麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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ニンニクマシ、肉とヤサイマシ、チーズがあればなお良し


(22) ニンニクいれますか?

 

 

 連日に続く大盛況、食材の供給を増やして対応に明け暮れる日々

 

 ロアナプラ亭の新しい試み、一週間の期限を決めて僕は新ラーメンを作った。日本でもまだ知れ渡っていない特異的な逸品、日替わりな僕の店だが反響が良すぎることを想定して一週間は同じラーメンを続けると店さきに貼っておいたが、これが我ながら大正解だ。

 

 朝早くからの仕込み、営業に間に合わせるためにも休む暇はない。いっそ調理の勢いに食材の供給が追い付かないほどである。スープの仕込みは9時間、そのたもろもろの仕込みも並行して、日中はほとんど調理に追われる日々

 

 ふと時計を見れば短針はあっという間に過ぎている。そんな日が今日で三日目

 

 今日も変わらず火の番と下ごしらえ、そんな作業中店の外でエンジン音が近づきそして停止した。張さんの紹介で契約した業者の搬入である。

 

 

 

「よお、景気はどうだ?」

 

 

 だが、いつも顔を出すいかつい顔の業者と思えば顔を出したのはサングラスのナイスガイ

 

 

「張さんおはようございます。でもまだ準備中ですよ」

 

 

「それなら安心しろ。今お前さんが用意しているまかない飯で間に合わせる……おいおい、そんな目で見てくれるな」

 

 

 当たり前のようにたかる行為、だが知人に昼飯を振舞うぐらい別に問題でもない。まかないは簡単に作れるから時間もかからないし、僕も別に文句は言わない。ただ、先にこっちの善意を見透かしてくるのは止めて欲しい。

 

 まるで、一人で食べるのは味気ないからむしろいて欲しいぐらいだとか、そんな本音を吐露しているみたいで恥ずかしくなる

 

「……意地の悪い人だ」

 

 口では非難する。だが張さんは面白おかしく受け取るだけ。カウンターに坐して、そのまま新聞を片手にしたまま無言

 

 

「……お前さん顔色大丈夫か」

 

 

「?」

 

 

 と、思えばいきなり口に出したのはこっちを心配する物言い。ふと、僕は傍にかけてある鏡で顔を見る。エプロン姿にバンダナで髪をまとめ上げたいつもの出で立ち。

 

 だけど、自分の目の色が我ながら少し曇っているように見える。うん、そう言えばここ三日は毎日4時間睡眠で休みなく働いているから、まあ仕方ない

 

 

「……盛況なんですよ。だから、まあ仕方なしです」

 

「そうか、だがそれにしてもだ……栄養は足りているか?」

 

「……しつこいですね」

 

 三日、たった三日でそんな心配をされるなんて

 

 あれ、でもそういえば三日前といえば。確かバラライカさんに介抱されて朝を迎えた日

 

 

……そう言えば、不思議と疲れてる気もして、三日前の時点から腰とか関節も痛かったような

 

 

「……なにかあったんですかね?」

 

「なんでそれを俺に聞くんだ。逆だろ……『タンッ』っと、もう出来たのか?」

 

「はぁ、もういいですこの話は……まかない食べたら帰ってくださいね」

 

 話を切るように出した丼料理、切れ端のチャーシューと野菜くずで作ったどんぶり飯。あとは出汁のガラでとった二番出汁のあっさりスープ。

 

 ザ・男の昼飯。チャーシューは毎日死ぬほど作っているから切れ端は捨てるほど出てくる。かなりボリューミーなスタミナ定食となってしまった。

 

 

「男の胃袋を掴む良い飯だ。ケイティ、お前は良い嫁さんになるぞ、俺が保証する」

  

 

 反応に困るコメント、しかし丼を片手にかッ食らう姿は様になっている。素直に飯の感想だけを述べて欲しいと思っても

 

 

「そう言えば、お前さん四日前に随分飲み明かしたとか……お相手は確か、麗しの姫君だったか、それとも傷だらけの王子様だったか」

 

