麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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ケイティ「昨年に引き続き、今年も美味しいラーメンを提供いたします。ロアナプラ亭への来店、心よりお待ちしております」


(41) 激辛フルスロットル

 

 

 

 夜も更けてきた頃、客足は絶えず店へと駆け込んでくる。今日のラーメン、四川風毛血旺つけ麺のうわさが広まっていき、店の中は混雑になってきた

 

 いささか刺激の強い料理だと思ったけど、腐ってもここは激辛料理のあるタイ国なのだから、みな辛い食べ物はむしろウェルカムであったようだ。

 辛い辛いと文句を言いながら食べる手は止まらない。刺激の中にあるこってり濃厚で複雑な味わいは現地の料理にもきっと負けてない。ここでしか食べられない激辛料理のうわさで、普段日本食のラーメンを毛嫌っていた人ですら一心不乱で麺を食らっている

 

 

 

「————」

 

 

 

 辛い辛いと、客たちが騒がし気に食べる店内で、その人もまた同じように一心不乱で麺を貪っていた。綺麗な黒髪に汗を滴らせ、厚く着込んだメイド服からはどこか熱気のようなものすら出ているようにも見えてしまう

 

 

「……店主、替え玉と、次のスープを」

 

 

「え、もう三杯目ですよ……大丈夫ですか?」

 

 

 信じられない、そんな驚きを隠せず僕は聞き返してしまった。周囲に座っている客たちも、この人の食べっぷりとさらにお代わりを求める胆力に、驚きを超えてちょっと引いている

 

 無論、メイド服姿の彼女の出で立ちに違和感を抱いているというのもあるけど、ともかくこの人は今お客さんで、今この激辛ラーメンを最もおいしそうに食べていることだけは確かだ

 

 本当に、いったい何者なのか。このラーメン、作った僕でさえ二口でギブアップするぐらいきついのに

 

 

「……どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 卓に置いたアツアツのスープ、キンキンに冷えた麺と絡めて、むせるのも恐れず一気に食べる。ほんと、体内が鉄でできていると疑ってしまう。さっき、ぶつかったときも軽々とあしらわれたし、この人もしかして軍人さんか何かなのか

 

 女性だから、綺麗な見た目だからと決めつけることは絶対にない。この街において、見た目の美しさ、そしてバストの大きさが女性の強さに直結してしまうという謎の原理があるのだから。

 バラライカさんにも、口酸っぱく注意されていた。綺麗な女ほど恐ろしいと、最も恐ろしい女性のお言葉だ、まず間違いはない

 

 

 

 

……ずる、ずるるるるッ

 

 

……ズズ、はぐ、がっつがっつ

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 

 それにしてもいい食べっぷりだ。麺を食べながらスープを飲み、具のホルモンやトウガラシまでも咀嚼して飲み干している。

 

 

 

「この料理は、本当にすばらしい……店主、お見事です」

 

 

「え、あ……ども」

 

 

 褒められた。顔を上げてこっちを見る目は、とっても優しい目だ。うん、綺麗な顔立ちだし、ちょっとドキッとした。

 

 

「臓物、そして豚の血、これがここまで美味とは。あぁ、世界は広い、私一人だけが知るのは、いささか申し訳が立たない」

 

「……は、はぁ」

 

「しかし、豚の血に臓物、野良犬の私にはまさにふさわしい食事であること。ありがとう店主……そして、申し訳ございません」

 

「……?」

 

 

 話が変わり、急に謝罪。食べきったどんぶりの上に箸を置いて、ロベルタさんは席から立ち上がる。

 

 いったいなにか、そう思ったときに僕は周りの異変にようやく気付いた。店の中の客が動かず、一点を見ている。それは入り口に立つ、彼ら。

 

 彼らは、順番待ちをしているお客さんなどではない。名前を知らない人たちだけど、風体ですぐ職種だけは想像できる

 

 けど、それでも店に来れば客であるから、だから僕はいつものように

 

「……あの、いらっしゃ」

 

 

 いませ、最後の三文字まで言い切ろうとした、その瞬間に

 

 

 

 

……ズダンッ!!

