麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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飯テロを目指して頑張って書いてます。読者のお腹を空かせたい


(23) 二郎系、豚ラーメン400g(並盛)

 

 

 ラグーン商会のレヴィ、彼女は生まれて初めて食べ物というものに対して畏怖を感じた。

 

 未知の文化、知らない領域、それはラーメンというにはあまりにも大きすぎた、なんてどこぞのネットミーム構文で例えてしまうほどに、それは馬鹿らしく不健康なジャンクフードであった

 

 

……ニクヤサイマシ、ニンニクマシマシ

 

 

……メンアブラカタメ

 

 

……カラカラチーズ、ナマタマゴ

 

 

「……んだよ、これ」

 

 

 

 車に乗って移動、路上に止めるのも一苦労なほどに店先は人の大群。見れば隣のローワンの店からの応援かコリンネやアーシェをはじめとした嬢たちまでも運びに駆られている。

 

 待つこと30分、そして店内に入りカウンターに座ってもなおレヴィは衝撃を受けてしまった

 

 すでに食してる客たちのどんぶり、そのボリューム量はもちろん漂う匂い

 

 

「……ケイティさん、豚ラーメンを四人分頼むよ」

 

「はい、ロックさん……って、今日はレヴィさんも一緒なんですね」

 

「……お、おぅ」

 

 厨房であくせく働いているケイティ。厨房の中にはローワンすら見られる。でかいアフロも今はバンダナの中に収納されていると思うと少し笑えた

 

 忙しさゆえか、店の名物嬢であるアーシェやコリンネの姉妹ですらエプロンとバンダナ姿でピンク営業なしのガチ飲食業に駆られている

 

……うへぇ、忙しすぎるよぉ

 

 

……グチこぼす暇あるなら皿洗え!

 

 

……ちくしょう、店を閑古鳥にしやがって。ケイティてめえよぉ

 

 忙しさに明け暮れる店内、話しかける余裕もないほどに必死なワーキング。だが文句はたれていても手はとまらない。大量のニンニクを刻む音、洗い物に洗い物に、そして洗い物、とまたニンニク

 

 いつもなら仕込み十分で目の前でこうも忙しく包丁やらなんやらとせわしくしていることはない。どうみても、忙しさでキャパシティがオーバーしているのだ

 

 

「おい、ニンニク追加だ!」

 

 

 客が叫ぶ。そしてコリンネが厨房を出てすぐ、レヴィから見て右斜め後ろの逆に  

 

「!」

 

……アブレーゴ、あんたまでもかッ!?

 

 思わず叫びそうになるがこらえた。この地におけるマニサレラカルテルの頭、それが大量のニンニクと脂に埋もれた山盛りのモヤシをかっくらい、ついでにと酒までのんでなんとも愉快だ

 

「普通、酒のアテにはしないけど……あの人はここのファンで守り手の一人だ。だから許される。麺少なめニクヤサイマシのビールセット、最近腹が出てきたって店の外で愚痴ってたよ」

 

「フン、ロットを乱しやがって」

 

「これだから素人は困るよね」

 

「お、おう?……なんだよ、どんだけジャンキーがいんだよ」

 

 いったいぜんたいなにがどうしてこうなったやら、理解が追い付かないゆえに悲観的に振る舞うレヴィ

 

 だが、それも無理のないことだ。あのロアナプラの住人が丼をはみ出さんばかりの大盛りラーメンを貪っているのだから。それも注文や追加の最低限の言葉は除いてそれ以外の会話は一切無く、皆が皆鬼気迫る表情で食に没頭しているのは、この町ではまずまず見られない光景である。

 

 彼らのような人種にそんな顔をさせる行為と言えばオーバードーズ寸前のドラッグハイぐらいだ。つまり、この品はそれほどまでに過激な何かということだ。

 

 故に、レヴィは言葉を飲み込んだ。これ以上疑問を投じても無駄だと、そして

 

 

「……ッ」

 

 喋らず、必死に夢中に麺と肉をかっ食らう状況。

 

 いつのまにか、自分もその空気に飲まれていることに気づく。レヴィは無意識に背中に力を入れてしまう

 

 そう、今から自分もこの場にいるジャンキー達と同じ場所に行こうとするのだから

 

 

「ご注文は?」

 

「は? さっき頼んで」

 

 

 

「大盛、ニクヤサイマシ、ニンニクマシマシ」

「大盛、辛め、あと脂を別皿で頼むよ」

「俺もロックと同じ、マシとマシマシだ。それと、生卵もつけてくれ。もちろん、日本産のだ」

 

「…………は?」

 

 

 早口で矢継ぎ早に告げられた呪文詠唱。三人の言った言葉に疑問を投じる暇も無い。まるで一流のコメンテーターのようにスラスラと不可思議な言葉を吐いてみせたのだ。

 

 

……マシマシ?……ていうか脂別ってなんだ?……てかダッチ生の卵とか正気か!?

