もう忘れてしまったでしょうか?
それでも良いとおっしゃっていただけるなら
駄文ながら書かせていただきました。
それでは、ゆっくりしていってね!
風が頬を撫で鼻に秋の匂いを運んでくる。それか心地よくて、でも何処かむず痒くて、俺の意識に覚醒を促す。
(もう5分…)
駄々をこねる子供のようにゆっくりと寝返りを打とうとして
己の愚息がひたすら上を目指していることに気付いた。
(あぁ…久しぶりの感覚。)
歳老いてからは感じなくなったその感覚。
己ではどうすることもできないそれ。ただひたすらに上を目指す己の息子の愚かさを恥じる。だが、いつの時代も、少し愚かである位の方が可愛く見えてくるものだ。
恐らくは昨夜のことが引き金になったのだろう。枯れ果てていたそれは、若返った体相応のものが湧き出していた。
こうなってしまっては仕様がない。
横で寝ているはずの彼女に愚息の躾を頼もうと起き上がる。
「永り…」
永琳、と、そう言おうとして振り返った。
(そうか、もう行ってしまったか。)
そこには永琳は居らず、一枚の手紙と作務衣、草履、唐傘、麻袋が置いてあった。
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ピンと張った新品の作務衣に袖を通す。思ったよりもするりと通ったその袖は、この服が上質なものであると示していた。
彼女が用意したであろうそれは、色付いた紅葉の如く朱く燃えていた。それでいて裾や袖の部分は目を奪われる山吹色。
その色が鮮烈で、綺麗で、何処となく彼女を彷彿とさせた。
共に添えられていた一枚の手紙を開く。
まだ名前も知らない貴方へ
特に書くこともないけれど、貴方が私を忘れない
為にこれを認めます。女々しいと言うかしら。で
も私も女だから、愛した人に忘れられたくは無い
でしょう?
だからこれは楔。待っていてね?貴方。
それと、服は気に入ってくれたかしら?私なりに
一生懸命選んだつもり。貴方、秋が好きだって言
っていたから。大事にしてくれると嬉しいわ。
最後に、貴方をずっと愛しています。
八意永林より
ああ、なんとも君らしい。無愛想だけど愛のある言葉だ。
君は今、何を見ているだろうか。
何を考えているだろうか。
何を想っているだろうか。
空が遠い。吸い込まれるような秋晴れの、
そのまた先に彼女が飛び立ってしまう。どれだけ手を伸ばそうとも届かない、そんな所に行くのだろう。
何度秋を迎えるかも分からない程、永い別れになるだろう。
ああ、なんと美しい秋晴れか。下を向いてちゃ勿体ない。
さあ、用意が出来たら歩き出そう。草履を履いて、笠を被って、君の手紙を懐にしまって、上を向いて歩き出そう。瞳を震わす熱い何かが、こぼれ落ちてしまわないように。
また、一人を始めよう。
また一人になりましたね
ここからの一人は永いですよ
頑張ってね名も無い主人公。