麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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サクサク進みます。アニメ見ている前提でちょっと省略しながら進んでいきますので、ご了承を


(42) ターミネーター・カムイン・ロアナプラ

 

 

 

 執務室に腰掛け、バラライカは部下からの報告を待っていた。

 

 ラグーン商会からの頼み、マニサレラカルテルの裏を取ってほしい。その頼みを聞き入れ、そして動くべく時を待っていた。

 

 火薬に火が付く、それは経験からすでに察していた。未来予知といってもいいほどに確定された未来を察して、彼女はひとまず昂る神経を落ち着けんと最近は控えていた葉巻に手を伸ばす

 

 愛でる彼を思って、実は苦手と告白した時より控えるようにしたニコチン、それが久しく肺を満たすと手足に熱が回る。

 

 

……禁煙、たまにはいいかしら

 

 

 本数を抑えて、たまに吸う。それもまた良い楽しみだと。灰を落として、半ばまで吸いきって堪能していた。

 

 

「……入れ」

 

 

 至福の時間、ノックの音に答える。バラライカは横目に、ボリス軍曹を見て、その怪訝な表情に異を感じた

 

 何かあったのか。察して、すぐに吸いかけの葉巻を押しつぶして消した。

 

 

「大尉、厄介なことになりました」

 

「あら、そう……カルテルの連中、いったいどんなことをしたのかしらね?……事を構えるにはうってつけの火種なら嬉しいのだけど」

 

 

 期待を込めて、怪しく微笑みながらおもむろに席を立った。

 

 もとより、カルテルとホテルモスクワの間には緊張感が強く走っていた近日、多少なりの抗争は起きるのも想定済み

 カルテルとの利権争い、せいぜい土地や流通ルートのいくつかをせしめとる程度の争い。それで決着がつく程度の軽い騒動のはず。

 

 銃弾を放ち、勝利を悠々と手にして酒宴を開くまで容易に想定できていた。それは慢心ではなく、当たり前の常識範疇。

 

 だが、世は時に常識を超えてしまうこともしばしば。そうした時には決まって、頭が痛くなるほどに愚かな馬鹿が過ぎた行いをしたせいだと相場は決まっている。その事実を、今宵バラライカは深く、深く、痛感してしまう

 

 

 

「大尉……カルテルが、ケイティの店を襲撃しました。ラチャダストリートは今、スターリングラードの攻防戦が再演されています」

 

 

 

「…………」

 

「……それと、その争乱に一役買っているのが、どうやらメイドだとか。その、大変言いにくいのですが、ケイティはその奇怪なメイドに連れまわされている状態で、渦中に、その……大尉?」

 

 

 言いながら、ボリスの表情は引きつっていく。先ほどまで余裕を見せていたバラライカの表情に、不自然なまでに暗い影が落ちていった

 

 ふつふつと、無言故にその感情のすごみを感じ取れてしまう。怒り、それもストレスで最高に脳がキレてしまった、そんな地獄レベルのヒステリー

 

 憤り、何かを壊すでもなく、叫ぶこともなく、ただいつものように軍服をその身にまとい、執務室の扉を静かに開いた。

 

 

「……軍曹、配備は」

 

「す、すでに、現地にいた数名で偵察を続けています。突入は」

 

「いらん、我々の目的はあくまでカルテルだ……一般人は優先順位にならない」

 

「…………了解です」

 

 

 冷えつく言葉で、当たり前のように突き放す。バラライカの背を追うボリスは、その判断が正しいものと理解はしている。

 

 だが、その言葉を発するために、どれだけの感情を押し殺しているか、それはきっと、バラライカに深く踏み入った彼にしかわかりえない、そう思いを抱いた

 

 

「目的はカルテル、だがラグーンの件も引っかかる。軍曹、お前は私と残り情報を精査だ……では、総員」

 

 

 

 

『撃鉄を起こせ』

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不穏な影がうごめく中、鉄火場の最深部では現在進行形で血と硝煙がバーゲンセールだ。ブラックフライデー並みに人がこぞってうごめくさまは壮観ですらある。

 すでに一般客、周辺の露店や通行人、ローワンも財産を嬢に担がせて安全圏まで逃走中だ。ここにいるのは、応援で駆けつけるカルテルの兵士と、完全に巻き込まれたラーメン屋の店主、そして、最も危険な人型兵器、それもメイド服着用

 

 

 

「言え! 言って死ね! 若様は、どぉぉおおこおおにぃいいいいいッ!!!!??」

 

