ウマチューバーメイショウドトウ   作:ブリンカー

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青い薔薇の花言葉

 

 第○○回宝塚記念。この年のレースは阪神レース場が改修工事のため、京都レース場で行われることになった。天皇賞春を勝利したライスシャワー。しかし、ライスシャワーのトレーナーは宝塚記念に出場の予定はなかった。ライスシャワーは天皇賞春のレースの疲労が色濃く残っていたからだ。しかし宝塚記念はグランプリレース。URAに投票される人気投票の結果で出場できるウマ娘が決まるのだ。そしてこの時のライスシャワーは人気投票堂々の1位に選ばれた。選ばれてしまった。当然ライスシャワーのトレーナーは出走のキャンセルを試みた。この状態で走るなど言語道断だ。しかし、この判断にまったをかけた人物が現れた。その人物とはライスシャワー本人だった。

 

 

 

 ライスシャワーの競争ウマ娘生活は順風満帆なものではなかった。春のクラシック期はミホノブルボンという強敵に阻まれ、苦渋を舐めた。そして夏に力をつけ、自分の得意な長距離のレース、菊花賞に満を持して挑む。三冠をかけたミホノブルボンと激闘の末、勝利するも、三冠を阻んだヒールと世間の冷たい評価を受けた。そして次の年の天皇賞春。王者メジロマックイーンの3連覇を阻止する形で勝利した。この時もレコードブレイカーとして非難を浴びた。そして怪我やスランプに悩まされ1年という長い不調が続いた。ライスシャワーはもう終わった。世間に言われ始めた頃、復活を駆けて挑んだ天皇賞春。この時ライスシャワーは誰よりも早く、京都レース場のゴール板を駆け抜けた。

 

 長い不調が続き、久々の勝利をすることができたG1レース。世間のみんながやっと認めてくれた。応援してくれた。これからだ。そんな期待をライスシャワーはうらぎりたくなかったのだろう。トレーナーの反対を押し切る形で自分の意見を押し通した。普段大人しいライスシャワーの数少ないわがままをライスシャワーのトレーナーは驚きつつもこれを受け入れた。

 

 

 

 迎えたレース。ライスシャワーは走り始めた時から違和感を感じていた。脚が重い。スピードがのらない。それでも期待してくれたみんなのために。その思いでライスシャワーは脚を進めた。そして迎えた第3コーナー。急に体の力が抜けたような気がした。その後は覚えていない。気が付いた時には病院のベットの上だった。聞けば数週間生死の境をさまよった状態だったという。ライスシャワーが目覚めたと聞きつけてきたのだろう。ライスシャワーのトレーナーがくたくたになったスーツで姿で病室に駆け込んできた。トレーナーはライスシャワーをみると、年甲斐もなくわんわんと泣いていた。ライスシャワーが生きていることに安心したのか、それともこれから告げる事実に申し訳なさを感じてたのか。この時の心境はトレーナー以外に誰にもわからない。泣いているトレーナーをみて、ライスシャワーはよくわからないが、自然と涙があふれてくる。そしてライスシャワーもわんわんと泣いた。

 

 

 

 

 ひとしきり2人で泣いた後、ライスシャワーのトレーナーは気まずそうな顔をした後、深呼吸をして自分を整えた後、ライスシャワーの目をまっすぐみて真実を告げた。現役復帰は無理なこと。復帰どころか歩けるようにすらなるかわからないこと。信じたくないことばかりだった。

 

 わかっていた。目が覚めた時から脚が思うように動かないのだ。痺れも残っているし、もしかしたらと思っていた。怪我はこれまで経験してきた。今までと一緒でリハビリをすればまた元通り走れると思っていた。だが今回は訳が違う。受け入れがたい真実を動けない体が受け入れろと言っているようで。ライスシャワーのトレーナーは責任を感じていたようで、どんなに時間がかかってもライスシャワーが走れるようになるまで付きっ切りで付き合うと言ってくれた。しかしライスシャワーはそれを丁重に断った。ライスシャワーのトレーナーはライスシャワーを始め、多くの重賞ウマ娘を輩出してきた名トレーナーだ。当然ライスシャワー以外にも担当しているウマ娘が現在もいるのだ。その子達をほっぽりだしていきなりやめるのは無責任だと伝えた。そして何より。きっとこの足は治らない。その思いで一杯だった。

 

 

 

 「お兄さま。あのね。1つだけお願いがあるの」

 

 

 

 「・・あぁっ!なんでも言ってくれ!」

 

 

 

 「ライスはもうきっと。走れないけど・・ライスのなれなかった本物のヒーローになれる子を導いてあげてほしいの。そしたらライスもこれから頑張れるから」

 

 

 

 「・・わかった・・きっと・・きっと導いてみせる。だからライスも諦めないでくれ!」

 

 

 

 「うん。じゃあ約束だね」

 

 

 

 

 

 

