麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

36 / 77
まずは謝罪を二点

投稿遅れて申し訳ない、予定日言ってしまったのに時間がかかってしまった。

幕間劇、本来は脱出トリックといちゃらぶなほのぼのを混ぜた話にするつもりが脱出要素が難しくなったので放り捨てました。密室で普通にいつものあまあまバラライカする話に変更です。

修正点は前話のサブタイと、文末で乗せた意味深な擬音の消去です。読み返すほどでもないと思うのでこのまま読み進めても構わないはず



以上説明終わり、構わない方はこのまま読み進めてどうぞ




背中掻いてくれるのって、いいよね




(35) 幕間:密室と甘々

 

 

 

 

 

「……ひぐ、ぐすん」

 

 

 

 すすり泣く声、ケイティは部屋の隅で顔を真っ赤に蹲る。一方で、バラライカはいつものごとく、その肌艶が妙なほどにてっかてかで、生気的なエネルギーを吸い干して機嫌も解消されている様子

 

 閉じ込められて二時間に迫る中、ようやく冷静にバラライカは状況を始めた。

 

 危機的状況で何を有徴にしているのだとか、そう思われてしまう今回の彼女の行動、しかしバラライカもまた人であればこそ、たまには欲に突き動かされたりもする

 

 

……閉じられた場所で二人きり、悪くないわね

 

 

 

「今何か変なこと思って……」

 

「さあ、そんなことよりも脱出方法を探しましょうか。お互い座って休んだことだし、んッ……でも汗かいちゃったわ。早くシャワーを浴びたいものね」

 

「……」

 

 スルーされて少しすねる、ぷいっとそっぽを向くケイティにバラライカは楽し気に迫る

 

「あら、機嫌を損ねちゃったのね……そうね、こんな所じゃ退屈よね」

 

「……別に、なにも」

 

「わかるわ、どうせなら……ちゃんとベッドの上、が良かったのね。ケイティ、お耳が真っ赤になってるわよ」

 

「…………いじわるぅ」

 

 

 いじらしいバラライカさんのおもちゃにされる。ある意味、こんな時にでも平常運転である。

 

 キスの味、直前に召していたのはイチゴのジャムと紅茶の風味、バラライカさんのキスの味は甘酸っぱくて、少しほろ苦い

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 時計を見る、といってもバラライカさんのつけている腕時計だ。短針も長針も綺麗にぴったりと真上に向いている。一日が経ってしまったのだ

 

 

 

「……ふぅ、それにしてもまだ気づかないのかしら」

 

「いっそ、叫んでみます?」

 

「試してみれば」

 

「じゃぁ……ん、ゴホン」

 

 

 深く息を吸って、僕は大きく金切り声のような声をあげた。見知らぬおじさんにお尻を触られたことがあったから、その時を思い出して耳に届きやすい甲高い悲鳴を上げてみた

 

 二度三度、枯れる声で叫んで

 

 

「キャーーーーッ!!!……ぁ、アァアアアアアッ!!?!?……けほ、ごほ、ああぁ、んっ……あれ、全然効果ない?」

 

 

「随分可愛らしい悲鳴だこと。でもそうね、防音の工事だけはしっかりしているみたいだわ……ケイティ、ご苦労様」

 

「……水、飲みたい。ちょっとでいいから」

 

「飲み物は無いわ。残念、でもあったとしておすすめはしないわね」

 

「?」

 

「わからないかしら、ここには駆け込めるトイレは無いわよ」

 

「……非常用の、その」

 

「簡易トイレ、そこの開きにあるけど……あなた、それ使いたいかしら? 私は気にしないけど」

 

 指さす先、注意書きのシールが張られた部分を開けてみれば中には確かに簡易トイレらしき詰め合わせ、あとは消化器だったり救命道具だったり

 

 

「頼りたくはないでしょ。まあ、本当にダメなときは構わず使いなさい……ケイティ、なにをしているのかしら」

 

「……脱出に使えるモノ、ないか」

 

「そう……で、脱出に使えるものはあるかしら?」

 

「……僕には思いつきません」

 

 フィクションの主人公、天才エージェント的なダンディだったら即興で出る方法を思いつくのだろうが、残念ながらここにそんな機転の利く人間はいない。都合よく、フィクションのようにうまくいく展開なんてのは無いと知った

 

 時刻は既に日にちを過ぎた。こうなってしまえば、もうだれかが偶然見つけてくれるなんてない。そもそも、ここはVIPが使える専用エレベーター、普通のホテル客はもちろんこのホテルに在中する構成員の方々も無暗に利用はしない