 

 

 叫びがこだまする。そして人が吹き飛んで、爆発して、血と臓物がスプリンクラーの様にまき散らされる。メイド服の中は火器、重火器、炸薬、なんでもござれ、その上獣のごとく素早く俊敏に、しかも三次元的に飛び回る超人じみた身体スペックで接近戦から銃弾見て避け余裕でこなす。もはや面白くなるほどに彼女ロベルタはキリングマシーンを披露している

 

 カルテルの襲撃犯リーダー、ペドロスは死体と車だったがらくたに隠れて応戦をしている。カルテル側も逃げればいいものの、執着はひどく死体を築いてもまだ懲りずに応援を呼んだ。機銃のついた装甲車が四台、しかしそれでもロベルタは死なない。

 

 

「くそったれ、野郎どももっと突っ込め! こいつを取れば一攫千金、本国での絶対的な地位が手に入んだぞ!! 撃ち込めッ殺せッ!!」 

 

「ミスター・ペドロス、だがこれ以上は」

 

「火薬が尽きりゃあただの女だ!……いいから、さっさとぶち殺せッ!!」

 

 

 激励を飛ばし、なおもしつこく戦闘を激化させる。

 

 愚かしいまでの光景。これが映画ならポップコーン片手に大笑いしながら鑑賞しているだろうが、現場にいる者達にとっては笑い事ではない

 

 しれっと、厨房に隠れてびくびく震えるケイティしかり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロベルタ、どうしてあんな風に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のメイドのご主人である、ここロアナプラへの不運な来訪者。ガルシア・ラブレスを含めた一行たちにとって、この状況は全く笑えない。

 

 

「ロック、提案がある」

 

「もしかしてこの子をこの場で捨てるっていうのか?」

 

「ぼくは賛成だ。ここはもうじき独ソ戦最高の山場と同じになるだろうね、ユダヤ系のぼくには面白い末路だが、包囲される側にまでなりたいとは思わない」

 

「スターリングラードか。なら、なおさら出口がある今のうちに逃げるべきだな。ソ連に包囲されて死ぬのはナチ公だけで十分だ」

 

「そんで当然このガキはここに置いていく。ロック、いい加減にしな……あのメイドもそうだがケイティが関わる以上姉御の問題も同時に進行する。スチェッキンを眉間に全弾ぶち込まれんのはノーサンキューだ」

 

「ちょっと、みんな正気なのか!」

 

 

 ロックの懸命な訴え、しかしこの場にいる大人たちは現実主義だ。怯えるガルシアよりもわが身を、それは当然であり、そしてバカ真面目よりもはるかに懸命である。

 

 

「とにかく逃げるぞ、ガキを置いて車へ戻る!」

 

 

 船主の命令は絶対、ロック一人の意見では決して動かないラグーン一行。しかし、そんな彼らがこのまま逃げおおせる展開、なんてものは

 

 

 

 

「ロベルタ……ロベルタ!!」

 

 

 

「ばか、手前ごらッ叫びやがって……ほらほら見ろくそったれが!!」

 

 

 

 

 もし、この世界に脚本家がいるとするのなら、当然見逃すはずもなく

 

 たった今、ロベルタの眼鏡越しの眼光はラグーン一行を捉えてしまった。恐ろしい目の光で、そして銃口もまた

 

 

 

「ロベルタ、そんなことしちゃだめだよ! 僕は、いつものロベルタが……ムグッ!?」

 

 

「馬鹿野郎!死神に口笛吹いて手招きすんじゃねえ!!」

 

 

「レヴィ、ガキは置いていけ!」

 

 

「この状況でガキを置いただけで済むはずがないだろダッチ!! 人質にして今は……伏せろッ!!」

 

 

 

 過激化する闘争、放たれたグレネードは着弾。これもまた、決められた運命をなぞるように

 

 神が仕組んだ、嫌がらせのような運命のシナリオで彼らは踊らされる。愉快痛快に、ロアナプラは今日も通常営業であった。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

~ケイティ視点

 

 

 

 

……何か、話している

 

 

 

 厨房の陰に隠れて、ひっそりと耳を立てている。さっきまで響いていた火薬の音も少し止んでいて、だから顔を出してみた

 

 そこには、真っ白なエプロンに焦げた黒と返り血をべっとり付けたメイド服の…………メイド服の……うん、人かな、人だよね、うん……メイド服の多分人間、ロベルタさんが立っていた

 

 カルテルは、すでにスクラップの中で死屍累々。では、今は何を見て、誰と対立を

 

