麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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これにて過去回想は終わりです、お疲れさまでした

各話のサブタイを変更しました。ラーメン言いながらラーメン出さない話も多かったので、普通に異なるサブタイをこれからは考える方向で


(10) 示す覚悟

  

 

 

〇 ホテルモスクワ(過去)

 

 

 

 

 ホテルモスクワの本部、そのどこかにある厳重な扉の先にある窓のない部屋。

 

 某、スプラッター映画のごとく、今にもアナウンスが知らされて倫理観を泥に投げ捨てたような命令が下されかねないこの状況。

 

 ゲームの主催、ジョン・クレイマーよろしくゲームの真ん中で彼女は、バラライカは彼を見ている。すでに引いた引き金は熱く煙を吹き、彼の右足に風通しのいい穴を開通させたところだ

 

 

「……質問をする。お前は」

 

 

 

 

 

……ピト………………ピチャンッ

 

 

 

 

 

「…………——ッ」

 

 

 痛み、長く続くその感覚は熱をもってまとわりつく。溶けた鉛を肉の内側に詰め込まれたような、はなはだ不快な感覚が精神を休ませない。

 

 縛られたことで、頭の方にあまり血が昇って行かないのか、とにもかくにも意識を持たせるだけで精いっぱいだ。虚構も方便も、こんな状態では使用できない。追いつめて追い詰めて、その果てに真実を暴こうとしている。

 

 真実、それはいったいなんだ。僕にはなんの覚えもない。ただ、この街で懸命に生きようとしていただけだ

 

 

 

 

 

 

「……答えろ。血は全て抜け切れればさすがに救う術は無いの、だから吐きなさい」

 

「し、しらない…………しらない、なにも」

 

「ええ、じゃあ知っていることだけ」

 

「……なにも、僕はなにも」

 

「へえ、そう」

 

 

 呆れ混じりの息を漏らした。するとすぐに撃鉄の音がまたも鳴った。

 

 重く熱い銃口が、僕の額を小突いて頭を上げさせる。

 

 

「!」

 

 

 息ができない。逆光を浴びて覗くその暗い容貌、冷徹な瞳の色だけが美しくも目に留まる。

 

 殺されるのか、僕はもう、この街で生き続けることはできないのだろうか

 

 

 

「……ぁ、はぁ……な」

 

 

 

 嫌だ、まだ死にたくない。生きたい

 

 唾液を嚥下しろ、言葉を吐け、引き金を戻す手段は僕の声だけだ

 

 

 

「……あ、あなた達は……何を、求めている」

 

「聞いているのはこっちよ」

 

「等価交換です……答えて頂ければ、僕はなんでも、あなたに言います」

 

 途切れず、なんとか言葉を紡げた。今にも膀胱が耐え切れず粗相をしてもおかしくない、それほどに歯は震え寒気も止まらない

 

 どうなる、分不相応の願いと見られれば迷いなく引き金は引き絞られる。命運を分けるその銃、だけど見るべきはこの人だ

 

 目を逸らすな。舐められたら終わりだ。この街で生きるなら、立ち向かわないと

 

 たとえ相手が、ホテルモスクワの火傷顔、ミス・バラライカだとしても

 

 

 

「答えてください……お願いです、バラライカさん」

 

 

 名を口にする。その瞬間、周囲の銃口がガチリとセーフティ解除の音を鳴らして視線を浴びせて来た。

 

 そんな中、震えながら瞳を見続ける僕に、この人は

 

 にやりと、悪い笑顔を浮かべて、一言。突きつけた銃口が顔をなぞり、頬を降りて唇に。反応を確かめるように、切っ先で口をこじ開け、口蓋に鉄の味を感じさせる。

 

 

 

 

「……おもしろいわ、あなた」

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 鉄の味、血の味を覚悟したが引き金は保たれたまま、抜かれた後に口は開いたまま、唖然としてしまっていた。

 

 理由はおそらく恐怖、と付け加えるなら

 

 恐ろしい彼女の顔に、僕はどうしてか美しいという感想を抱いてしまった。あぁ、我ながら、本当に気がどうかしている

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 

……この女は何だ、いったい何をしたい?