 

 というか、きっとみんなバラライカさんに気を使って僕と二人きりにしてくれているのだろうか

 

 

 

 

「救出は先延ばし、朝まで先延ばしよ」

 

 

 

「……」

 

 溜息が出た。動き回るのも疲れて、僕はとぼとぼとバラライカさんの隣に座る。

 

 肩に頭を置いた。そしたら優しく撫でてくれた。前髪を掻き分けて、おでこをくしくしとくすぐるように

 

 

「……ゃ、ちゃんとして、ください」

 

 

「あら、ご不満かしら」

 

 

「くすぐったいのは、苦手です」

 

 

「なら、かいてあげましょうか……ほら、足を延ばしてあげたからここにごろんなさいな」

 

 

「……」

 

 

 足の上、底に僕はうつ伏せでしだれかかる。魅力的な提案、断る道理はない

 

 飼い猫が膝の上で丸くなるように、そんな態勢を自然と僕は取った。そうしたら、バラライカさんの手は僕の背中を撫でた。

 

 

「……ペットみたいね、軽くて可愛いわ」

 

「ん……人間、です」

 

「あら、人間でもペットはいるものよ。たっぷり愛情をこめて背中をかいてあげるわ……だから甘えなさい、私の可愛いペット……くすす、ひどい女ね……私は」

 

「……ぅ」

 

 体の力が抜けてしまう。

 

 ひどい女、そんな言葉は到底呑み込めない。

 

 

……やさしい、暖かい、きもちがいい

 

 

 気づけば、体は溶けて感覚も曖昧。うつ伏せで太ももに頬をあてがって、そして背中をこしこしと指で掻いてもらっているこの態勢、背中のツボが刺激されるのは気持ちがいい

 

 体が痒いわけじゃないんのに、刺激で血が巡るせいか掻いて欲しい願望が溢れる。

 

 

……くし、シュリ、シュリリ

 

 

「……ん、ふぁぅ」

 

 

「ここね、ここがいいのね……細かく掻いてあげるわ、手の届きにくい所は気持ちいのね……あら、欠伸までしちゃって、無防備でいけない子」

 

「……無防備、です。かまいま、せん」

 

「ふふ、警戒しないのね……本当になついちゃって」

 

「……誰が、こんなにしたと思って」

 

「こんなに人の母性を訴えてきたのは、いったい誰なのかしらね?」

 

「…………腰、少し強く」

 

「はい、了解しました……素直でいい子ね」

 

「……」

 

 

 無言、返す言葉を出しても結局赤面するだけ。敵わないから、そのまま力を抜く

 

 さっきの苛烈なお仕置きから違って、今はただ暖かく緩やかな時間が過ぎていくだけ。出られない不安、そんな状態で夜を明かすことの億劫さ

 

 今は、そんなことを忘れて

 

 

 

……しゅる、スシュシュ……クシュ、グシグシ

 

 

 

「……はあぁ、うぅん……んっ」

 

 

 声が出てしまう。気持ち良くて、安心して、掻いて欲しい箇所へと背中をよじらせてバラライカさんの手に訴えかける

 

 肩甲骨、へこみの側面、小刻みにかかれるのが気持ちいい。すこししたら、全体がむずむずとふるえてくるから大きく上から下へ往復して掻いて欲しい

 

 伝える言葉は喉元まで来ている。でも、そんなことをしなくても先回りしてバラライカさんはやってくれた

 

 

「……ここ、気持ちいかしら」

 

「はい、すごく」

 

 脇腹手前、背中の継ぎ目、上下に動く爪と指先の感触がいい。移動する痒みを追って、立てた五指が肩甲骨に上って、今度は右肩のうしろあたり、稼働する付け根の所を重点的に

 

 

「ぁ……んぅ、そこいい……そこ、もっとして、くださ……はあぁ、バラライカさん」

 

「ふふ、なにかしら」

 

「……あたま、なでてほしいです」

 

「欲張り屋さんね、でもいいわ」

 

「……やった、んっ……はふぅ、ンッ」

 

 

 右手、左手が背中を掻いてくれて、右手が頭を撫でてくれる

 

 我ながら、なんと情けない態勢とは思う。でも、それでも心地よさには抗えない 

 

「まったく、私は貴方の女中じゃないわよ……くす、くすす」

 

