麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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時間がかかって申し訳ない。少し長めですがどうぞ

あと、小説タイトル変更しました。これで定着していきたいと思っています


(15) 三合会はろくでもない

 

 視線を感じる。胸元や臀部、全身くまなく注がれる視線は深く考えないようにする。料理を配膳しているおかげかあまりお触り等の悪戯が無い、それだけはせめてもの救いだ。以前ならセクハラ環境が平常使用、ガラの悪い男から、金回りのよさそうな恰幅のいい男と、僕を見るなりケツを触らせろ、そんな言葉が全身くまなく浴びせられていたのだから本当ひどい話だ。

 嫌なのに仕方なく側について接待しようものならケツを触らせろ、股間のポケットモンスターと君のスィートなヒップでチョメチョメ……コリンネ姉さんやアーシェ姉さんは面白がってギリギリまで止めないし、うん

 

 ああもう、逃げたい。仕事を放棄して家に帰りたい

 

 男なのに、どうしてこんなことにと嘆かない日はない。お客さんの方もなぜ気づかないのか、そう思ってはみても実際鏡で見るぼくの女装姿は遺憾なことこの上ないのだけども、仕上がりすぎているのです。 

 体のラインが出る服、僕の頼りない体躯は見事に女性的な姿を映してしまっている。とくに臀部はお姉さんたち曰く安産型だと、だからか妙に視線が痛い。早く厨房に戻りたい、もう家に帰りたい

 

 

 

「ケイティ、何立ち止まってるの?」

 

「……——ッ」

 

 項垂れる暇も与えてはくれない。

 

 盆に持った大皿、それを僕はテーブルに置く。すでに平らげられた皿は皆僕の中華料理を堪能してくれたと理解できる。

 

「ごゆっくりどうぞ……では」

 

 皿を片付けながら、少し視線をやる。U字のVIP席に並ぶ黒服たち、この人たちは皆三合会の人、中央に坐しているのは当然そのお偉いさん。

 

 マフィアの顔に正通しているわけでもないけど、なんとなくこのサングラスの人はただものではないと感じる。視線が合わないうちに、早く去らないと

 

 

 

 

 

「ちょっと待ちな」

 

「!」

 

「つれないな、賛辞の言葉ぐらい言わせてくれてもいだろうに。なにせ、君がこの料理を作ったコックなんだ」

 

「……ッ」

 

 振り向くのが怖い、喉奥が引きつる。

 

 ただでさえ、今の格好であまり男の人に関わりたくないと思うタイミングで、しかもその中でもひときわヤバそうな人に目が留まるなんて

 

 

……お酌するだけ、変なことはコリンナ姉さんがサポートしてくれるはず

 

 

 

「確認だが……キューティ、君がケイティで間違いないか?」

 

「ケイティ、こっちでお話ししようよ……ほら、私の隣」

 

「……は、はい」

 

 頷かざるを得ない、コリンナ姉さんに誘われて、僕が着席したのはよりにもよってその男の隣、コリンナ姉さんは妙に面白がっていて、正気なんですかあなた

 

 

……女装だってバレたらどうなるか、胸もまっ平らなのに絶対バレる  

 

 

 視線がやけに増えている。周りの嬢のお姉さん達や部下と思しい人たちまで、皆ぼくをじろじろと

 

 

 

「ほう、ジャパニーズかいお嬢ちゃん」

 

「若いな、まさかエレメンタリースクールのガキじゃないのか?」

 

 

 

 

「し、失敬な! これでも今年で20歳で……ぁ、その、すみません」

 

 

 やってしまった、声が尻すぼみしていくけど時すでに遅し。関心は強く、皆の反応は、微妙で戸惑い大半

 

 すると、沈黙を破ったのは隣のこの人

 

「コリンナ、このキューティは嘘を付いているのか?」

 

「ついてないですよ。ケイティちゃんは、とってもかわいい合法幼女ですから」

 