 

 

 

 銃口を向けたまま、バラライカは思案を続ける。

 

 どうあがいても諜報員、ないしその正体でなくとも欲に駆られて協力をした愚か者、最悪その当たりを付けていた。拉致対象の女は、これまでロアナプラで確認はされておらず、つい最近に飲食業を開いた店主とのことであり、過去が無い分諜報員として疑う要素はこれでもかと出てくる。実際、ビルの中には我々を狙う罠も、そして街の情報を集めた資料に銃器等、証拠をいくつか見つけている

 

 ホテルモスクワとしてこれ以上の仕事は蛇足、それは誰が見ても明らかであった。だが、どうしてか

 

 

……これが演技ではないのは明らかだ。では、一体何をもって食いつかんとしている

 

 

 協力員に仕立てられているならすぐに自供をする。本当に悪いのは別だ、自分は悪くない、身の安全を欲して無様に命を乞うはずだ。実際、そうしなければ生きる術はない。それが真っ当な判断だ

 

 だが、この者はそうはしない。それが不可解で、故に乗ってみた。

 

 

 

「……諜報員の噂が始まったのは、今から数か月前だ」

 

 

 語り聞かせる。自分たちが何を追って、そしてどんな過程でここに至ったか。

 

 不自然な噂、怪しい行動、そうしたすべてが必然的に一つの回答に、ケイなるジャパニーズの女が、その諜報員のロアナプラでの身分であると、それは不自然かと疑うほどに速やかに特定に至った。

 

 

……不自然、そうだそれが引っかかるのだ

 

 

 まるで用意された解答へ導かれたように、だが否定する材料も、組織としてこれ以上に動く動機もない。

 

 全ては憶測、だがその憶測は今、この者の回答でもしやすれば

 

 

 

「……以上、これが私たちの知る全てよ。さぁ、その上で、あなたは何を聞かせてくれるのかしら?」

 

 

 

 

 覆るのであれば、それはなんとも

 

 

 

……あぁ、もしそうなら腹を抱えて笑う話だ、叶うので、あれば

 

 

 

 

「さあ、答えろ……女ッ」

 

 

  

 再度突きつける銃口、たっぷりのどす黒い圧を込めて、いたぶる拷問管で自分を染め上げる。

 

 顔色を見せろ、その顔に、一体どのような感情を映すというのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いいかげんにしろ、ふざけるなッ!!」

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 理解に一瞬戸惑いが生じた。なぜ、なぜそうも

 

 

「愚か者……銃口を向けられて言うセリフかそれはッ!!」

 

 

「!?」 

 

 

 鈍い音が響いた。銃床で殴られた音だ

 

 ここまで引っ張って、引き出したモノがただの悪態、当然の怒りだ。躊躇いはもうなく、いつでも引き金は引ける。

 

 振り切った銃を持つ手、それが再び額に押し付けるよりも先に

 

 

 

「……違うものは、違う……僕は、諜報員じゃないッ!!」

 

 

 吠えた。盛りを見せる獣のごとく、勇ましくも吠えてみせた。

 

 苛立ちを煽る遠吠え、利き手ではないもう一方の手は自然女の喉元を掴む。か細い首だ、片手の握力でへし折ることも容易く思える。

 

「立場を忘れるな、今命を握っているのは私だ、この私なんだ……お前は、何を主張するべきだ?己の保身以外に賭けるものがあるのか……お前は、女…………」

 

 籠る力、骨の形を指に感じて、喉仏の形も

 

「……——ッ」

 

「なんだ、なぜそうも目を濁らせておらんのだ」

 