 

「……ッ」

 

 次なるからかいネタで息をするように僕をからかう。本当に食えないお方だ

 

「バラライカさんとは何もないですよ。ただ、ちょっと飲み明かして潰れた僕が介抱されて……されて…………あぁ、ひどく酔ったせいかな、僕もあまり覚えて」

 

 

……朝は起きて、少し話をしていて……あれ、でも急にそこからの記憶が、何かあったようななかったような

 

 

「……忘れっぽくなったのかな。なんだか、すごい体験をした気が、でも思い出せない」

 

 背中に感じるベッドの感触、ばねがきしむ音、情熱的な一時、天井のシミは三桁を超えた数で

 

「オーケー、この話は無かったことにする」

 

「?」

 

「よせ、首をかしげるな……からかい遊びで火傷はしたくない。くわばらわくわばら」

 

 

 

 

 

 

 

 

~ラグーン商会~

 

 

 

 昼間、事務所の中で響く音はラジオのノイズ混じりの音楽、そしてデスクワークに励むベニーとロック二人のタイプ音だ。

 

 オーナーが紳士な人柄である故に、事務所で無駄にバカ騒ぎする者はいない。だが、今だけは不興和音が盛大に響き続ける。

 それは足踏みの音、苛立ち貧乏ゆすりから始まってまるでビデオの激しい行為にも負けず劣らずな激しいビートで床を叩くレヴィの足音

 

 

「おいレヴィ、いいかげんうるせえぞ……病院でひまし油飲む列に並んでるガキじゃねえんだ。ちったぁ大人しくしろ」

 

 

「……ぁぁ、ダッチ……ダッチよ、いいかげん我慢の限界だぜ。あんたも、ベニーも、そんで手前ロック」

 

 

「ん……って、てて……蹴らないでくれ計算が狂う」

 

 

 

 椅子に座るロックの頭を足の裏で小突く。不機嫌そうにレヴィは振る舞い、そんな彼女の顔には白い詰め物が二つ。

 

 鼻の穴をふさぐチリ紙の栓。彼女は不機嫌に事の詳細を明かす

 

 

「へいへい、野郎ならイカの死臭が漂うのは無理もねえ。それなら我慢は出来る……けどな、いくらなんでもてめえら、臭えんだよ」

 

 臭い、それは主にこの部屋の中、そして三人から漂う者。三人は三人とも自覚がある故に、すぐ押し黙る。最初に注意したダッチもそっぽを向き英字新聞で顔を隠した。

 

 皆触らぬ神にたたりなしと、大人しく静かに口を閉じていようとしたが

 

「……レヴィ、足をどけてくれ」

 

 ロック一人にだけ、レヴィのブーツは向けられている。

 

「ロック、お前はとくにだ……口向けんな、ガーリック相手にオーラルプレイでもしたのかッ、アアッ!!」

 

 乱暴な物言い、いつもであれば違うだのなんだのとつっこみか冷静な返しが出るものだが

 

 ロックは静かに

 

「……悪い、口臭消しはしたんだけど、まだ消えてないみたいだ」

 

「ロック、ていうか全員アタシの知らない所で何して来たんだ。連れとはいえ、この匂いは駄目だろ」

 

 少し冷えたのか、言い方が少しだけ大人しい。だが、そこは呆れ混じり

 

 おそらく、レヴィの予想では僕らがニンニクを丸かじりでもしたのかと思っているだろうと、ロックは推測する

 

 

……まあ、じっさいそうだし、否定はできないな

 

 

 

「レヴィ、最近はケイティの店に行ってないのか?」

 

「あ?」

 

「そっか、なら仕方ない」

 

「……ちょっと待て、ケイティの野郎が原因なのかよ。あいつ、日替わりのネタが尽きて変なもんでも作ったんじゃねえだろうな」

 

「レヴィ、憶測でモノを言っちゃいけない……ケイティさんは真面目だよ」

 