 

  

「ご注文を承りました。レヴィさんは?」

 

 

「……ま、まかせる」

 

 

「まかせる、それじゃあ変更は無しで……普通の並盛でいいですね」

 

 

「あぁ、できればそうしてくれ」

 

 

~10分後~

 

 

「おまちどう、ごゆっくりどう「ケイティッ!!」……ぁ、なんですか急に怒鳴って」

 

 

 待ったをかけるレヴィの声、拳でカウンターを叩き荒々しくもの申したもうた。

 

ふつふつと血管を沸かせるレヴィの視界に映るのは、漂う香りは

 

 

……んだよこれ、なんだこのバカみてえな飯は!?

 

 

 

 並盛り、確かにケイティはそう口にした。しかし、この店での並盛りは通常のそれとはズレている

  

 普通の並、とはおおよそ100gからなるのに、ここではそれが400gである。故に丼も相応のサイズだ

 

 しかも、その上には山のように盛られたモヤシとキャベツ、そして肉。

 豪快にぶつ切りにされたバーベキュー肉のようなサイズが見えるだけで7塊。そう、単位は塊である

 

 仕上げに、漂う香りの爆心地ともいえる刻みニンニクが山の中でさらに山を築き、背脂の欠片がマグマのように傾斜を垂れる

 

 ニンニク、肉、脂、醤油、肉、ニンニク、脂、ニンニク、ニンニク

 

 

「!」

 

 

 思わず鼻を摘まんでしまった。未体験の領域、ジャンクフードに慣れているとはいえ、本格的な日本のラーメンに慣れているとはいえ

 

 

 

「にんにく、嫌いでした?」

 

 

「……いや、大丈夫だ。なんでも、ねえ」

 

 たじろぎ、懸命に痩せ我慢。想像を越える品を前にしたレヴィに余裕など無いのである

 

「冷めるぞ、温かいうちに食っちまおう」

 

 

「いや、食うっていうけどよ……ッ!?」

 

 

 箸を持ち、あと一歩が踏み出せないレヴィ。そんな彼女を置いて三人は各々のペースで食を開始する。

 

 慣れた手つきで天地ガエシ、レヴィの器よりも頭一つ分背が大きい彼らのドンブリは今にも中身が溢れ出しそうだ。しかし、そんな多量のドンブリに皆は億面とせず箸を突っ込み具とスープを合流させる。油、スープ、ニンニクが混ざる特濃な味をひとすくい。

 噛みしめて味わい、そして怒涛の勢いで食を加速させる。

 

 

「……ッ」

 

 レヴィは見ている。自分よりも量も味も趣向も濃いラーメンをかッ食らう姿は鬼気迫る者、言葉はいらない、ただ一心不乱に食い続けるだけが正解。

 

 もやしを肉を麺を咀嚼し、あまり噛まず飲み込んでスープを流し込む。脂でギトギトの麺へ更に別に取った脂へディップ、それをすすって恍惚な笑みを浮かべる。

 

 異なる食文化である生の卵にも一切怖気つかず、まろやかでねっとりとしたコクにこれまた舌をうつ。

 

 

……ゴク

 

 

「!」 

 

 気づけば、彼らの姿にレヴィは一種の共感を抱いた。そう自覚した

 

 漂うにんにくの臭気は否応にも空腹を刺激する。普段ではそこまでの量を食べることはないラーメンのチャーシュー、トロトロで食いごたえもある肉塊を頬張りスープを流し込む。歪で太い麺は歯を跳ね返すほどに弾力に富んで、濃厚なスープに負けず食の満足感を満たすだろう。

 

 

 止まった手は動き出す。

 

 

「——……ァ」

 

 天地ガエシ、たっぷりとスープ、脂、ニンニクを絡めて、口に運びすすり上げる

 