 苦悶の表情を浮かべながら、その眼は未だこちらを捉えて逃げる気を見せない。意地と気概だけで食いつながんとするその姿勢

 

 果たしてそれが功をそしたのか、いずれにせよ

 

 ケイティは、バラライカを揺らがせた

 

 

「……お前、男か」

 

 

 ざわつく声、周囲の者も疑わずに信じ切っていたようだ。またぐらをまさぐったわけではない、喉仏の形状を手で感じて、バラライカは確信をもった。

 

 

「軍曹、諜報員は女だと聞いたが」

 

「はっ……ですが、問題は無いかと。性別を誤魔化す程度なら、何も支障は」

 

「だな……女だろうがカマだろうが関係ない。では答えろ、貴様は何を主張する」

 

「……ッ」

 

 

「興味がわいた。貴様の命乞い、その先に何があるか、見せてみるがいい」

   

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 高圧的に言ってくれるものだ。けど、それが力あるモノの権利、弱肉強食に異を唱える程僕はのうたりんじゃない。

 

 僕は、まだ何も成していない。

 

 人身売買でこの街に捨て去られて、泥臭くも必死にあがいて生きて来た。14であの人に出会えて、そこから人生は大きく好転した。

 この流れに僕は乗っている。望む未来を、自分が正しいと思える生き方を選べた。

 

 欲深くあれ、諦めて掴めるのは土だけだ。雲を掴むような、意味のないあがきだとしても

 

 

 

「…………ぼく、はッ」

 

 

 自分を曲げて、泥を抱いて終わるよりはずっと、はるかにましな道だ

 

 

「……諜報員なんかじゃない。ただの、料理人、です」

 

「そう、それで……なに?」

 

「料理人にできることは……料理を作ること、だから」

 

 

 血が滴っていく、体の熱が消えていくのを感じる。

 

 あと一言、告げる、ぶつけてやるんだ

 

 

 

「厨房を、貸してください……僕は、ラーメン屋だ……あなたに、最高の一杯を作るッ」

 

 

 

 あとは、もうどうとでもなれだ

 

 

 

 

「あんたの満足いく逸品、僕が作ってやるって言ってんだ……それができないなら、殺せッ!!」

 

 

 

 

 冷えつく空気、静寂を保っていた聴衆たちはさしもの動揺を隠しきれなかったのか、らしからぬ統率の乱れたどよめきを示す

 

 そして、それは当の本人でさえも。バラライカは、ケイティの回答を冗談だと捨て去る。その為に、引き金に指をかけ続けていた

 

 だが、一向に撃鉄の絶叫は響かない

 

 

 

「……正気か、貴様」

 

 

 

「正気も正気だ……本気で、取りに来てるんだ。僕の無実を、そして生還も、全部勝ち取ってやる、だから

 

 

 

 

……バチンッ

 

 

 

 

 

「————ッ!」

 

 

 起き上る体、血にまみれた両の手、結束バンドが千切れ椅子の拘束から解放されている。それほどまでに、強引に逃れんとしていたのか

 

 起き上るその身、一歩二歩と、その足が前に進んで

 

 

 

「大尉ッ!!」 

 

 

 

 ボリスの銃口がケイティを捉える。だがそれを先んじて

 

 

 

 

「総員、動くなッ!!!」

 

 

 

 

 一喝、バラライカの声で皆は時を止めたように静止する。だが、その中で唯一動き続ける者が一人

 

 一メートルもない距離、撃ち抜かれて血が滴る足を棒にして、蘇った死者のごとく歩を進める者がいた。

 

 

「————————ッ」

 

 

 絶叫を噛み殺し、ケイティはバラライカの元へ

 

 女と勘違いされ、幼さにあざけられる顔はそこにはない。

 

 バラライカは、銃口を下ろした。無抵抗のままに、諜報員と疑った相手を前にして、試すようにただ待っている

 

 

「……同志たちよ。今から行うこと、その一切に関心を持つな。私がいいというまで、その場で石になれ」

 