「その真面目の結果がこの毒ガス部屋かよ、フィールソーライクアウシュビッツ……ファック(まじに、アウシュビッツだぜ……クソッタレ)」

 

 足でロックの頭を小突き、レヴィはそのままソファにふんぞり返り煙草をふかした。ヤニの匂いで責めて紛れさせようとしているんだろうか

 

 

 

「……ロック、レヴィの言い分は確かだよ。確かに、ちょっと匂うね」

 

「だな、マジで止めとけって俺の忠告を破ったのはどこの営業マンだったか?」

 

「よしてくれダッチ。それに、あんただって濃いめだのと、血管の寿命を心配した方がいいんじゃないか?」

 

「は、吹かすなロック……俺たちは英語を話す人間だぜ。アメリカの悪い病気が抜けきらねえんだ。ジャンクフードはメイドの土産にもってな」

 

 

 

 

「…………だぁあああッ、クソッタレッ!!?!

 

 

 

 

 あ、キレた。そう誰かが言った

 

 

 

 

「んだよ、三人だけで勝手に話進めやがってッ」

 

 

 

 切れるレヴィ、男三人でのけ者にする罪故の結果、三人は目配せをして、そして同時に頷く。

 

 

 

「……レヴィ、すまない。省いたわけじゃなくて、出来れば薦めるべきじゃないと思っていたんだ。一応、レディなんだし」

 

「あ?」

 

「ケイティの新作だよ……二郎系ラーメン、俺の故郷で一番ぶっ飛んだラーメンだ」

 

 ロックは時計を見る。夕方を過ぎる時刻、間もなく黄昏を過ぎて夜は訪れる

 

「ニンニク臭で迷惑をかけたなら謝る。けど、これは仕方ない事なんだ……なんせ、俺たちは」

 

 

 

……ジロリアンだからな×3

 

 

 

「……とにかく、しばらくは許して欲しい。二郎系が食える機会なんてそうそうないんだ」

 

「は、言っている意味がとんちきだぞ……というか、さっきからそのジローって奴は何なんだ。エルヴィスみたくいかれたメニューに自分の名前でも付けたってのか」

 

「エルヴィスのサンドイッチか。ありゃ常人の食いもんじゃねえ、俺でも胃が持たれちまうよ」

 

 ダッチが呆れて言って見せる。その言いぶりは一度食したことがあるのだろう。エルヴィス・プレスリーのサンドイッチ、ジャムやベーコンを挟んだサンドイッチを揚げてシュガーをまぶしたジャンクフード。エルヴィスの不審な死の原因はともかく、いずれ短い命であったことは明らかである

 

 

「たくよ、エルヴィスでもジローでもなんでもいいけどよ、肝心な時に頭の血管がプッツンってなことにはなって欲しくないね。ダッチ、舵輪を握るあんたが飛んじゃアタシ達も飛んじまう。帰国予定の無い永遠のバカンスなんざごめんだ」

 

「レヴィ、心配しているのかい」

 

「ロック、煙草のキスマークが欲しいならそう言え。じゃねえなら黙ってろ」

 

 素直じゃない。そう三人は思うが口を噤む。

 

「……もう、7時か。ディナーには良い時間だと思う」

 

 そう切り出したのはベニー。その手には車のキーを弄ぶようにくるくると

 

「レヴィ、せっかくだし試してみないかい?」

 

「あ?」

 

「だな、議論していてもジローの魅力は一切伝わらねえ」

 

「安心していい、ジローは初心者にもやさしいから。麺の量もニンニクの有無も選べるんだ」

 

「ちょ、おいおい……なんで行く流れに……って、さっき頼んだピザは」

 

 さあ行くぞ、三者三様に顔色が変わる。どこか覚悟を決めた趣、空気が少しだけ鉛のように感じられた。

 

 レヴィはあっけにとられたまま、三人に遅れて動き出す。

 

 

……なんだよ、ケイティの野郎いったいどんなもん売りさばいてやがんだ?

 

 

 

 

 

 




次回、実食

感想・評価等あれば幸いです。モチベ上がって執筆が捗ります
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