麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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久しく投稿、ロベルタ編に入る前にまずはいつものデザート

バラライカのあまあまが書きたくて仕方ない病があるのです。


追伸、サブタイ変更と内容の訂正しました。


(34) 幕間:隙あればお仕置き

 

 危機的な状況、それはいつだって前触れもなく訪れるもの

 

 例えば交通事故、自分が気を付けていても運転するものがスクールカーストのティーンだったり重度のヘロイン漬けアーティストだったりすれば、こちらの注意も関係なく鉄とタイヤで粉微塵にされてしまう。

 

 本当に、危機というものは厄介だ。むしろ、人は生きている限り危機というものと寄り添って生きていかないといけない生き物かもしれない。なるほど、そう思えば保険会社はウハウハだ

 危機に遭いたくないのは皆同じ、だから搾取される形でも契約を交わして保険なり警備なり、例えばメンテナンス業者にも金を払い続ける、すごく大事なことだ。その点では、堅気もマフィアも違いはない。皆、安全は身銭を切ってでも欲しいものなのだ

 

 でも、ここまで言っておいてなんだけど、はたして危機というものはお金を用いても絶対に安心といえるだろうか

 

 そう、危機から救う神のご加護でもないかぎり、それはあり得ないのだ。保険会社にかかっていても事故は起こる。身の不幸は避けられない。

 

 事故そのものをなくそうと、そういった業者等にお金を渡しても、あくまで確率が減るだけ。結局のところ、危機は前触れなく現れてしまうもの、神様に直談判でもしない限りそれは取り消せないものだと割り切らなければいけないのだろう

 

 

 唐突になんだその話は、そう思われても仕方ない。けど、実際そんなことを思ってでもいないと退屈で死にそうなのだ

 そう思ってしまうのも、なぜなら今ぼくは

 

 

 

「困ったわね」

 

「……ええ」

 

 

 

 絶賛、前触れもなく訪れた危機さんと出会ってかれこれ一時間。連絡はまだとれない

 

 ここは、バラライカさんの組織が持つ高級ホテルの特別エレベータ。一般の客は乗れない、最上階のスウィート御用達の直通エレベータだ

 

 荘厳な見た目、絨毯の張られた床に手すりに、赤と黄金色でとにかくリッチなワンルーム。居心地は悪くないかも

 

 ただ、出入りが不可という状況を取り除ければ

 

 

……うん、でも思ったとおりかな

 

 

 本当の危機は、一切の前触れもなく訪れる。大事なのは、どうやってこの危機から乗り切るかなんだ。さあ

 

 

 

「……どうしましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バラライカさんと会う予定、それは急に決まった。エダさんと昔を懐かしんでお昼寝をした次の日、なぜかバラライカさんから店に電話がかかり、そして会えないかと話をかけられた。声色は落ち着いていたけど、なんだか少し不機嫌であった。いったいなぜ

 

 そう思いつつ日は流れ、今日僕は店を早めに閉じてすぐ迎えの車に乗りバラライカさんのいるホテルへと向かった。

 ついた場所は、新しく建てられたロアナプラの高級ホテル。どうも、そこのスウィートルームである最上階のフロアに私邸を移したらしく、まあそこのちょっとしたお披露目なのかなと思いながら面と面を合わせた

 

 晩遅く、こんばんはを言ってバラライカさんの顔をうかがう。おっかなくて、でもかっこいい、美人なお顔は僕を見て笑顔になった。でも、なんだか嫌な予感がした。舌なめずりを一瞬したようなしてないような

 

……ケイティ、今日は泊っていきなさい

 

……泊り、いいですけどどうして

 

……強制じゃないわ。これは提案、だって帰れるかわからないもの?

 

……え、まさかまたお仕置き、ぼくなにかしました?

 

…………はぁ、ケイティあなた本当に鈍いのね

 

……??