 

 

 

 

 

「いませ…………へ?」

 

 

 

 その音は、確かな響きと硝煙の香りを伴って、僕の顔のすぐ横を通り抜けた。

 

 集団のリーダー格が放った弾丸、それは店の中に飾っているいくつかの写真、それもバラライカさんと僕が映っているツーショットの写真を打ち抜き、額縁とガラスは砕けて、落ちた。

 

 はらりと、部屋の空気で無造作に舞い落ちる写真は不運にもガスコンロの火に触れる位置に落ちて、見るも無残な黒焦げの灰に変わっていく

 

 そんな様子を、僕は茫然と眺めていた。何を言うべきか、どんな反応をするべきか、困惑していたら、またも

 

 

 

 

「……に、逃げろ!!地獄が始まるぞ!!?」

 

 

 

「……バカ野郎、ここをどこだと思ってんだ!!」

 

 

「……ふざけんな、巻き添えで死んでたまるか!! 外のみんなも逃げろ、ロシア人がマジ切れですぐ来るぞ!!」

 

 

 

 

 ドドドドド! 机やいすを翻して蜘蛛の子を散らすように客たちは店から出ていく。入口のガラス戸も押し倒して、一瞬で店内がぐちゃぐちゃで営業不能になってしまった

 

 うん、ここまでくれば僕もわかる。だって、似たような件を知っているから

 

 

 

……ケイティ、お前は良いよな、店が壊れなくてよぉ

 

 

……バオさん、またお店が壊されたんですね

 

 

……くそったれ、お前さんは良いよな。パトロン様のおかげでここは禁足地だ。メッカやエルサレム並みにガードが堅い

 

 

……ははは、でももし何かが起きたら本当に大変ですから。これはこれで怖いですよ

 

 

……てめえ、俺の店が壊れるのは大したことじゃねえってか! くそ、その通りだ。お前さんの店が壊れるなら、俺の店を半壊させた方がいい。誰だって、そう思うさ

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あわわわわ」

 

 一気に、恐怖は背骨をがくがくふるわせて僕は両手を口に突っ込んだ。ガクつく口を押えながら、ただその場で立ちすくんで、あの、本当にまずい、なんでこんな

 

 

 

……アブレーゴさん、なんでこんなこと!!

 

 

 

 そう、気づいた。今銃弾を放った連中、みんな南米人だ。コロンビアマフィアなんて、ここじゃあ一つ、マニサレラカルテル以外他にない

 

 

 

「よう店主、おめえさんには悪いがこっちも仕事なんでな……おいメイド服、俺の名はペドロス、ボスの命令だからな悪く思ってくれるなよ。全員、構えろ」

 

 

 

「!」

 

 

 

 ボスの命令、その言葉からアブレーゴさんの指令だと証明されてしまった。いったい、なんでまた、あの人がこんな愚かな指令をするなんて思えない。だって、アブレーゴさんだから!

 

 でも、現実にこの人たち銃を向けている。ロベルタさんに対して、いや、まて

 

 銃口、ぼくにも向けているッ

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 配膳中、話しかけられた僕のいる場所は厨房ではなくカウンター席の前。そう、このままじゃあ

 

 

 

 

「撃て」

 

 

 

 

「!!」

 

 光、火薬の爆ぜる光が目に刺さった。厨房へ飛び込んで逃げようにも、僕は目をつぶってしまった。ああ、もう終わりだ。バラライカさん、きっと悲しむなぁ

 

 うん、でもこんなのんきな思考をしているなんて、ちょっと待って、今僕どうなってる?