「ほう、日本人の童顔ここに極まれりだな。ペドフェリアの金持ちに紹介状を出してやってもいいぞ」

 

「い、いやです!……な、何考えているんですかッ!」

 

 思わず叫んだ、ツッコミでつい大声で、でもこれは少しマズイ

 

「おい、女!」

 

「い、いえあの……すみませんッ」

 

 側近と思しい男の人、他に皆も、中には立ち上がって威圧を見せてきて

 

 

 

「おい、落ち着け……今のはあれだ、ジャパニーズマンザイのやりとりだ。だから本気にするな、真に受けるな、劉お前は特にだ」

 

 

「……ッ」

 

 

 黙らせた。助け舟を出した行為にも見えるが、どうも空気が固まってしまった。冗談と本音の境目がわかりにくい人だ。もしかしてジョークが下手なのだろうか

 

 

「悪かった、少しからかい過ぎたみたいだ……詫びとして、こいつはおれの奢りだ」

 

 

「……ッ」

 

 

 受け取った酒、それは既に空いているバカルディの水割り。酒気の強い酒を嬢に飲ませるのが客の常、だけどこの人は水で割った。

 これなら僕にも飲みやすい。手に取り、品よくもってのどを潤す。

 

 お酒が入る。少し暖かくて気持ちがいい

 

 

「…………」

 

「すまないな。慣れないことをさせたようだ」

 

「……いえ、これも仕事ですから」

 

 顔が向いて、グラスで口元を隠す。女装姿だからか、妙に近いのが気にかかる。同性ではあるが、僕よりもずっとダンディズムでそして紳士だ。

 

 触られてもおかしくない距離感。だけど、この人の手は酒を飲むのと、僕の作った料理を口に運ぶだけ。うん、結構食べてくれている。美味しそうに食べてくれる姿は、ちょっと嬉しい。見ていたくなってしまう 

 

 

 

「……熱い視線を感じるが、なにか言いたいのか」

 

「!」

 

 

 見透かされていた。指摘されると恥ずかしいから、僕は酒を煽って羞恥を無かったことにする。

 

 

「お、良い飲みっぷりだ……ほら、お代わりはどうだ」

 

 自然と注がれる酒、少しさっきよりも濃い気がするけど。まあ誤差だろう

 

「いただきます……えっと、その……呼び方は」

 

「?」 

 

 不可解な反応を示す。僕は耳元へ近づき小声で

 

 

『あの、お名前を伺っていなくてですね……どう、呼べば』

 

 

 失礼の無いように、すると少し間をおいてから男は

 

「……張」

 

「張?」

 

「旦那でも、ミスターをつけるでもなんでもいい……張維新だ。君の名は」

 

「……ケイ・セリザワ。皆、あだ名でケイティって呼びます」

 

「ケイ、なるほどそれでケイティか……日本人のようだが、妙に中華料理が上手だな。香港で、修行でもしていたのか?」

 

「……いえ、独学ですが」

 

「独学……本当にか」

 

「……ええ」

 

 頷く、するとなんとも拍子抜けしたような反応を見せる。匙と皿を手に、僕と料理を交互に見るようにして、それにしてもそんなに意外と思われるとは

 

 まあ、確かにそれは尤もかもしれない。僕の趣味とはいえ、我ながらそれなりのものは作れてしまうのだ。多種多様なラーメンを作る内に色んな料理の知識を取り入れようとしたおかげなんだけど

 

 

「お口に合いましたか?」

 

「……あぁ、今も痛感している。うまいな、久しく美味い故郷の味を食えた」

 

「それは、なによりで……あ、お酒が空いてますね……今」

 

 空いたグラスを手に、僕はロックアイスを入れてそこへバカルディを注いだ。

 

 強く冷えた酒、言われた所作を守って手渡しをする。

 

 

「……減点だな」

 

「へ?」

 

 てしっと、不意打ちに張さんの指が僕の額を弾く。あっけに取られて、そんな僕を置いて張さんはもう一つグラスを取り

 