 

 

 お楽しみ気分が一転不安、しかしもう長い付き合いだからそこまでひどいことはされまい、ちょっとからかっているだけかも、そう思考を切り替えて僕はバラライカさんの後に続く

 横を歩いて、そしてエレベーターに乗った。そこで、トラブルは起こった

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 

「……退屈ね」

 

「不安です」

 

 

 エレベータの中、いくら豪華な作りとはいえ5m四方の面積にずっと閉じこめられていては気も滅入る

 

 今いる階はちょうど最上階に届く手前、そんなところでストップし、しかも緊急連絡ボタンも動かない。携帯の類はジャケットと一緒に部屋の中に、思わず起こってしまったクローズドの脱出ゲームである

 

 これが何らかのドッキリでバラライカさんが示し合わせてやっていたとかならどれだけよかったか

 

 けど、どうも本当にそうではないのだ。止まってすぐ、緊急ボタンを押して、そしてつながらないうえに連絡手段もないと知るや、バラライカさんは強く壁を蹴った。鉄なのに、ちょっとへこんでいる。

 

 そうこうして、自然に誰かが気付くのを待たないといけない状況で、僕らは一時間ここにいる。どうやって脱出したものか、連絡を取る方法は、緊急ボタンは直らないか

 

 最初のうちはそれらを模索して、そしてできることがないと知れたら自然に気付くのを待つしかないから暇をつぶそうと、しかし時は経てど何も起こらずしゃべるのも疲れて、だんだん呆然としている内に腕時計の単針は一周目をむかえてしまったのだ

 

 そうして、今に至って、少し疲れてきた。効きすぎる空調で肌冷えもする

 

 温まりたい。お風呂にでも入りたい

 

 

 

「……あの」

 

「?」

 

「エレベータの上から脱出するのって、よく映画でありますよね」

 

「……そうね」

 

「じゃあ」

 

「フィクションと違って、そういう扉はボルトでガチガチに止められているのよ。工具や専門の道具もなしにできることじゃないの。おわかり?」

 

「……」

 

 浅知恵が一蹴された。ちょっとへこんだ、お風呂は当分お預けのままだ

 

 しかし、繰り返すけどもう一時間もこのままだ、僕も気が滅入るし、さすがのバラライカさんも気が立っているのかもしれない。

 

 きっと、今はこのエレベーターを作った業者やメンテナンスをする業者、とにもかくにも責任者と思しい人間への制裁で頭がいっぱいか、苛立ちは静かに、そして南極よりもはるかに冷たく恐ろしく蓄積されている。この人の怒りはそういうものだ

 

 マフィアの冷徹な怒り、最近そういう話が多いなぁなんて思ってしまった。うん、やめよう。あの仕出し業者の一軒でしばらく肉が食べれなくなったのだから。また思い出して肉を調理したくなくなるなんて大問題である

 

 

 

「……ごめんなさいね」

 

「!」

 

「ふふ、少し気が立ってたみたい……謝るわ、ごめんなさい」

 

「……いや、そんな気にして」

 

「いいの、私あなたのことは甘やかすって決めてるから。だから、嫌な思いはさせたくないの……ほら、立ってないであなたも腰掛けなさいな。疲れちゃうわ、足もむくむし」

 

「……っ」

 

 

 態度が軟化して、落ち着きを見せたバラライカさん。ヒールを脱いで、そのまま絨毯の床に坐した。

 

 そして、手をまねき、自分の横に来るようにと

 

 

「横に来なさい。何もすることはないのだから、楽にしましょう」

 

「……ぁ」

 

「ごめんなさいね、私が座らないものだから気を使ったのね。忘れてたわ、あなたがヤポンスキーだってこと……ほんと、いい子なのねあなた」

 

 優しく、そう僕に言いかける。実際そうで、でも誉め言葉を織り交ぜられると面はゆい

 

「ケイティ、一緒に座りましょう。ほら、立っていたらクーラーもつらいでしょうに」

 

「気づいていたんですね」

 

「ええ、だから横に来なさい……少しは、暖かいはずよ」

 

「……」

 

 

……スッ

 

 

 

「いい子ね、素直で偉いわ」

 

「……ッ」

 

 なんでもないことで褒められる、うれしいようででもやっぱり恥ずかしい、そんな甘い言葉を受けながら僕はバラライカさんのそばに坐した。

 

 ちんまりと、壁に背をつけて足を抱いて座る。あまり意識しないようにしていたけど、この状況どうもよくない

 

 明るい場所で、二人狭い中、バラライカさんと二人きりだ

 

 

……緊張、するなぁ

 

 

 いくらかわいがられ、僕自身甘える気持ちにあらがえない関係、だとしても

 

 やっぱり、照れるものは照れる

 