 それから引退となったライスシャワー。最初は健気にリハビリ生活を続けていたものの、不安に押しつぶされそうな日々が続いた。リハビリは長くつらい。支えてくれる人は誰もいない。時折、両親や友人、トレーナーがお見舞いに来てくれるが、それでも最後は1人だ。そして退院となり、車椅子での生活に慣れてくる。もう無理だ。自分なんか。ライスシャワーのネガティブな一面が出てくるようになった。わざわざつらい思いをして病院に通う必要なんかないのだ。車椅子の生活にも慣れてきた。そもそも命が助かっただけでも。こうして目標を失ってしまったライスシャワーはだらだらと時を過ごした。何をするわけでもなく。昔からの夢だった絵本作家になるという夢も今やどこかに消えてしまった。頻繁に連絡をくれた友人たちも時がたつにつれ疎遠になっていく。

 

 かなりの年月が過ぎた後、ライスシャワーはある日、何気なくテレビをつけた。URAの開催するレースだ。今日はG1レースが開催しているみたいで、画面の向こうは盛り上がりを見せている。その中にかつてのライスシャワーのトレーナーがふと映った。担当している子は珍しい桃色の髪の色をしていて、どこかおどおどとしている。ライスシャワーは雰囲気こそ違えど、その様子にかつての自分を重ねて懐かしい気持ちになり、ちょっぴり笑顔になった。

 

 そして始まったレース。桃色の髪のウマ娘はお世辞にもいい位置取りをしているとは言えない。このままじゃ負けちゃう。ライスシャワーは食い入るように画面を見つめた。そして迎えた直線。桃色のウマ娘はとんでもない末脚で1着をとった。それもレコードタイムで。

 

 ライスシャワーはいつになく興奮していた。大きなレースはテレビでも見ていたが、それは流す程度だ。あーこの子が勝ったんだな。程度の流し見だ。しかし今回は食い入るようにみてしまった。元担当トレーナーのウマ娘だっただからだろうか。しかしライスシャワーにとってはそんなことはどうでもよかった。

 

 その日からライスシャワーはそのウマ娘を応援するようになった。勝つ日もあれば負ける日もある。それでもテレビの前で応援し続けた。書かなくなった絵本も再び書き始めた。満足のいく内容ではなかったが、それでも机に向かう時間は増えた。

 

 そして桃色の髪のウマ娘は秋の天皇賞にでることになった。そのウマ娘はブーイングを受けた。そのウマ娘が出場するせいで、枠が足りなくなり、出場できなくなったウマ娘がいたのだ。出場できないウマ娘は人気がとても高く、桃色の髪のウマ娘は悪役さながらの扱いだ。ライスシャワーはその子がかつての自分と一緒の扱いが受けていることに心を痛めた。

 

 

 

 大丈夫かな 辛くないかな

 

 

 

 しかしその桃色のウマ娘は批判もなんのその。見事大外を走って得意の末脚で見事に勝ってみせたのだ。しかも相手はグランドスラムを達成した相手とそのライバル。まとめて2人をくだしてみせたのだ。そしてその後の勝利インタビューでの堂々とした態度にライスシャワーは心が動いた。

 

 

 

 こんなに強い子がいるんだ

 

 

 

 「すごい。ライスが憧れていたヒーローとは違うけど・・これもきっとみんなが憧れていたヒーローの1つの姿・・」

 

 

 

 批判をものともせず、堂々と走りぬく姿。そのウマ娘はその後も海外や、ダート、どんな場所でもどんなコースでも走りぬけて戦い続けた。

 

 

 (この子が頑張っているんだから私も・・)

 

 

 1人のウマ娘の走る姿をみてかつての夢を思い出したライスシャワー。もしかしたら・・そんな思いを抱えて過ごしていると、郵便受けに1つの手紙が届いた。

 

 

 

 「誰からだろう」

 

 

 

 そういいながら封を開ける。シンプルで飾り気のない手紙。ライスシャワーは小さな声で読み上げ始める。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ライスシャワー様

 

拝啓

 

 貴方は私のヒーローです。ヒーローは何度でも立ち上がるものだと聞いております。いつかあなたとまた一緒に走れる日を楽しみにしています。

 

 

  〇月〇〇日

   

                           あなたのライバルより                          

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「ううっ・・」

 

 

 

 名前もない短い手紙。しかしライスシャワーには誰から送られてきた手紙かはすぐにわかった。かつてライスシャワーのライバルも怪我で引退した。しかし懸命にリハビリして走れるようになったと聞いている。今度は自分の番だ。ライスシャワーの濡れた瞳には力強い光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・」

 

 

 

 「ライスさん。ここまでにして休憩にしましょう」

 

 

 

 「ううん。ライスね。もう少し頑張りたいの」

 

 

 

 「・・・わかりました。けど無理はしないようにしましょう。少しずつ。ゆっくりと」

 

 

 

 「アヤベさん。ありがとう」

 

 

 

 アドマイヤベガの務める大学病院。リハビリに励むウマ娘の中にライスシャワーはいた。支えにつかまりながらゆっくり、ゆっくりと歩き始める。歩みは遅く、弱々しい。しかし、その一歩一歩はどこか力強さに溢れている。リハビリに励むライスシャワー。その額にうっすら汗をかくライスシャワーの目は輝いていた。




 この回は2部作です。
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