麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方 作:37級建築士
~過去~
数日前、ローワンさんの店に三合会のお偉いさんが訪れた。上客の接待、店にとって重大な日に僕は大ポカをやらかした。頭に血が上ったとはいえ、僕はマフィアの偉い人に啖呵を飛ばしてしまったのだ。
ことの次第をローワンさんに話して、まあ当然青ざめてホーリーシットを天高く叫ばせてしまったわけで、それも無理もないこと。大変僕は愚かなことで、正直今こうして首がまだ繋がっていることの方がおかしい。けど、一応向こうにも非がある手前僕の言葉は聞かなかったことにされてしまった。らしい
そう、張維新は僕へ丁寧に説明した
『お前さんの言い分はわかる。だが、それも俺達マフィアの仕事だ。善人が正義を振りかざす集団もあれば、その逆も然り』
『お前さんは運がいい。俺は飯の味に満足しているし、部下に品の無い真似をさせた責任も感じている。だからこの話はこれでオーバーだ。あんたは嬢、俺は客、ここを出れば元通りになるんだ。顔を見たくないならこのままバックヤードに下がってもいい、指名もしない』
『美味い飯には感謝する。できれば、お前さんの飯はまた食いたい。良い関係を築けるよう、落ち着くまで時間を置こう……ケイティ、いい子ちゃんならわかるな?』
「……誰が、いい子ちゃんだッ、誰がッ」
苛立ち、けど言い返せるほど僕は利口でも無ければ愚行も犯さない。理不尽は飲み干して、飲み切れない分はフラストレーションとなって
振り上げたハンマーを、一気に
……バキッ!?
「いっ……あぁ、かったいなぁ……電動ノコギリがあれば、こんなことしなくて済むのに」
振り下ろしたのは、方々を探し回って見つけた豚の骨。へましたチンピラの骨ではない。正真正銘の豚の骨だ。
背ガラ、頭骨、大腿骨。どれも状態が良く、割った断面はたっぷりと骨髄が詰まっている。血の付きは新鮮な証。我慢して水商売をしたかいがあったといものだ。
嫌な思いをして働いたのだ。これほど見返りが無ければやってなんかいない。
「……さて、仕込みだ。とりあえず、これで一週間は持つ。けど、しばらくは豚骨ラーメンかぁ」
出来るなら色んな味を作りたい。けど、商売をやる以上贅沢は言ってられない。慣れない豚骨の臭みに客が付くかどうか、純度の高い豚骨ラーメンは初めての挑戦だ
けど、僕は知っている。遠い故郷の博多ではこの味を求めて多くの人間が虜になって、これなしでは生きられないジャンキーであるという事実を。
張維新も言っていた。きっと彼も、この味を知れば
「……は、バカバカぼくのバカ、何考えているんだよもう」
忘れろ。あの人はもう来ないし、こっちからも会いに行くつもりなんてない。関わるだけ危険だ
……美味いな、実に良い味だ
「———————―ッ」
けど、妙にあの人の言葉が消えてくれない。僕の味に感想を言ってくれた人、そんな人は決していないわけじゃないのに
どうして、僕は
「張、維新」
〇
裏家業を終えて、無事お金が溜まった。おかげで一気に仕入れが滞りなく入ってきた。
懸念していた白濁色の濃厚豚骨だし。これがどう受け取られるか、その結果は
……替え玉!
……こっちも頼む!
……スープも飲み干しちまった……10ドル払う、もう一杯くれ!
皆、面白いほどにハマってくれた。
客はとかく僕の豚骨ラーメンを求めて足を運んだ。店の前にも机やいすを並べ、足りない手は嬢のお姉さん達が手を上げてくれた。しれっと接客ついでに花を売るのも目的だろうけど、まあそれでも人手が増えたのは大助かりだ。
麺処・ロアナプラ亭で初めて提供した博多豚骨ラーメン。その売れ行きは絶好調、を通り越してもはや狂気じみているものすらあった。
行列はもちろんのこと、無料で替え玉システムを導入してしまったのは確実に失敗だ。皆一杯のスープで平気に3~5杯は麺を平らげてしまうのだ。豚骨スープの魔力に魅入られたお客は、はたから見てもはや死人。ウォーキングデッド、いやもはやバタリアン。店ごと食いきってしまいかねないほどに客たちは足しげく通ってきたここ連日
……鍋の数も増やして、麺のお代わりも値上げ、なのにそれでも客足が絶えない。これじゃあ
× × ×
嵐のような営業が終わり、厨房で一人椅子に腰かけて僕は項垂れている。そばにある鏡に見た自分の顔、疲れ切っているせいか目に隈も出来かけている
店が繁盛するのは良いことだ。だけど、それでまた別の問題が
「また、食材が……あぁ、どうしよう」
稼ぎがあれば食材は手に入るものの、いくらなんでも度が過ぎる。供給と需要のバランスが不釣り合いだ。
冷凍庫にしまっていた豚骨はストック切れ、明日からまた入手ルートの模索に難儀しないといけない。それを想うと、必然的にため息が出てしまう。
「……今の仕入れ先、前の方なら……あぁ、お金が消えていく。黒字のはずなのに、超黒字だったはずなのに」
寸胴鍋三つが空っぽになるまで売っても、手元に残るのは微々たるもの。その上豚骨を煮込む労働の時間を考えれば、人件費で赤字になるところを無理で押し通している。セルフブラック営業とは恐れ入った、主に自分に
疲れている、その自覚はある。ひとまず、火を落として仕込みを済まして、はやく床につかねば。暖簾を降ろしに、厨房を出ようとした
けど、そんなタイミングを見計らったように
……ガララ
「あ、いらっしゃいませ!」
反射的に、店に入ってきたお客に声をかける。営業スマイル。顔の疲れをはたいて奥に潜める
お客は、金髪の外国人観光客? だろうか
カウンターに座るや、無言で指を立てて、一杯という意味だろうか。10ドル札と1ドル札二枚、机に置いて終始無言のまま……何か奇妙だ。
……店終いだったのに、言うべきかな?