 

「不安かしら?」

 

「……あまり、考えないようにしています」

 

「そう、頑張り屋さんね。えらいわ、えらいえらい」

 

「……ん、ぅ」

 

 撫でられた。撫でる手で、そのまま体を寄せてくる。肩に預けた頭、呼吸の音が耳をくすぐる

 

「ふふ、もうスイッチが入ったのね……甘えん坊さん、そういうところは好きよ。かわいいし、それとかわいい……本当にかわいい子ね、ケイティは」

 

「……あの、あまりそういうこと」

 

「いい子ね……ほら、力を抜きなさい。もう少し、私にもたれて、膝枕でもしてあげましょうか?」

 

「あの、あの……その、ちょっと早くないですか……いつもは、こういうこと、その、ベッドの上で一緒に、おやすみなさいもまだ言ってません」

 

 展開の速さに困惑する。さっきまで、どう助けを呼ぶものかできることはないかと模索していたはずが

 

 なんだか、完全に趣旨が変わってしまった

 

「仕方ないじゃない……はぁ、することもないし暇なのよ。それに、上書きも必要でしょ」

 

「上書きって、なに?」

 

「わからないならそれでいいわ」

 

「えぇ……なに、なに?」

 

 意図が分からず、何を怒っているのか困惑するうちに、バラライカさんの手が僕の頭をつかんで

 

「……むぐっ!?」

 

「あらら、お痛をしちゃってまあ……いけない子ね、ケイティ」

 

「!!??」

 

 それは言った誰のせいか、そう僕はあなたの右手に言いたい。

 

 隣り合って座っていたはずが、今はバラライカさんの両腕両足に絡みとられて、そして身動きができない姿になってしまった

 

 出来損ないの四つん這いで、真正面から胸に顔を埋められて息が詰まる、そんな体制 

 

「ちゃんと匂いを覚えさせてあげる」

 

「……ん、んン~~ッ」

 

 

 押し付けられる質量、鼻腔を伝うはドキドキする香り。甘い花の匂いにビターな葉巻のにおい、バラライカさんの匂い、大人の女性の匂い

 

 

「あ、あの……むぐ、ここから出る方法とか、そういうのは」

 

「別にいいわ、そのうちだれか気づくでしょうし……それよりも」

 

 声色が変わる

 

 押し付けられた顔が浮上して、息を吸いなおしてそして、僕は顔を見た。笑っているけど、でもやっぱり怒っている顔

 

 どうして、なんで、そう思うも迫るそれは容赦なく

 

 

「閉じ込められたエレベーター、ある意味都合はいいわね」

 

「ひっ!」

 

「逃げ場、無いわねケイティ」

 

「……ッ(ブルブルブルブル)」

 

「……別に、あの男との絡み以外はいいのよ。あなた、本当に皆から愛されているもの。お世話になった嬢達でも、修道服のアメリカ人でも、ね」

 

「え、えぇ……別に、ぼくなにも、むぐ、ん、んンッ!!!??」

 

 

…………クチュ……チュ、ポンッ

 

 

「……ぁ、はあぁ……んっく、っぁ……でも、ごめんなさいね。私、自分が思っているよりもわがままかもしれないの。匂い、芯まで染みついた匂いはどうしても許せない。そう、冷えたブリヌイやKGB上がりのクズ幹部と同じぐらい、それは耐え難く、許せない」

 

「ひゃ、ひゃめ……いや、へんなのきちゃう……やぁ、ごめんなしゃ……んん、ンンン」

 

 

 

 

……だ、誰か助けて

 

 

 

 

 

 願いはむなしく、いつものごとくケイティのお仕置きは執行されてしまった。

 

 

 状況から考えて、脱出の方法を模索するべきではあるが、どうにもしばらくは二人の時間が優先されるのであった。是非もなし

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 

 

 




以上、バラライカとの幕間、その前編でした。

今更だけどキスシーンがセーフかどうか不安、でも書きたいから仕方なし。バラライカの甘やかしやイチャイチャがないと死んでしまう人類も存在するので(自分)。致し方なし

感想等頂けると幸い、モチベ上がって執筆がはかどります。次回の投稿は明日か明後日には



【リクエストボックス】


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=286460&uid=255636

置いてみました。良ければ暇つぶしにどうぞ
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