麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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ロックいいよね、かっこいいよね。でも初期の頃の慣れきってない感じも惜しい


(3) 郷里の味

 

 

 ラーメン、何と懐かしい響きだろうか

 

 カップヌードルや、今日俺が食べた袋めんも、この暖簾の先から漂う匂いの前では霞んでしまう。ラーメン屋で食す本当のラーメン、それはかくも魅惑的で、食欲を刺激して空腹を誘うもの

 

 だが、俺はどうしてかこの感動を素直に受け入れていない。何故か、少し距離を置いて感情を抑えてしまっている。俺は、なぜ故郷の味を素直に喜べないのか

 

 

 

 

 

 

 

 

……日本人、しかもスーツ姿、いったいなんでこの街に

 

 

 

 この街には似つかわしくないホワイトカラーとネクタイ。黒い紳士は多くあれど、そのようななよなよしい出で立ちはあらゆる意味で危なっかしい。

 

 自分も、あまり大したことは言えないけど、この人は明日生きているかどうかも確信を持てない。そんな、そんな頼りない印象を覚えてしまう。話す英語はとてもインテリジェンスで、ダッチさんやレヴィさんに怖気づかない振る舞いは、うん中々だけど

 

 

 

「……ご注文を」

 

 

 

 いけない、久しく見た同郷の人を相手にどうして比べるような思考を。

 

 今するべきことを思いだそう。簡潔に注文を伺い、慣れた手順ですぐ調理を始める。調理場には盗品か正規品かは知らないが、故郷の本当のラーメン屋が使う設備はあらかたそろっている。たっぷりと湯の入った鍋に振りザルに麺を投じて、茹で時間のタイマーを押した。壁にはいくつものタイマーが用意してあり、それで茹で加減を調整する。

 

 客が注文するのは本日のラーメン、だが麺の量と茹で加減、スープの塩味と具の追加と、することは多忙だ。麺の茹で時間を待つ間にはラーメンのスープを温め直す。別鍋から小鍋にスープを移し、温めと同時に仕上げの調理。

 

 魚介の香りがふわっと鼻腔を撫でる。風味が飛び過ぎない程度に、しかしラーメンを味わうにはちょうどいい温度までスープを加熱。魚介系だけのスープ故に、風味のバランスには気を払う

 

 変わった客の到来、しかしやることは変わらない。お客が来ればラーメンを振舞う、いつでもだれでも最高の一杯を送るだけ

 

 

……日本人、ロックさんか

 

 

 来て日が浅い、そんなお方に今日のラーメン、少し心配になる。

 

 少なくとも、僕がまだここに来て日が浅い時に、今日のラーメンだけは絶対食したりしない

 

 

 

 

 

「お待ちどう! 煮卵とチャーシュー追加!大盛二人! 東京醤油ラーメン四人前になります!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その器を受け取った俺は、一瞬自分がいる場所にノイズを感じた。見ている世界が実は仮想の世界で、本当の俺は業務用冷蔵庫ほどの巨大機械で偽りの世界を見せられていると、そんなSF世界観を本気で信じてしまいそうになった。

 知っている匂い、味、何より同郷の人から受け取るこの行為に至るまで、あの街を思い返させるには十分すぎる。

 嗅ぎなれた香り、魚介とだけ理解できたそれは紛れもなく鰹節であった。一番出汁の香りが強烈に胃を刺激する、こんな料理は世界広しと言えど日本だけ、なのに俺は今ロアナプラでそれを感じ取ってしまっている

 

 

「さぁて食うとするか。ベニー、ブラックペッパーとビネガーを取ってくれ」

 

「はいよボス……レヴィはラー油だったね」

 

「サンキュー……ケイティ、タイペイラーメンはいつやるかぐらい店前に貼っとけ」

 

「台湾ラーメンですね。レヴィさん、それは無理という奴です。仕入れが安定しないから日替わりなのに、無理言うならトンネルを掘ってくださいよ、ここから日本に直通の」

 

「は、そりゃいい……薬に武器に何でも売り飛ばせばぼろもうけだ。ジャパニーズエンはアジアの宝ってな」

 

 冗漫な会話を交えて、ラグーンの一同が日本人となごんでいる。

 

 そんな光景で一人、一人だけ空気のちがうものがいる

  

          

 

「…………」

 

 

 