一人、スープは火こそ落としているが、一応無いわけじゃない。最後の寸胴鍋にはちょうど一杯分、夜食にでもと思っていたがこうなれば振舞わざるを得ない。
「お客さん、一杯分ですけど……いいですか?」
「……あぁ」
「はい、では少々お待ちを……(喋るんだ)」
顔を見た。青い目に、金髪の髪。けど顔つきはアジア系、ハーフなのだろうか?ベビーフェイスと少し丸みを帯びた鼻は、どこか見覚えがあるような
しかし、アロハシャツが似合わない人だ。雰囲気も妙に大人しすぎるというか、あぁいけないいけない。詮索屋は嫌われる
調理に集中する。小鍋に取ったスープを温め、麺の茹でを始めた
「茹で加減は……初めてでしたらノーマルでいいですよね」
「あぁ……まかせる」
確認をとれた。慣れた手つきで麺を茹で機の中へ、タイマーは一分弱
薄口しょうゆと昆布、ザラメで作った醤油ダレを温めておいている丼へ、次にスープを、そして麺と具材
具はシンプルにチャーシュー、ネギ、紅ショウガだけ。単純で複雑な要素はいらない。このラーメンの前では、シンプルで力強い要素が持ち味であり個性となる。
「おまたせしました、博多豚骨ラーメンです……お熱いので、気を付けて……」
どうぞ、そう言い切る刹那、またもやタイミングを見計らったように
……ガララ
「あ、すみません……もうラーメンは」
『ズダンッ!!』
入ってきたのは、客というにはあまりにもおっかない。なんともこの店の中には似つかわしくないものを携えた
「!?」
「ハロー、ケイティちゃん……会いたかったぜ」
どこからどう見ても不届き物、けど僕には面識があった。背の高い男の名は、確かツァン
男の放った銃弾は、僕の頬すぐ隣をかすめて後ろの鏡を砕いた。
〇
~現在~
「へえ、そいつはご機嫌なシーンだ……で、ケイティはぶるって漏らしたのかい」
「品が無い言葉を吐くんじゃない……ここからがいい所なんだ、とにかく黙って聞け」
饒舌な語り、物語はラストパートへ
「いいか、ツァンはタイ語に長けていた奴でな……主に外での仕事を任せることが多かった。あれで営業の知識と技術もあって、結構重宝していた人材だった。うちのシノギになる事業を増やして上納金をあげる奴を、俺自身も有能と見てきた……まあ、それも過去の話だ」
「三合会で名を挙げるために、随分とあくどいことをしていたらしいな。噂は聞いたことがある、三合会に恥さらしの悪目立ちがいたってな」
「あぁ、まったくもって愉快な話だ。当事者であることが恨めしくなる」
端から聞けば愉快痛快であったはず、しかし引き金を引いたのもゴミを捨て去ったのも自分たち。張にとってツァンはおもしろくないの一言に尽きる輩だ
レヴィはというと、知った話になったからか気を良くして話を広げだす。
「醜聞は噂の波にのってゆらゆらと……口に戸は立てられないもんだ。一時期は酒の肴にあたしも口にしていた噂、けどな……旦那自らが始末したって話は初耳だな」
「戸を立てたつもりもねえが、どうやらそこは広まっていなかったようだ。あいつに、ケイティに面倒をかける噂は自然と検閲がなされる。あいつは良くも悪くも愛されがすぎる」
「バラライカの姉御、エダ、あんたの所のデスダヨ……なんで、あいつが男娼をしてねえのか未だに理解できねえぜ」
「言うな、あれはあれで気にしているらしいからな……ま、俺もその疑問は抱いてないとは言わん」
……クシュンッ……ウゥ、カゼカナ?
「……話が逸れたな。で、どこまで話した?」
「ケイティがツァンにディックを向けられて、貞操の危機のついでに命の危機、ってところまでか」
「そうだ、そこからだ…………あいつは色んな奴に愛される一方で、ハプニングや不運ともよろしくやっているからな。ツァンはファックと殺しもセットであいつを手込めにしようとした。だが、そうはならなかった。さ、話を続けよう…………俺はあの時」
次回に続く
時間がかかってしまう。難航中デスダヨ
現在の張エピソードは次回で終わらしたい所、終われたら良いなあ。終わらしてそろそろ原作ネタを絡めたい
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