「熱い料理に対して気を払ったのだろうが、悪いが酒の飲み方は曲げない主義なんだ。それに、蒸留酒の飲み方だが」

 

 手に取る、それはガラス瓶の水差し。空いたグラスに半分ほどバカルディを注ぎ、こんどはそこへ水を注ぐ。

 

 

「……水割りですか?」

 

 

「あぁ、常温の水で割った方がな、蒸留酒は味の花が開く。ようは好みの問題だが、嬢であるなら入れる前に先に伺っておくべきだ……だから、減点だ」

 

 

 減点、強く言いきる。妙に楽し気で、対してこっちは

 

 

 

「――ッ……ご、ごめんなさい……ぁ」

 

 

 恥ずかしさで、酒の気が回っているにしても顔が赤くなる。

 

 

「ま、気にするな……お前さん、別に接客が本職ってわけじゃないんだろう」

 

「……それは、そうですけど」

 

「やはりな。だが安心はしていい、お前さんの料理は絶品なんだからな……今食っているこれにしても…………ん、この炒飯だが、日本風のものだな。本場と多少違うが、味は実に良い。昔、フクオカシティのハカタで食べたものを思い出す」

 

「日本に行ったことが? あの、失礼ですけどどのような」

 

「気になるのか? いやなに、俺にはいろんな顔があるからな。三合会の顔役の張維新は神出鬼没の変面士だ。おっと、笑ってくれなくて結構。俺のジョークセンスが寒いのは周知のとおりだ。なあ、劉」

 

「た、大哥……さすがにそれは意地が悪いですよ」

 

「そうなんですか? えっと、ミスター劉」

 

「お、おい……君!」

 

「……ケイティ、天然はあざといよ」

 

「え、あなただけにはいわれたくわ……えっと、失礼ですよね。申し訳ございません」

 

「はは! いいさ気にするな、正直は美徳だ。無礼講を謙遜する奴ばかりだと面白みがない……いいか、面白いってのは重要だ。お前たちも肝に銘じておけ、なんで大事かおのおのの人生で理解できるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うっぷ」

 

 

 

……すこし、飲みすぎた

 

 

 

 

 手洗い場、少し席を外して僕は化粧台の前に。

 

 今、僕の座った場所にはアーシェ姉さんがいるから、しばらくは戻らなくてもいい。つまみを作る仕事に没頭しててもいいわけだ

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 グラスに注いだ氷水をちびちびと舐める。慣れない嬢をしてみた僕はいささか飲む量を間違えてしまった。そういう作法を学んだはずが、どうしてか乗せられているわけでもないのについつい飲んでしまったのだ。常温の水で割ったウィスキーは確かに美味しい

 

「……張、維新」

 

 

 口ずさむ名、あの場において世界の中心は彼にありと思わせるほどの存在感。ルックスだけじゃなく、内面もそれ以上に整った人間なのだろう。

 

 

 

……ちょっと、寂しい

 

 

 酒宴の場の経験は少なくない。ここで働かせてもらって体験したおかげで、でもその大半が嫌な記憶、我慢の経験だ。

 けど、あの人は、ミスター張の隣で飲むお酒は悪くないと思えた。もしかすると、慣れない僕の為に気を使わせてしまったかもだけど

 

 

……だとしたら、悪い事しちゃったよね

 

 

 性別を偽って、見た目こそ遺憾ながら女性的ではあるが僕はあくまで僕だ。騙して、それでお金を使わせているようなもの。

 

 三合会、バンコクのおじさんの件もあったからあまりいい印象は無かったけど、たぶんあの人は

 

 

「……いや、こんなのは希望的観測だ。バラライカさんだって、笑顔で平然と悪いことの出来る人だし、マフィアに期待しちゃいけない。期待、しない方がいい……うん」

 

 

 言い聞かせる。鏡越しの自分に勘違いするなと

 

 バラライカさんは別として、マフィアの外面でまんまと騙されるなんてこと、僕よりもあの人が許しはしない。この前だって、店の建てなおしの相談で顔を合わせた時も

 

