくれたらネイチャさん嬉しかったりするかも?」
そう言いながら冷蔵庫から皿を取り出し電子レンジで温めるナイスネイチャ。手に持っているグラスはもうすでに残りわずかとなっている。チンッと温め終了の音が響き渡ると、ナイスネイチャは小鉢やら皿やらいろいろと持ってきた。
「これ昨日の残りもんだけどよかったら食べようよ。いいつまみにもなるし」
だし巻き卵や枝豆。ポテトサラダなどの小鉢や、もつ煮などの一品物までそろっている。想像以上の種類にメイショウドトウは驚くが、すぐに喜びにかわった。美味しい料理に舌鼓をうちつつ、お酒を飲む。そしてナイスネイチャがいいテンポで会話を混ぜてくれるため、楽しい時間を過ごすことができた。
「そういえば、最初に聞きそびれちゃったんだけど、なんか悩みとかあったんだっけ?うっかりネイチャさんで申し訳ない」
「ネイチャさんとお話してたら悩みも吹き飛んじゃいましたぁ」
「ありゃりゃ。でも力になれたみたいでよかったよ。ゆるーい感じでごめんね。アタシもそろそろお店開かないといけないし今日はここまでにしよっか」
「はい!ありがとうございましたぁ!」
「いいってことよ。また来たくなったらいつでもきていいからね」
そう言いながら立ち上がり、メイショウドトウはお金を払おうとするも、いいっていいってとやはり断られた。ナイスネイチャに見送られながら後日またくると約束してお店をでたメイショウドトウ。外の風はほんのり冷たかったが、それがまた火照った頬を冷やして気持ちがよい。メイショウドトウは家にたどり着くまでの足取りが軽くなっていることを自覚しながら明日も頑張ろうと意気込むのであった。