麺処・ロアナプラ亭~悪党達に愛されたとある料理人の生き方    作:37級建築士

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タイトルは勢い


(43) メイドマックス怒りのデスロード

 深い、とても深い眠りに落ちたプリンセスを抱えて彼らは風情のない鉄の荷馬車に乗り込み夜を逃げて駆け抜ける。

 

 ラグーン一行、彼らの内戦えるのはダッチ一人、しかし彼も相当の腕利きといっても、それは相手が人間である場合だ

 迫りくるのは、人間を超越した怪物。怪物を倒すには怪物をぶつけなければならない

 

 だが、残念ながらその怪物を倒しうる可能性は今しがた述べたように眠りに落ちた姫様となっている。

 元の悪辣した性格と凶暴さも眠ってしまえばなりを潜めてしまう。器量のいい顔はなんとも愛らし気すらある。これがプライベートであったならと、しかし今この時においてそれは全く無用のもの

 

 必要なのは、プリンセスなどではない。ただ、悪鬼羅刹に戦い続ける狂戦士だけだ。

 

 二丁拳銃、レヴェッカ・リーはいまだ目覚めないまま。愛らしい寝顔は誰もお呼びでない

 

 

「レヴィ、起きろ起きてくれ!!頼む!!」

 

「まずいダッチ、バイクが来た!このままじゃ追いつかれる!?」

 

「ええいクソったれがッ!!」

 

 港へ続く6車線の公道を走る。プリマスは法定速度も当の昔に無視してベニーの熟練テクニック走法がアスファルトに焼き跡を刻む。

 

 だが、それよりも派手に、まるで死霊が燃えたバイクで走っているのかと錯覚するような走法で、アスファルトに焼き付けて煙と火花を絶たせながら疾走して迫ってくる。

 火花の正体は、どこで調達したか対物ライフの銃床、それを背負ったまま走るせいで時折接触するから火花が散るのだ。

 

 メイド兵器、ロベルタ。そしてその本名ロザリタ・チスネロス。彼女はさらに武器を補充して逃走劇を開始した。手に入れたのはバイク、そして、そのバイクの本来の持ち主であった者の形見の武器

 そしてそして、ついでに現所有者で預かりをしていた、今回の騒動の一番の被害者。

 

 

 

 ケイ・セリザワこと通称ケイティ

 

 

 

 彼女、ではなく彼はバイクの座席に座してその両手はハンドルを強く握っていた。というか握らされていた。

 

 

「ケイティ、なんで彼女が!」

 

 未だに勘違いしたままのロック、だがそこに突っ込むものは誰もいない。皆、現状で手一杯だ

 

「なあダッチ、あの子も僕たちを追いかける死神と見るべきかな」

 

「んなわけあるか、あれは完全に被害者って顔だ。ダイハードも真っ青なマクレーン顔で不幸丸出しだろうが! というか、あいつあんなにバイク乗れたのか!?ロック!!同じ日本人なんだろ説明しろ!!」

 

 クールで紳士が売りのダッチですら困惑を言葉に出してしまった。助手席より身を乗り出し、マグナムをぶちかますはずが引き金にためらいが出ている。

 こんな状況であるが、ケイティに手出しすることの危険性は骨身で理解していた。どこぞのすでにおっ死んだ南米人とは違って、だ

 

 

「お、俺に振らないでくれ!!日本人だからってみんな仮面ライダーかAKIRAの金田と思うのは間違いだ!!とにかく、そう……起きろ、レヴィ起きてくれ!!?」」

 

 

「……ベニー、右だ!!急げ!?」

 

 

『ズダァアアンッ!!?』

 

 

「ちくしょう!騎乗しながら対物ライフルだと!!イカレテやがるにも限度があるだろうが!??」

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 昔、僕の師匠が生きていたころだ。僕の師匠であるミスター・セリザワ、日本語のファミリーネームだけしか名乗らない師匠は見た目筋骨隆々、スキンヘッドで性格の悪い謎の人物であった

 出自は不明、経歴も不明、ただ日本文化が大好きで趣味でラーメンをしているうちに古今東西の料理全般に精通してしまった奇妙な変人、というか天才

 そんな天才に教えてもらったものに料理以外でもう一つ、バイクの乗り方がある。免許センターにも通わずにバイクに乗れる僕は、そんな師匠からのしごきで実はものすごくバイクが上手なのだ

 

 でも、そんなスキルをやたらめったらに披露するつもりもないし、普通に生活する分に法定速度を破ることなんてしやしない。

 かっこいい、爽快だから、そんな理由で400cc超えのモンスターマシンに乗りたいとも思わない。師匠のお古バイクは整備こそすれ乗ろうとは思わない。スクーターで十分、だけど今は久しく乗ってしまっている。無論、僕の意思じゃあない

 

 僕はただ、運が悪かっただけ。この街を知っていて、かつラグーンの皆さんとも顔見知りで、彼らの行きそうなところに気が付いてしまうという条件、そしてバイクを乗れるということも相まってしまって

 

 結果、僕は背中にとんでもないものを背負ってハイウェイを駆け抜ける、夜風を切り裂きながら、テールライトで赤い文字を描いていた。

 

 帰りたい

 

 

「そのまま、追跡なさい」

 

「は、はいぃ……うぅ」

 

 体を横に、軽い体ではバイクに体が負けてしまう。けど、背中に感じる二つの豊満なふくらみ、の感覚を上書きする恐怖の人間兵器の質量、それがバイクと僕を無理やり一体化してしまう。ハンドリングにも無理がきいて、混雑した道も苦にせずカーチェイスは白熱を増すばかり

 

 ラグーンの皆さんには本当に申し訳ない。たぶん、この人の狂気はきっと僕も関係している。本当に申し訳ないと思う

 