 

……いい、ケイティ。わたしはあなたに負い目があるから決して危害は加えないけど、ほかのマフィアは違うのよ。理不尽なものはともかく、あなたが引き起こした要らぬ騒動はさすがに面倒を見切れないから、そこんところ忘れないでね

 

 

 

 

「……」

 

 

 気を抜いちゃいけない。相手はマフィアだ

 

 鏡に映る顔、少し酒の気で当てられたほほの赤み、気のゆるみをただすために少し強めにほほをはたく。

 

 ぱちんと、張りのある肌がいい音を鳴らした。けど、その音と重なるように

 

 

 

……ガチャッ

 

 

 

 

 

「お、いたいた……さっきのジャパニーズガールだ。ハロー、いいファックしてるか?」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 誰だ、そう叫ぼうとした僕の口、男はその厚ばったい手のひらで押し付けて、体はそのまま壁際に追いやられた。

 

 入ってきたのは二人組、人相の悪い大男と、入り口をふさぐように子分のような男が一人。こんな状況なのに、頭は不気味なほどに冷静に状況を静観している。

 

 

「…………ッ」

 

 

「騒ぐな、いい子だからな……おい、見張ってろ」

 

 

 下卑た男の舌なめずり、空いた手は僕の髪をするりと撫でて、肌に指が触れた瞬間身の毛のよだつ感覚が全身に走る。

 

 ゆっくりと、男の手のひらが顔を離れる。呼吸を取り戻し、息を整え

 

 

……叫んだら、どんな目に合うか

 

 

「……ここは、スタッフ用の化粧室です。そ、それと、店内でこういう行為は」

 

「ああ、わかってる。そういう建前なんだよな。だからほら、黙って受け取れ」

 

 手渡したのは、たった20ドルのはした金。その意味は、安く見下している手合いだとすぐに理解した。

 

 聞いたことがある。嬢に安い金で行為を強制して、結果しぶしぶ受け入れて行為をするか、それとも歯向かうのを力づくで言い聞かせたうえで行為に及ぶか。

 

 

……嬢を相手に、品のない賭けをしてもてあそぶ輩、お姉さんたちが言っていた嫌な客

 

 

「……あの、あなたが思うような、僕は……ぁ、痛い痛いッ!!」

 

 

 痛い、髪をなでる手が前髪をつかみ無理やり持ち上げてくる。身長差で、つま先立ちになってどうにか立つこの姿勢、とてもじゃないが耐えられそうにない。

 

 どうして、いやだ。誰か、助けて

 

 

 

「キューティ、手荒なことはしたくないんだ……お互いハッピーになろって話なんだ。だからほら、受け取れ」

 

「おい、手ぇ出したら賭けになんねえだろ。お前、ずるいぞ」

 

「……知るか。こっちはもうスイッチが入っちまってんだ。女、そこで脱いで壁に手を付け……飯がうまい女はあそこもうまいってな」

 

 男の手が服をつかむ服の内側に入り込む指、その感覚が気持ち悪くて仕方がない

 

 

 

「……やだ、いやだ…………やめてッ」

 

 

 

 せまる、力の差が怖い。体が冷えて生きた心地がしない

 

 助けて、いやだ、こんなこと死んでもしたくないッ

 

 

 

 

「いやだ、だれか……誰か助け」

 

 

 

 視界がぼやける。涙が見たくないものを隠すのだ

 

 男たちは愉悦の笑みをこぼすばかり、楽しんで、より興が乗ってその手に力が加わる。

 

 服をはぎ取られる。その刹那、救いは

 

 

 

 

「そこまでにしておけ、ツァン」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

「…………無礼講とはいったがこいつはどんな催しだ? もう一度聞くぞツァン、俺たちの名でケツを預かった店で、お前は何をしている?」

 

 

 

 

 

 




次回の投稿もなるべく早めに、早くしないとオリ主の貞操が!


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