 

 使う必要のない銃を懐に、出血がひどく顔から生気を消していくケイティを

 

 近づく彼を、バラライカは

 

 

「——…………ッ」

 

 

「倒れるな、馬鹿者……男を見せているなら、最後まで立て」

 

 

 力なく、その場で屈しそうになる体を咄嗟にその腕が持ち上げ支えた。返り血で汚れることもいとわず、その両脇を抱え、その場で足をかがめる。

 

 ゆっくりと、膝をつかせて、同じ目線に

 

 見れば、ケイティの目は閉じていて、貧血と極度の疲労で気を喪失していることが見られる。もたれかかるからだ、胸に顔を預けさせ、その場でバラライカは傷口の縛りを強く締め直す。

 

「軍曹、この子を介抱しなさい……絶対に死なせるな」

 

「はっ!……おい、お前ら」

 

 意を察したボリス、この場において状況は覆る。

 

 バラライカの中で、わずかに抱いた可能性の話。記憶の隅に置くそれは思考の海で膨大に膨れ上がり、荒波を起こし思考は高速でかき乱れていく。

 

 自然、答えは見えていく。目の前の少年の言葉、物証も何もないその言葉が真実と仮定すれば

 

 応えは自然と見えていく。確信は無い、無駄な轍を踏むも承知

 

 

……だが、そうだとしても

 

 

 

「情報を集めろ、精査するのだ……クソッタレの成り代わりがいるッ、気取った怪盗アルセーヌを真似た不快な輩だッ……舐めるなよ、ホテルモスクワを欺いたこと、今際の先まで後悔の泡を抱かせてやるッ……我らの弾丸が生み出す血の泡で、二度とこの世の空気を吸えん体にしてやる……同志諸君、迅速に動けッ!!作戦は継続だ!!!」

 

 

 

 ホテルモスクワの行動が変わる。男を示し、バラライカに勇敢さを見せたケイティの確かな勝利だ 

  

 

 

「…………ぁ、ぐッ」

 

 

「!」

 

 

 その場で寝かされ、薬と止血の処理が行われている。そんなケイティを見て、バラライカは彼の顔に涙の雫が浮かんでいることに気づいた。

 

 気丈に振舞ってはいても、アドレナリンが尽きればこうももろく、そしてあどけなく見せて来るとは

 

 

……少年か、東洋人は若作りと聞いたが、それにしてもまだ子供だな

 

 

 衛生兵の部下が部屋に駆け込み、急ぎその場で完全な止血の治療が行われんとしている。輸血を繋ぎ、管を通されていく姿に不憫さを抱く

 

 贖罪の気持ち、罪悪感などこれまで持ち合わせることなど無いモノであった。

 

 押しとどめるのは簡単、しかしバラライカの気は思わぬ方向へ乗ってしまった。

 

 痛みを噛みしめ、悶ええづくケイティの胸にそっと手の平を置く。男のものらしい、平らで骨ばった胸だ。

 

 

「……期待してやる、故に」

 

 

 込める思いは敬意、尊敬すべき一人の男の子に、その両輪としての在り方も含めて、バラライカは言葉をかける

 

 

 

「借りを返すまで、絶対に死んでくれるな……お前の言う味、私が賞味するまで、決して死なせん…………これは、決定事項よ」

 

 

 

 

次回に続く




以上、オリ主とバラライカの馴れ初め(ハード)になります。料理で日常を語りながらなんでこんな重い展開にするのやら、我ながら物語の展開が右往左往してます。

次回ラスト、最後は実食で終わります。やっとラーメン出せる安心感


追伸:ジョンクレイマーは映画「ソウ」に出てくるデスゲームの主催者です。ブラックラグーンの年代とは違いますが、原作らしい海外色のある語彙を使いたかったので

 本作では少し年代を濁していく方向で、じゃないとラーメンの種類も限られてしまうので
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