一人で歩む幻想譚   作:wago

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いつも読んでいただきありがとうございます。

感想、批評等が私のモチベーションになりますので是非よろしくお願いいたします。


たまには…

あれからしばらく経った。冬を越し、春が来て、暑い夏を過ぎてまた木の葉が色付き始めた。

 

彼女は偶に洞窟にやって来ては、世間話をするようになった。この世界に来て初めての友人だ。

 

彼女が来ない日は專ら釣りをしている。

 

木の棒に彼女に貰った針と糸を括り付けただけの粗末な代物であるため、あまり釣れない。断じて俺の腕が悪い訳では無い。…と思う。

 

その日もいつもの通り貰った桶に水を溜め、蹴り倒した丸太に座って釣りをしていた。するとまあ釣れる釣れる。

 

あっという間に桶いっぱいになった魚に満足しつつ、ノロノロと焚き火の準備を済ました俺は、あのクソデカ熊の鋭い爪で魚の下処理を行って魚を焼き始めた。

 

「やっぱり塩が無いとな…」

 

そう独り言ちていると、

 

「あら、今日も焼き魚?毎日毎日よく飽きないわね。」

 

そう聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「おお、良いところに来てくれた。一つ頼みがあるんだが…」

 

「また?貴方ねぇ、私を便利屋だと思ってるのかしら…まあ聞くだけは聞いてあげるけど…あんまり無茶なことは聞かないわよ?」

 

彼女がジト目で睨んでくる。

 

「塩が欲しい。」

 

「貴方いつも塩なしで食べていたのね。…残念だけど出来ないわ。これから忙しくなるの。」

 

「それは残念だ」

 

彼女なら承諾してくれると思っていたが、なるほど。

 

しばらくは彼女に会えないのかもしれない。

 

まあいつもの通りに戻るだけなのだが。

_______________________

 

魚が良い感じに焼けてきて、日が傾き始めた頃、彼女が口を開いた。

 

「都で貴方の討伐案が議決されたわ。」

 

「そうか…思ったより早かったな。」

 

実を言うと、この可能性については割と前から彼女に聞かされていた。

 

「月への移住が近いのか」

 

「えぇ、そうね…もうあとひと月と少しで私達は旅立つの。」

 

「そんな大事な時期に都の頭脳がこんなところをほっつき歩いていていいのか?」

 

「そう、だからこれでここに来るのは最後になるわ。」

 

「…そうか。」

 

「それに伴って、出立の時に邪魔されないように、都は大規模な掃討作戦に出ることになったの。その総大将が貴方というわけなのよ。」

 

「成程」

 

そう言いつつ、俺は思考の海に沈んでいた。俺としては他の妖怪が殺されることに何の呵責もない。

 

別に関わりが有る訳でもなかったし、それで言うなら永琳の方が余程大事である。

 

だが俺とて殺されるのは嫌だ。俺と永琳の両方が得をするためには…俺がこの地を去る他ないのだろう。

 

「ねえ、」

 

そんな俺を思考の海から引きずり上げ、彼女はこう言った。

 

「私と一緒に逃げましょう。」

_______________________

 

「今、何と?」

 

「私と一緒に逃げて欲しいと言ったのよ。」

 

彼女の目を見つめる。こちらを真っ直ぐに見つめる瞳には、真摯な光が宿っていた。

 

「それは…先を見て言っているのか?」

 

「いいえ、見ていないわ。私は、今この激情に突き動かされている。冷静じゃないのは自分でも分かっているの。それでも…」

 

「そうか…。」

 

彼女は冷静ではない。そして俺も。

 

だがその冷静ではない頭でも、逃げた後、俺達を追ってくる者がいることは分かる。

 

彼女は技術者だ。それも都で最高の。彼女無くして月で都を建てることは出来ないであろう。

 

ここで逃げれば、俺と彼女は永遠に逃亡生活を送ることになる。

 

それが分からない彼女ではない。

 

「それでもッ…貴方の隣が心地よかった!この感情が何なのかはまだ分からないけどッ…貴方とずっと共にしたいと思ったの!私はッ…貴方に…惹かれていた。」

 

期間にしてみればわずか一年。彼女とは多くの事を共にした。

 

ある時は共に釣り竿を握り、ある時は酒を酌み交わし、ある時は共に月を見上げて、ある時は夜通し語り合った。

 

人を愛すには十分すぎる期間であると言える。

 

「だから、どうか、この手を…取って。」

 

気づけば彼女は泣いていた。美しい黒瞳が濡れている。

 

でも、だからこそ、俺には…

 

「できない。」

 

「!何故ッ!貴方は…私のことが」

 

「いや、そうじゃない。俺は君を愛している。…でも、だからこそ君を危険に晒せない。」

 

「私だって戦える!どんな苦しい生活だって…貴方となら!」

 

乗り越えていける、とそう口にしようとした彼女の唇を、強引に奪った。長い、永い、口付けを終え、彼女に向き合う。

 

「乗り越えていくだけでは駄目なんだ。俺は君を幸せにしたいから。…だから、君の役目が終わったなら、またどこかで会おう。俺は、ずっと君を愛しているから。」

 

「そんなの…辛すぎるじゃない!ずっと、貴方を感じれないなんて…」

 

そう言って泣く彼女を胸に抱き、ソレを手渡した。

 

「この刀を君に預ける。いつかの日まで、その鈴とともに持っていてくれ。」

 

彼女は少し驚いたような表情をみせ、微笑んだ。涙は止まらないままで。そして…口を開いた。

 

「本当に…しょうがない人。分かったわ。でも、最後に一つお願いがあるの」

 

「何だ」

 

「私が貴方を忘れないように、貴方が私を忘れないように、貴方という存在を私に刻みつけて?」

 

「ああ」

 

あぁ…彼女なら、"たまには二人で居るのも悪くない"。そう思った。




展開が早すぎましたね…勢いで書いてしまいました。

次の章からは濃くして行きたいと思います。

メインヒロインは永琳です。
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