 脳天を突く香り、舌に響く爆撃のごとき衝撃、咀嚼し口中調味を経て胃の奥へと流し込む

 

 満足感、満たされる心地

 

 

「!!?!?」

 

 

 その瞬間、レヴィの中で何かが変わった。

 

 箸は止まらず、鬼気迫る表情で肉と野菜と麺に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 ~数日後~

 

 

 ダン、ダン、ダン

 

 静かなラグーンの事務所の中で、うっとうしい足踏みの音が続く。

 

「くそ、くそッ あぁ、んだよざけんじゃねえっての!」

 

 ソファーを陣取りふんぞり返って、レヴィは苛立ちを隠しきれないご様子である。青筋を立てて、目もどこか正気ではない血走り具合、皆視線を背ける。

 ストレスフルな狂犬に手を差し伸ばして、わざわざ噛まれる轍は誰もおかしたがらない。

 

 とはいえ、その原因には自分達の趣味に巻き込んでしまったことも起因している辺り、本当に文句は言えない。

 

 そう、レヴィはハマってしまった。特濃トンコツ醤油スープとがっつりもやしに豚、ニンニクと脂のインパクトに舌を支配された。それはもう、はじめてドラッグをキメたティーンのごとく我を忘れるほどに熱中した。

 

 さんざん注意していたニンニク臭を己が放つようになって、親しいか腐れ縁かよく会う知人のエダにひどい言われようであやうく銃撃戦になりかけたりと

 

 二郎を食しながら雑談にふける輩にブリッツぶちこんで中指を立てたり、それはもう立派に染まっていた

 

 二郎を愛し、二郎を信望する敬虔な信徒の出来上がり。

 

 レヴィはジロリアンとなった。いや、堕ちたのだ

 

 連日通い続けるロアナプラ亭、マシマシの呪文も躊躇いなく唱えるほど立派に染まった

 

 そんな、そんな矢先のこと

 

 

 

 

『臨時休業』

 

 

 

 の、張り紙が店の扉を閉じていた

 

 

 

……好評なあまり、材料不足はもちろん重労働で腰をやってしまいました。しばらく休みます、ごめんなさいbyケイティ

 

 

 

 

「サノヴァヴィッチ!! アッスホール!! マザーファック!!」

 

 

「……レヴィ、頼むよ落ち着いてくれ」

 

 レヴィは怒った、ジャンキーで暴力的な愛する二郎を失った悲しみでひどく激昂、それはもう手のつけられないクソガキか野生の肉食獣がごとく怒り狂って、もはや鎮静剤を頼みたいほどであると三人は思った。

 

「だあぁ、クソ!」

 

 地団駄、喫煙、酒、放っといておいたらそこらの露天でマリファナかヘロインでも買いだしかねない。

 

 さすがにこれ以上は見てられないと、三人はアイコンタクトで意見をまとめる

 

 

 

……ダッチ、この際なんでもいい。荒事、銃をぶっぱなせる仕事を引き受けてくれ。ホルスターのカトラスが何時こっちに向けられるかって、怖くて死にそうだ

 

 

……了解だ。今回ばかりはホイットマンにでもなってもらわねえとヒスが治まりそうにねえ。ベニー、なにかご機嫌な仕事は入ってねえか

 

 

……了解、直近でマニサレラカルテルの仕事が入っていたから、難しいけど当たってみる

 

 

 

 

 

 うなずく三人、そしてすぐにも行動を始める

 

 だが、悲しきかな。ケイティはこの臨時休業を終えても、当面二郎ラーメンを提供することは無いのである。

 

 その事を知り、またレヴィがヒステリックで爆発してしまうのだが

 

 

……ケイティ、頼むから早く二郎を!×3

 

 

~某所~

 

 

……ケイティ、もう町をパニックにするラーメンは作っちゃだめよ

 

 

 

 祈りはむなしくも届かず。作り手は怠惰に、彼らの心配を知ることもなく柔らかい枕で安眠にふけっているのだから

 

 届かない、届かないのである

 

 

……はい、わかりましたよぉ(はあぁ、ふともも枕気持ちいいなぁ)

 

 

 




今回はここまで、読了おつかれさまでした。感想、評価等あれば幸いです。モチベあがって執筆がはかどります。

次回、こってりラーメンのあとはデザート、ケイティとバラライカ、もしくはエダの幕間劇でも書こうかしら

気長にお待ちください
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