 揚々と会話が弾む中、ロックはその会話には乗ろうとしない。日本を弄るレヴィの言葉にも、ツッコミも相槌もせず、むしろみているのはカウンターの側にいる同郷の彼女ケイティだ

 

 ロアナプラにいて、平然と日本の料理を作っている彼女は、はたまた一体どんな心境でこの料理と向き合えているのか

 

「……」

 

「ロック……食わねえのか」

 

「……あぁ、食うよ。食わないとな」

 

「?」

 

 すでに隣はずるずると麺をすすり食に没頭中、ベニーですら箸を使って音を立てながらラーメンに興じているのだ。本当に、この場にいる皆日本のラーメンに慣れているのだ

 

 立ち上る鰹節の香り、考えごとで注意がそれてしまったが、やはりこの匂いは日本のもの。思考はひとまず横に置き、俺も箸を割ってラーメンを、いやまずはスープをか

 

「……あの、レンゲを」

 

「は、手前の棚に……あ、そこにあります」

 

「え、ああこれか……悪いね」

 

「いえ、もしかしたらその……僕も、悪いかもですし」

 

……やっぱり、はるばる日本から来た人にいきなり東京ラーメンだなんて、郷里を思い出させたらどうしようボソボソ

 

「?」

 

「ああ、いえ……さあ、召し上がってください」

 

 顔を染め、店主のケイティは少し離れた位置へ

 

 同郷故か、それともまだ若い女性だからなのか、少し距離を感じる。背丈はレヴィの肩程度、起伏も少なく、なんともひ弱に見える

 

 小動物がちょこちょこと動き回るように、仕草は幼くあどけない。見ていて少しハラハラする。コメディなら今にも鍋をひっくり返さんものだ

 

 

 

「……あの、なにか」

 

 

 

「!」

 

 いけない、つい見過ぎてしまった。すまないと謝罪をつぶやき、急ぎ食事に戻る。我ながら何をしているのやら、いつまでどんぶりを受け取ってぼーっとしているのか

 

……まずは、食わないとな。せっかくの、故郷の味だ

 

 教えられた棚、箸入れの横にあるそこからレンゲを取る。悠然と琥珀色に輝くスープに匙を入れ、香味油とスープを混ぜてすくい、テイスティングをするように慎重に味わう。

 唇に触れ、熱気と共に口内を満たす強烈な風味、噛むように口中で味わって、そして嚥下する。

 

 鼻で息を吐き、風味の余韻も味わって

 

 

「――――ッ」

 

 

「?」 

 

 

 ロックの箸が止まる。というか、レンゲを握って、スープを一口で停止、そんな姿を見れば作り手は当然不安になる

 

 恐る恐る近づき、ケイはロックに

 

「あの、もしかしてお口に「ズルッズルルルルッ!!!」……合っているみたいですね。はは」

 

 

……大丈夫だったのかな、すごい気迫で食べてるけど

 

 

 

 ロックは食らい続ける。熱いスープに熱い麺に、果敢に挑み胃袋を満たしていく。

 

 横に並ぶラグーンの皆が、つい驚き目を奪われるほどに、それはもう気持ちのいい食いっぷりである。

 

「はっは、いい食いっぷりだ」

 

 ダッチが笑う、続けて皆もやれ日本人だからだのと、軽口を交え食事を楽しむ光景を見せるが、それがケイには少し不安であった。

 

 皆の食べるスピード、それを見てとりあえずケイは振りザルに麺を投じ替え玉の準備を始めた。

 

 

「…………」

 

 

 懸念していた。異国に来てまだ日も短い相手に、要らぬノスタルジーを与えてしまったのかと

 

 だが、この食いっぷりなら心配はない。杞憂と思い仕事に戻る。

 

 問題なく、一日は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~後日~

 

 

 

 

 

 

 

 

 過ぎていく、かに思えていたはずが

 

 

 

 

「すまない、少し良いかな」

 

「……?」

 

「話したいことがある。だから、少し良いかな」

 

 

 

 昨日の今日で、なぜかロックさんは僕の店前で待ち構えていた。

 

 

 

「…………はぁ(……どうして?)」

 

 




ラーメン食うだけの話でまだ続くのか、そんなツッコミが飛んできそう。もう少しだけお付き合いください。

次回は明日に

追記:難航中です、もう少しお待ちを
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