 

 

 音は激しい、銃声がやたらめったら店内で響き渡る。恐る恐る目を開けてみたら、そこにはなんともきれいな顔立ちの女性が、というかロベルタさんだった。あれ、もう死んだのか、そう思ったけど違ったのだ。眼前に迫ったのは、向けられた銃口から放たれた鉛玉ではなく、それよりも近い場所にいた、ロベルタさんだった

 

 というか、ロベルタさんの、豊満なモノであった

 

 

「!?」 

 

 

 こんな状況で、いったい何をしているのやら、そう呆れてしまうのがきっと普通の反応。それか無神経なスケベなら鼻の下を伸ばしているかだ

 

 でも、今の僕にはそのどちらも取れない。うれしいはずの、ちょっと大胆な接触が、感触よりも先にその異常な体温の高さに驚いてしまった。

 

 

……なにこれ?溶鉱炉? あっつ! あっつい!!

 

 

 心音も、ヘヴィメタルロックのベース音みたいに重く強く、歪んだ爆音のごとく響いている

 

 この人、本当に人間なんだろうか?

 

 

「……巻き込んでしまい、まことに申し訳ございません」

 

「へ?」

 

「彼らを引き付けるために、のちに酒場にて始めるつもりでしたが。どうやら、彼らもまた想定外な行動をとったようです。店主、あなたのような良き方を巻き込んでしまったこと、重ねて謝罪いたします。です、が」

 

 

 

 

……ジャコンッ

 

 

 

「おい、なんだこいつ……傘!?」

 

「回り込むぞ、さっさと撃って殺しちまえ!」

 

 

 

  

……ジャキンッ

 

 

 

「————ッ!??」

 

 

 

 ありのままに、見えているモノ、聞こえている情報を整理しよう。

 

 突然、現れてきたカルテルの連中に銃撃に合って、そして今僕は謎のメイドさんの不思議な傘。メリーポピンズもびっくりな魔法の傘で鉛玉の雨が一つもこの身に当たらずに済んでいる。

 

 でも、メリーポピンズと比べて決定的に違うのは、それを飛ぶことでも銃弾をはじくことよりも

 

 その、黒光りする銃の存在、であろう

 

 

「美味なる食事で、いささか血が先ほどから沸騰して冷めないままにございます。しかし、訪ねごとを吐かせるまでは生かさねばなりません。なので、なにとぞ」

 

 

「……ま、ロベルタさんッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……カチン

ズダァアンッ!!

 

 

 

 

「……なッ」

 

 

 傘の内側で見えていた、その重々しい黒光りのショットガンから火が噴いて、そして傘の穴か人が吹き飛んで血が噴き出す様が見えてしまった。うん、見て後悔した

 

 

 

「みっともなく、泥を這いずってでも生き延びなさいッ でないと、噛み殺してしまうからッ!!」

 

 

「ひッ!?」

 

 

 さっきまで、綺麗な顔立ちを保っていたはずが、一瞬で見るもおぞましいナニカ二へと変貌した。おじけづく僕の前に立って、ロベルタさんは仕込み傘の銃と、そして傘と同じく銃弾を防いでいたトランクケースから、あり得ないほどの轟音と火薬臭をまき散らした。

 

 

……やばい、やばいやばいこの人やばい!!??

 

 

 店が壊れていく、人が死んでいく、とにかくもう本当にヤバイ

 

 まちがいない、ここまで来たら断定できる。ここはもう現実じゃない、ハリウッドの世界、そして

 

 

 

「め、メイド姿の……ターミネーターだッ(ガクブルガクブル)」

 

 

 

 絶対そうだ、間違いないと、ここにいるのはシュワルツネッガーよりもシュワルツして、スタローンも混ぜて、もうなんでもござれだ。血管に溶けた鉛が流れていると言われても信じてしまう

 

 

 

……助けて、バラライカさん助けて、超たすけてッ!!!

 

 

 

次回に続く




 今回はここまで、荒っぽい話は書いてて楽しい。

 原作改変ポイント、酒場ではなくケイティのお店にて、そしてアブレーゴ本人は来ていない、独自展開で進めていきますので何卒ご理解を

 感想を拝読して、アブレーゴの好感にうれしく思います。原作視点ではこの話はロベルタの話、しかしケイティの視点で描くこの二次創作では、彼アブレーゴに視点を当てて楽しく書いていく所存です。

 次回、できるだけ早めに。今年もよろしくお願いします

 
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