「にしても暑すぎだ・・限度って物があンだろ普通」
「結局人もウマ娘も天には勝てないんですよ・・」
エアシャカールの部屋では暑さにダウンした2人が愚痴を呟いていた。夏シーズン真っ盛りというのに、お休みを頂いているクーラーを見上げながら椅子に座り、動画の編集に勤しもうとするも、全くと言っていいほどやる気が出ない。暑さのせいでパソコンにもよくない環境に2人は頭を抱えるばかりであった。
何もしていないのに壊れた。どこかのロボウマ娘もびっくりの現象から全ては始まった。昨日までは自然に動いていたクーラーはリモコンのボタンをポチポチとおしてもうんともすんとも言わないのだ。これはひょっとしてひょっとしてしまったのではないか?エアシャカールは焦りを覚えつつ、リモコンの電池を代えたり、電源プラグの抜き差しを試したものの、徒労に終わった。日中の温度は毎日平気で30℃を超える。暑さに弱いと言われるウマ娘にとっては死活問題だ。そんな中、家にやってきたアグネスデジタルもあまりの暑さに立ち眩みがしたくらいだ。修理業者に連絡するも、どこの業者も2週間後になると言われ断った。これなら新しいクーラーを買ったほうがマシだと思うも、皆考えることは同じなのである。クーラーの取り付けも同じような日数をいい渡され、項垂れて帰ってきた。
「暑い。暑いよぉ~。こんなの横暴です!職場の労働環境の改善を求めます!」
「ンなこと言ったって壊れたモンはしょうがねェだろ。オレだってどうにかできるならどうにかしてんだよ」
「そんなぁ~・・・」
そう言いながらデスクに突っ伏しておよよと泣きまねをするアグネスデジタル。流石にこの環境で動画の編集をする気にはとてもなれない。幸い投稿動画はストックがあるので、急いで作らなければならないという状況ではないのが救いだ。
「もうこうなったら今度の撮影の予定を変更して海いきましょうよ海!そしたら暑さをしのげるだけでなく、水着姿のドトウさん達を・・うへへ・・」
「そっちが本命だろ絶対」
欲望の世界にトリップしたアグネスデジタルを尻目に、エアシャカールもその考えは悪くないと思い始めた。
夏に入ってからというもの、夏らしい企画はやっていないことに気が付いたのだ。夏の代名詞といってもいい肝試しや海水浴をやっていない。日中家にこもっているよりかはましだろう。エアシャカールは扇風機を取り出すと、生み出された人工的な風を浴びながら計画を練っていく。奇声を発しながら喜ぶアグネスデジタルが鬱陶しかったが目的は一致している。意見をすり合わせながら今度の撮影に向けて調整をしていたのであった。
「というわけで今日は海にきてみましたぁ~」
「なんで私まで・・」
「はーっはっはっは!恥ずかしがることはないよアヤベさん!青い海!眩しい太陽!そしてボク!ボクの美しさを余すことなくみていってくれたまえ!」
「プールで泳ぐことはあっても海にくるのはすっごく久しぶりなのでとっても楽しみにしてました!」
お馴染みといってもいい4人組。メイショウドトウは同期の3人とスタッフの2人で海にきていた。ちょっぴりお腹まわりが気になるが、それでも4人で集まって何かをやるのは楽しい。皆現役時代と変わらないスタイルを保ち続けていることを羨ましいと思いつつ、何故か渡されたスポーツ用の水着をきて動画撮影に臨んでいた。
「えっ、えぇ~い!」
「なんの!トップロードさん!」
「はいっ!頑張ってオペラオーちゃん!」
「くっ・・!ごめんなさいドトウ」
「私の方こそすみませぇぇん」
準備体操が終わった4人が最初におこなったのはまさかのビーチバレーだった。メイショウドトウとアドマイヤベガ、テイエムオペラオーとナリタトップロードという組み合わせで行われたビーチバレー。ウマ娘の身体能力を活かしたパワフルな見ごたえがあるのか、ギャラリーも多く集まっており、みな知らず知らずのうちに張り切っていた。
「にしてもサンバイザーもサングラスもないのに眩しくないんですか?」
