色々と忙しい時期でした
まだ見てくれるような心優しい方がいれば楽しんで頂けると幸いです
あれから一月が経った。俺は感じる寂しさを紛らわすようにあの洞穴から離れ、 周辺の景色を見ては感嘆すると言う現実逃避の日々を送っていた。
あくまで拠点はあの洞穴であるが、夜寝る時ぐらいにしか帰らないようにしている。
永林といえば一週間ほど前、都の方からロケットが飛び立っていく姿を見た。飛び立って行くそれから、彼女がこちらを見ている気がした。きっと気のせいではない筈だ。
この作務衣は朱色だから、気づいていないかも知れないけれど。
思い耽って右袖を握り締めた時、からんと音を立てて、神の木刀が腰掛けた岩から転げ落ちる。
木の神に貰った木刀をまじまじと眺める
「ふぅむ…」
どう見ても唯の木刀であるが、あの木の神が神力が宿っていると言っていたのだ
何かしら特別なんだろう。というか
「神の木刀ねぇ」
ここ一ヶ月、この木刀は本来の役目ではなく、釣竿として使ってしまていたが、
よくよく考えてみるとこの木刀は神様なのだ。
神様を紐で縛りつけ、釣竿にしていたなどなんとも罰当たりである
天罰だけは勘弁して欲しい…いやほんとに。
俺がいつも釣りをしている川が、飛び立つ時の核で汚染なんぞされていたら俺は病気にかかってしまうかも知れない。
病というものは如何なる時も、気の持ちようでなんとでもなるものと考えているが、流石に怖い。
色々考えて俺が出した結論は、なってしまった時に考えれば良いと言うものだった。まあ大丈夫だろう、鬼だし。
そう己に言い訳をしていると、微かにぱきりぱきりと枝を踏む音が鼓膜を揺らす。
なんだろうかと思う。この時代は人そのものが少ない。人の恐れを食料とする妖怪の生態とは相性が悪いはずだ。
では考えられるのは熊か猪のような野生動物だが、それにしたって枝を踏みつぶす音が大きく、重い。
その足音は遅々として、しかし確かに近付いている。
その音が十町程に近づいたとき、俺の目には動く山が映った
「こりゃたまげた!山が動いてやがる!」
そうと決まればこうしちゃいられない。動く山なんぞ見に行かねぇ奴ぁ男の子じゃねえってもんだ。
そら行こうさあ行こうと俺は山に向かって歩き出した。
え?行ってどうするのかって?…んなもん行ってから決めりゃあいいんだよ!
「行かなきゃよかったぁぁぁあぁぁあ!」
え?今何してんのって?みりゃわかんだろ逃げてんだよ!
あんなもんは山でもなんでもねえ!デカ過ぎる猪だったんだよ!なんだあれ十間ぐらいありやがる!
声を張り上げ、涙と涎を垂らしながら必死の形相で来た道を引き返す。すぐ後ろに迫っている地響きと荒い鼻声。
猪と分かってから、百町程の距離を逃げた筈が、逃げ切るどころか少ししか距離を離せていない。
何故こんなにも追われているのか、全く分からん。そんなにも俺が美味そうなんだろうか。それとも俺が、あの猪の鼻を洞窟と勘違いして、中で焚き火を始めたのが良くなかったのだろうか。
まあ後者では無いだろうが、どちらにせよ間違いなく、鬼の形相で俺の事を始末しに掛かっているはずだ。
ん?待てよ…鬼の形相?…鬼の…鬼…鬼だ!
忘れていた、俺は鬼なんだ!鬼といえば怪力乱神!剛力無双!無敵の力を持つ大妖怪ではないか!
そんな俺が猪なんぞに負けるわけがないと、何故もっと早くに気付かなかったんだ!
