「よい・・しょ・・」
「本当に・・頑張りましたね。私も色んな患者さんを見てきましたけど、ライスさんほど回復が早い人はみたことないですよ」
「ライスはその人に勇気をもらったから。だから頑張れるの」
「その人はきっとすごい人なのでしょうね。私には想像できないくらいの」
「うん。ライスみたいにちっちゃい子なんだけどね。とっても強い人なの。どんなに逆境でも諦めない強い心を持っているんだと思う。誰よりも早くターフを駆け抜けていた姿はとってもかっこよくて」
「ということは、その方はウマ娘なのですね。その方は今も走っていらっしゃるんですか?」
「ううん。その人はもう引退してるはず。今何をしているのかな・・」
「そうだったんですね。差し支えなければその方のお名前を聞いても?」
「アグネスデジタル って名前だった。歩けるようになったらいつかお礼を言いに行くんだ。貴方のレースをみて勇気をもらいました。ありがとうって」
「!!?」
「?・・どうしたの?アヤベさん」
「い・・いえ・・なんでもありません。休憩もとりましたし、次のステップに進みましょうか」
「うん」
病院でリハビリに励むライスシャワーとアドマイヤベガ。何気ない会話のつもりで話しかけたアドマイヤベガだったが、話題の中にまさかの知り合いが登場し、驚きを隠せなかった。アドマイヤベガ自身、アグネスデジタルと最初に出会った時は衝撃を受けた。メイショウドトウの撮影スタッフとして仕事をしていたアグネスデジタルは急に奇声をはっして興奮したり、涎をたらしかけながら動画を撮影したりとアドマイヤベガの想像を絶する性格の持ち主で最初は気味が悪かったが、話してみると、恥ずかしがり屋そうではあったが、意外と礼儀正しく、こちらの問いにはしっかりと答えてくれる。何より、アドマイヤベガが気に入りそうなグッズの情報や実物を撮影の度に用意してくれているのだ。
気絶していたりとちょっとあれだけどもふもふの情報もくれるし悪い子ではない
アドマイヤベガのアグネスデジタルに対する評価はこんな感じであった。しかしライスシャワーから話を聞くと、どうも美化しすぎているように感じる。落ち込んでいる時期に希望を与えてくれた人物なので、そうとらえてしまうのも無理はないとは思うが、それでも実際にあったことのある身としては、想像以上のギャップでライスシャワーががっかりしてしまう可能性がある。しかし、会うことができるとなれば、ライスシャワーのリハビリのモチベーションアップにかなり貢献することができるはず。
(諸刃の剣とはまさにこのことね・・)
ここはひとまずメイショウドトウに相談するべき。そう考えたアドマイヤベガは思わず口に出してしまいそうな秘め事を呑み込みながら、ライスシャワーのリハビリに付き合った。
「つまり・・まとめるとこうか?ライスシャワーはデジタルのおかげで再びリハビリに向き合えた。本人は会いたがってる。けどその本人の実際の姿をみたら幻滅してしまって気持ちが折れてしまうかもしれない。こういうことだな?」
「ええ・・そういうことね。理解が早くて助かるわ」
「えぇ~っと。つまりどうしたらいいのでしょう?」
「そそそそそんな私めにライスシャワーさんが憧れてるなんてこんなありえないことがおきていいんでしょうか・・」
次の日の休み。アドマイヤベガから相談を受けたメイショウドトウは自宅にアドマイヤベガを招き入れ、相談を受けていた。勿論張本人のアグネスデジタルやかかわりの深いエアシャカールも一緒だ。
話のまとめたエアシャカールがいつものように仕切りながら話を進める。
「んで。仮にあっちが会いにくるとして。デジタルおめーはこの話受けんのか?」
「そりゃああちらから会いたいって言ってくださるのはとっても嬉しいです!・・でも私ですよ?こんな私に会って幻滅しないかなって・・私オタクだし人見知りだしすぐ興奮するし・・ライスシャワーさんの夢を壊しちゃうのが怖いんです。だったらこのまま合わないのも一つの手かなって思ってたり・・」
「そう・・本人がそういうなら仕方ないわ。まだ私がデジタルさんと知り合いということは話してないしこのまま秘密のま――」
「そ、そんなことないんじゃないでしょうかぁ!」
アドマイヤベガが耳を少しだけしょんぼりさせながら話を終わろうとした瞬間、メイショウドトウは少しだけ大きな声で叫ぶように発言した。あまり大きな声をださないメイショウドトウの発言に3人は驚いた様子でメイショウドトウに視線を向ける。
「た・・確かにデジタルさんはちょこっと変わった人なのかもしれません。でも私はデジタルさんのいい所を沢山知ってますぅ。優しい所とか気が利くところとか沢山沢山ありますぅ。天皇賞秋を一緒に走った時も、私は精一杯走りました。その時のアグネスデジタルさんはとってもとっても輝いていました。オペラオーさんよりもずっとずっとキラキラしてました。だからもっと自分に自信を持ってほしいんです。私もデジタルさんやシャカールさんに助けてもらって再び輝けるようになった気がするから・・」
「ドトウ・・」
「ドドウさん・・」
思いがけないメイショウドトウの告白に胸がつまるスタッフの2人。アドマイヤベガもどこか誇らしげな顔でメイショウドトウを見つめている。
「あっ・・私なんかが生意気なこといってすみませんすみませんすみません」
「いいこといったじゃねェかドトウ。あとはデジタル。お前次第じゃねェか?」
「わかりました。不肖アグネスデジタル。全身全霊をもってライスシャワーさんにご対面させていただきます!」
エアシャカールに促されるような形で返事をしたアグネスデジタル。しかしその顔に迷いはなかった。
「えぇっ!?アヤベさんデジタルさんとお友達なの!?」
「えぇ。まぁ友達というか・・なんといいますか・・知り合いなのは間違いないですね」
「あっ、あの、アヤベさんお願いがあるんだけどいいかな?」
「えぇ。私にできることであれば」
「デジタルさんに会いたいって言ったらライスのことデジタルさんに紹介してももらえないかな?少しの時間でいいの。あってお礼が言いたくて・・」
「実はすでにその件をあちら側に伝えていたのですが、あちら側としても是非会いたいと言っていましたよ」
「ほ・・本当に・・?本当に?」
「はい。デジタルさんも会えたら嬉しいと言っていたので大丈夫だと思います」
「ありがとう・・アヤベさん本当にありがとう。ライス、頑張るね」
「それでは今日にでもあちら側に連絡を入れて日程を聞いてみます」
「・・まだ・・」
「え?」
「まだだめ。松葉づえでもいい。ライスは自分の足で歩いてお礼を言いに行きたい。我がままだってわかってる。ライスが歩けるようになるまで待ってもらうことはできないかな?」
「きっと大丈夫ですよ。むしろその方がデジタルさんも喜ぶと思います」
「ありがとう。あまり待たせないようにしなきゃね」
大学病院でリハビリに励むライスシャワー。休憩中の会話。ライスシャワーに身近な目標ができた。自分の足で歩いてお礼に行く。最近は前よりも痺れが少なくなってきている。あいに行ける日も近いかもしれない。
そして数カ月後。
「初めまして。ライスシャワーといいます。今日会えるのを楽しみにしてました」
「初めまして。私もライスさんに会えて光栄です」
ライスシャワーとアグネスデジタル。同じトレーナーの元でそれぞれの現役時代を過ごした2人。互いに緊張する2人をメイショウドトウは見つめていた。
前回2部作と言ったな。あれは嘘だ。