「はーっはっはっは!そんなものをしてしまったら美しいボクの顔が隠れてしまうからね。みんなが見に来てくれているというのにお披露目しないというのはもったいない!故に!ボクはこのままがいいのさ!」
「わ、私もオペラオーさんを見習って何もつけないほうがいいんでしょうかぁ~?」
「あの子の真似するだけ無駄よ。ドトウはそのまま大人しくサンバイザーをかぶってた方がいいと思うわ」
「わかりましたぁ~」
その後も試合ごとにチームを代えたりしてプロ顔負けのレベルの試合内容で勝負を終えた4人。体を思いっきり動かす機会がなかなかなかっただけに、4人とも満足した表情で試合を終えた。
(とてもいい動画がとれたのではないでしょうか。ええ)
1人満足げに鼻血を出している撮影スタッフを尻目に4人は休憩に入った。
ビーチバレーを終えた4人は今度は自分達がもってきた水着に着替えて海の家で腹ごしらえをする。水着お披露目の際にアグネスデジタルが機能停止したが、いつものことなので撮影もそのまま進んだ。4人はビーチバレーで消費したカロリーを補充すべく、海の家で食事をとることになった。
「海の家といえばこれですよね!焼きそばです!」
「ボクはカレーを頂こうじゃないか!」
「ロコモコってモコモコした物じゃないのね・・あ。これ美味しいかも」
「ラーメンと焼き鳥と・・あとかき氷もできれば・・・」
それぞれ海の家でメニューを堪能しながら合宿の時の思い出話やトレーニングの時の話をした後、スイカ割りをすることとなった。エアシャカールが用意したまるまるとした大きなスイカだ。ベタではあるが、なかなかやる機会もないので4人とってはうれしいイベントだった。
「いっ・・いきますぅ!」
ルールとして1人3回まで棒をふることができることになった。すでに周りすぎてふらふらしているメイショウドトウはみんなの声に導かれ、遠回りであるが、スイカに近づいていく。どうやら近くにきたみたいなので、思いっきり棒をふってみる。ブゥゥン!!と風を切る凄まじい音とともに、たたきつけられた砂浜の砂が宙を舞う。どうやら空振りだったようだ。その後も2回ふるも、結局あてることができず、終わってしまった。
「そんなぁ~・・・」
「私がドトウちゃんのかわりにスイカを割ってみせます!」
そう言いながらクルクル回って戦闘態勢にはいったナリタトップロード。ドトウよりはしっかりした足取りでナビゲートに導かれスイカに向かっていく。スイカにたどり着いたナリタトップロードは棒を振り上げスイカに叩き付ける。初回はミスしてしまったが、位置を修正して再度構える。
「よ~し。いきますよ!」
ブォォン!!と空を切る音がしたかと思うと、スイカはグシャっと音がしてそのまま木端微塵に砕け散った。
「これじゃ食べられないですぅ~!!」
「迷いのない一撃。素晴らしいひと振りだったね!」
「スイカってあんなに砕け散る物なのね・・」
「みんな~!やりましたよ!」
目隠しを上にずらしてこちらを見ながら屈託のない笑顔でVサインをするナリタトップロード。その後も全員がスイカ割りに挑戦し、夏の海を楽しんだ。
「とっても楽しかったですね!」
「来年もまたかけがえのないひと時を過ごせるようスケジュールを調整しないといけないね」
「次は花火もできるといいわね」
「花火もしてみたいですぅ」
エアシャカールが運転する帰りの車内で4人は次の年の計画まで立てているようだ。あれだけ遊んだというのにまだ元気が有り余っている。きゃいきぃいと話していたが、1人、また1人と疲れがでてきたのか眠っていった。やがて最後の1人が寝ると、車内は打って変わって静かになった。助手席のアグネスデジタルは後ろを振り向いてはカシャカシャとカメラをつかってなにやら撮影している。疲れで注意する気も失せていたエアシャカールは口だけで軽く注意すると、壊れたエアコンを思い出し、少しだけ気が滅入るのであった。