そうと決まれば早速、奴のデカい鼻っ柱をへし折ってやろうと俺は振り返った。
奴は、周囲の木を薙ぎ倒しながら、一直線に俺に目掛けて突進してきている。まさに猪突猛進という奴だ。それにしてもデカい。
俺は奴をしっかりと見据え、好戦的な笑みを浮かべる。
そして俺は……振り返って一目散に逃げ出した。
「いや普通に無理」
そう、どう考えても無理である。まともな思考をしていれば、アリではダンプカーに勝てない事くらいわかるものだ。
普通のアリが、ちょっと力をつけてカブトムシになったところで、轢き潰される未来は変わらない。
あんなものに勝てるのは、人間だった頃に漫画で見た強すぎるハゲか、野菜の惑星の戦士くらいのものだろうとも。
そうこうしているうちに、なんだか見慣れた景色になってきたような感覚に襲われる。まるで、つい昨日一昨日までここに居たような、そんな不思議な感覚だ。
鬱蒼とした木々に澄んだ川、焚き火の跡に洞穴、小さい頃、おばあちゃんの家で過ごした夏の日々のような、懐かしい気持ち。
そう、つまりこれが意味することは、
「ただいま、一昨日ぶりだね」
かくして俺の住処であった洞穴は、入居一年にして初めて、その玄関を閉めることができましたとさ。めでたしめでたし。
「いやめでたくねぇ!」
あの糞猪が洞穴に突進すると同時に石壁に叩きつけられ、現代アートの様な様相を呈していた俺は、ぶつぶつと文句を垂れながら、洞穴前の瓦礫撤去に従事していた。
あの糞猪は、俺が死んだと思ったのか去っていった。どうやら食糧目当てではなかったらしい。鼻の中で焚き火した事は関係ないだろうし、なんで俺が襲われたのかが本格的に分からなくなった。
ちなみに俺が叩きつけられた壁については、綺麗に俺の型抜きをしたような穴が空いている。
衝突直前に、両足で踏ん張って止まろうとしたことによって、組体操のサボテンの下の人みたいな穴が空いており、非常に無様であるが、まあこれも味だろうと納得した。
ついでに穴の横に名前でも掘っておこうかと思ったが、今世になってまだ名前はないので、とりあえず まさお と書いておいた。
理由は近くにあった石が某国民的アニメのまさおくんに似ていたから。
それはそれとして、少し気になることがある。
「ここら辺の妖怪、強くなってね?」
そう、この地域一帯の妖怪が、確実に強くなっているのである。
これはおそらく、月面移住の際の核攻撃が、多くの生物を死滅させ、それによって発生した穢れが、多くの妖怪に集まり、それにより強化されたものかもしれない。
これにより、大きな問題が発生した。
「俺、この森から出られない問題。」
非常に困る。そう、非常に。
はてさてどうしたもんかなと考える。そういえば、永林が気になる事を言っていた。確か一月程前だったかに…
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「私達の月面移住計画だけど、この近くの集落はこっちに残るみたい。」
「そりゃどうして」
「ここの土地に愛着が湧いたみたい。羨ましいわ、私も本当は残りたいもの。」
「寂しくなるな」
「ええ、本当に」
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確かこんな事を綺麗な月の夜に話したような……とと感傷に浸っちまった。
まあ、明日見に行ってみるか。
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朝方、出立の準備をし、集落に向けて歩く。場所はいまいち分からんが、とりあえず高いとこから見たら分かるだろう精神で、近くの山の頂上を目指す。
今回は動いていない山だから大丈夫…のはず。
どうやら本当に大丈夫だったようで、山頂まですんなり来ることができた。山は登り切った時の達成感が良いと言うが、鮮やかな紅葉に澄んだ川と、道中も非常に良いものだった。
山頂の景色は言うまでもなく、どこまでも遠い秋晴れの空に、心地よい秋風が吹き抜ける。そんな景色の中、割と近くに木造の集落を見つけた。
ひとしきり景色を堪能した後、集落に向けて歩みを進める。半刻もしないうちに辿り着いたそこには、誰も居なかった。
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夜、いつものように神の木刀で釣った魚を、はむはむと咀嚼しながら、あの集落について考えていた。
確かに誰も居なかったが、家屋に破壊痕がひとつもなかった事を考えると、妖怪の襲撃や、住民同士の争いとは考えにくい。
それに、荷車の轍があった事を考えると、集落の住民は、どこかに移動したのかもしれないなぁ。
そう、つまりこれはど言う事か、というと
「この森から本格的に出れなくなったってことか。」
つまりそう言う事である。また、振り出しに戻った状況に、俺は一つの選択をした。
「よし、筋トレしよう!」
投稿遅くなり、申し訳ナッシブルです。
仕事の関係やモチベーションの関係で、遅くなりましたこと、お詫び申し上げます。
亀更新ですが、次回もよろしくお願いします
はてさて今回のお話は、作者としては気に入っている作品です。ゆるい雰囲気で旅をする作品が好きなので、ちょっと心がけているんです笑
これからの展開で時系列がバラバラになってしまうかも知れませんが、お付き合いいただければ幸いです。