「飛び移る、スピードをもっと!」

 

「!」

 

 前のめりで、もうそのままあなたが運転すれば良いのにとも思ってしまう。ロベルタさんの胸に圧迫されて僕は大きくハンドルを傾けた。垂直のカーブをドリフトで走行。蛇行しながらも師匠の形見であるごついライフルを何度も放った。当たりこそしていないが、ラグーンのプリマスは進路を狭められてますます悪路へと追いやられてしまう。

 

 みるみる距離が縮まって、そして目算で7~8mぐらいまで近づいていく。向こうのテールライトの光を掴めそうな間合い

 と、そんなことを思っていたら、後頭部の感触がふっと消えて

 

「な!?」

 

 瞬間、重さが減ったことでバイクが蛇行する。何が起こったのかはすぐ理解した。撃てる、撃てる、爆破する、狙撃する、そんなロベルタさんだ。

 

 飛べないわけがない

 

 

「あの人、いったい何で動いているの!?」

 

 人ではない、機動兵器、機動戦士?もうなんでもいい。たぶん、この人の常人場馴れ具合はどんな突飛な形容でも通じてしまう。

 

 

「なんてもんデリバリーしやがる、ケイティッ!」

 

「違います、商品が勝手に!」

 

「伏せろ!!」

 

 後部に取りついたロベルタさん、ダッチさんは躊躇いなく銃口を後ろへ向ける。射線には僕も入る、咄嗟にスピードをおとして体勢を低くブレーキを入れる

 

 まるでアニメ映画のカネダの真似事。でも死ぬ気でやったら意外とでき、いやだめ、足が溶ける!

 

 

「ーーーー……ぬがぁあ!??」  

 

 

 左足が燃えるようで痛い。けど、どうにか止まれた、いや止まりきれない

 

 

……あ

 

 

 捕まりきれず僕の体はバイクから離れて宙を浮く。そして、走馬灯を見るようなスローで衝撃映像を見てしまった。

 ついぞ、無茶な走行で無理が来たバイクが、一度地面にワンバンして火花吹き荒れる危険物質に変わったバイクが

 

 

 

…………ハリウッド映画だ

 

 

 

 それは奇跡的な連鎖だった。振り払われて、宙を浮くロベルタさん、そして火のついたバイク。ロベルタさんにぶつかってバイクはガソリンに引火したのか盛大な光と音を放って、爆発

 

 メイド大爆発、そんなタイトルの映画は無い。でも、ノンフィクションではあった

 

 

 

「……あわ、わわわ」

 

 

 

 故意ではない。しかし一端はありそうな、バイクから弾かれて結構痛いコケかたをしたけどそんなことは後回し

 

 とにかく、無事かどうか。あれ、ちょっとまって、無事と言えば皆は

 

 

 

「生きてる、よね? うん、動いてる、よかったぁ」

 

 

 

 気づけばもうここは港の集積所。コンテナが積まれた大きな壁にぶつかる絵図でプリマスは停車、けど見る限り皆黄泉にフライトした様子はない。

 

 無事だ。そう思い安堵したのもつかの間

 

 

……見える、あれメイド服?あぁ、そうか

 

 

「人間じゃない、あの人やっぱり未来から来たんだ」

 

 

 

 僕と、壁際のプリマス、その中間の位置に、ロベルタさんが倒れて、いや立ち上がろうとしている姿を見る。

 

 焼け焦げた服、しかし五体満足、ふらふらとしながらも

その手にはぶっそうなナイフを構えている

 メイド服は死なず。もうキアヌリーブスでも誰でも良い、彼女を止めないと、このロアナプラすらどうなるかわかったものじゃあない

 

 

……ほんとう、なんでこんなことに、というかバラライカさんも張さんも、いったい何をしているの?どうしてここにいないの??

 

 

「僕のケツ持ち様方は、いったいいずこに……」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時を同じくして、ロアナプラのとある場所に焦点は移る

 

 ケイティ達がハリウッドムービーさながらのアクションを興じている最中、そこでは一触即発のにらみ合いが続いている

 場所は、以前にもケイティが足を運んだホテル、その入り口前では黒塗りの改造車でバリケードよろしく威圧的な駐車光景が作り上げられている。 

 それらの車の前にはこれまた同じく黒のスーツで身を固めた紳士達。手には彼らの紳士足る姿をこれでもかと貶める恐ろしい銃火器でより威圧さを醸している

 

 この場、カルテルのビルには多くのアブレーゴ配下の兵士達が緊張感をもって待機、そしてホテル前に陣取るはこの町の同じく支配者、三合会の腕利きぞろい。そして、そんな彼らはホテルではなくホテルの外方向。この場には姿こそ見せていないが、すでに十分すぎるほどに闇に紛れてホテルモスクワの兵士達が突入の合図を待っている

 

 そう、この場には三組織で緊張感が形成されて硬直状態にある。カルテルを狙うホテルモスクワ陣営、しかしその動きを抑制するように三合会は壁を築く

 

 兵士達は命令を待つ。先に協定を破ったカルテルはともかく、張維新率いる三合会とでは今もなお協調体制は継続

 

 ことの真意がわかるまで決して引き金は引けない。煮え切らない苛立ちを押さえながら、じっと待つしかないのだから

 

 

 

 

 

 

「張、あなたどういうつもりかしら?」

 

 

「ひとまず話をしよう、ミス・バラライカ……カルテルについて、そして、我らが愛しいラーメン屋について」

 

 

 

次回に続く

 

 

 




今回はここまで

次回と次々回でロベルタ編は落ち着く予定。姉御のストレスケアしないといいかげん怖い

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