 

 

「!」

 

 

 

……あれは、ラグーンの皆さん

 

 

 

 常連である顔、遠目にピンときた。そして、ダッチさんとレヴィさんが前に構えているのは、見知らぬ少年

 

 少年、メイド服、その二つで僕の頭は珍しくさえてしまって、ぐるぐると推測は回った。もしかして、あの子がロベルタさんの

 

 

 

……うん、厄介ごとの匂いしかない。このまま、息を潜めて

 

 

 

『————————ッ!!!』

 

 

 

……うん、やりすごさないと

 

 

 

 厨房の中にまた身を隠した。秘密のバックから飛び出た魔法は一切容赦なくリアリティ抜群な爆発を道に咲かせた。悲鳴は多い、もしかして殺られた? そんなことを考えてしまう

 

 うん、でもきっと大丈夫、レヴィさんだっているんだから、大丈夫?

 

 

「……今は、自分の身を」

 

 

 心配している暇はない。今は、一刻も早くこの場を去らないと。僕は四つん這いのまま手さぐりに大事なものを、その場に合ったエコバッグへ詰め込んでいく。

 

 レジのお金、それと、あれとこれも、一応、持ち逃げたいものは山とあるけど、今はえり好みしている暇はない。もう、これだけでいいや

 

 

「よし、逃げよう」

 

 

……ラグーンの皆さんごめんなさい、ケイティ二等兵は脱走兵になります

 

 

 腰が抜けた体に鞭を打って、こっそりこっそりと店の外へ。

 

 店内の中から裏の倉庫に回って、ビルの裏口のガレージを開ける。バイクを出すために、せーのっと

 

 

 

 

デデンデンデデン

 

 

 

「?」 

 

……あれ、なんだか悪寒が

 

 

 体の震えのせいか、変な耳鳴りが聞こえる。ガレージのシャッターを持ち上げようとする手に、本能的な拒絶反応が

 

 

「!?」

 

 

 瞬間、シャッターの前でしゃがんでいた僕の体は吹き飛んだ。急な爆音と衝撃は、転がってそのまま倉庫奥のバイクに激突。すごく痛い

 

 

「……な、なにが……なッ!?」

 

 

 驚きつつ、面を上げていったい何が起こったのか見ようとして、そして網膜に映った映像に僕の心は砕け散った。ショッキングが過ぎる

 

 

「あわ、はわわわわ……た、たすけて!!」

 

 

 悲しきかな、助けを呼ぶ電話は最初の銃撃で粉みじん、頼みの綱の携帯電話も、とっくに騒ぎで無くしている。助けなんて来やしない

 

 怖い、本当に怖い。恨みつらみ、銃口を向けられる理由はないし、多分殺されはしないだろうけど、それでも怖い、僕の今まで経験してきた恐怖体験、その一位であるバラライカさんの足撃たれ体験が変動してしまった。じゃあ一位は、当然メイド服姿の人型兵器との遭遇だ。

 

 

「や……ゃぁ……ひぎ、こな、来ないでッ!?」

 

 

 悪夢だ。今僕は最悪のシナリオ、くそったれな映画の世界に迷い込んでしまった。タイトルは? きっと、こんな感じだ

 

 

……ターミネーター・カムイン・ロアナプラ

 

 

 そんな映画はない? いやある、現に今こうして見ている。この映画、なんと驚きノンフィクションなんです

 

 

 

 

 

『私の使命は、若様を守ること……ッ』

 

 

 

『若様を奪ったやつらを追うッ 服とブーツはいらないからッ……バイクを、そのバイクをよこしなさいッ!!』

 

 

 

 

 

 

「…………ゃ、ぁぅ」

 

 

 

 ついぞ耐え切れず、ぶわっと涙腺が崩壊、せめてもの救いは履いているデニムズボンの奥、下着の中で暖かい水が零れ落ちていないことだけだ。でも、それもあとどれほどに持つだろうか

 

 

 

 

……助けて、バラライカさん助けて、張さんも助けて、めっちゃ助けてチョー助けてッ

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 




はぁはぁ、ケイティいじめるの楽しい。次回も楽しく執筆します。次の投稿も明日の夕方、遅くて夜の10時には投稿するつもりです

感想と評価コメント拝読しています。ロベルタというかターミネーター好きがなんと多いこと、まあロベルタもターミネーターも同音異語みたいなものですもんね。メイド服ヤバイよマジやべえ、レヴィ勝てるかな?
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