「女中だなんて、そんなおっかないことをおもって……ぁ、もう少し上……そこ、そこが、あぁ、ほあぁ……ばららいかしゃん、きもちいれふ」

 

「くす、グルーミングも手慣れてしまったわ。はぁ、することも話すこともない、救助も来ない、このまま夜を明かしそうね……ケイティ、おねむならこのまま寝てしまってもいいわ」

 

「……うぅ、でもそれはさすがに」

 

「いいのよ、こういう時は大人を頼りなさい。万一があっても、私があなたを助けてあげるわ」

 

「……助ける、ですか?」

 

「ええ、信用ないかしら?」

 

「そんなこと、ないです……でも、ぼくばっかり助けられて、甘やかされて」

 

 その上、背中を掻いてもらって

 

「……いいことずくめで、贅沢ですね僕」

 

「いいのよ、私がしたくて施しているのだから……それより、そろそろ横になりましょうか」

 

「……横に?」

 

「ええ、枕は私の服でいいかしら。くっついて寝れば、何も問題は無いはずよ」

 

「……」

 

「少し離れなさい。用意をするわ」

 

「……はい」

 

 

 名残惜しい感覚、起きた僕は少し座ぐりながら離れて、そしてバラライカさんは傍に脱いでおいていたワインレッドのスーツを畳、そして

 

 

 

「……へ」

 

 

 

……ふぁさ

 

 

 

 

「!」 

 

 

 

 おもむろに、その来ていたワイシャツまでも脱ぎ捨ててしまった。

 

 ルージュカラーのレースブラ、扇情的で一部透過する布地が乳房の肌を露出している、そんな扇情的な大人の下着姿

 

 

「え、なに……なにして」

 

 

 顔を隠して僕は問う。指の隙間から、少しだけ覗く顔、バラライカさんは特に驚く顔もあきれる顔もなく、ただ平然と

 

 

「別に、構わないでしょ……バスローブもランジェリー姿も同じ、あなたの好きな私の姿よ」

 

「それは、でもいきなり……そんな姿」

 

「ふふ、いつまでたっても初々しいわね。でもねケイティ、空調の冷房はもう切れるわ……ほら、もうすぐにも」

 

 そう言うや、バラライカさんの予言通りともいうべきか

 

 

 

……ぶつん

 

 

 

「!?」

 

 

 

 切れた、そして同時に照明も落ちた

 

 換気の音だけがわずかに響く、光の無い空間で僕は恐れから肩を抱いて震えた

 

 けど、すぐに

 

 

 

「……ッ」

 

 

「ごめんなさいね、先に言っておくべきだったわね」

 

「?」

 

「消灯時間よ。個室以外は当然電気を落とすわ……ま、幸い空調の換気システムだけは止まってないみたいね」

 

「……暗い」

 

「そうね、だからこうして抱いてあげてるのよ。あなた、そうしないと落ち着かないものね」

 

「……こと、べつに」

 

 無い、とは言い切れない

 

 でも、こうして抱きしめられて眠ることの良さを知って、どうして抗えるか。むしろ聞きたいぐらいだ

 

 

 

「横になりましょうか」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 引き込まれる力、委ねてそのままに、体を柔らかい絨毯の床に倒す。

 

 

「……ぁ」

 

 

 そして、顔の近くには少しだけ硬い質感。だけど、その隔ての先にある柔らかさが顔を包み込む。鼻先をつまんだ谷間から、暖かい人の温もり吸い込んだ

 

 

 

「これでいつものね……添い寝、お嫌いかしら?」

 

 

「……うぅ」

 

 

 嫌いなはずがない。安心感が、とっても心地いい

 

 おまけに、後ろに回った手が背中を優しく掻いてくれている。強すぎず、弱すぎず、慣れる手の延長で気持ちいい刺激が体に染み入る

 

「……やっぱり、贅沢ものです、ぼく」

 

「いいのよ、私だってあなたを可愛がる時間を楽しんでいるよ。それでもイーブンじゃないというのかしら?」

 

「……返さないと、イーブンじゃな……ぁ、くぁ、そこ、肩甲骨の所……ひゃ、だめ……いき、でちゃう」

 

「いいのよ、胸を預けたのだから好きに息を吐きなさい。息を吸って、吐いて……貴方の好きな場所で呼吸を楽しみなさいな」

 

「うぅ……だめになる、ダメ人間に、な…………ひゃぅ、んん」

 

「あなた本当に溶けやすいわね。イーブン? 気にしないでいいのよ。したくてしているのだから…………だから、もう少し胸に顔を、そういい子ね」

 

「……うぅ」

 

「抗えないのは変わらずね……あなたの故郷では遠慮は美徳かもだけど、ここはロアナプラなのだから気にしなくていいの」

 

 

 

 低く、そして甘くてビターな声、顔で感じる柔らかさと良い匂い、背中の心地よさ、手の平に感じるお腹の温もり、冷房が切れて温くなる部屋でどうしてこうも密着して、でも逃れられない心地よさに僕は負けてしまった

 

 

「……ッ」

 

 

 イケない匂いをいっぱい肺に取り入れて、ニコチンを得たように脳はとろけて思考は粘つく。どろっと形が無くなって、そのまま重力に引かれ落ちていく

 

 柔らかくも、弾力もあってちょうどいい上質な枕、そこで得られるは何処までも都合の良い甘やかし

 

 

 

……良くない、よね……僕、ばっかり

 

 

 

 真っ赤に染まる頬と耳、少し意地悪に接してくる言葉は不可避の弾丸だ。全弾で心をハチの巣にしてくる

 

 

 

 

「……背中、気持ちいかしら」

 

 

 

「はい……ふぁい…………ぁ、ぃ」

 

 

 

「いい子ね、いい子……甘え上手な子、息を吸う場所までこんな甘えん坊だなんて、本当にいい子ね」 

 

 

「…………」

 

 

「あなたにだけね、こんなことをしてしまえるのは。らしくないとは思うのよ、でも仕方ないわよね、あなたがこんなにも上手なのだから」

 

 

「……じょうず」

 

 

「えぇ、甘えるのが上手よ……こんなおばさんでも、あなたの為なら生肌も乳房も好きに差し出せる、本当にたまらないわね」

 

 

「そんな、こと……ねらって、なんて……ぁ、そこ…………そこ、つよくがいい……もっと、こまかく……ふんん、ひゃぅ」

 

 

「ほら、言った通り」

 

 

 

 溶ける声、とろんとした目、暗いせいではあるけど、でもきっと今見る能力は僕にはない

 

 溶けている。このまま、背中の心地よさに溶けながら、堕ちていきたくなる

 

 

「……く、ぁ……ん」

 

「?」

 

「だめね、私も引っ張られているわ……ケイティ、もう寝ましょうか」

 

「……」

 

「背中、まだ掻いて欲しいのね」

 

「……うん」

 

 

 頷く、すると頭を撫でて

 

 

「そうね、ええ……なら、良いことを思いついたわ」

 

 

「?」

 

 

「贅沢と言ったでしょうに、ならあなたが私に贈り物を届ければ……貴方の言う所のイーブン、になるんじゃないのかしら?」

 

 

「……送り?」

 

 

 

「なんでもいいわ、私が寝てしまわないように……貴方のこと、少しだけ話して欲しいのよ」

 

「……僕のこと?」

 

「ええ、別に昔からの付き合いに嫉妬だなんて思わないでほしいわ……でも、少し共有しておきたいのよ」

 

「…………」

 

「話せることだけでいいの。まだ、私があなたと出会う前、その話を少しだけ」

 

 おねがい、できないかと

 

 吐息が頬をかすめた。バラライカさんの声に乗って、艶やかな低音で言の葉がしみ込んできた。少し耳の奥がくすぐったくなる声に戸惑うも

 

 

……いいかな、少しなら

 

 

 ややこしい、複雑な過去を持つ自覚はある。言いたくないこともある。でも、何もかもが悪いとは言っていないし、もう時間で解決して気にならなくなったことが大半だ

 

 

 

……いいかな、いい、よね

 

 

 暗い部屋、密着しあったこの状況、以前のホテルで共に添い寝している時とはまた違う

 

 

「……少し、だけなら」

 

 

「えぇ、もちろん」

 

 

 

 心のハードルが下がる。過去の苦み混じりの思い出、でも眠気冷ましにはちょうどいい

 

 

 

「背中、ちゃんと……その」

 

 

 

「ええ、もちろんよ」

 

 

 

「……ありがとぅ、ございましゅ」

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 




バラライカに背中を掻いてもらえるサービス、需要ある?ない?甘やかしの新しい境地を開くのが私の使命です。

次回、ちょっとシリアスで締めくくり。それからロベルタ編に移行できれば、いいなぁ

10月は忙しいから9月の内に書かないと、頑張れ自分

次回は、なるべく早めにしたい気持ち、気持ち大事

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。